SS1-9話:魔法にチャレンジしてみた。
魔法。
誰もが幼い頃なら一度は憧れるであろう、神秘的で超常的な力のことだ。
何もないところから火を出したり、空を飛んだりするなど、その可能性は無限大に広がっている。
だが、時がたつにつれて、現実を知った大人達は、魔法というのは唯の妄想の産物なのだと思い、次第にその存在を信じなくなる。
―――火ならマッチやライターで十分じゃないか。
―――空を飛ぶなら飛行機で飛べばいい。
日本であれば、科学技術の発達により誰しもが一度は想像した事象も道具を使うことで簡単に解決することができる。
その利便性に酔いしれ、大人達は次第に周りの人達に魔法という言葉をやがて使わなくなる。
全ては科学により説明できる事象であり、魔法などという非科学的な言葉はあまりにも子供ぽくて笑われてしまうからだ。
では、幼いころに信じていた魔法という存在を人々は本当に忘れてしまったのだろうか。
―――答えはNOだ。
幼いころから憧れた憧憬というのはそう簡単に消えるものじゃない。
その証拠に、
「万物を統べる堕天使ルシファーよ。今こそ封じられた我の力を開放せんとする。我が身に秘められた暗黒の力をもって、この身を飛翔させよ―――【フライ】!!」
…………。
…………。
「なにも起きないか。なら、次は―――」
「……何をしてるんだ、ユウジ?」
「うぉお!」
俺が自室で魔法の練習をしていたら、突然グランディール王国王子のクリスが話しかけてきた。
(だから、コイツラ、一体どこから湧いて出てくるんだ……)
いつもの事ながら、クリス達は気が付けば勝手に自室に現れる。
『いきなり現れるな』、と何度も注意しているのだが改善する気配がないため、もう諦めているのだが。
「なあ、ユウジは一体何してたんだ?」
「……うーん、まあ、あれだ……」
どうしよう!?
中二病丸出しで魔法の練習をしてたなんて、クリスに知られたらバカにされてしまう。
「もしかして、魔法の練習をしてたのか?」
「―――ッ!!」
ばれてらっしゃる!
図星をつかれ思わず動揺してしまったが、クリスは全く気にすることなく話を続ける。
「中々、良い詠唱だったぞ! だが、詠唱に魔力を込めないと意味がないと思うぞ」
「……あれ? お前、俺が魔法の練習をしてるとこ見て、笑わないのか?」
「? 何故だ? 魔法の練習をして笑う理由が別になかろう」
「……そんなもんか」
改めて異世界人との感覚の違いに俺は驚いた。
「しかし、ユウジが魔法に興味があったとはな……魔法を使う姿を見たことがないから、てっきり魔法に興味がないのかと思っていたぞ! 何か心変わりするようなことでもあったのか?」
「い、いや別に~。ただ、まあ、少し興味が出ただけで。別に、先日のキャンプで、お前達が使っている魔法を見て興味が湧いたなんて思ってないからな」
「……」
クリスがもの言いたげな目で見るが、その視線を俺は無視する。
先日のキャンプ。
原始的なキャンプ道具を用意した俺に対して、クリス達は魔法や魔導具を使った快適なキャンプを行っていた。
あれは実に羨ましかった。
しかし、クリス達の前で魔法を認めるということは、何か負けた気がするので、俺は取りあえず誤魔化そうとした。
「まあ、興味を持ってくれたのならそれでいい。なら都内を散歩してみるか? 色々な魔法や魔導具が見られると思うぞ。なにせグランディール王国は世界一の魔法大国なんだからな」
胸を張って威張るクリス。
よほど自分の国が好きなのが良く分かる。
「おう。案内頼むわ」
こうして、俺とクリスはグランディール王国の首都を散策することにした。
…………
……
…
俺とクリスは首都へと繰り出したのだが。
改めて街の中を見渡すと、ここはファンタジー世界が半端ない。
魔法使いが着るようなローブを着て、大勢の人達が箒に乗って空を飛んでいる。
この箒は飛行魔導具ということらしいが、扱いが難しく風魔法の適正が無い人には使えないらしい。
次に、三階建ての建物の外壁を補強している人達。
彼らは土魔法を自由自在に操り、壁をキレイに補強していた。
工事で汚れた道路を水魔法で綺麗に洗い流したりしている。
普通なら、重機や水道などの設備が必要なはずだが、彼らは詠唱するだけでそれらの作業をいとも簡単に行っている。
さらに、魔法を使っているのは大人だけではない。
五歳ぐらいの子供達が、道端の隅でお互いの魔法を見せあい遊んでいる。
日本の子供がスマフォの携帯ゲームを当たり前のように操作している感覚で、子供達は魔法を簡単に使って遊んでいた。
「……本当異様な光景だな……」
「そうか? 普通だろ」
『クリス王子! これを食べんしゃい!』
「あっ、ありがとうございます」
道行く人に声をかけられながら、クリスと一緒に街を歩く。
この我儘王子は愛くるしい外見からなのか、やけに国民の人達に慕われている。
今も近所のおばさん連中から飴玉をもらい、美味しそうに口の中に頬張っている。
通りを歩いていると、俺達はグランディール王国の住宅街エリアが密集している広場に来た。
周りを見渡せば中世ヨーロッパのような建造物がそこら中に広がっている。
一見、外観は古そうに見えるが、クリスの紹介を得て中を見学すると、便利な魔導具で快適な生活環境が保たれていた。
水道のような蛇口はないが、ツボの形をした魔導具からいつでも綺麗な水が湧き出る仕組みになっている。
家に備えられた空調や照明の魔導具は魔力を通せば、室内の温度調整や光の明るさを自由に調整することができる。
家から出た全ての排水は、地下の下水へと集約され、専用の浄化魔導具によって綺麗な水へと洗浄した後、河川へと放流されている。
電気やガスももいらない―――環境にやさしい正に究極のエコハウスである。
ある程度、街の中を回った俺達は、公園のベンチで休憩していた。
「クリスはどんな魔法が使えるんだ?」
「そうだな。セリスほどではないが、それなりに使えるぞ」
クリスは指を折りながら自分の魔法特性を数え始めた。
「私は……火、土、天の三属性だな」
「それはすごいのか?」
「自分で言うのもなんだが結構すごいと思うぞ。上位属性の天があるだけでも十分すぎるくらいだしな」
下位属性が二つ、あるいは上位属性が一つあれば、魔法使いとしては優秀な分類に入るそうだ。
クリスの魔法特性がとても優れているということが良く分かる。
「ちなみに、セリスの魔法特性は水、木、風、天、冥の五つだ。これは、わが国始まって以来の魔法特性になる」
「……あいつって、すごいやつなんだな」
普段、俺の前ではアホな行動ばかりするセリスだったが、その見方が少し変わった気がした。
「セリスは天才だからな。複合魔法もいくつか使えるし、そのうち、色々見せてもらうといい」
「わかった」
意外なところで、双子の優秀さぶりを知り、大変良い勉強になった。
「ところで、ユウジは魔法を使うことはできるのか?」
「……それなんだが、よくわからねえんだ」
さっきも自室で唱えていた俺の中二病魔法は全く反応することがなかった。
一応、女神の話によると、俺も魔法が使えるとは言っていたはずだが。
「ふーむ。ユウジから強大な魔力を感じるから、魔法が使えないということはないだろう。となると、あとは適正の問題だな」
そう言ってクリスは、無色透明の小さな宝石を俺に渡した。
「これは?」
「この宝石は握った者の魔法特性と魔力量を感知する特殊な魔導具だ。教会から支給された物だが、使ってみてくれ」
クリスに言われるまま、俺は宝石を握った。
すると、宝石が一色に光り輝き始めた。
「橙色だな。一色だけだから、適正は土属性だな。だが……すごいな。これだけ濃い色だと、相当な魔力量だぞ。ユウジは土魔法のスペシャリストになれるかもしれんな」
「ほうー」
自分では全くよくわからないが、クリスが言うのだから間違いはないのだろう。
「だとすれば、ユウジ。今から言う詠唱を唱えてみるがいい―――【土の神獣様。貫く土の切っ先を―――土針】」
「【土の神獣様。貫く土の切っ先を―――土針】」
クリスの詠唱が終わると同時に、真下の地面が突然針の形をして上に突き出した。
対して、俺の場合、詠唱が終わったにもかかわらず、地面に何の変化も見られない。
「……【土針という初歩魔法なのだが、うーむ、これが使えんとなると……」
「なんだよ。その可哀そうな人を見る目は! はっきり言え」
「ユウジには魔法を扱うセンスがない」
「――のぉおおおお!!」
薄々そうじゃないのかと思っていたことを、クリスに突き付けられ、俺は悲鳴を上げた。
(終わった。俺の憧れていた楽しい魔法生活が!)
その後、敗北感に打ちのめされてしまった俺をクリスが必死に励ますこととなった。




