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55.ドキドキ!? 出店散策編 〜ポロリもあるよ〜

1


「はぇ〜、出店すっごいこったらでっかい」


 俺は首をキョロキョロと回しながら出店のたくさんで出ている通りを歩く。

 人混みは、それはもうすごい混雑具合を呈していて、歩くペースはかなり落ちている。

 テーマパークに来たみたいだぜ。テンション上がるなぁ〜。


「そうでしょう? なんていったって剣戦祭です、これだけの規模の祭が開催されるのも当然なのですよ!」


 ケーナちゃんがまるで自分のことのように胸を張って言う。可愛い。

 にしても、これだけの規模の祭は地球にいた頃にも見たことないな。記憶ないけど。

 出店の前ではイケイケなおっちゃんが自分の店に一人でも客を入れようと声を張り上げて接客しており、中には少し強引に思える客引きをしているチャラ男もいる。

 しかし、全ての店がそうだというわけではなく、多くの店は道行く人に店の裏から声を掛けるにとどまっている。

 そんな様子が、手前数キロの大通りを埋め尽くしているので、ほかの大通りもそうだと考えるとなるほど確かにこれだけの規模で開催されるのはとてつもないことだな。

 ……にしても祭りか。

 こっちの世界に来てからこうしてイベントごとに参加するのは初めてかもしれない。


「おい、にいちゃん。パイくわねぇか?」


 そうやって俺が自分の世界に入り込んでいると、俺たちの元にも出店の客引きがやってきた。

 店先で焼かれているミートパイは油とソースが焦げ、なんとも香ばしい香りを俺の鼻腔に届けてくる。

 表面には厚くソースを塗ってオーブンに入れる。膨らんでいくパイ生地。

 そんな様子を手際よくこなす裏の女性は、いやでも職人の美しさを感じた。

 一連の流れを見ていると、ぐう、と俺の腹が鳴ってしまった。

 微笑みながらこちらを向くケーナちゃん。


「おじさん、一つください」

「あっ、ケーナちゃん! それは悪いよ!」


 ケーナちゃんが財布を出し、お金を払おうとする。

 くそっ、俺にチート並みの財力があれば……ッ!

 くやしい……(悔しい。)、くやしい……(悔しい。)、くやしい(悔しい。だが、これでいい。)

 ……んなわけねーだろ! いいわけないわ!


「いいよ、にいちゃん達。カップルならタダでやる! ……でもうちのワイフゥには内緒だからな?」


 俺たちのやり取りを見ていたおっちゃんが紙に包んでパイを一つケーナちゃんに渡す。


「そんな、悪いですよ!」


 それをケーナちゃんが返そうとするが、おっちゃんは受け取ってくれない。


「俺も君達ぐらいの歳の頃、出店のおっちゃんがこうやってパイをくれてな。一緒にいた彼女とそれを半分に分けて食べたわけさ。そんなこんなでいい雰囲気になって、そのまましっぽり一発できたわけよ。ユー達もそれで頑張ってこいよ!」


 キラッと音がなりそうなほどのいい笑顔でグーサインを出すおっちゃん。


「や、やめてください! ケーナちゃんとはそんな関係じゃないですから!」

「ケーナちゃんって言うのか。……分かるよ、友達にこんなべっぴんさんを連れて歩いてることがバレたらいじられるもんな。でも、俺はわかってやれる」


 腕を組み、物思いにふけるようにウンウンとおっちゃんは唸る。


「おっちゃんは君達にそんなあちゅらちゅな一夏を過ごしてほすぃんだよ!! どぅーゆーあんだすたんどぅ?」


 ……もうだめだ。

 意見を曲げさせられる気がしない。


「あの、本当にもらっていいんですか?」


 ケーナちゃんが純粋な瞳でおっちゃんに話しかける。


「ああ、いいさ。楽しめよ、少年!」


 再びグーサインを出すおっちゃん。


「ありがとうございます!」

「おう、じゃあな!」


 おっちゃんの笑顔を背に、俺たちは出店を後にする。

 ちょうど近所にこの間戦闘した噴水があるので、俺たちはそこに向かうことにした。

 噴水は壊れた場所に看板が立っていて、立ち入り禁止と書いてあった。


「……ところでケーナちゃん、なんで一つにしたの?」


 俺はさっきのおっちゃんを頭から追い出し、ケーナちゃんの手元に視線を落とす。

 もしかしたら俺には分けてくれないつもりなのか!?

 そんな、生殺しを……!! くっころ!


「それはですね……」


 そう言いながらケーナちゃんは包みを開ける。すると、包みの隙間からソースのいい匂いがむわっと広がり空腹の胃袋を刺激した。


「こういうことです!」


 そのまま包みを俺の口に近づけ、笑顔で止まった。


「俺に食べさせてってこと?」

「そうです!」


 笑顔で微動だにしないケーナちゃん。

 ……すっごい恥ずかしいんだが?


「じゃあ、いただきます……」


 意を決して一口頬張る。


「……あ、美味しい」


 噛むとじゅわっと肉汁がパイ生地から染み出し、口の中で広がる。

 それが若干辛味の効いたソースとマッチして、絶妙な美味しさを生み出していた。

 ひき肉にされた具は、けれどもひき肉に感じられる安っぽさを微塵も醸し出さず、美しく焼かれた生地と相まって素晴らしく美味しい。

 ここまでの料理スキルを持って生まれて来たかったもんだな。


「あ、そうなんですか?」

「ああ」


 そのままケーナちゃんも一口食べる。


「……本当だ、美味しいですね!」

「ああ、だろ?」


 けーなちゃんが唇に付いたソースをぺろっと舐め取る。

 その行為に不意に艶かしさを感じてしまった。って、そのまま食べたの!?

 パイ生地は俺の食べた場所からかじられている。

 これって間接キッス……!?


「どうしたんですか? 赤くなって」


 いや、間接キスにドキッとしたなんて本人には言えんやろ。


「いや、なんでもないんだ」


 俺は慌ててごまかす。


「そうですか。じゃあ、はい。 ……あーん」


 ケーナちゃんはそのまま二口目を俺の目の前に出す。

 ……え、まだこれやるの?


「そろそろ一人で食べさせてもらえないかな? ……なんて」

「だめです。サイエンさんはこうして私が恋人みたいなことをしないとまた隠し事するので」

「あれはごめんって!」

「いやです。許して欲しいならパイを食べてください!」


 ────この生き地獄はパイを完食するまで続いた。

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