32.傷つきし少女
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暫く時間が経ち凍らせたミルクも溶け切ってカフェオレに戻ったころ、俺たちの乗った馬車はゆっくりと止まった。
「何かあったのか?」
「何でしょう……」
止まったことに関してのアナウンスはなく、俺たちの席からは見ることもできない。
教員は外に出て様子を確認しに行った。
教師がいないとなれば、子供たちが野次馬に向かうのはおかしなことではないだろう。
前後の座席の少年が馬車の前方へ向かっていく。
「俺たちも行くか?」
「そうしましょう」
席を立ち、ほかの生徒に続いて前方へと向かう。
人込みをかき分けるように進んで外に出ると、そこには夥しい量の血を服に吸い込ませて露出する肌を赤黒くただれさせた少女が横たわっていた。足には深々と木片が突き刺さっている。
意識はない。
「救護は!?」
それを囲む先生方が必死に応急処置を施している。
「マドル女史、治癒魔道師を連れてきました!」
声のするほうを向くと、別のクラスの馬車から白衣を着た青年が二人降りてくるのが見える。
どうやらこの世界でも医療関係者は白衣を着るようだ。
「傷を回復させます。魔法の範囲外まで下がっていただいてもよろしいですか?」
言われて、先生たちといっしょになって慌てて下がる。
「大丈夫なんですかね?」
「わからない。回復魔法で治せるのか、息があるのかすら不明だ」
だが、傷の状態からして何かに襲われてここで倒れたのは明らかだろう。
……もしかしたら、この状態で修学旅行に向かうのは危険なのではないか? いやでもそんな考えがよぎってしまう。そのあたりについては先生たちを頼るしかない。
「生体治癒」
白衣の男性の内の片方が魔法を使う。
すると血だらけで倒れる少女は詠唱に合わせて白く発光し、傷口が徐々にふさがっていく。
しかし、少女が目覚める様子はない。
一体どれだけの時間少女は魔法をかけられていたのだろうか。
「息はあります。しばらく安静にすれば、目を覚ますでしょう」
白衣の男性から生存の報告を受ける。
実際に俺たちができることは少ないにしても、助かってほっとした。
「では、そちらの馬車で様子を見ていただきたいです」
「了解しました」
数回マドル先生と白衣の男性が言葉を交わすと、担架の様なもので担がれて、少女は隣の馬車へと輸送されていく。
マドル先生はそれを見送ると、こちらに振り返って声を荒げた。
「皆さんいつまで野次馬してるんですか!! 早く馬車に戻りなさい!」
マドル先生のいきなりの怒声に驚き、生徒たちが急いで馬車に戻っていく。
「じゃあ俺たちも戻るか」
「そうですね」
ほかの生徒に続いて、俺たちも馬車に戻った。




