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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第2章(後半):ヨルド公国
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第52話:脱出

「ご、剛田、貴様、よくも、僕をこんな目に!」

「――何で、先生が……」


 膝をつき原は志を睨みあげる。

 志と美優は突然現れた自分達の担任教師の出現に困惑の表情を浮かべた。

 どうして先生が自分の素顔を隠して自分達と戦っていたのか。


「フン、見てわからないのか。僕がオーラル王国に現れた光の勇者だからだ」

「そ、そんな!」


 海竜の塔での戦闘や、黒仮面(カプリコーン)の計画にしてもそうだが、原が何のためらいもなく自分達を殺そうとしていた事実に、志はひどく狼狽えていた。


「なんだ! その目は。先生だからお前達生徒を傷つけないとでも勘違いしていたのか……ふざけるな! お前らのそんな都合、僕達、大人が知るか!」


 苛立つ原はさらに話を続ける。


「お前達、子供はいつもそうだ。根拠もない理想ばかり口にするだけで、何の責任も果たそうとしないクズだ! 守られることを当たり前だと思い、大人に向かってなめ腐った態度ばかりとる! そんなお前達が僕は大嫌いだったんだよ!」


 原の言葉に志と美優は何も返すことができなかった。

 そんなつもりはないと言いたいが、原の言う通りどこかそんな気持ちがあったんじゃないかと、志達は考えてしまったからだ。


 志、美優、原の三人がその場を動けないまま見合っていると、


『ウォオオオオーー!!』


 突如、海竜(リバイアサン)の凄まじい咆哮が周囲に響き渡った。

 先ほどの咆哮に比べ、今度の咆哮はさらに激しさを増していた。

 同時に、足場がグラグラと大きく揺れ始めた。


「お前の仕業か!?」


 志が原の近くに来ていた黒仮面(カプリコーン)へと尋ねた。

 すると、黒仮面(カプリコーン)は冷静に情況を分析し、予想外の回答を返した。


「いや、私ではない……どうやら、海竜(リバイアサン)が怒りのあまり暴走を始めた……もうコイツは止まらん」

「なんだって!」

「―――ッ志くん! 向こうから、大量の魔物がこちらに近づいてきます!」


 美優が指さした方向―――そこには大量の魔物の集団がこちらに向かって来ていた。


「ふむ、どうやら海竜(リバイアサン)が私達を敵と完全に認識したみたいだな」

「お前のせいだろ! どうするんだ!?」

「いやいや、こうなったのも、君達が無理矢理、『竜の巫女』を氷漬けにして海竜(リバイアサン)との接続を強引に絶ったせいでもあるのだよ」

「そんな!」


 こうして話している間にも魔物達は、どんどん志達のほうに近づいてくる。


「……ひとまず、私達はここで撤退させてもらう―――それっ!」

「ま、待て!」


 黒仮面がポーチからボールを足元へと投げた。

 途端、白煙が周囲に広がり黒仮面(カプリコーン)と原の姿が消えた。

 すぐさま、志が大剣で煙を振り払うと、既に二人の姿はどこにもなかった。


 後に残ったのは志と美優、氷漬けのミーアと飛鳥、それに倒れているルアーナの五人だった。


「クソッ!」

「とにかく私達も脱出しましょう! 志くんはルアーナさんを、私は飛鳥さん達を背負います」

「わかった」


 志はルアーナを背中へと庇った。

 美優は神具で創成した蔦を使って、氷漬けの二人を背中に背負う。

 そのため、美優の両手は塞がってしまったため、神具を持って戦うことができない。


「志くん」

「わかってる、僕がカバーする」


 迫りくる無数の魔物達を後にして、志と美優の脱出が始まった。


 …………

 ……

 …


「うぉおおお!」


 美優が先頭を走り、志がその後ろで襲い掛かる魔物達を蹴散らす。

 二人が向かう先は、トッティがいるスペースシップ―――つまり、下に向かって進んでいた。


 鮫型の魔物『シャークダーツ』(危険度Cランク)の群れが、志に何度も襲い掛かる。

 上っていたときは雑魚のように蹴散らしていた志だったが、原との戦闘で大量のマナを失い、ルアーナを片手で抱えた状態では、あまりに分が悪かった。


 さらに、


「美優! クソッ! 【紅蓮一閃】」


 先に進む美優の前に突如現れた巨大亀型の魔物『アイアンタートル』(危険度Dランク)へ紅い炎を放ち迎撃する。


「あ、ありがとうございます」


 戦闘に参加できない美優が、志に謝りつつ、とにかく先へと進む。

 先ほどから、下っている先でも、魔物が突如空間から次々と現れるようになったのだ。

 先行く美優を守りながら、懸命に戦う志だったが多勢に無勢。

 どんどん周囲が魔物の群れで狭まれていき、ついには無数の魔物が美優達を取り囲み一歩も動けない状況に陥った。


「―――美優、危ない!」

「えっ! 間に合って!」


 鮫型の魔物『シャークダーツ』が美優の後ろ―――氷漬けのミーアと飛鳥を狙う。

 それに気づいた美優が、くるりと回転し、自らの身体を盾にして二人を庇おうとする。


『シャークダーツ』の鋭い牙が美優へと向かったそのときだった。


 志達の周りに一筋の()がそよいだ。

 瞬間、『シャークダーツ』の身体が粉々に引き裂かれた。


「えっ!」

「なっ! どうして、こんなところに!?」


 驚く二人を無視して、()は次々と周辺の魔物達を蹴散らしていく。


「てめぇら、オレの友達(ダチ)に手を出してんじゃねええええ!」


 風の正体を二人は良く知っていた。

 紅い紅蓮のような髪にヒョッコリと出ている狼の耳。

 狼亜人のティナだった。


 ティナは志達を取り囲んだ魔物達をあっと言う間に殲滅し終えたあと、


「おう! 兄ちゃん。無事か?」

「あ、ああ―――って、何で君が、こんなところに?」


 ティナが軽い口調で志に喋りかけて来た。

 志は正直、目の前の少女にどう話していいのか分からなかった。


 志にとって、ティナという少女は、自分が彼女の兄達を殺し、そして互いの命を懸け戦った相手という何とも複雑な関係だった。

 どう接していいか分からず、志が戸惑っていると。


「とにかく事情はあとあと。今は早くこの場から離れたほうがいいんだろう!?」

「あ、ああ!」

「わかった。なら、兄ちゃん達の護衛はオレが務めるから、早く先に行け!」

「わかりました」


 色々聞きたいことはたくさんあるのだが、今はこの場を離れることが先決だと考え、美優と志はそのままトッティがいるスペースシップへと向かう。


「邪魔だ! どけぇええ!」


 志達に近づく魔物達をティナの鋭い爪が引き裂く。

 ティナに守られながら、志達はスペースシップへと急ぐ。

 そして、


「ああ、良かった。無事だったんだね」


 ティナの獅子奮闘の活躍により、どうにかスペースシップのいるところまで辿りつくことができた。スペースシップの前で、志達の後方を追いかける魔物を銃で牽制するトッティ。

 彼は志達が戻ってくるまで、ずっとこの場所で待機していていた。


「さあ、急いで船に乗り込んで!」


 氷漬けになったミーアと飛鳥の姿に一瞬驚いた表情を見せたトッティだったが、すぐに表情を隠して志達に乗船を促す。

 その間、スペースシップに魔物が攻撃しないようティナが一人で魔物を蹴散らしていた。


「ティナ! 君も―――」

「駄目だ! ここを離れたら魔物達がそのまま兄ちゃん達のところまで来ちまう」

「大丈夫だよ! この船には隠密(ステルス)魔法が―――」

「ココロ。すまない。敵に見られた状態だと、その魔法は使えないんだ」

「そんな!」


 最悪の事態がトッティに告げられ、暗雲が志達の周りに立ち込める。


「オレは大丈夫だから! 先に行ってくれ」

「でも―――」

「言ったろ!? 亜人は約束を守るって。特にオレの場合は半端じゃないぜ」


 安心しろと言わんばかりに、ティナは不敵な笑みを浮かべ志を見る。

 その表情を見て、


「絶対だよ! 必ず、また会えるよね」

「あったぼうよ! 兄ちゃんとはまた再戦するつもりだし、ミーアとは折角友達になれたのに、まだ全然遊んでないしな~」


 志はティナを残して出航を決めた。


「……いいのかい?」

「ティナは強い人です……彼女の力を信じます」

「わかった―――それでは出航だ」


 スペースシップがティナを残して出航した。


 …………

 ……

 …


 去りゆく船を見届けたティナは、


「さーて、守りながらの戦いってのはやっぱ窮屈だったからな」


 戦闘中にも拘らず、軽く体を伸ばす。

 そして、


「やっぱ、こうでなくっちゃな! 戦は!」


 獰猛な笑みを浮かべ一人無数の魔物群れの中に突っ込んでいった。


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