53.緊張の終焉
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辺りには既に人影は無い。
「それにしても、助けに来てくれるとは思わなかった」
微笑みながらケーナちゃんを見つめると、照れたように頬を染めて視線を逸らされてしまった。
「……使い魔を監視するのは主人の役目なんです。テレパシーをつかえるようにならないとほかの女に使い魔にされるかもしれませんからね!」
「ケーナちゃん? 冗談きついよ……。俺だって最初から最後までケーナちゃんのことしか考えてなかったんだぜ? じゃなきゃ、いろんな人を騙してまで魔法を二つしか使えないなんて錯覚させなかったんだから」
俺は頭を下げながら弁明を試みる。
「知りません! 全部教えてくれなかったサイエンさんが悪いんですよーだ!」
あかんべをしながらこちらを上目遣いで見上げるケーナちゃんが、なんだかとても可愛く見えて、俺はつい微笑んでしまった。
「それにしても、なんか今までと態度が違くない? なんで?」
俺が質問すると、顔を赤くしながらそっぽを向かれてしまった。
「そういえば、本当に嫌いだったら俺とテレパシーすらしたくないはずだよな。なんで?」
俺はさらに不思議に思ったことを聞く。
「……ッ!」
そのせいだろうか。
そのままこちらを見ず、ケーナちゃんは言葉を発さなくなってしまった。
沈黙が続く。
気まずくなり空気を変えようと口を開きかけたところで遠くから声が聞こえた。
「あ〜!! いた〜〜〜!!」
それは、修学旅行に入ってからクラスが違うので全く顔を見なかったケモ耳ちゃんだった。
「もぉ、こんな遅くまで何してたと!? こんな時間になっても帰ってきてないって友達から聞いてばり心配しとったとよ!?」
例によって例のごとく、九州弁で詰め寄ってきたシトロンちゃんは、ケーナちゃんの全身を眺めて頷くと、そのまま抱きついた。
「でも、ケーナちゃんが怪我してないみたいで良かった〜! もぅ、危ないことせんといてよ?」
「う……、うん、わかったから離して? 苦しいよ」
ケーナちゃんが同世代にしては豊満なそのシトロンちゃんの胸に押しつぶされて苦しそうに呻く。
……あぁ、俺もあの胸に抱かれたい。
シトロンちゃんは一頻りケーナちゃんの香りを楽しんだ後、彼女から離れてこちらに向き直った。
「使い魔さんは、かなり傷だらけですね。……ケーナちゃんをあまり不安にさせるようなことはしないでください」
冷ややかな視線でそう言う。
だがしかし、それはケーナちゃんを危険な目に合わせたと言う意味では俺が受け止めるべき視線だろう。
「……申し訳ない」
俺はシトロンちゃんに頭を下げると、それを見てシトロンちゃんはそっと微笑んだ。
「でも、ケーナちゃんのためにやったんですよね? それなら許します!」
そんな日常的な雰囲気を感じることによって、俺はやっと終わったのだと感じることができた。
「それじゃあ、帰ろうか」
これで、久方ぶりの平和を満喫できそうだ。




