47.仲違い
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部屋で待つこと数十分。
手持ち無沙汰のままひたすら虚空に向かってフタエノキワミを放っていると、神妙な面持ちでケーナちゃんが帰ってきた。
それは、否が応でも深刻な雰囲気を感じさせた。
「お帰り、どうしたの?」
だから、これは必然的に俺が質問しなくてはいけないことだった。
「……」
しかし、反応はこちらが返答に困るもの。
……こういう状況の場合なんて返答するのが正しいんだ?
とりあえず、俺は地雷を踏みぬかないように沈黙することにした。
場に重い雰囲気が漂う。
……、あぁ、息苦しすぎて死にそうだ。
しかし、そのまま沈黙を守り続けていると、ケーナちゃんが静かに話し始めた。
「マリーさんから聞きました。この間の夜、マリーさんと会っていたんですよね?」
突然答えにくい問いをされてしまい、思わず返答に詰まる。
……そうか。ケーナちゃんはマリーさんが北の魔女の可能性があるということを知らないのか。
なら、マリーさんが北の魔女であると言わなくては。
「ケーナちゃん、それは偶然あの場所であっただけで、他意はないんだって」
あぁ、これがあの人が言っていた魔法の影響ってやつか。
ダメだ、思った通りの答えが言えない。
口をついて出そうになるのは言い訳ととれる薄い内容の言葉ばかりだ。
「サイエンさん、あなたは本当に私の使い魔なんですか?」
「それは、そうに決まってる!」
「じゃあ、なんでいつも私が期待する行動とは違う行動をとるんですか!!」
「ッ……!」
返事できなかった。
これが今後に大きな溝を生むとわかっていて、言葉に詰まってしまった。
「決闘の時から、サイエンさんが一人でどこか遠くへと向かおうとしてるのでは、という漠然とした不安感を感じていました。いつか私は捨てられてしまうのではないかと。でも、今日研修を終えたときに偶然マリーさんと出会って、すべて聞きました。……サイエンさん、あなたはさっきまでどこにいたんですか?」
だめだ、どれもこれも言い訳になる。
何を言っても言い訳になる。
あれも言い訳だ、これも言い訳だ。
どれもこれもどれもこれも、全部言い訳になる。全部全部ぜんぶぜんぶ言い訳言い訳言い訳言い訳いいわけいいわけ訳訳訳訳わけわけわけ。
……なら、真実を隠してしまえば、いいんじゃないか。
「今日は、ここにずっと居たよ」
「……なんで」
言ってから、気づいた。
これは、悪手中の悪手だったのではないかと。
しかし、もう遅い。
「なんで嘘をつくんですか! あなたは、私の使い魔じゃないんですか!? 私が、全面的に信頼を寄せられる存在なんじゃないんですか!?」
すぐばれるとわかっていて、ついてしまった。
……確かに、俺が悪いかもしれない。
でも、なんで俺ばかりが責められなければならないのか。
「俺だって、人間なんだよ!」
俺は、つい、本当につい怒鳴ってしまった。
それにケーナちゃんは目を見開いた。
「……一人にしてください」
目に涙を溜めながら、ケーナちゃんは呟いた。
「俺はただ……」
「一人にしてくださいって言ってるじゃないですか!」
俺は、やってはいけないとわかっていながら、この場所から離れることを選んでしまった。
部屋を出る際に、振り返ってみたけれども呼び止める声はかからなかった。
とぼとぼと廊下を歩く。
……俺は最低だ。
こんな風な関係になってしまって、今後どうやって話せばいいのか。
おもむろに歩いて外に出れば、そこにはマリーさんが居た。
「あら、盛大に喧嘩しちゃったわね」
「誰のせいだと思ってるんですか」
こいつがケーナちゃんに情報を流したのか。
しかし、不思議と怒りは感じなかった。
「チャームも結構厳しくなってきたころじゃない? どう、契約を私に移さないかしら」
俺は少し悩み、答えを出す。
このままケーナちゃんと契約していても、関係はずっとぎくしゃくしたままだろう。
「それはいいかもしれない」
「じゃあ」
「ただ、一つだけ頼みを聞いてはもらえないだろうか?」
「何かしら? 私ができることならなんでもいいわよ」
俺は少し溜めてから言う。
「ここじゃなくって、もっとロマンチックな場所で頼む。例えば、噴水のあたりとかがいい」
「噴水ね。……いいわ。そこにしましょう」
これで、俺も新しい一歩を踏み出せるだろう。




