35.異界の古書店
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──行動初日──
あてがわれた部屋に荷物をすべて移動し終えた俺とケーナちゃんは、初日ということもあってか夕食までの時間は自由行動可となった。
「ケーナちゃんは何か散策したい場所とかあるの?」
「そうですね……。私は特にないですが、逆に知っている場所が少なくてこれといった場所が出てこないだけかもしれないです」
「なるほど。……じゃあ今日は町ブラでもするか」
ということで、一日目は特に目的地を指定することはしないで探索することになった。
「しっかし、ここはほんとに金かかってるって感じるよなぁ」
これほどのガラスを利用するのに一体幾らかけたのか。
この時代的な感覚だと恐らく機械産業のようなものは発達していないはず。
そうなると必然的に職人が一から作ることになるはずで、それは価格の高騰を意味する。
「それにしても使い過ぎだろ」
大通りに面した店は大抵全面がガラス張りになっていて、ブティックにはマネキンが、魔道具店には一押しの魔導書が、武具店には甲冑がそれぞれ窓に面するように並べられていた。
中でも一際俺の目線をひきつけたのが、路地裏のこぢんまりとした書店だった。
「こんなところに店なんてあるんですか……?」
ケーナちゃんが不安そうに聞いてくる。
「いや、確かにあるはずなんだ」
そう、あるはずなんだ。
路地裏の前には日本語で「書店」と書かれた看板が立っていたんだ。
まだ昼間だというのに薄暗い路地を十数分歩き続け、そろそろ引き返そうか、という感情がわいてきたころ、不意に正面に店が現れた。
看板は錆び、客足もお世辞にもいいとは言えない。
しかし、俺はここに入ることに対してこれまでにないほどの価値を見出している。
なぜかって、ここの扉の先にはあの魔導書を書いた本人がいるかもしれないし、何なら地球にだって帰れるかもしれないんだ。
俺は扉の前で一息つくと、扉をそっと開ける。
建付けが悪く、簡単には開かないし木のきしむ音もひどい。しかも、俺が扉を開けたせいで足元の埃がブワッと舞うおまけ付きだ。
「ゴホッゴホッ……」
咳き込みながら店内を見渡す。
本棚と本棚の間に人の姿は見られなかったが、奥にカウンターのようなものが見える。
今度は埃を舞わせないように細心の注意を払いつつ、カウンターまでゆっくりと向かう。
「……あら、お客さん?」
やっとのことでカウンターまでたどり着くと、こちらを出迎えていたのは眼鏡の似合う、巨乳のおねぇちゃんだった。




