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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第2章(後半):ヨルド公国
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SS4-3話:秘められた思い(第35.5話、36話)

ルアーナ視点のSS(サイドストーリー)です。

 ミーアに手紙を渡し終えた私はカイのいる屋敷へと戻りました。

 屋敷の広間に戻ると、複数の騎士達が出迎えました。

 私はいつも通りに彼らに本日の報告を行いました。


 開始早々に親衛隊隊長のヒチグから、『まだ、あの亜人を連れてこれんのか!』と、檄を飛ばされます。

 しかし、そんなことはもうどうでもいいです。

 ミーアに伝えたい言葉も伝えられましたし、あとはカイを無事この屋敷から逃がすだけなのだから。


「……本日、手紙を渡すことに成功しました。その中には、カイの生存のことを伝えています。あのバカな娘のことですから、カイが生きていると知ったら、こちらに戻ってくるはずです」

「そうか! それは良い考えだ! よくやった」


 わたしの返答にヒチグが満足した表情を浮かべます。

 この男、いや親衛隊達の前では、わたしはミーア―――亜人を蔑む演技をしなくてはいけません。

 あの時、カイとミーアを逃がした疑いが今も私にかかっているからです。


「だから言ったでしょう。カイを治療し生存させれば、後で必ず役に立つと」

「うむ。お主の言う通りじゃった。早く、奴の治療に取り掛かれ。ワシはこのことをカプリコーン様に報告する」


 ヒチグはそう言って足早々に広間を後にしました。


(大丈夫。あの子には今の状況を伝えているから、ここに来ることは決してない。後、三日……それまでの辛抱だ)


 そう決意しつつ、急いでカイのいる部屋へと移動し、カイの治療を行いました。


 …………

 ……

 …


 深夜。

 カイの治療を一通り終えたわたしは広間で遅めの食事をとっていました。

 広間ではヒチグや騎士達が物々しい表情で何やら打ち合わせをしていました。


 ここ最近屋敷を出入りしているオーラル王国の騎士達と何やら関係がありそうでしたが、ミーアとカイのことが第一と考えているわたしには、特に気にすることもしていませんでした。

 そんなふうに、わたしが広間で休憩していたときだった。


 ギギギとゆっくり広間の扉が開かれ、目を向けるとそこにはミーアが立っていました。


「……ミーア!?」 


(何でこんなところに! どうして! 一体何があったの!)


 突然の事態にわたしの頭の中は混乱しました。


 ミーアは震えながら周りを見渡し、


「……カイお兄ちゃんはどこですか?」


 と周囲の騎士達に尋ねました。


 ミーアの問いにはヒチグが答えました。

 わたしは突然ミーアが現れたこと、さらに別室で治療していたカイが騎士達に連れられて床に放り出されていた姿を見て、ただパニックになっていました。


 わたしは立ち尽くしたままヒチグとミーアの会話を聞いていると、


「……ただ、一つだけお願いがあります」

「なんだ?」

「パパ――ココロさん達に手を出さないでください。お願いします」


 ミーアが手紙を広げヒチグに向かって頭を下げました。

 わたしはミーアが広げた手紙の内容を読み、愕然としました。


『一人で以前住んでいた屋敷に来い。さもなければ、カイの命はない。一人で以前住んでいた屋敷に来い。さもなければ、カイの命はない』


(違う! わたしが書いた手紙と内容が全然違っている!)


 そのとき、わたしの中でパズルがカッチリと嵌りました。

 ミーアに手紙を渡すまで、わたしが手紙を管理していました。

 そして、コーネリアス様(・・・・・・・)を介してミーアに届けられたこと。


 このとき、わたしや親衛隊達に命令を与える黒仮面(カプリコーン)の正体が帝国貴族のコーネリアスだということに気づきました。


『亜人が何人間様に要求してんだ!』

『立場を考えろ!』

「ふん。この亜人が! 人間に―――」


(―――ッ! いけない!)


 亜人のミーアに要求されたことで、親衛隊達やヒチグが怒りの声を上げミーアを殴りかかりました。騎士の鍛えられた拳で、幼いミーアが殴られたら危ないと思ったわたしは、二人の間に入り、


「亜人の癖に、なに人様に要求なんかしてんのよ! この下等生物が!」


 ミーアの頬を叩きました。

 痛い。

 とても痛い!

 何度も自分の子供を叩くことがこんなにも痛いなんて。


 しかし、ここでわたしが手を抜けばヒチグ達はわたし以上にミーアに暴力を振るうでしょう。

 それだけは絶対に阻止しなければ!


 わたしはヒステリックを起こしたように、思ってもいなかった言葉をミーアに向けました。

 その言葉を聞き、ミーアの目元から涙が零れ落ちる。


(ごめんね! 本当にごめんね!)


 心の中で何度もミーアに謝りながら、それでもわたしは演技を続けました。

 ようやく、醜いわたしの姿を見て冷静になったヒチグ達から待ったの声がかかりました。

 ミーアに暴力が振りかからないことを祈り、わたしは広間を後にしました。


(ミーア、ごめんね)


 自室へと戻ったわたしは、ミーアとカイの無事だけをただただ祈り続けました。


 ……………

 ……

 …


 翌日、親衛隊達に起こされたわたしは、海竜の塔へ同行するよう命令が下されました。

 オーラル王国の騎士達や親衛隊達が集った物々しい数の人達。

 その中には、ミーアと黒仮面(カプリコーン)―――コーネリアスの姿がありました。


 あれだけ執拗にミーアを連れ戻せと命令していたコーネリアスのことです。

 ミーアはとんでもないことに巻き込まれていると思ったわたしは、何とか隙をついて彼女を逃がそうと近づきますが、その度に紅蓮色の髪の亜人の子に邪魔をされてしまいます。


 この亜人の子がミーアのことを大事に想っているのは道中、楽しそうに話す二人を見て感じましたが、時間がありません。

 何とか強引に近づこうとしましたが、結局、何もできないままわたしは海竜の塔の頂上に着いてしまいました。

 騎士達の厳重な包囲網の中では、祭壇の中央で座り続けているミーアを遠くから眺めることしかできません。

 何もできないまま、どんどん時間だけが過ぎていきました。


 何もできない自分。

 あまりの無力さに自分が嫌になりました。

 そんなとき、


『ゴーン』


 と、釣鐘の音が周囲に響き渡りました。

 そして、突如祭壇が光輝き、ミーアが苦しそうにしています。


 何か途轍もないことがミーアに起ころうとしている、そう思ったわたしはただ娘に向かって心配の声をかけることしかできませんでした。


 そんな無力な母親(わたし)と違って、彼女(・・)は違いました。


「アンタ達、ミーアに何してんのよ!」


 コーネリアスの屋敷で見たアスカさんでした。


 アスカさんは信じられない強さで、屈強な騎士達を相手に圧倒していました。

 まだ少女と呼ばれる女の子がたった一人でです。

 とても信じられません。

 あまりの光景に、わたしは暫く彼女の姿に目を奪われていました。

 彼女の必死な姿からは、愛する娘を守ろうと懸命に戦う母親の姿がそこにはありました。

 その光景を見て、わたしは自分の判断が間違っていなかったと再認識しました。


(ああ、この人の傍ならミーアは大丈夫だ。良かった。わたしは最後の最後で判断を間違えていなかった)


 わたしは、この場に来てくれた年下の少女に、心から深く感謝しました。


 ヒチグとの戦闘で劣勢だったアスカさんでしたが、氷結魔法を使って騎士達を全員氷漬けにしました。

 わたしは祭壇の近くに隠れていたため無事でした。


 自分自身すらも氷漬けにした彼女は、泣き叫ぶミーアのもとへ一歩一歩近づいていきます。

 あと少し、というタイミングでわたしはアスカさんの後方から近づく人物に気づきました。

 そして、その人物がアスカさんに何をしようとしているのか分かった瞬間、


(危ない!)


 わたしは彼女のもとへと走りました。

 その後のことは良く覚えていません。


 …………

 ……

 …


 わたしの生涯は色々なものに振り回され、蔑まされてきた人生でした。

 そして、実の子供を救うこともできず傷つけるだけの最低な母親だったと今でも思っています。

 だけど、最後に自分の子供のために何か一つしてあげることができました。


 それだけが唯一の救いです。

※補足

2章のプロローグは、ミーアではなくルアーナの話になります。


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