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50.ミスディレクション

1


「なッ……に?」


 全身を氷に抉られ、魔法に割かれていた集中力が途切れたため、魔力が霧散し辺りに突風を吹かせた。


「貴様、二つしか魔法は使えないのではなかったのか?」


 右手で反対の肩を抱き全身から血を流すマリーさんが俺に問う。

 甘い、甘すぎる。

 マリーさんはもしかして今までこういった騙されるという経験をしていなかったのか?

 確かに戦いをする上で情報は必要だ。

 しかし、相手がばら撒く情報が全てではないし、それらが本物であるかどうかすら疑わしい。情報は意図的にコントロールできるもので、自分の得た情報が真に正しいのかどうかを見極めなくてはならない。


「あんたは俺が絞った情報を鵜呑みにしすぎだ」


◇◆◇


──数日前──


「コーヒーをどうぞ」


 俺とケーナちゃんの席にもコンダクターの人がやってきて、俺にコーヒーを手渡してくれる。


「さて、ケーナちゃん。一つ、俺は伝えておきたいことがある」

「何ですか?」

「実はだね、私はとうとう二つ目の魔法を昨晩習得することに成功したんだよ」

「本当ですか……!?」

「ああ、ちょっとやってみるぞ……」


 俺は、目の前の配られてきたコーヒーにミルクを注ぎ、かき混ぜる。

 二つの色は混ざり合って、完全に茶色へと変化した。


「よし、準備は完了した。いくぞ……」


 失敗しないように意識を集中する。


「『秩序逆転トランスレイト』、『液体凍結フローズリキッド』」


 魔導書に載っていた魔法をコーヒーにかけるように発動すると、意識した通りにミルクだけを凍結させることに成功した。


「……よっし、成功だ」


 目の前のカップにはミルクでできた氷がコーヒーの上に浮かんでいる。

 それを目の当たりにしたケーナちゃんは、驚いている。


「水属性の魔法……、なんで使えるんですか?」

「ごめん、俺にもよくわからない。魔導書に書いてある通りに使ってみたらうまくできたんだ」


 ここで、俺はある一つの案を思いついた。

 この魔法の存在を秘匿し続けることで、敵味方全てを欺くことができるのではないか? と。


◇◆◇


 秩序逆転は、触れたものの可逆変化と不可逆変化を一時的に入れ替えるというものだ。

 本来であれば、放置していてもミルクの混ざったコーヒーはミルクとコーヒーに分離はしない。

 しかし、この魔法ならこの法則を反転させることができる。

 コーヒーにこの魔法をかければミルクとブラックコーヒーに分離し、水にこの魔法をかければ凍った状態から水に戻ることもなくなる。


「何故俺がコントロールできる情報を盲信的に信用した? たしかにマリーさんが収集した情報は自分自身で得た情報かもしれない。ただ、それは俺がすべてを暴露していたときに信用していいものだ。俺が情報を意図的に隠していた可能性をマリーさんが考えていなかったのが、この状況を招いたんだよ」


 そう言って、俺はこれ以上狼藉できないようにとどめを刺そうとする。

 マリーさんの体内にある全ての水分を凍らせるため、俺は魔法を発動した。


「……『液体凍結フローズリキッド』」


 白い魔力の光がマリーさんに向かって飛翔し、その体に触れそうになる。

 瞬間、その体に結界が張られ、俺の魔法は防がれた。


「……我が主を殺させはしない」


 暗闇から現れたのは書店にいた盲目の男性。


「ッ!? 『守護結界ディフェリオ』!」


 とっさに防御魔法を展開する。

 数瞬後、結界は何かによって跡形もなく吹き飛ばされた。

 やってしまった。

 魔女を退けることばかり考えて、こいつがいることを忘れていた。

 目に見える情報ばかり信用するなと言っておきながら、目に見えていた情報が頭から離れていたというのは、実に傑作かもしれない。

 俺は、結局異世界に来てもミスばかりするのか。


──兄さん、最近ずっと家に帰ってないでしょ? たまにはあたしとご飯でも行こうよ──


 現実でも、異世界でも、心配する人がいることを忘れて自己中心的に行動し、結果自分のミスで痛い目を見て心配してくれている人を悲しませる。

 でも一つだけ、最後にケーナちゃんには伝えておきたかった。


「俺は、君のことを考えて行動してたつもりなんだ。傷つけてしまって、申し訳ない」

「それでは、これでお別れだ。『影の行進(シャドウマーチ)』」


 以前にジェイルと名乗った男性が、魔法を発動する。

 影が俺に迫る。

 俺は、魔法を受け入れようと目を瞑る。

 しばらくして、聞き慣れた声が聞こえた。


「一人にさせてくださいとは言いましたけど、一生とは言ってないですよ、サイエンさん!!」

可逆変化及び不可逆変化についての記載が一部誤りでした

どうか目をつぶって頂ければと思います

申し訳ございません

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