56.出店街での騒ぎ
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パイを食べ終わり再び俺たちは出店街に戻ってきた。
時刻は昼を回った頃合いだろうか。
時間としては一番混雑する時間帯だろう。
テキ屋のような屋台の前には子供たちが群がり、一発逆転のドリームをつかもうとはしゃいでいる。
「楽しそうだな」
俺はケーナちゃんにそう聞いた。
「いえ、私はそういったことにはあまり興味がないです。それよりも、今年の剣戦祭出場者のほうが気になります!」
しかし、意外にもケーナちゃんはそういったものよりもこの祭りの本丸である対戦カードのほうが気になるらしい。
スキップするように歩くケーナちゃんの後ろを見失わないようについていく。
しばらく歩いて少し人込みが開けたところで、突然ケーナちゃんが足を止めた。
「うわっと、ケーナちゃんどうした」
しかしそれには答えず、じっと前方を見つめたままだった。
俺もそれを見るために横に並ぶと、その視線の先にはケーナちゃんと同じデザインのローブを着た数人の男女が居た。
その周りはかかわりたくないけれども見てはおきたいという野次馬が円形に人垣を作っていた。
「おっさんさぁ? 私たちにぶつかっておいてすいませんの一言もないわけぇ?」
そんな中、先頭に立つ女の子が声を上げる。
「だから、それは申し訳ないと何度も言っているだろう!?」
男の方はやせ形の一般人だろうか。
威勢だけはいいものの、足が小刻みに震えている。
確かに、一般人となれば魔法使い数人に勝つ手段は限られてくる。
それにあのローブ。うちの学校の生徒だろう。それに、あそこまで強気で出るのだ。よほど魔法の腕に自信があるのか、それか優等クラスなのか。
どちらにせよ、あの男性がぶつかってしまったのがしょうがない。
どうなっても彼の責任だろう。
「あぁん? 金ぐらい置いていけないわけぇ?」
これも、悪い人に絡まれたという人生経験だ。強く生きろよ、おっちゃん。
「……サイエンさん、どうするんです? あれ私たちの学校ですよ?」
しかし、ケーナちゃんはあそこに介入するつもりなのか杖を構えだした。
「やめといたほうがいいんじゃないか? この衆人環視の中だ、あの何人かは後で先生にしばかれるだろ」
俺はそれを止める。北の魔女よりは弱いにしても、危険なことに変わりはない。
さすがに数人で戦うとなれば幾分かの痛み分けは覚悟しなくてはならないだろう。
しかし俺にも良心の呵責というものはある。
どうするかと決めあぐねていると、耐えきれなくなってしまったのかケーナちゃんが飛び出してしまった。
「やめてください!!」
新たな参入者に、一同の視線が集まる。
……俺が制止する暇もないうちに目立っちまった。
これはもう、俺も行くしかないな。
「あんたら、中等の」
先ほどまで声を荒げていた少女が、こちらをまじまじと見つめる。
「最近ハーキンを倒していい気になってるらしいじゃない? そういうのって、本当に」
そこで一度口を止めると、ヘラヘラしていた表情を不気味な笑顔に変えた。
「虫酸が走る」
「……」
俺たちが飛び出したことによってすでに目の前の少女には男は眼中になく、俺を睨み続けている。
「たった数度の功績、たった数度の勝利でいい気になってんじゃねぇぞ」
俺たちがこの場に混ざったのがよほど不快だったのか、ついには魔法を詠唱し始めた。
「ケーナちゃん、俺が守護結界を使うから、ケーナちゃんは男の人を連れて逃げて」
「でも……」
「大丈夫、今回は北の魔女ほど危険じゃないさ」
俺はケーナチャンにそっと耳打ちする。
数秒間の詠唱の隙。それをカバーするように少女の周辺を三人の男女が囲む。
全員がこちらを警戒しているため、不意をつくのは容易ではなかった。
結果、俺たちは少女が魔法を唱え終わるのをみすみす許すこととなってしまった。
「おらァ、喰らえ! 『地を這う龍、霹靂せよ』」




