48.契約破棄
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「だいぶ素直ね」
「……それは、まぁ」
夕方の街を二人肩を並べてゆっくりと歩く。
正直、こんな形でケーナちゃんと別れることになってしまったのは申し訳ないと思っている。
だが、あの関係からよりを戻そうにも俺には最善の方法が思いつかなかった。
本当にあれでよかったのか、別れた今でも考えてしまう。
「噴水、ついたわよ」
気がつけば先日ならず者たちと戦ったばかりの広場に立っていた。
……このままマリーさんの使い魔になれば、俺は今後ここまで苦悩しなくてよくなるのだろうか。
「契約を上書きする方法は簡単。新しい契約者を考えながら、前の契約者を忘れること。あなたがそうしてる間に私が全部の工程を行うから、あなたは余計なことは考えずに私だけを考えててね」
ここで契約してしまえば、もう後戻りはできない。
「ひとつだけ聞いてもいいですか?」
「ん? 何?」
「そこまでして僕にこだわる理由がわかりません。それほどまでに僕は何かを持っているんですか?」
俺はただ、純粋に思ったことを聞く。
なにが彼女をそれほどまでに夢中にさせているのか、と。
「確かに、あなたは器の少年よ。私にとっては喉から手が出るほど欲しい存在。だけど、それだけならあなた以外でもいいのよ」
「じゃあ、なんで……」
「それは、あなたの歳がまだいってないからよ。伸び代があるというのは素敵なことじゃない?」
……これは、本心で言っているのだろう。
そうじゃなかったとしても、今はそれを疑えるほどの十分な根拠がない。
「じゃあ、器とは一体なんですか?」
「器、ねぇ。言葉で説明するのは難しいんだけど、強いて言うなら神に一番近い存在になるための素質、みたいなものね」
俺は、その言葉を聞いて目を見開いた。
神。
神話で聞く神はありとあらゆることができる。
もし俺がそんな存在になったとしたら? そのとき俺は一体どんな行動を取るのだろうか?
「でもね」
トリップしかけた俺を、マリーさんの一言が現実に引き戻す。
「それほどの存在になるんだもの。代償はないはずがない」
「代償……?」
「それはね、自分の主人の命よ」
……、主人の命。
要するに、俺にケーナちゃんを殺させようとしているのか。今ではないにしても、遠くないいつかに。
あぁ、あぁ。
「器を持つのは使い魔しかいない。だから私は星の数ほど使い魔を召喚したわ。だけどね、使い魔の中でも器を召喚できるのは人間しかいないのよ。私たちエルフには到底無理。だから、契約を上書きするなんてめんどくさい魔法を開発しなきゃならなかったんだけどね」
俺が思考をまとめようとしている間も、マリーさんは関係ないと話し続ける。
「……わかりました。それじゃあ、そろそろ契約を上書きしましょう」
俺はそう切り出した。
「……っと、ちょっと私もヒートアップしすぎてちゃったわ。夢に手が届きそうで舞い上がってるのかもしれないわね」
ふふふ、と頬を染めながら笑うマリーさんの横顔が、夕日に反射して美しく輝いた。
「ベンチで、ね?」
そして愛らしくウインクまでする。
俺は、その可愛さに、思わず見とれてしまった。
ベンチに座り、マリーさんの顔を見つめる。
「それじゃあ……」
この間と同じように、違う状況でマリーさんの唇が俺の唇に迫る。
俺の皮膚にマリーさんの吐息が当たり、くすぐったさを覚えた。
スローモーションのようにお互いの顔が近づき、そして次の瞬間、俺は右手を振りかぶって噴水の水をすくい、マリーさんの半身を水浸しにした。
「……っ!?」
俺はマリーさんを見つめながらこう言う。
「俺にケーナちゃんを殺せだと? 一つだけ言わせてもらおう、クソッたれ、ってな」




