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45.配置される駒

1


「ケッ、見かけによらず、随分と強いんだな。腕を持ってかれちまった」


 左腕に治癒魔法のようなものをかけながら言う。

 そのセリフで臨戦態勢だったチームメンバーは警戒を一瞬で解除し、こちらに向き直った。


「ちょっと遊んで返すつもりだったが、大人気なく本気になっちまったぜ。すまんな」


 右手を差し出しながらそうやって笑うマッチョマン。

 あれ、もしかしてこいつ実はいい奴?

 ちょっと突然雰囲気が変わりすぎてワイ対応できないんやが。


「実は俺たちの中に最近村を焼かれたって奴がいてな。火をつけたのは北の魔女なんじゃないかって話してたところだ」


 そう言ってマッチョマンはシーフの男を親指で示す。


「あいつはジャック。昨日久しぶりに実家に帰ったら家、いや村全体が焼かれてたんだとよ。幸いにも隣の村にお袋は逃げてたみたいだが、妹さんが見当たらなかったらしい」


 ……昨日あったという放火、修学旅行の中継地点での火災、火傷の少女。


「北の魔女は確か火属性の魔法を好んで使うんでしたよね?」

「ああ、史実ではそういうことになっているはずだ」


 これは、もう北の魔女が存在しているということの裏付けでいいのではないか?


「僕の主人が通っている学園が全身火傷の少女を保護しています。ジャックさんは一度寄ってみてはどうでしょうか?」


 俺は一応言っておく。

 もしかしたらあの少女がこの人の妹かもしれないしな。


「ああ、伝えておくよ。学園の名前は?」

「ヴァラン国立魔道学院です」

「了解。ヴェルグには何しに来たんだ?」

「修学旅行で」

「なるほどな」

「では、お話いただきありがとうございます。では、また機会がありましたら」

「ああ、その時はその時だな」


 俺はマッチョマンの伸ばした右手を握る。

 さて、北の魔女が火属性を好んで使うということはわかった。

 あとはかけられたチャームを解く方法さえ見つけることができれば、無事に学園まで帰ることができそうだな。


◇◆◇


「あの少年、器の少年ですか?」


 五人のならず者と一人の少年を、木の陰からこっそりと伺う視線が二つ。

 一人は燕尾服に身を包んだ盲目の青年。

 一人はおっとりとした雰囲気を醸し出しながらも、底の見えない妖艶さを併せ持つ美しい女性。


「そうね。それよりも今の戦い見てた?」

「あいにく、私は視界がないので見ることはかないませんでしたが、魔力は感じました。あの青年、無属性魔法への適性が(・・・・・・・・・・)異常です(・・・・)

「やっぱり、あなたも感じたかしら。そうね。彼が使っていた魔法は全部無属性魔法だった。……全部と言っても二つしか使えなそうだったけど。さっきの戦いだって、二つの魔法だけで厳しそうではあったけど、なんとか勝ったようだし」


 女性はニヤリとその美しい顔に似合わない笑みを貼り付け、ただ少年の後ろ姿をじっと見つめた。


「ふふ、でもチャームは消えてないみたいね。そろそろきつくなってくる頃よ、あなたに耐えられるかしらね……?」


 恍惚とした表情には、様々な感情が含まれているのだろう。

 隣に立つ青年でさえ言葉を発することはできなかった。

 少年が立ち去った後も妄想に思考を走らせているかのように数十分その場で立ち尽くしていた女性は、突然表情を切り替えた。


「さて、それじゃあそろそろ仕上げといきましょう。帰るわよ」

「全ての駒は配置し終わった、ということですか」

「うーん、ちょっと違うわね。後一つ配置が終われば、覇者へと至るはずよ」


 女性は歩き出す。

 その足取りは確かだが、そこにはスキップをしているような軽さがあった。

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