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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第2章(後半):ヨルド公国
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第55話:黒幕

 志達を海竜(リバイアサン)の背中に残して、空間魔法(ゲート)の魔導具を使った黒仮面(カプリコーン)は、気を失っている原を連れて海竜の塔へと緊急離脱していた。


 塔は海竜(リバイアサン)の【大魔息(ブレス)】により崩壊したが、塔の付近に設置されていた空間魔法(ゲート)の魔導具は無事だった。

 空間魔法(ゲート)から現れた黒仮面(カプリコーン)は、原を連れそのまま姿をくらまそうとしていたとき。


「やはり、ここでしたか」

「―――!!」


 黒仮面(カプリコーン)の背中から声をかけた人物がいた。

 帝国騎士団副団長補佐のメルディウス・シュバルツだった。

 彼女は剣を黒仮面(カプリコーン)の首元にあてたまま話を続ける。


「……お会いした時からおかしいと思っていたのです」

「……」


 メルディウスが今まで()に対しておかしいと思っていたことを次々と話していく。


「どうして、【魔封じのドレス】を見たことがない貴方が、解呪にマナギの肝が必要だとすぐにわかっていたのか」

「……」

「どうして、ココロ殿がたまたま(・・・・)貴方の私室で見た隠し扉の解除方法が、ミーアを閉じ込めていた地下室と同じ仕組みになっていたのか」

「……」

「どうして、【魔封じのドレス】の魔法を使った人物の特徴を知っているのか、報告書にはビーグルとしか書いていません。オカマ(・・・)など私は一言も書いた覚えがありません」

「……」

「―――ッ! いい加減、何か言ったらどうなんですか! 兄上(・・)!」


 メルディウスが張り裂けんばかりの感情をこめて、黒仮面(カプリコーン)に叫びつける。

 すると、


ブハハハ(・・・・)! これは驚いた。剣ばかりにしか頭のないお前が私の正体にたどり着くとはな」


 特徴ある笑い声を発し、カプリコーンは仮面を外した。

 そこから現れた素顔は、メルディウスの兄にしてベルセリウス魔法研究所所長のコーネリアス・シュバルツだった。


「な、何故ですか! 何故、帝国を裏切るような真似を。どうして、こんなことを!」

「うん? こんなこととは何かな。私がオーラル王国と手を組み、(ドラゴン)を操ろうしたことかね? それとも、私が秘密裏に帝国から匿っていた元ヨルド王国親衛隊達を自分の手駒として使っていたことかね? メルよ。漠然すぎてわからんぞ」

「全部です! 兄上」

「ふむ。なら一つ聞こう、メルよ。お前には叶えたい願いがあるか?」

「急に何を―――」

「私にはある。どうしても叶えたい野望が二つある。まず一つ目は、私が制作した魔導具が世界を変えるという願いだ。そのためには、もはやベルセリウス帝国だけでは私は満足できなくなったのだよ」


 喜々とした様子で自分の夢を語ろうとするコーネリアスの話をメルディウスが黙ったまま聞く。


「北大陸だけではなく、南大陸のグランディール王国の魔法技術やアグリ王国の生産効率が高い農業技術、サブネクト王国の軍事技術に、多くの芸術家を配するルネ王国、そして、それらを束ねるオーラル王国の魔法技術を見て習得したいと思ったのだ。だから、オーラル王国に協力した。奴らは帝国との開戦を希望していたから、すぐさま協力してくれたよ」

「だからといって、ヨルド公国に(ドラゴン)を差し向けるなど、絶対に許されるものではありません」

「それについては、仕方がないよ。これがクライアントが要求してきたことだったからね。私としても、(ドラゴン)の力をあんな開戦の道具として使うなど不本意極まりなかったのだがね……まあ、やると決めた以上は徹底してやるさ」

「……いつからオーラル王国と手を結んだのですか?」

「手を結んだのは大分前だが、(ドラゴン)の研究はずっと前から行っていたよ。苦労したよ。教会が秘密裏に消去していた『遺産(アーティファクト)』の文献を探し解き明かすのにかなりの時間を要したよ」

「『遺産(アーティファクト)』って、古の時代にあったとされる伝説の―――」


 遺産(アーティファクト)という単語に、メルディウスが大きく反応した。


遺産(アーティファクト)』―――

 七体の神獣により守護されているこの世界。

 神獣の核である宝珠がまだ半分になる前の時代―――〝失われた時代“と呼ぶ。

 その時代は、今と比べ物にならないくらいに魔法技術が発展していた。

 その時代に作られたとされる魔導具や魔法を『遺産(アーティファクト)』と呼んでいる。

 あまりにも強大な力を有しているため、教会が管理することが定められていた。


「ああ。だがその解読によって、『竜の巫女』の存在を知り、さらには強化することに成功したよ。まあ、いくつかのトラブルが発生したりして、随分焦ったときもあったがね」


 文献を調べたコーネリアスは、ヨルド王国の王族の血筋こそが『竜の巫女』の正体だと知った。

 そのことに気づいたとき、既にヨルド王国の王族達は全て処刑されていた。

 愕然としたコーネリアスだったが、とある人物(・・・・・)の情報によりルアーナの存在を知ったコーネリアスは親衛隊達ごと、匿うようにしたのだ。


 ミーアが十分成長したタイミングを見計らい、さらに感謝祭(シーフェス)の開催日がわかったコーネリアスは、いよいよ温めていた計画を実行した。

 本計画のために、前から準備していた亜人化の薬をミーアに飲ませて亜人へと変えたのだ。

 この亜人化の薬のレシピも、とある人物(・・・・・)に教えてもらっていた。

『竜の巫女』は亜人となることで能力を最大限に発揮できる、と聞かされていたからだ。


 無事、ミーアを亜人にすることができたが、ルアーナとカイの手により、『竜の巫女』が行方不明になるという予想外の出来事が起こった。


 必死に捜索した結果、アシルドのアジトにミーアがいることをコーネリアスは突き止めたが、そのときには志達が屋敷に向かうことが決定されていた。

 あまり自分が目立つ行動を取れば、勘のいいユリウスやガイネルに正体が気づかれる恐れがあったため迂闊な行動をとることができなかった。


 だが、帝国の杜撰な調査ではあの地下室の存在に気づかない可能性もあった。

 そこで、コーネリアスは、急遽自分の私室を改造して、志達に隠し階段の仕掛けに気づくよう誘導した。


 結果、帝国がミーアを保護することに成功した。

 あとは自分がミーアを管理下に置けば計画通りとコーネリアスが考えていたところ、思わぬ方向へと話が進んだ。


 まさか帝国の重要人物となっている志達がミーアを自分達の子供にするというあまりに斜め上の予想をいかれてしまった。コーネリアスはありとあらゆる手を尽くしたのだが、結局ミーアは志達の養子となってしまった。


 困ったコーネリアスは、実の母親であるルアーナを使って、志達とミーアの仲を引き裂こうと計画した。

 だが、ここでも思いがけない邪魔が入っていた。

 まさか、知り合い(・・・・)が得意とする精神操作の反転魔法が自分の知らない所でルアーナや親衛隊達に掛けられていたのだった。

 ルアーナと直接話して、ようやくその事実に気づいたコーネリアスは、ルアーナを使った奪還を諦め次の手を考えた。


 牢屋に捕らえたルアーナから最後にミーアに手紙を渡すという提案を聞いたコーネリアスは、報告にあったミーアと親交が深いカイという騎士を利用して、ミーアを志達から引き離す算段を思いついた。

 そのために、ルアーナの手紙を渡すふりをして、自分が書いた手紙をミーアに読ませるようにしたのだ。手紙を読んだミーアは、想定通りに屋敷を抜け出し、見事コーネリアスの手のもとへと戻ってきたのだ。



「今回の計画の一番の想定外は、やはりあの異世界人達の存在だったよ。アスカ殿が単身で海竜の塔にミーア君を救いに来たり、ココロ殿やミユ殿もてっきり帝国騎士団と一緒に来ると思っていたのだが、こちらが想定していた時間より早く塔に来ようとしていたので、一応保険をかけといて正解だったよ」


 志、美優、メルディウス、トッティが空間魔法(ゲート)を使って海竜の塔に向かったにも拘らず、時間が遅れていたのはコーネリアスの仕業だった。


 自分の分身である『遠隔魔導具ドールくん三号』―――美優やメルディウスコーネリアスの部屋で見た遠隔操作で動く魔導具を更に改良した人形―――接続範囲が更に広域となったこの魔導具を使って、コーネリアスは帝国領事館にいながら自分のアリバイを確保しつつ、裏では人形を使ってベルセリウス帝国とオーラル王国の間を暗躍していた。


海竜(リバイアサン)と同調した『竜の巫女』の制御を強制解除させたり、強化(・・)した光の勇者を撃退するなど……やはり、あの子達はとても面白いよ」


 飛鳥とミーアの絆、美優が志の炎に合わせて放った咄嗟の合体魔法、そして志の出鱈目な強さを目にしたコーネリアスだが、彼は志達のことを憎いとは思っていなかった。むしろ、想定外のことを次々とやってのける彼らは、コーネリアスにとって好奇心を大きく擽らせる貴重な人物だったのだ。


「……もう一つの野望とは?」


 今までの話を聞いていたメルディウスの表情はとても暗かった。

 もう何を言っても自分の兄は考えを変えない、ということを悟ってしまったからだ。

 だから、せめて兄の考えを全て知らなければいけないと決め、メルディウスはコーネリアスに尋ねた。


「簡単だよ。私は―――父を超えたかったのだよ。あの剣聖にどうしても戦いを挑んでみたかった」

「―――兄上」

「やはり、私の中にも帝国の血が流れているようだ。強者を倒し上を目指すという血がね。だから、最強である剣聖に自分の研究成果を使って挑んでみたのだよ……まあ、結果はこちらの完敗だったがね」


 小さい頃、剣聖の強さに憧れたコーネリアスはメルディウスと共に己の剣を磨いていた。

 しかし、剣を磨けば磨くほど、その壁があまりにも大きいものだとコーネリアスは悟った。

 そして、このまま普通に剣だけを鍛錬しているだけでは、あの高みにはいけない、そう思ったコーネリアスは前から興味があった魔導具開発へと道を進んでいったのだった。


「さて、話はこれだけでいいかな。そろそろ私も借りていた勇者をオーラル王国へ返品しないといけないのだが……」

「通すと思いますか! 私が」

「……まあ、無理だな。だから―――ヴィルゴ。後は任せた」

「了解~」

「―――!!」


 突然、宙に現れたビーグルが無詠唱でメルディスに向けて炎の魔法を放った。

 火の玉がメルディウスに当たる直前、メルディウスは咄嗟にバックステップで回避する。


 コーネリアスを逃がさないようメルディウスが追いかけようとすると、その間にビーグルが割り込んだ。


「邪魔をしないでください! 今は貴方に構っている暇はないのです」

「まあ、メルちゃんが怒る気持ちはもっともだと思うけど……これがアタシの仕事なのよねぇ~」


 目の前のビーグルを躱し、後方で背中を見せ逃げるコーネリアスを追おうとするメルディウス。

 だが、巧みに戦うビーグルを前に、コーネリアスとのもとへ向かうことができない。

 メルディウスとコーネリアスの距離はドンドン遠ざかっていく。

 焦燥に駆られたメルディウスは、


「そこを退け!」

「―――なっ!」


 ビーグルの一瞬の隙をつき、全魔力を空気中に開放した。

 メルディウスの魔力は強風となって、ビーグルを遠くへと吹き飛ばした。


 メルディウスにはどうしても許せないことがあった。

 ルアーナやヒチグの精神を自分の都合の良いように操り、その人達の人生を弄んだこと。

 そして、ヒチグに魔物となる薬を与えたこと。

 このことが、メルディウスの中で絶対に許すことができない事実だった。


「兄上!」


 ビーグルを吹き飛ばし、コーネリアスを追いかけるメルディウス。

 だが、その先には、巨大な火鳥がコーネリアスと原を乗せて空へと飛翔しようとしていた。

 コーネリアスはメルディウスのほうを振り返ると、


「じゃあな、メルディウス。父によろしく伝えてくれ」


 そう言い残し空へと飛翔していった。

 遠ざかっていくコーネリアス達。

 さらに気が付けばビーグルの気配も消えていて、この場にはメルディウスただ一人が残されていた。


「あ、兄上ぇえええ!!!」


 必死に空へと叫び続けるメルディウスの言葉に誰も答える者はいなかった。


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