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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第2章(後半):SS
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SS1-11話:クラスメートと出会った。

 グランディール王国に来てちょうど二カ月が過ぎた。

 この国を拠点にして、異世界生活にも少し慣れてきた頃。

 俺はグランディール王国首都の通りを歩いて、宿屋へ戻ろうとしていたときだった。


「あれ? もしかして、酒井くん?」


 久しぶりの名字で呼ばれた俺は声のする方向へと振り向いた。

 振り向いた先には、軽装の鎧に包まれた少年と黒のローブを身に纏った少女がいた。

 二人とも俺と同じこの世界では珍しい黒髪、黒瞳だった。


「もしかして……内田と松尾さんか?」

「ああ。そうだ! 久しぶりだな。酒井」

「お久しぶりです。酒井くん」


 少年の名は内田(うちだ) (あゆむ)

 少女の名は松尾(まつお) (さき)

 共に、俺のクラスメートだった。


 俺は、この世界に来て初めてクラスメートと再会した。


 …………

 ……

 …


「へえー、二人は冒険者として各国を渡り歩いているのか」

「ああ。今は魔王の手がかかりを知るため各地を旅しているんだ」

「魔物に襲われて大変だけど……でも、とても楽しいよ」


 再会した俺達は近くの喫茶店に移動し、互いの近況について話しあっていた。

 内田と松尾さんは旅の出来事を楽しそうに俺に話しかけてくる。

 きっと旅が順調に進んでいるのだろう。

 少し羨ましく思った。


「―――でさ、早く魔王を倒して、俺達は元に世界へと戻るんだ。その~咲と一緒にな」

「もう! 歩くんったら~酒井くんがいる前でもうー」

「……(イラッ)」


 内田と松尾さんが段々と俺の前で、バカップルのようにイチャつきはじめた。

 鉄拳制裁をくらわせてやりたかったが、俺はグッとこらえてやった。


(クッ、相棒(ココ)がこの場にいたら!)


 相棒(ココ)最終兵器(コークスクリューブロウ)が内田の腹を(えぐ)る妄想をしつつ、俺は内田達がここまで来た経緯を聞いていた。


「ふーん、内田は南の農業大国アグリ王国で、松尾さんは東の芸術大国ルネ王国にいたのか」

「ああ、この世界に来たらいきなり畑を耕しているおじいさんの目の前に召喚されてさ、おじいさんが腰を抜かして大変だったよ」

「歩くんはまだ良い方だよ。私なんかルネ王国の首都の広場に召喚されたんだよ。突然現れた私を見て、皆ビックリしてたよ。おかげで逃げるの大変だったよ」


 内田と松尾さんが二人そろって溜息をつく。

 そこから二人の苦労話を聞いていたが、まあ色々と楽しそうな話ばかりだった。


 野盗に扮した獣人達を倒して、国から恩賞を得た話。

 珍しい魔物素材を手に入れて、有名な芸術家が驚いた話。

 魔物に襲われていた商人達を救って感謝された話。

 自分達の強さを見て、偉い貴族や商人達からスカウトされた話。


 二人はとても楽しそうに異世界で起こった出来事を話してくれた。

 日本にはない異世界のあるあるネタを話している内に、気が付けば二時間以上内田達と話していた。

 俺も久しぶりに同郷のクラスメートと喋れて、とても楽しかった。


「……なあ、酒井。もし良かったら、俺達と一緒に魔王を倒しに行かないか?」

「えっ?」


 話の途中、内田が突然切出してきた。


「俺達の力はこの世界ではとても強いだろう。なら、一緒にいた方が何かと都合がいいと思うんだよ」

「酒井くんも日本に戻りたいでしょう? だったら私達と一緒に行動したほうが良いと思って」

「……」


 内田と松尾さんの突然の提案を受けて俺は少し考える。


 確かに、この世界の生活にも慣れてきて、そろそろ(ココ)や久実を探しに行こうとは考えていた。

 この二人と一緒に世界を旅すれば志達にも会える可能性は十分にある。

 二人の提案はとても魅力的に思えた。

 だが、何故か踏ん切りがつかない自分がいた。


 返答に困っている俺を見て、困ったような表情で内田が俺に話を続ける。


「うーん。その様子だと、あまり乗り気じゃないみたいだな。やっぱり酒井もこの世界の方が良いって感じかな?」

「もっていうのは、他に誰かを誘ったのか?」

「はい。この国に来る少し前に、杉本くんと会いました」

「杉本か、あのチャラ男のことだから、女の尻ばかり追いかけてんじゃねえのか」


 杉本(すぎもと) (じゅん)はサッカー部所属でいわゆるイケメン男子だった。

 学校では恋多き男子ということで、とっかえひっかえで色んな女の子と付き合っていた。

 モテない男子高校生の俺からすると、とても羨ましく妬ましい存在なのだが、話してみると、意外に話の分かる面白い奴なのだ。

 女子からモテる要因もそんな彼の話しやすさが理由なのかもしれない。


「それがな……四人の美人な女の子に囲まれていた」

「……はあ!?」


 訂正。

 やっぱり、奴は敵だ!


「物静かな人間の美少女、小柄で可愛らしい犬の亜人の少女、セクシーで色気たっぷりの狐の亜人のおねえさん、無口で可憐な猫の亜人の幼女……すごいだろ。アイツ、どんな異世界チート生活送ってんだよって感じだぜ」


 内田が溜息をついた。

 内田とはたまに(ココ)と一緒にライトノベルの話をすることがあった。

 だから、内田の言いたいことも良く分かる。


「凄いですよね。私もその手のお話し読んだことありますけど、まさか本当にそんな人がいるなんて……驚きました」


 図書委員の松尾さんも内田の意見に同意した。


「杉本はルネ王国に残って、彼女達を守りながらこの世界で生きることを選んでいたよ。日本に戻る気はないみたいだ」


 何度も一緒に来るよう促したが、杉本の決意は固かったらしい。

 まあ、この世界の俺達は他の人達よりも明らかに力が強く、そして何より縛られるモノが何もない。

 何でも規則や慣例あるいは周囲の人間の視線―――〝空気“という不確かなモノで他人を縛ろうとする日本よりかは遥かに過ごしやすい世界だと俺も思う。


「まあそんな事情で杉本は残念だったけど、今こうして酒井と会えたんだ」

「どうかな? 酒井くんは日本に帰りたい?」

「俺は―――」


 言いかけようとしたその時だった。


「ユウジ様! こちらにいましたか」

「ユウジ! 探したぞ」


 俺を探していたセリスとクリスが喫茶店にやってきた。


「えっ、何! その可愛らしい子供達は! 酒井、これは一体!?」

「わあ~、キレイ! えっ、なに、この女の子()は酒井くんの何なの!?」


 おいおい。

 松尾さんよ。クリスの性別間違えとるぞ。


「? あら、もしかしてユウジ様のお友達でしょうか?」

「おおー、ユウジと同じ黒髪、黒瞳だ! 珍しいな!」


 内田や松尾さんの珍しい容姿を見てセリスとクリスが少し驚く。


「ねえ、酒井くん。紹介してよ。この子達は?」

「えーっとだな……」


 どう説明したら良いのだろう。

 まさかこの国の王女と王子ですなんて言ったら、後々めんどくさいことになりそうだし。

 そんな風に考えていたら、


「失礼いたしました。私はこの国の第二王女セリス・グランディールと申します」

「同じく、この国の第一王子クリス・グランディールだ。よろしくな」


 あっさりセリスとクリスが自分達の正体をばらした。


「うわっ! 王女に王子って、スゴイ人じゃないか! えっ、どうしたらいい、俺」

「えっ! その子……男の子! 全然わからなかった……でも、それもまた良いわね~男の()か~」


 王族と知り作法が分からずテンパる内田とクリスが男の子と知りさらに喜びの声を上げる松尾さん。

 何故だろう。

 松尾さんが言う男の()のニュアンスがとても気になる。


「おい! 酒井。この子達のことを教えてくれよ」

「そうですよ。さっきの話にこの子達のこと言ってなかったよ!」

「あら、なら私も聞きたいですわ。ユウジ様のお話し」

「うむ。私も聞きたい! 教えてくれ。ユウジ」


 四人にせがまれた俺は仕方なく今までの経緯を話すことにした。

 セリスとクリスが途中、この世界のことやグランディール王国について色々と教えてくれた。

 俺達も日本のことをセリス達に教えた。


 ちなみに、俺はこのときはじめてセリス達に俺が異世界から来たことを明かした。

 勘の良いセリスは薄々俺の正体に気づいていたみたいだが、彼女は何も尋ねようとはしなかった。

 俺も自分の立場を簡単に話して良いのか分からなかったため、あえて自分から話すようなことはしなかったのだ。


 セリス達も加わり話は大いに盛り上がった。


 そして、日が沈み夜へと時間帯が変わった頃。


「……じゃあ、そろそろ行くよ」

「それじゃ、酒井くんも元気でね」


 二人は俺に別れの言葉を告げた。


「……」


 俺は二人の言葉に何も返せず、ただ見つめることしかできない。


「そんなに懐かれたら、離れるのは大変だろうな」


 苦笑いを浮かべて内田が見つめる先。

 俺の両隣で無防備に眠っているセリスとクリスの姿があった。

 習い事を終えて来た二人は疲れていたようで、俺の腕にしがみ付く様にして眠っている。


「それにしても、あの酒井くんがねえ~クラスでは密かに人気高かったんだよ。酒井くん。背が高くて、優しいし。他のクラスの女の子達が酒井くんを狙ってる話多かったんだけどな」

「マジか!」


 思わず松尾さんの言葉に反応してしまった。

 生まれてこのかた女の子に告白されたことなんて一度もなかったんだが。


「そんな酒井くんを落としたのが、まさかこんな可愛らしい子供達だなんて……酒井くんって、もしかして小さい子が好きなの?」

「殺すぞ!」


 松尾さんの冗談を聞き、俺は彼女を睨みつける。


「俺は小さいのに興味はねえ! どちらかというと、色気タップリの年上系のおねえさんが好みなんだよ!」

「アハハ、ごめん。ごめん」

「咲。悪ノリしすぎだ。ごめんな、酒井」


 内田と松尾さんが共に頭を下げた。

 俺も二人の冗談だと分かっていたから、そのままさらりと流した。

 まあ、好み云々はともかくとして。

 内田達と一緒に行けない理由は、やはりこのガキ共のことがどうしても気になるからだ。


「いいよ……まあ、お前らとの旅も面白そうだとは思ったけど―――」


 俺の隣にいるセリスとクリスを見る。

 とても安心したような顔で、二人は眠っている。

 その寝顔を見て、俺はもう少しだけこの国に残ることを決めた。


「まだ、しばらくここで子守をしてるよ」


 もう少しだけ、こいつらがゆっくり休める居場所になってやろう。

 そう考えていた。


 

 内田達はグランディール王国を離れ再び旅に出た。

 去りゆく内田達を俺は見送り、内田達とはそこで別れた。


 ……………

 ……

 …


 その後。

 セリスが事あるごとに、セクシーポーズ?(色気が皆無のため、子供の御遊戯会にしか見えん)で俺を誘惑するようになった。

 この女狐はどうやら俺達の話を盗み聞きしていたようだった。


(はあ~やっぱ内田達と一緒に行くべきだったか)


 少しだけ選択を間違えたのではないかと俺は後悔した。


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