63.磯野、試合開始の合図をしろ!
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会場内は、開始前にもかかわらずすでに多くの観客で賑わっていた。
「すごい数、すごい熱気だな……」
ざっと見ただけでもオリンピックの人数に負けずとも劣らないような感じだ。
さすがに何人いるのかは数えきれないな。
……新国立競技場に動員できる人数って確か五万人くらいだったか?
「いやぁ、やっぱりいいですね! この空気感!」
ケーナちゃんは興奮したように言う。
いいねぇ、って言われてもなぁ……? どう考えてもこの段階だとおっさんたちが騒いでるだけのようにしか見えないんだよなぁ……。
幸いにも俺たちが今いる場所はケーナちゃんが予約していたため、かなりのいい席ではある。
しかし、少し離れた場所には花見に来たおっさんかってぐらいの酒飲みが大勢いる。
祭りの席で酒を煽りたくなるのはわからんでもないが、足元に転がっている十数本の酒瓶と、新しいものを今このタイミングで開け始めていたら別だ。同調はできない。
あんたら依存症を引き起こすぞ。ってかその前に死ぬぞ。
「こういうところにお友達と一緒に来たのは初めてなので、少し緊張します……」
俺の横ではグランツェ悲しいことをボソッと口走る。
……お前、本当に楽しみたかっただけなんだな。勘違いしててごめんよ。
「サイエンさんはどうしてそんな温かい目で私を見ているのですか?」
「いや、なんでもないんだ。ただ、俺は過去を思い出していただけ……。辛かっただろう……?」
涙目になりながらグランツェの頭を撫でる。
わかる、わかるよ。僕にも少年から成年にかけての苦い思い出が一つや二つはあるさ。君がこれまでどんな辛い思いをしてきたのか、想像に難くないよ。
俺がグランツェに同情をしていると、闘技場の中心に一人の男性が現れた。
「本日は皆様お集まりいただきありがとうございます。まもなく剣戦祭本戦が始まりますが、その前に注意事項をお知らせいたします」
あぁ、舞台とかでよくある携帯の電源をお切りください〜、みたいなあれか。
ってことはいよいよ始まるわけだ。
「本日の本戦は例年よりレベルが高く、激化することが予想されます。水分補給などはくれぐれもお忘れのないようにお願いいたします」
「激化……!?」
突然ケーナちゃんが声を出す。幸いにもあまり大きな声ではなかったので周囲の視線が集まることはなかったが。
「どうした?」
俺がケーナちゃんに質問する。
「いや、試合開始前のアナウンスは例年通りなら定型文なんですが、まれに今回のようなアナウンスがされることがあるんです。これは数十年に一度あるかないかの試合で、腕利きばかりが集まったということに他ならないんですよ!!」
そうだったのか。
ならば、今回この戦いを見ることによってより何か大きな魔法や知識が得られるかもしれない、ということか。
俺のテンションもだいぶヒートアップしてきたぞ。
「それでは、まもなく剣戦祭本戦を開始いたします!!」
ナレーションの男が言い終えると、会場全体がウオォォォ!!! と声を上げる。
剣戦祭。いったいどの程度のレベルなのか、見せてくれよ……!




