SS1-15話:考えなしの行動の結果
お~っす。
オラ、雄二!
オラは今グランディール王国の留置場にいるぞ。
頭の固い軍人にオラの無実を訴えたが、アイツら何にも聞いちゃくれねえぞ。
…………。
…………。
やめよう。
どうやら、色んなことがありすぎて、つい現実逃避をしようとしていたみたいだ。
だが、オラ腹減ったぞ~。
突然、倉庫にグランディール王国軍が押しかけてきて、気が付けば俺は牢屋に放り込まれていた。
王国軍は貴族連中を暴行しただの、奴隷を扇動しテロを企んでいたなどと、一方的にいくつもの罪状を俺に押し付けた。
おかげで、めでたく俺は国家転覆を企むテロリストに認定されてしまった。
……全く意味不明である。
「ア、アニキ……お勤めの時間ですぜ」
「お願いします!」
「おう」
厳つい人相のオッサン達に促され俺は牢屋の前に並ぶ。
「ユウジさん! お勤めご苦労様です!」
「おう」
監視の人が俺に敬礼の構えを取るので、こちらも同じように返す。
監視が牢を開け、囚人達は食堂へと移動する。
すると、
「「「アニキ! おはようございます!」」」
「おう! おはよう」
囚人達が席を立ち、俺に向かって一斉に挨拶をする。
席を勧められた俺は囚人達のリーダーが座る定位置へと腰かけた。
俺の「いただきます」の号令とともに、囚人達が一斉に朝食を食べ始める。
そう、俺はこの留置場にいる犯罪者達のボス的なポジションにいた。
このことについては、弁解のしようもない。
牢屋に入った新参者にチョッカイをかける輩が無数にいたので、ちょいと教育的指導を行った結果、気づけばこの立場にいた。
「アニキ! 本日は一体何をいたしますか!」
「そうだな……昨日と同じようにA班は和食の料理練習、B班は接客トレーニング、C班は計算問題の練習だ」
「「「へい!」」」
朝食を食べ終えた俺達は、広間へと集まり本日の業務を開始する。
業務とはいっても、これは全て俺が皆に指示しているものだ。
……だって、コイツらめっちゃ暇そうなんだもん。国も放置しているだけだし。
A班は料理経験のある人や手先が器用な人を集めた。
C班は俺よりも年下の子供達の集団だ。
B班は、A班とC班以外の人達になる。
「それじゃあ、いつものいくぞ! 働かざる者――― 」
「「「食うべからず!」」」
「一日―――」
「「「一善!」」」
「小さな予算で―――」
「「「大きな仕事!」」」
「あがめよ 讃えよ―――」
「「「我らのアニキ!!」」」
「よし! 行ってこい!」
「「「了解です!」」」
各員がそれぞれの持ち場へと向かって行った。
業務開始前に、必ず訓示を唱和させることにした。
といっても、この訓示、俺の好きなゲームから引用したものなんだが。
この牢屋に来て十日が過ぎたが、囚人達の団結力も高まり、少しずつ牢屋内の雰囲気も良くなってきた。そのことに満足していたら、
「……おい、ユウジ。お前、何をしている」
お迎えが来てくれた。
…………
……
…
「―――で、さっきの囚人達は一体何だったんだ!? えらくお前に浸透しているようだったが」
「ああ、チョッカイかけてくるからよ、返り討ちにした結果、アイツら俺の子分になった」
「……何をしとるんだ、お前は」
グランディール王国城内のクリスの私室。
そこで牢屋から解放された俺はクリスに連れられ、部屋へとやってきた。
「いや、この前の商売で考えてたんだが、やっぱり労働力が必要だと思ってな。アイツらも暇そうにしてたし、ちょうどいいと思ってな。今のうちに仕込もうとしていたんだ」
「……まだ、商売を続けるつもりなのか……はあ~」
クリスが大きくため息をつく。
クリス達には、商才は無いから諦めろと、何度も言われ続けたが、俺はまだ夢を捨てちゃいない。
―――めざせ、俺の華麗なる異世界サクセスストーリー!
「あんなに活き活きとした囚人達を見たのは初めてだったぞ。むしろ、ユウジは商売よりも、指導者のほうが向いてるんじゃないか?」
「嫌だね。人を育てるなんて俺には恐れ多くてできないな」
「どの口がいいおる!」
雑談でだいぶ場の雰囲気がほぐれてきた―――
「―――で、お前が来たってことは何があった?」
「―――!!」
―――ところで、俺はクリスの核心を突いた。
「俺は確か国家テロリストっていうことで捕まったはずだ。にも拘らず、こんなあっさり釈放されるっていうのはおかしいだろう? 言え。何があった?」
「……何もない。何もないんだ」
「嘘をつくな!」
頑なに何も言おうとしないクリスに、俺は声を荒げる。
「……とにかく、ユウジはしばらく私の部屋から出ないようにしてほしい。食事はこちらで持ってくるから。しばらく我慢してくれ」
「何だよ、ソレ! やっぱり、何かあったんじゃねえか! 言え!」
クリスは顔をしかめたまま、何も言わず部屋を出て行った。
「……ああ、くそう! 失敗した!」
俺が釈放されたことと、クリス達に何かあったことはクリスの表情から見て間違いない。
恐らく何らかの司法取引があったのだと推測できた。
―――俺が感情のまま、あの時助けに入らなければ!
俺は自分の迂闊さを心の底から後悔した。




