51.関係修復の足がかり
1
目を開く。
目の前では、左手の指先を大きく広げた姿勢で立ち尽くすケーナちゃんの姿があった。
「なんで、ここが分かったんだ……?」
俺はただ純粋に気になったことを聞いた。
俺はここまでは想定していない。
だからこそ、ケーナちゃんを危険な目に合わせたときに親御さんに合わせる顔がないからと敢えて喧嘩になるような態度を取ったのだが、この場にケーナちゃんが現れることになろうとは。
「……またそんなにボロボロになって。だから勝手に行動しないでくださいって言ったんですよ。……まったく、私がテレパシーできるように練習してなかったらどうするつもりだったんですか」
◇◆◇
私は声を聞いた。
とてもよく聞きな慣れた声。
まどろみながら目を覚ましてみると、私の耳にはサイエンさんの声がうっすらと聞こえた。
はじめはとても小さく、そして酷くノイズが混じっていた。
でも、時間が経ち最初は殆ど聞こえなかったものが、ある時突然聞こえるようになったのだ。
これは聞こえるように練習するタイミングだと思った私は、懸命にサイエンさんの裡の声を聞く練習をした。
そして、初めてはっきり聞こえたのは先ほど。
『俺にケーナちゃんを殺せだと? 一つだけ言わせてもらおう、クソッたれ、ってな』
サイエンさんの、初めて聞いた酷く怖い声。
しかし、それが私のために発せられたものだと知り、少し嬉しくもなった。
だからこそ、また私のためにサイエンさんが危険な事をしていると思った。
身支度もほどほどに、私は部屋を飛び出す。
時折聞こえる『液体凍結』の声から、水場で戦っているはず。
使い魔が、私の大切な人が傷つかないように走った。
そして、町の中心に位置している噴水にたどり着いたときに、私は見た。
全身傷だらけになりながらもマリーさんと戦っているサイエンさんを。
はじめに、なぜマリーさんと? という疑問が沸いた。
そのあとすぐ、サイエンさんがボロボロになっているのは何者かがサイエンさんを攻撃したということに気が付いて、それが今目の前で戦っている人物だということに思い至った。
壮絶な魔法の応酬。
剣と剣がぶつかり合い火花を散らすようように、魔力の波が周囲を襲う。
やがてサイエンさんが氷魔法で一撃を入れると、マリーさんの動きは止まった。
「俺が情報を意図的に隠していた可能性をマリーさんが考えていなかったのが、この状況を招いたわけだ」
勝利の宣言。
この瞬間、マリーさんはサイエンさんによって身動きができない状態になるものだと思った。
しかし、事実は違った。
陰から姿を現したジェイルさんが、サイエンさんに向かって影魔法を使い、マリーさんを担いだのが見えた。
「危ない!」
とっさに私はサイエンさんの前に飛び出し、目の前に向かって光属性の『光弾』を放つ。
サイエンさんに迫っていた影は光によって姿を消し、魔力となって消滅した。
振り返る。
サイエンさんは目を閉じたまま脱力していた。
そんなサイエンさんに向かってこう言い放つ。
「一人にさせてくださいとは言いましたけど、一生とは言ってないですよ、サイエンさん!!」
◇◆◇
ジェイルが舌打ちをする。
「本来であれば無理矢理にでもあなたを我が主の館へと連れて行くべきなのですが、二対一では少々分が悪い。ここは退散させてもらうとしますよ」
そう言ってジェイルは路地裏の影へと姿を隠す。
「おい、待て!!」
慌てて後を追うが、そこにはすでにジェイルとマリーの影はなかった。
「逃げられたか……」
俺はため息をつく。
ケーナちゃんの方を見てみれば、 微笑みながらこちらを見つめていた。
「今度こそ、死んじゃったかと思いましたよ」
そう言って、ケーナちゃんが俺の懐に飛び込んできた。
「ごめん。本当はケーナちゃんを悲しませるつもりもなかったんだ。許してくれ」
その言葉にケーナちゃんはポツリと、一言だけ返した。
「言うのが遅いです。……ばか」
辺りにはすっかり夜の帳が落ちた。
とりあえず、これで一件落着ってことで、いいんだよな?




