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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第2章(後半):ヨルド公国
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第51話:怒り

 言葉にならない絶叫が周囲に響き渡った後、志と美優はただその場で呆然と立ち尽くしていた。

 それほどまでに、二人にとって飛鳥とミーアの存在は大きなものだった。

 自分の半身が無くなったかのように、ポッカリと心に大きな穴が空いたような感覚が志を包み込む。

 そんな志の耳に


「なんということだ! 竜の巫女とのリンクが完全に遮断されている! これでは、海竜(リバイアサン)の制御が……」


 慌てて何やら独り言を呟く黒仮面(カプリコーン)の声が聞こえた。


 その声を志が聞いたとき、彼の中でガチリと()が開いた。


(誰だ。二人をこんな目に合わせたのは?)

 ―――『アイツだ!』


(なぜ、あんなに互いを大事に思っていた母娘がこんな目に合わなければならない?)

 ―――『アイツだ! だから……』


((―――つまり、アイツは!?))

 ―――『『殺すべき敵だ!』』


 志の中で何か(・・)と同調した。 


「オマエェエエエ!!」


 志の髪が白色に染まり、瞳が禍々しく紅く光り出した。

 志は無意識の内に、【神気開放(シンキカイホウ)】を発動した。


「こ、志くん!?」


 その姿を見て美優が驚いた。

 志の【神気開放(シンキカイホウ)】の姿を、美優は一度だけ目撃したことがあった。

 アシルドのアジトで、志に助けられたときだった。

 だが。


(あのときと違う―――変な模様が顔に! 尻尾と翼も生えてる!)


 いつもの【神気開放(シンキカイホウ)】の志の姿と明らかに異なっていた。

 顔には幾何学的な模様が浮かび、身体には白い炎の尻尾と四枚翼の翼が生えていた。

 殺気だった瞳に、理性を忘れ天に向かって叫ぶ今の志の姿を見れば誰もがこう言わざるを得ないだろう。

 ―――魔物(モンスター)と。


「―――お、落ち着いて! 志くん!」


 飛鳥とミーアを目の前で失った悲しみに加え、志の変わり果てた姿を見て、美優の心の中にさらなる不安がよぎった。


「なっ! 何だ。お前! その姿は―――まさか、お前も『光の勇者』と同じ【神気開放(シンキカイホウ)】が使えるのか!?」

「コロス!!」


 鬼のような形相で志が黒仮面(カプリコーン)に凄まじい速度で突っ込んでくる。

 咄嗟に迎撃しようと刀を構える黒仮面(カプリコーン)だが、


「なっ! き、消えた……ぐわっ!」


 突如、真横から凄まじい速度で振り払われた大剣にぶつかり、黒仮面(カプリコーン)の身体が大きく吹き飛ばされた。


「コrオjl!!!」


 吹き飛ばされた黒仮面(カプリコーン)を、志がそのまま追従する。


(グッ―――上か!)


 志は黒仮面(カプリコーン)の真上から串刺しするかのように、剣を下に向けて突っ込んでくる。

 剣が黒仮面(カプリコーン)の身体を貫く直前、バチッと志の剣を魔力の障壁が弾いた。

 その反動を受け、志は後方へと大きく飛ばされた。


(あ、危なかった!―――なっ! 緊急防御の魔導具が……今の一撃で全て破壊されただと!)


 万が一のことを考え、黒仮面(カプリコーン)は護身用として、衝撃を吸収する魔道具を幾つも身に着けていた。一つの魔道具につき、Cランクの魔物が全力で攻撃しても簡単に耐えられる代物だった。それが先ほどの志の攻撃で全て壊れてしまったのだ。


 志の化け物じみた力を見て、黒仮面(カプリコーン)に戦慄が走った。

 後方に飛ばされた志は獣のように、黒仮面(カプリコーン)に再び襲い掛かる。


「おい! お前も見てないで私を助けろ!」

「―――は、はい!」


 焦り出した黒仮面(カプリコーン)は、立ち尽くす白仮面に自分を守るよう指示を与えた。

 白仮面も、今の志の化物じみた強さを目の当たりにして、恐怖のあまり動けなかったのだ。

 黒仮面(カプリコーン)の命令は絶対厳守なのか、震える足を押し殺し白仮面が志を迎撃する。


「―――【神気開放(シンキカイホウ)】」


 白仮面の髪が白くなり、仮面から見える瞳が黄金色へと変わる。

 海竜の塔で志達を圧倒していた【神気開放(シンキカイホウ)】状態へと変わり、志へと斬りかかる。

 しかし。


「kこr、sさjすああ!!」

「う、うわぁああ!」


 もはや言語化すらできないほどに理性を失った志の気迫に、白仮面が恐れて大きく距離をとった。白仮面は今の気迫で、自分が志に殺されるイメージが明確に頭の中に過ったのだ。


 今の志は―――目の前の敵を殺す―――ただそれだけを考える獣となっていた。


「何をしている、早く奴を止めろ!」

「く、くそがぁあ!」


 遠距離魔法を放ち向かってくる志を牽制する黒仮面(カプリコーン)が、志にビビる白仮面へと怒鳴る。白仮面は恐怖を押し殺して、志に近接戦を仕掛ける。


 対して、志は向かってくる白仮面に凄まじい速度で大剣を水平斬りに振るう。

 紙一重で志の攻撃をしゃがんで躱した後、白仮面は隙だらけの志の胴体へと斬りかかった。


(捉えた! 死ね、化物!)


 白仮面は斬りかかったと同時にそう確信した。

 だが、


「なっ! ―――ぬわぁああ!」


 志の尻尾の炎が、白仮面の刀を防御した。

 さらに、炎翼に叩かれて、白仮面は地面を削りながら遠くのほうまで吹き飛ばされた。

 志の攻撃ではそれだけでは終わらなかった。

 翼に生えた炎の羽を倒れている白仮面に向けて放った。


 無数に襲い掛かる炎羽を、白仮面は何とか刀で防ぎながらも致命傷だけは避ける。

 だが、再び真正面から信じられない速度で突っ込んでくる志の膝蹴りをくらい、いとも簡単に吹き飛ばされた。

 途中、黒仮面(カプリコーン)が白仮面に援護するが、今の志は物ともせずに、二人を何度も吹き飛ばす。

 そのため、いつしか二人の防具はあっという間にボロボロになり、息絶え絶えの状態で志から逃げるようになっていた。


 実力差は明らかだった。

 海竜の塔でトッティ、志(【神気開放(シンキカイホウ)】なし)、美優の三人でどうにか互角に戦っていた白仮面と黒仮面(カプリコーン)の二人を相手に今の志は一人で圧倒していた。


 フラフラになりながら、白仮面が何とか立ち上がる。

 身体を止めてしまった瞬間、殺されるという恐怖が働いていた。


「……ず、ずるい。どうして、どうしてお前だけ、そんな能力を!」


 白仮面が何やらブツブツ小言を言っているが、今の志には何も聞こえない。


「こうなったら―――」

「おい! 止めろ! それはまだ未完成だ!」


 黒仮面(カプリコーン)の制止を無視して、白仮面は一か八かの賭けに出た。

 白仮面の刀の形状が志と同じ大剣へと姿を変えた。

 その大剣に白仮面が持つ強大なマナが込められた。

 白仮面が持つ光り輝く大剣は、まさに聖剣と呼ぶにふさわしい輝きを放っていた。


「死ね! 【聖剣エクスカリバー】!」


 志がいた世界では知らない者はいない有名な聖剣の名とともに、強大な光の柱が志を襲った。

 対して志は、白仮面同様に大剣にマナを込めて大きく振り翳した。


「【紅蓮一閃】!」


 黄金色と白色の溢れんばかりの光が、広間の中心でせめぎ合った。

 二人が放った剣技は、ほぼ均衡状態を保っていた。

 本来であれば、上位属性である〝天“属性を秘めた白仮面に軍配が上がるはずだった。

 しかし、属性不利を覆すほどの強大なマナを大剣に込めて志が放ったために、この状態がギリギリ保たれていた。


 しかし、このまま続けば志のほうが先に力を使い果たし、敗北するはずだった。


「【爆弾草(リーフボム)―セット―――発射】」


 美優が、志の【紅蓮一閃】の白い炎に緑色の光を追加しなければ。


 緑色の光を飲み込むと、白の炎はさらに大きく光輝きだした。


「な、なんだと!」


 黒仮面(カプリコーン)から驚愕の声が聞こえた。

 今、志達が行った技は属性同士を組み合わせるという前代未聞の離れ業を見せたからだ。

 火は木に強い。

 それは誰もが知っている常識だった。

 その木を燃やすことで、火をパワーアップするという単純な発想が、黒仮面(カプリコーン)には思いつけなかった。


 より輝きだした白の閃光は、黄金に輝く閃光を呑み込み白仮面に直撃した。


「ぬぉおおおおおーー!!」


 全身を燃やし尽くす程の炎を浴び、絶叫を上げる白仮面。


「ムッ、これはいかん! 【水の神獣よ。溢れる水の流れを―――水流(ウォーターカレント)】!」


 黒仮面(カプリコーン)が白仮面に水魔法を浴びせ鎮火させた。


「こ、志くん!」

「はあ、はあ、はあ」


 美優が慌てて志に近づいた。

 先ほどの【紅蓮一閃】で力を使い果たした志は元の状態へと戻っていた。

 限界を振り絞ったせいか、顔色は青白く動きに精彩を欠くような状態だった。


「ゆ、許さないぞ……絶対に」


 だがそれでも、志は自分の状態など気にせず、しゃがみ込む白仮面に止めを刺そうと歩く。


 パキッと何かが砕ける音がした。

 白仮面がつけていた面だった。

 面が外れ、志と美優は白仮面の素顔を見た。


「……――なっ!」

「えっ、そんな! どうして金髪に!?」


 激昂していた志が思わず歩くのを忘れその人物を見つめる。

 右目に酷い火傷を負っていたが、二人はその人物の顔を良く知っていた。


「は、原先生……」


 二人の目の前に現れたのは、○☓高校二年三組――自分達の担任教師―――(ハラ) 貴士(タカシ)だった。


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