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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第2章(後半):ヨルド公国
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第54話:帝国騎士団の実力

「し、師匠!」

「うむ。遅くなってすまんかったのう。今、周りの氷を砕くから待っとれ」


 そう言って志の周りの氷を素手で砕くガイネル。

 その様子をボーッと眺めていた志はガイネルに尋ねた。


「師匠どうしてここに? それに津波は?」

「そのことなら心配いらん。アイツが全てを凍らせた(・・・・・・・・)からのう」

「こ、凍らせた……そんな馬鹿な」


 どうすればあんな巨大津波を凍らせることができるのか、志は全く想像することができなかった。


「まあ、海竜(リバイアサン)はワシらに任せて、お主は少し休むが良い」

「あっ―――」


 氷から解放され自由になった志の身体を、ガイネルが背中におんぶする。

 冷たい氷に体温を奪われ、限界以上の力を出し尽くした志は、もはや立つこともできない状態だった。


「……よう頑張ったのう」


 ガイネルは志達の奮闘を全て見ていたわけではない。

 しかし、志が死力を尽くし巨大津波から皆を守ろうとしたのだとガイネルは察知した。

 優しく志を背負い、ガイネルはそのまま上空にジャンプした。

 天高くまで飛翔するガイネルの跳躍力に驚く志であったが、真下の異様な光景を見て思わず言葉を失った。


 ありとあらゆる物が全て凍り付いていた。

 巨大津波、巨大船、魔物の軍勢、そして、海竜(リバイアサン)が、とある人物を中心に凍り付いていた。


「剣技――凍牙絶氷衝(トウガゼツエイショウ)……奴の剣技の一つじゃ。そして、奴が皇帝陛下から授かった〝魔剣カラミティ“の力だ」


 とある人物―――その人は帝国騎士団団長にして〝剣聖“と評される男。

 ユリウス・シュバルツだった。

 そして、ユリウスの真下の地面に刺さってある黒色の剣。

 恐らく、あの剣が魔剣カラミティだと志は思った。


 ユリウスは真上にいるガイネルと目を合わせた後、


「これより海竜(リバイアサン)の討伐を行う。奴の(コア)を狙い続けろ!」

『『『おぉおおお!!』』』


 先ほどまでヨルド公国で天竜(ヘブズニール)や元ヨルド王国親衛隊達と戦闘していた帝国騎士達全員がこの場に駆けつけていた。彼らはユリウスの号令を受け、凍り付く海竜(リバイアサン)のもとへと一斉に駆け出した。

 さらに、彼らの他に、この場に駆けつけた帝国騎士達がいた。


「ガハハ! 第一師団! ユリウス様とガイネル様の目の前だ! 存分に俺達の力をお見せするぞ!」

『『『うぉおおおお!!』』』


 重装に身を包んだ獣人達が一斉に声を上げて、海竜(リバイアサン)に攻撃を仕掛ける。

 その集団を引き連れている帝国親衛隊第一師団団長―――狼の獣人ウルフが巨大で頑丈な海竜(リバイアサン)の表皮を爪で引き裂く。

 海竜(リバイアサン)の表皮は、スライサーのように簡単に削られ、海竜(リバイアサン)がうめき声を上げる。


「ガハハ! もっと鳴けや、てめぇえ! お前ら、全力でぶっ殺せ!」

『『『うぉおおおお!!』』』


 ウルフの声を受けて、周りの獣人達の士気はさらに上がる。

 そんな第一師団を見ながら、


「お前達! あんなノウキンのような野蛮な振舞いを我ら第二師団は行ってはいけない。我らはあくまで優雅に、美しく我が祖国の敵を滅ぼすのだ―――よいな、皆の者!」

『『『サーイエッサー』』』


 第一師団の荒々しさとは対して、第二師団はきっちりとした佇まいで隊列を整えている。

 こちらは、第一師団とは異なり魔法使いのローブを着た人間が多くいた。

 その前方で、部下に向かって指示を出す帝国親衛隊第二師団団長―――帝国貴族のマイティ・ダッツが皆に向かって呼びかける。


「だが、あの野蛮な奴らに我らの手柄を取られるのは腹立たしい。なので諸君! 意地でも奴らより先に海竜(リバイアサン)の核となる部分を破壊せよ!」

『『『サーイエッサー』』』


 軍隊のように整った規律で、各員が詠唱を唱える。

 そして、夥しいほどの攻撃魔法が海竜(リバイアサン)に直撃する。

 一人一人の魔力量も高く、魔法が海竜(リバイアサン)に直撃するたびに、海竜(リバイアサン)が悲鳴を上げる。


 ベルセリウス帝国の第一師団と第二師団が海竜(リバイアサン)に攻撃を仕掛けている傍ら。


「私達の任務は、この上で凍っている同胞達とグランディール王国の人達の救出よ。いいわね!?」

『『了解です』』』


 虎柄のビキニの上に、黒のロングコートを着た女性。

 全く持って戦場には似つかわしくないセクシーな出で立ちをしている。

 帝国親衛隊第三師団団長―――虎族の亜人タイガーが配下の者達に声をかける。

 第三師団の人達は、亜人で構成されており、軽装やローブといった動きやすい恰好に身を包んでいる。

 タイガーの命令を受けた亜人達は、すぐさま凍り付いた巨大津波を垂直に登り始めた。

 彼らが向かう先―――巨大津波の頂上には、凍ったまま動かない四隻の巨大船がある。


 驚くべきことに、彼らは100m(メートル)ある高さの氷の柱を、手も使わず二本足でスタスタと駆け上がっていくのだ。

 あっと言う間に頂上へと到着した彼らは、すぐさま凍り付いた船内へと入り救出活動を行っていた。


「す、スゴイ」


 躍進する帝国騎士達の姿を上空から眺めていた志が思わず呟いた。


「なあ、後はワシらに任せて、小僧達は少し休んでおれ」


 自信満々に話すガイネル。

 ガイネルは美優達がいるグランディール王国の巨大船のもとへと飛んで行った。

 そこには、志の無事な姿を見てホッとし涙目になっている美優と雄二がいた。

 ガイネルは二人に志を預けた後、戦場へと飛んで行った。


 …………

 ……

 …


 その後のことは、記憶にない。

 力を使い果たした僕は三日間、眠りについたままだったからだ。

 起きた直後、つきっきりで看病していた美優にその後の状況を簡単に聞かされた。


 結論から言うと、帝国騎士達の活躍により理性を取り戻した海竜(リバイアサン)は海へと戻っていったそうだ。巨大津波の被害も少なく済み、全てはユリウスの周到な準備のおかげだった。


 ユリウスはオーラル王国の不穏な空気を前々から察知していて、皇帝陛下に〝魔剣カラミティ“の使用許可と皇帝直属の親衛隊達をヨルド公国に集結させるよう手配していたのだ。


 残念ながら、当日までに親衛隊第一、第二、第三師団はヨルド公国に集結できなかった。

 天竜(ヘブズニール)が爆発した直後に、彼らはヨルド公国に到着したのだった。


 彼らの活躍により、オーラル王国や元ヨルド王国親衛隊の騎士達は次々に粛清されていった。

 その後、海竜(リバイアサン)討伐のため、海へと向かおうとしたところ、突如巨大津波が出現したそうだ。


 ユリウスとガイネルは急ぎ先へと先行し、僕達がいた海上の防衛線までやって来た。

 そこで、津波に呑みこまれてようとしている戦艦達を見て、ユリウスは〝魔剣カラミティ“を使った水の剣技―――凍牙絶氷衝(トウガゼツエイショウ)で巨大津波を凍らせたのだ。


 その後、第一師団、第二師団の活躍により、海竜(リバイアサン)の核が露わになったところを、ガイネルの拳が炸裂した。

 海竜(リバイアサン)の咆哮が鳴り響いたが、やがて海竜(リバイアサン)の瞳が赤から水色へと変わり、海竜(リバイアサン)の暴走は収まった。

 海竜(リバイアサン)は凍った海を解氷した後、大勢の魔物を引き連れて海底へと姿を消していったそうだ。


 ちなみに、あの海上で戦っていた人達は全員無事だった。

 多少の怪我や魔力欠乏による衰弱などはあったが、命を落とした者は誰もいなかった。



「ガイネルさんが言ってました。『お前達があそこで踏ん張っておらんかったら、間違いなくお前達は全滅しておった』って」

「そっか……でも、スゴイな。あの人達は」


 美優から全ての話を聞いて、思わずあの二人のチートぶりに呆然としてしまう。

 自分はただ与えられただけの力なのに、彼らは自らを鍛え上げたことで、あんなチートと呼べそうな能力を振るっているのだ。しかも、彼らはその力に奢ることは決してしない。

 ……本当にカッコいい大人だと思う。


 ちなみに、美優の姿はメイド服から元のローブ姿に戻っていた。

 僕が寝ている間に【魔封じのドレス】が解除されたらしい。

 ……もう少しあの姿を見ていたかったけど。可愛かったな。


 そんなことを、ぼんやりと考えていたときだった。

 コンコン――とドアがノックされた。

 美優が対応すると、室内にユリウスとメルディウスが入ってきた。


「あっ、ユリウスさん! このたびは―――」


 助けてくれた恩人に一言礼が言いたくて、すぐさまベッドから降りようとしたところ。


「そのままでよい。それより身体は無事か?」


 ユリウスが制止して、僕の体調を尋ねる。


「はい。おかげさまで。本当に、助けていただいてありがとうございました」

「礼には及ばない。今回の件については、むしろ我々いや私が全て悪いのだ。本当にすまなかった」

「ココロ殿、ミユ殿。本当にすみませんでした!」

「えっ!」


 ユリウスが僕に向かって頭を下げたのだ。さらに、メルディウスも一緒に頭を下げた。

 謝られる理由がさっぱりわからない。

 むしろ、間一髪のところを救ってもらったユリウスにこちらが頭を下げるべきだと思っていたら。


「―――此度の件は全て我が愚息コーネリアス(・・・・・・)によるものだからだ」


 思いがけない言葉に、僕の思考が停止した。


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