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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第2章(後半):ヨルド公国
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第57話:感謝祭

 海竜(リバイアサン)との闘いから十日が過ぎた。

 傷も癒え体力も回復した僕は飛鳥、ミーア、美優、トッティと一緒に中央広場へと来ていた。


 今、中央広場では追悼式が行われている。

 ヨルド公国の大勢の国民が今回の騒動で亡くなった人々に黙祷を捧げていた。

 僕達もそれに倣って黙祷を捧げた。


 無数の魔物の襲撃、元ヨルド王国親衛隊の反乱、そして(ドラゴン)の襲撃により、死者は五十六名、重傷者は数えきれないほどの被害を受けていた。

 首都の景観も大きく損なわれ、至る所で家々の外壁が崩れ、戦闘の激しさを物語っている。


 だが、ヨルド公国の人達の瞳に絶望の色は見られなかった。

 俺達はもっとキツイ時代を耐えていたんだ。

 こんなもん屁でもねえと言わんばかりに、皆が復興に力を入れていた。


 さらに、帝国から派遣された帝国親衛隊の騎士達が復興に大きく尽力した。


「てめぇええら! 俺達が守る国民が困ってんだ! 全力で力を貸しやがれ!」

『『『うぉおおおお!!』』』


 獣人中心の第一師団は、相変わらずの高いテンションで瓦礫の撤去や物資の荷物運びを行う。


「お前達! 今こそ、魔法が万能であることを証明する機会だ。惜しまず、国民のため全力を尽くせ! そして、あのノウキン共より我らの方が優れているということを証明して見せるぞ!」

『『『サーイエッサー』』』


 人間中心の第二師団は、第一師団に対抗意識を持ちつつ、持ち前の魔法や魔導具を駆使して人命救助や運搬作業、仮設住宅の建設等、幅広く活躍していた。


「はーい。あんな暑苦しい人達は置いといて、私達は炊き出しの準備よ! 人数は少ないけど、上手く回していきましょう」

『『了解です』』』


 亜人中心の第三師団は、住居を失った人達に食料支援を行っていた。半数を本国の防衛のため本国へと帰還させたことにより、兵達の数は少ないが第三師団団長タイガーの的確な指示のもと効率よく作業が進んでいた。


 そのかいあって、ヨルド公国は順調に復興作業が進んでいた。

 途中だった感謝祭(シーフェス)も、明日行われることになった。


 (ドラゴン)がヨルド公国を襲撃した理由―――即ちコーネリアスの仕業だということを、ユリウスはヨルド公国に伝えていなかった。

 正直に伝えようとしたユリウスに、ベルセリウス皇帝が待ったをかけたのだ。


 そのユリウスは現在、表に出ることなく黙々と団長室で事務処理に追われていた。

 その隣には、


「……ワシ。もう頭が動かん……」

「いいから手を動かせ!」


 真っ白に燃え尽きた副団長ガイネルの姿もある。


 元ヨルド王国親衛隊達の反乱を防ぎ、夥しい数の魔物や(ドラゴン)、そして巨大津波から国を守った英雄として、二人の評価はさらに高まった。

 少しでも外に出た途端、復興作業を行っている民衆に囲まれてしまうため、二人は外に出ることを控えているのである。



 閑話休題。

 そんなこともあって、ヨルド公国は順調に復興を遂げていた。

 だが、僕には三つ気がかりなことがある。


 一つ目は、僕の親友、酒井(サカイ) 雄二(ユウジ)のことだ。

 雄二は僕が眠っている間に、グランディール王国へと帰還したそうだ。

 雄二からは美優が伝言を預かっていた。


『ワリイ! バカ共の子守が残っているから、俺はグランディール王国へ戻る。(ココ)の都合が良ければだが、一か月後に『クロイツ』という街で会わないか。気が向いたらでいい。楽しみにしている』


 と言ってこの国を後にしたそうだ。


『クロイツ』―――

 この街は、ザナレア大陸北部と南部の中間に位置する街であり、教会の庇護下に置かれた不干渉地帯である。この街を中心に、北部のベルセリウス帝国と南部の北を統べるサブネクト王国は国境線を引いている。

 北と南を結ぶ海路の貿易港であるヨルド公国に対して、陸路の貿易都市であるクロイツは、北部と南部の文化を吸収した独特な街だと聞いている。


 一か月後、そんな場所で、雄二が僕に会おうと言ってくれた。

 お互いそれぞれの立場があるため、確約はできないけど、正直僕はクロイツへ行って雄二と再会したいと思っている。


 二つ目は、海竜(リバイアサン)の背中で一人残ったティナの行方だ。

 ティナのことだから、恐らく無事であると信じている。

 しかし、あんな別れ方をされると、思わず死亡フラグだと思って不安になってしまう。

 一目でいいから、会ってあの時のお礼を言いたかった。


 三つ目は、ミーアの実の母親ルアーナのことだ。

 ルアーナは現在、領事館である宮殿の一室に監禁されている。

 監禁とは言ったが、宮殿内を自由に移動しても構わないという比較的優しい措置だった。


『ルアーナは精神操作を行われた可能性がある』と、メルディウスはヒチグから聞いた話を帝国に報告した。

 全ての事情を聞いた僕達は、ただルアーナの悲惨な境遇に同情することしかできなかった。

 そして、その場にはミーアもいた。

 メルディウスから全てを聞かされたミーアは、何やら思いつめた顔をしていた。

 そんなミーアを、飛鳥はただ見つめていた。


 ヒチグの話が真実だったということは、帝国騎士がコーネリアスの私室を捜索したことでより真実味が増した。

 ルアーナがミーアに宛てて書いた手紙が見つかったからだ。

 さらに、私室には今回の計画の全容が事細かに残っていた。まるで、自分こそが全ての主犯であると、僕達に言っているかのように。


 あと、コーネリアスの私室を捜索していたら、ルアーナ宛にコーネリアスから贈り物が置いてあった。

 イヤリングの形をしており、精神操作の魔法を無効化する魔導具だった。

 厳重に調べた結果、害を与える物ではないと判断され、ルアーナは現在このイヤリングを耳に装着している。

 ルアーナを不憫に思いコーネリアスの良心がそうさせたのか、その真意は誰もわからなかった。


 また、ミーアを決死の覚悟で救い大怪我を覆ったカイの証言によりヒチグの話の信憑性はさらに増した。

 彼はミーアが昔住んでいた屋敷の中で発見された。

 幸いないことに、身体も少しずつ回復しており、ミーアとも少しずつだが楽しそうに会話をしている様子が見えた。


 それからというもの、ミーアはちょくちょくルアーナの部屋をそっと覗くようになった。

 ルアーナもミーアに見られていることには気づいていたのだが、何を話していいのか分からない様子だった。


 そんな二人を見ていた飛鳥は

 バン―――と勢いよくルアーナの部屋を開け、こっそり覗いていたミーアを中へと入れた。

 そして、


「ルアーナさん! 明日の感謝祭(シーフェス)、一緒にまわるわよ! 当然、ミーアも一緒だからね!」

「「―――えぇえええ!!」」


 飛鳥は強制的に二人を祭りに行くよう促した。

 戸惑う二人だったが、飛鳥の勢いに負けた二人はただ従うだけだった。

 二人の戸惑う仕草はとてもそっくりで、飛鳥が少し悲しそうな顔をして見つめていたことだけが心に残った。


 そんなこともあって、追悼式の翌日。

 感謝祭(シーフェス)最終日。


 僕、美優、飛鳥、トッティ、ミーア、そしてルアーナの六人で感謝祭(シーフェス)を見てまわった。

 諸事情(・・・)により、僕、美優、飛鳥の三人は変装していた。


『いらっしゃい! 美味しい串カツはいかがかね!』

『お酒もあるよ! どうだい、一杯!』


 街の中は多くの人達で溢れ盛り上がっていた。

 悲しい出来事も、何とか笑いに変え前へと進もうとする人々の意思が伝わってくる。

 急ごしらえで用意された屋台はボロボロだけど、このお祭りムードの前では全く気にすることはなかった。


 僕、美優、トッティが前を歩き飛鳥、ミーア、ルアーナが後ろからついてくる。

 僕達の微妙な空気に気づいているのか、トッティが次から次へと屋台を冷やかしたり、道行く美女をナンパしたり、ミーアを揶揄ったりするなど、ムードメーカーとして活躍していた。


 お調子者のトッティのおかげで、緊張していたミーアとルアーナの間の空気が抜け、二人は時折、笑顔で笑いあったりしていた。

 そんな二人の姿を見て僕はホッとした。


 コーネリアスからもらった魔導具により、ルアーナがミーアを罵るということはもうなかった。

 少しずつ打ち解け合い、笑いあう二人の姿を見て母娘なんだと、僕は心底感じてしまった。

 だからこそ、


「……」


 そんな二人を優しく見守る飛鳥の表情がとても気になった。


 夕方、〝海竜の鐘“の鐘音とともに感謝祭(シーフェス)は終了した。

 海竜(リバイアサン)に襲われ、多くの被害が出たにも拘らず、人々は海竜(リバイアサン)に向かって祈祷している。

 祈祷を終えて、僕達は宮殿へと戻るときには


「楽しかったわね、ミーア」

「うん! 最高の一日だった!」

 手を握り、今日の出来事をとても楽しそうに話すミーアとルアーナの姿があった。



 食事を終えた後、荷物の整理をしていたときだった。

 コンコンとノック音が聞こえた。

 ドアを開けると、


「……志。話しがあるの」


 何かを決心し、真剣な面持ちで佇む飛鳥の姿があった。


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