44.ならず者との戦闘
1
マッチョマンが左手から血を吹き出しながら攻撃を繰り返す。
「おらッ、おらぁっ! チェン、いったん引くぞ!」
「あいよっ、風操!」
連携の取れた攻撃。そして間髪入れずに放たれる魔法。このパーティは、見た目はチンピラでも中身は優秀だったようだ。
俺の体が突如吹いた風によってあおられ宙に舞う。
そして、そのバランスを崩した俺の真上から飛翔する軽そうな剣。
しかし、質量がどれだけ少なかろうと、速度が早ければ速度の二乗がかかる時点で力は膨大な数字となる。
俺はそれが当たらないように急旋回して回避する。
「かかったな!」
そして、俺が着地しようとした地点に立っていたシーフが、頸動脈を裂かんと俺の首に刃の切っ先を向ける。
「ッ……!」
シーフを避けるためにあえて態勢を崩したが、その反動で俺は地面に強く叩きつけられるように落下した。
「ゴハ……ッ」
激突した衝撃で視界が一瞬真っ白に染まる。
左腕が熱い。
敵を視界に入れつつ腕に視線を落とすと、腕全体にできた擦り傷から絶えず出血していた。
「クソッ、挑むべきじゃなかったか?」
噴水は目前に迫っている。
しかし、そこに足を踏み入れているものはおらず、凍結魔法によって動きを止めるという作戦は不発に終わりそうだ。
では別の案は? 対抗策を考えるがまとまらずにもやもやしたまま案は霧散する。
チャームの影響もあって、考えようにもまともに案がまとまらなかった。
……もういっそのことこいつらの全身の血液を凍らせてしまうか?
いや、だめだ。
それをやった時のリスクの方が圧倒的に大きい。
いくら異世界だからといって、殺人罪が存在しないとは限らないんだ。
そうなるとやはり命に別状はない程度の冷凍が現状の最善策か。
「『液体凍結』……!」
最前列に突っ立っていたタンクの男に凍結魔法をかける。
盾にぶつかった魔法はそのまま盾全体を侵食するように霜が広がっていき、その腕を凍らせた。
「おい、おい、ジョニー! 腕が……、俺の腕が!!」
「……チッ! ガキが、やりやがったな。お前、このまま生きては帰さねぇぞ」
「そんなことしたら、お前捕まるんじゃないのか?」
俺は、逮捕という概念が存在するのかどうか確かめるべく質問した。
「はっ、知ったこっちゃねぇ。俺たちは捕まんねぇしよ、もし捕まるってんならお前をいたぶってからじゃねぇとな!」
それに答えたマッチョマンは、逮捕されてもいいような口ぶりでこちらに語りかけてくる。
おそらくその反応はこの世界に逮捕という概念の存在、そして警察のような組織の存在を裏付けるものだろう。
「あいにく、こちらも簡単に捕まるわけにはいかないんでね! 『液体凍結』!」
「馬鹿の一つ覚えみたいに同じ魔法ばっかり使いやがって、それしか魔法が使えねぇのか?」
俺がマッチョマンに向かって凍結魔法を放つと、男は来ていた上着を魔法に当てるようにして投げた。
すると上着は一瞬にして冷凍されたが、肝心の肉体は氷の一粒すら付いていなかった。
「その魔法、当たらなきゃどうってことねぇなぁ。守りが一手、攻めも一手。そんなんで勝てるわけないだろ? ……それじゃあ、今度こそ終わりにしてやるよ!」
俺の魔法の弱点を読んだマッチョマンは一転攻勢し、俺にその戦斧を片手で投げてきた。
俺の魔法は、一度触れたものの水分を凍結させるという能力を持っている。
しかし、これは触れたものという制約があるのでなんでも凍結できるわけではない。
迫る戦斧。ここで戦斧を凍結させたところで大した抵抗にはならない。
つまりこの男の導き出した戦闘方法はこの魔法に対しての最適解である。
「たしかに、液体凍結は当たらなきゃどうってことはないな」
しかし、このマッチョマンはひとつだけ読み間違えをしている。
戦斧は俺に迫る。
切っ先をすんでのところで回避し、その懐に潜り込む。
「『守護結界』」
そして、すぐさま生成したインスタント短剣によってその脇腹を貫いた。
「ゴッ……! なに、しやがるッ!」
「教えてやろう。お前の敗因はただ一つ、俺の攻めが一手のみだと勘違いしたことだ」
マッチョマンの脇腹にはうっすらと揺らめく魔力の剣。
かなり深いところまで刺さっているはずなので、そう簡単には動けないはずだ。
「ゲームエンドだよ、おじさん。僕に北の魔女について教えてくれないか?」




