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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第2章(後半):SS
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SS1-15話:考えなしの行動の結果

 お~っす。

 オラ、雄二!

 オラは今グランディール王国の留置場にいるぞ。

 頭の固い軍人にオラの無実を訴えたが、アイツら何にも聞いちゃくれねえぞ。

 …………。

 …………。

 やめよう。

 どうやら、色んなことがありすぎて、つい現実逃避をしようとしていたみたいだ。

 だが、オラ腹減ったぞ~。



 突然、倉庫にグランディール王国軍が押しかけてきて、気が付けば俺は牢屋に放り込まれていた。

 王国軍は貴族連中を暴行しただの、奴隷を扇動しテロを企んでいたなどと、一方的にいくつもの罪状を俺に押し付けた。

 おかげで、めでたく俺は国家転覆を企むテロリストに認定されてしまった。

 ……全く意味不明である。



「ア、アニキ……お勤めの時間ですぜ」

「お願いします!」

「おう」


 厳つい人相のオッサン達に促され俺は牢屋の前に並ぶ。


「ユウジさん! お勤めご苦労様です!」

「おう」


 監視の人が俺に敬礼の構えを取るので、こちらも同じように返す。

 監視が牢を開け、囚人達は食堂へと移動する。

 すると、


「「「アニキ! おはようございます!」」」

「おう! おはよう」


 囚人達が席を立ち、俺に向かって一斉に挨拶をする。

 席を勧められた俺は囚人達のリーダーが座る定位置へと腰かけた。

 俺の「いただきます」の号令とともに、囚人達が一斉に朝食を食べ始める。


 そう、俺はこの留置場にいる犯罪者達のボス的なポジションにいた。

 このことについては、弁解のしようもない。

 牢屋に入った新参者(オレ)にチョッカイをかける(やから)が無数にいたので、ちょいと教育的指導を行った結果、気づけばこの立場にいた。


「アニキ! 本日は一体何をいたしますか!」

「そうだな……昨日と同じようにA班は和食(わしょく)の料理練習、B班は接客トレーニング、C班は計算問題の練習だ」

「「「へい!」」」


 朝食を食べ終えた俺達は、広間へと集まり本日の業務を開始する。

 業務とはいっても、これは全て俺が皆に指示しているものだ。

 ……だって、コイツらめっちゃ暇そうなんだもん。国も放置しているだけだし。


 A班は料理経験のある人や手先が器用な人を集めた。

 C班は俺よりも年下の子供達の集団だ。

 B班は、A班とC班以外の人達になる。


「それじゃあ、いつものいくぞ! 働かざる者――― 」

「「「食うべからず!」」」

「一日―――」

「「「一善!」」」

「小さな予算で―――」

「「「大きな仕事!」」」

「あがめよ 讃えよ―――」

「「「我らのアニキ!!」」」

「よし! 行ってこい!」

「「「了解です!」」」


 各員がそれぞれの持ち場へと向かって行った。

 業務開始前に、必ず訓示を唱和させることにした。

 といっても、この訓示、俺の好きなゲームから引用したものなんだが。


 この牢屋に来て十日が過ぎたが、囚人達の団結力も高まり、少しずつ牢屋内の雰囲気も良くなってきた。そのことに満足していたら、


「……おい、ユウジ。お前、何をしている」


 お迎え(クリス)が来てくれた。


 …………

 ……

 …


「―――で、さっきの囚人達は一体何だったんだ!? えらくお前に浸透しているようだったが」

「ああ、チョッカイかけてくるからよ、返り討ちにした結果、アイツら俺の子分になった」

「……何をしとるんだ、お前は」


 グランディール王国城内のクリスの私室。

 そこで牢屋から解放された俺はクリスに連れられ、部屋へとやってきた。


「いや、この前の商売で考えてたんだが、やっぱり労働力が必要だと思ってな。アイツらも暇そうにしてたし、ちょうどいいと思ってな。今のうちに仕込もうとしていたんだ」

「……まだ、商売を続けるつもりなのか……はあ~」


 クリスが大きくため息をつく。

 クリス達には、商才は無いから諦めろと、何度も言われ続けたが、俺はまだ夢を捨てちゃいない。

 ―――めざせ、俺の華麗なる異世界サクセスストーリー!


「あんなに活き活きとした囚人達を見たのは初めてだったぞ。むしろ、ユウジは商売よりも、指導者のほうが向いてるんじゃないか?」

「嫌だね。人を育てるなんて俺には恐れ多くてできないな」

「どの口がいいおる!」


 雑談でだいぶ場の雰囲気がほぐれてきた―――


「―――で、お前が来たってことは何があった?」

「―――!!」


 ―――ところで、俺はクリスの核心を突いた。


「俺は確か国家テロリストっていうことで捕まったはずだ。にも拘らず、こんなあっさり釈放されるっていうのはおかしいだろう? 言え。何があった?」

「……何もない。何もないんだ」

「嘘をつくな!」


 頑なに何も言おうとしないクリスに、俺は声を荒げる。


「……とにかく、ユウジはしばらく私の部屋から出ないようにしてほしい。食事はこちらで持ってくるから。しばらく我慢してくれ」

「何だよ、ソレ! やっぱり、何かあったんじゃねえか! 言え!」


 クリスは顔をしかめたまま、何も言わず部屋を出て行った。


「……ああ、くそう! 失敗した!」


 俺が釈放されたことと、クリス達に何かあったことはクリスの表情から見て間違いない。

 恐らく何らかの司法取引があったのだと推測できた。


 ―――俺が感情のまま、あの時助けに入らなければ!


 俺は自分の迂闊(うかつ)さを心の底から後悔した。


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