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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第2章(後半):SS
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SS1-17話:陰謀を聞いてしまった。

 ―――バーン!

 勢いよく扉が開かれると同時にサリナが叫んだ。


「お母様! いらっしゃいますか! 大変です! 私、この方に妊娠させられ―――アイタッ!」

「なにバカなこと言ってんだ! てめえ!」


 俺はテンパっているサリナの頭を叩いた。

 冗談じゃねえ。

 サリナの話ようじゃ、俺がサリナを襲ったみたいじゃねえか!


 頭を叩かれたサリナは、恍惚した表情で俺を見上げる。


「ぶ、ぶたれました~! 私、お母様にもぶたれたことがありませんのに! はあ、はあ~」

「なんで悦んでるの! しかも、なんでどこぞのエースパイロットふうに叫ぶんだよ! 謝れ! 偉い人に謝れ!」


 ガ〇ダムでお馴染みの名セリフをMっ気に言うもんだから、思わずツッコミを入れてしまった。

 ギャーギャーと全く収まりがつかないサリナ。


 サリナが〝お母様“と呼んでいたから、この部屋がクリス達の宿敵イザベラの部屋だと予測できる。

 ……やばい。早くこの部屋から逃げないと!

 これ以上、アイツらに面倒をかけるわけにはいかない。


 だが、このM王女(サリナ)が俺を離してくれない。


「ちょっと、聞いてますの! 急に私を妊娠させたり、私を変な気分にさせたり……一体貴方は私に何がしたいのですか!?」

「えー! あれ? 全部俺のせいなのか! つうか、お前の性癖が問題だろ! というか、その妊娠ってのを止めろ! 俺がお前に手を出したみたいじゃねえか!」

「? 今も手を出したじゃありませんか」

「叩いただけだから! お前の〝手“の意味がおかしい!」

「? ? ?」


 全く訳がわからない顔をしているサリナ。


 部屋に来るまで何度も否定しているのだが、サリナは全く話を聞いてくれなかった。

 だが時間が経って少し落ち着いたのか、あるいはさっき頭を叩いたのが功を奏したのか、サリナが勘違いした理由を説明してくれた。


「だって……貴方という殿方が初めて私に触れた。結果、私の身体が熱く火照り出した! ねっ!? これって妊娠でしょう?」

「ちげぇえよ! バカ! 取りあえずお前保健の教科書読め!」

「保健とは一体なんですの?」


 ああ、ダメだ。

 コイツ色々と常識から外れてるわ。


(コイツ、頭の弱い子に違いない)


 俺は心の中でサリナをそう判断した。


「お母様が仰ってました。『淑女たるもの、男性に決して肌を触らせてはいけません。もし貴方が肌を触られた場合、貴方は妊娠し、子を産むことになります。その場合、すぐ私に知らせなさい』と」

「何それ! どんだけ箱入りに育てられたのお前! っていうか、触れただけで妊娠するかバカ!」


 何という他人(よそ)様の家庭ルール!?

 納得する方もそうだが、言う方も大概だと思う。


「バカってなんですの! これから、私達一緒になるのですから、その発言はあんまりですわ!」


(……訂正。バカで確定だ!)


 怒りでキーキー騒ぐサリナに俺は強く言い放った。


「とにかく、俺はお前と所帯を持つ気なんてねえ。わかったか!?」

「―――ッ!!」


 ようやく俺の話を理解してくれたのか、サリナが驚愕の表情で口元に手を当てる。

 そして次の瞬間。


「す、捨てられましたぁあああ!」


 ビエーンと今度は大泣きするサリナ。

 どうすればいい。

 もう訳がわからん。

 情緒不安定にもほどがありすぎるわ。


 全く泣き止む気配がないサリナ。

 その泣き声に気づいた誰かが、向かって来る足音が俺の耳に聞こえた。


『誰かいるのか?』

「―――ッ!」


 ここで少し冷静になって考えてみよう。

 国家転覆を企む元テロリストの罪状を抱えていた俺。

 本来ならクリスの私室にいなければいけないはずの俺が、国王の正妻イザベラの部屋にいる。

 そこで、その娘を泣かしている。

 さらに、俺とサリナの二人っきりの状況。


 ワンアウト!

 ツーアウト!

 スリーアウト!


 うん。

 ゲームセットだ!

 俺はすぐさま行動に移った。


「えっ―――! ハウッ!」


 鳩尾を軽く殴り、強引にサリナを気絶させた後、サリナと一緒に奥内の寝室のクローゼットに姿を隠した。

 しばらくして、タッタッタと部屋に複数の人達が中に入ってきたが、『気のせいか?』と、少し部屋を調査した後、すぐに出て行った。


 危なかった。

 またクリス達に迷惑をかけるところだった。

 それだけは阻止しなければ。

 だがどうしよう。

 今も俺のひざ元で眠っているお姫様をこのままにしておくのもマズイし。

 そんなことを考えていたら、


『何よ、勝手に(わたくし)の部屋に入るなんて。許せないわね』


 サリナと瓜二つの髪型をした妙齢の女性が部屋に入ってきた。

 そして女性の後ろには、


『まあいいだろう、イザベラ。彼らも警備のために謝っていたではないか。それに、これで邪魔はもう入らないだろう』

『ええ、そうね。アルバード』

「―――ッ!」


 俺が港町の倉庫でボコボコに殴った貴族の男性の姿があった。

 二人は付き合っているのか、寝室の大きなベッドに腰かけて、お互いの身体を触り合っている。

 俗にいうイチャつき始めた。


 どうしよう。

 恐らく目の前の女性はサリナの母親―――イザベラだと思う。

 さらに、国王の正妻であるイザベラがアルバード伯爵と名乗る豚と不倫している現場を目撃してしまった。

 そして、俺の足元にはイザベラの娘がいるという、正にカオスな状況。


(……取りあえず、写真撮っとくか)


 俺は『撮れーるくん一号』で不倫現場の証拠写真をパシャパシャ(ブフフ音)と撮影した。


『こんなに顔を赤く腫らして……痛いでしょうに』

『ああ、それもあの忌々しいクソガキのせいだ! イザベラよ、やはり駄目なのか!? あのクソガキを処刑することは!』

『ええ、得策ではありません。あのガキを処刑したところで、私達には何の益もありませんもの。それよりも、あの五月蠅いセリスを黙らせる一手に使ったほうが効果は十分ですわ』

『……一応、お前の言う通りにしたぞ。あのクソガキの罪状を取り下げることを条件に、〝奴隷制度の撤廃“は諦めると、契約魔法でセリス王女を縛ることに成功したぞ』

「―――!」


 クリスが俺に黙っていたことをようやく知ることができた。

 そういうわけか。

 そりゃあ、クリスは何も言わないわ。

 俺のせいで、二人が必死にやってきた〝奴隷制度の撤廃“に関する案件が台無しになったなんて、あの優しいクリスが俺に言う訳がない。

 ……おっと、あぶねえ。手に持ってた魔導具を破壊するところだった。


『ええ。あのユウジという少年はあの双子にとって重要人物という情報は入手していましたので……ですが、意外でしたわね。ダメもとのつもりだったのですが、まさか本当に取引に応じるとは……よほど大切な人みたいですね』

『ふん。ただのクソガキだ! あんな庶民!』

『ええ。しかし、今後もあの少年をチラつかせれば、セリスも言うことを聞くというのは実に都合が良いですわ。して、今あの少年はどちらに?』

『どうやらクリス王子の部屋で匿っているらしい。さすがに、城内では手を出しにくい』

『仕方ありませんね。まあ、今後に期待することにしましょう』


 二人は仲睦まじくお互いを抱きしめ合う。

 俺は今すぐにでも飛び出して、目の前にいるこのクソッタレ共を八つ裂きにしてやりたい気持ちをグッと堪えていた。

 ここで飛び出したら、さらにセリス達に迷惑がかかる。


(考えなしの行動に反省したばかりだろう! 俺!)


 俺は必死に自分に言い聞かせる。

 二人の話はまだ続いた。


『……ねえ、アルバード。そんなことよりも、例の件はどう?』

『ああ、国王暗殺計画の話か。順調だ。この前の積荷で全ての準備は完了した。後は当日を待つのみだ』

「―――!!」


 さらに驚くべき話が俺の耳に流れた。


『王国軍も薄々気が付き始めているみたいですわ。恐らく、これもあの忌々しいセリスの指示によるものだと思いますが』

『だが、問題無かろう。もう準備は終えたのだから……長かったな』

『ええ、アナタ……これで私達家族が遂に王族となり、この国を支配することができるのですから』

(家族? イザベラとアルバード伯爵のことか? じゃあ、サリナは?)


 と、頭の中に湧き上がった俺の疑問をアルバード伯爵が答えてくれた。


『ああ、これで私は堂々とサリナが私の実の娘(・・・)だと胸を張って言うことができるよ』

『ええ。政略結婚とは言え、あんな最低な男のもとへ嫁ぐのは嫌でしたけど、アナタからいただいたサリナがいたから。そして、陰でこうして私を支えてくれるアナタがいたから、ここまでやってくることができました』

『他の三国とオーラル王国には、私から秘密裏に賄賂を贈っているから問題は無かろう。ルイ国王を暗殺し、サリナがこの国の女王となる。そして、私はイザベラの新たな旦那としての立場が得られるのだ』

『ああ、素敵ですわ』


 さらに二人の行為はエスカレートし始めるのだが、俺はそんなことよりも二人の衝撃発言に頭が全然追いついていなかった。

 そんな風に呆然としていたら、


 ―――コンコン。

 扉を叩く音が聞こえた。


『『―――!!』』


 イザベラとアルバード伯爵は慌てふためき、すぐさま身なりを整えた。

 そして、イザベラは『少しお待ちなさい』と入口の方へと歩いて行く。

 しばらくして、イザベラが寝室に戻って来た。


『クリスからの呼び出しですって。あの無能王子が、私に一体何の用かしら?』

『……そうか。まあ、仕方ない。行ってきなさい。私は隙を見て上手く部屋を出ていくから』

『ごめんなさいね。アナタ』


 イザベラがアルバード伯爵の唇にキスをして、部屋を後にした。

 しばらくして、アルバード伯爵も誰の目につかないよう隠れながら部屋を後にしていった。


 その間、俺は寝室のクローゼットの中で動けないままだった。

 なぜなら、


「……ウソよ……これは夢だわ……」


 二人の話を聞いて喪失状態のサリナに、何と声をかけたらいいのか分からなかったからだ。


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