39.事の顛末
1
突然の出来事で体が反応できなかった。
マリーさんの唇はとても柔らかく、マリーさんは俺の口内に舌を侵入させ丁寧に口内を味わうように舌を絡ませる。
唇を離そうと腰を引くと、その腰をひきつけるようにマリーさんが抱く。
結局どうしようもなく、マリーさんの舌を受け入れるしかなかった。
体が火照る。
心臓が脈打ち、体中の血流が早くなる。
徐々に、感覚が鋭くなっていくのが分かる。
舌と舌のぬめりや、喉を通って鼻腔までやってくる女性特有の、フェロモンというのだろうか。そんな風な匂いが香る。
静かな夜に、二人の口内から発せられる水音がこだまする。
血液は徐々に俺の下半身へと集中し、不本意ながら愚息は元気になる。
どれだけ口づけを続けたのだろうか。
マリーさんはようやく俺を離してくれた。
「っぷはぁ!? なななな何なんですか、いきなり!!」
俺が行動の真意を聞くも、マリーさんは無言で先ほどまでの感触を楽しむように舌なめずりした。
……何かがおかしい。
俺が想像していたマリーさんとは何かが違う。
しかし、違和感は感じるのに先ほどまでの接吻のせいで脳に酸素が回っていないせいか、こんな大胆な一面があってもいいかと考えてしまっている自分がいる。
「アナタ、サイエン君、だったかしら?」
文脈もなしに、マリーさんは俺に話しかける。
しかし、そこには先ほどまでの穏やかなマリーさんの面影は残っていない。
残っているのは、妖艶な笑みを浮かべるマリーさんの姿だけだった。
「……ぁ」
俺は、ポツリと息を吐く。
今までに経験したことのない経験をしたせいで、頭が混乱している。
だから、だろう。
俺は、マリーさんが言葉を呟いたのをただ見ることしかできなかった。
「『異性魅了』」
その言葉が耳に入った瞬間、俺の体に白い紋章が浮かび上がった。
「魔法!?」
魔術がかかわることで急速に意識が加速を始める。
しかし、所々でもやがかかったように思考を邪魔される感覚もある。
結果、思わず飛びのいたがそれしか行動できなかった。
「ふふ、とうとう手に入れたわよ。器の少年君」
身を守りつつ守護結界で攻撃をしようとすると、体が攻撃を妨害するように急制動をかける。
結果、俺はゆっくりと剣を振りかぶり、右手を掲げたままの姿勢で止まってしまった。
しかたなく結界を消して話しかけることにする。
「ディープキスをしてくれたのは嬉しいんだが、俺は申し訳ないけど器の少年ではないと思うぞ」
実際、俺は器の少年という単語に心当たりはない。
「いや、アナタは間違いなく器の少年よ。『覇者へと至る器』の素質があるわ」
「覇者へと至る器……?」
「その話は残念ながらまたあとで」
覇者へと至る器についてはただの一つとして聞き覚えはない。
しかし、これ以上聞いたところで聞き出すことはできないだろう。
しかたがないので、もう一つ気になっていることを聞いた。
「じゃあ最後に一つ」
「何かしら?」
「さっきの魔法について教えてくれ。俺が死ぬ呪いなのか?」
「アナタを私が殺す? そんなもったいないことするわけないじゃない」
俺は殺されるのか、苦しんで死ぬ呪いなのか。そんな風な予想をしたんだが、どうやらそれは俺の思い違いだったらしい。
「いいわ、アナタを手に入れられて今日は上機嫌だから特別に教えてあげる。異性魅了は私の体液に依存効果を付与する魔法。口腔摂取すると効果が発動し、対象の抵抗力を奪う。魔法の対象が体液の欠乏症に陥ると激しい動悸や息切れ、破壊衝動に襲われるわ。このままだと、アナタは確実にワ・タ・シ・の・モ・ノ」
……これは、かなり危険な状況に陥ってしまったかもしれない。
「それじゃあ、また今度、きたるときに、ね」
「あっ、おい、待てよ!」
マリーさんは俺の静止に聞く耳を持たず、暗い夜空に消えていった。
……さて。
この状況から奴に勝つための必勝の一手を作り出さなきゃいけないわけか……。
神は俺に無理難題を押し付けるのが好きなようだな。




