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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第2章(後半):ヨルド公国
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第48話:思惑

 志と美優は海竜(リバイアサン)の背中を駆けあがり、飛鳥達がいる頭上へと目指す。

 東京タワーに匹敵する高さを持つ海竜(リバイアサン)の背中を駆けあがる行為は、言うなれば急な上り坂を駆けあがっているようなものだった。

 ただ、幸運なことに背中の表皮はヌメヌメした様子もなく地面と同じ感覚で走ることができた。

 道幅も十分に広く、美しく輝く水色の表皮はまるでアクアマリンの宝石でできた板の上を歩いているような感覚だった。


「―――! 志くん。前方に魔物群れが多数出現!」

「了解!」


 〝遠視“で前方を確認した美優の声に反応して志が神具―――大剣を手元に出現させる。

 美優も自分の神具―――弓を構え、前方を見据える。


「「「ギシャァアアー!!」」」


 襲ってきたのは巨大クラゲの魔物『ジェリフィス』(危険度Eランク)の集団とナマコの姿をした魔物『キャンバー』(危険度Eランク)だった。


「邪魔です!」

「どけぇええ!」


 無数の弓矢が宙に浮かぶ『ジェリフィス』の身体を貫通する。

 さらに紅蓮の炎を(まと)った志の大剣が、発射した消化液ごと『キャンバー』の身体を焼き尽くした。

 二人は襲い掛かる魔物達をものともせず、そのまま頂上を目指す。


 …………

 ……

 …


 海竜(リバイアサン)の頭上。

 そこに五人の人影があった。


 うつろな目をしたまま微動だにせず、その場で(たたず)むミーア。

 隣には、黒仮面―――カプリコーンがミーアの肩に手を当てたまま、何やら思案している。

 同様に、白仮面―――『光の勇者』と呼ばれていたオーラル王国の騎士が控えていた。


 三人の足元で、手足をロープで縛られ身動きがとれない飛鳥と横に倒れて意識を失っているルアーナの姿があった。

 ルアーナはヒチグに斬られた怪我で大量出血を起こしていたが、飛鳥が咄嗟に発動させた回復魔法と黒仮面(カプリコーン)の与えた治癒の魔導具により、幸い一命は取り留めていた。


「―――ほう。侵入者か。まさか、ここまで来るとはな」


 黒仮面(カプリコーン)の言葉を聞いて、飛鳥はすぐに侵入者が志と美優だと思った。

 志達ならどんなことがあっても必ず来てくれる、飛鳥はそう信じていた。


「ふん、ざまあみなさいよ! アンタの腐った計画もここで終わりなんだから」


 身動きが取れない状態で飛鳥は黒仮面(カプリコーン)を挑発する。

 いつ殺されてもおかしくない状況の中、それでも飛鳥は戦う意思を捨てず、黒仮面(カプリコーン)を睨みつける。


 飛鳥は取引を持ち掛け、黒仮面(カプリコーン)から、この実験の目的を聞いていた。

 黒仮面(カプリコーン)の目的は、全ての(ドラゴン)を自分達の支配下に置くことだった。

 そのためには、『竜の巫女』―――すなわちミーアの存在が必要だった。


『竜の巫女』はヨルド王国の王族にのみ継承される特殊能力だった。

 神獣の守護者である(ドラゴン)と意思疎通ができ、かつ全ドラゴンを統べる統治者。

 それが『竜の巫女』の正体だった。


 黒仮面(カプリコーン)は、古い文献を調べ、王族の最後の生き残りであるミーアの存在を突き止めた。

 ミーアを帝国に気づかれないよう気を配り、かつ手駒として使っていた元ヨルド王国親衛隊達を援助していたのもそのためだった。

 そして、半年前に〝人間”だったミーアに薬を使って強引に〝亜人”へと変えたのだ。

 なぜなら、『竜の巫女』の能力は、〝亜人“が最もその能力を発揮できると文献に記載されていたからだ。


 ここまでは、黒仮面(カプリコーン)の計画通りに事が進んでいた。

 しかし、ルアーナとカイの介入により、ここまで育てた『竜の巫女』を失う羽目になった。

 ツテを使って必死にミーアの所在を突き止めたときには既に遅かった。

 ミーアは帝国で厄介な人物達に保護されてしまったのだ。


 剛田(ゴウダ) (ココロ)戸成(トナリ) 飛鳥(アスカ)波多野(ハタノ) 美憂(ミユ)の三人の異世界人だった。

 彼らには、【鬼神】のガイネルと【疾風の妖精】のメルディウスの二人が保護しているため、おいそれと近づくことができなかった。


 そこで、黒仮面(カプリコーン)は実の母であるルアーナにミーアを連れてくるよう指示を与えた。

 時間はかかったが、何とか志達からミーアを切り離すことに成功した黒仮面(カプリコーン)は、文献の記述通りに海竜の塔にある祭壇にミーアを連れて行った。


『竜の巫女』が真に覚醒するためには、大量のマナ(生命力と魔力の元となる物質)と祭壇に備わった魔法陣、そして、感謝祭(シーフェス)で鳴らされる大鐘の音の三つの条件が必要だった。

 三つの条件をクリアした結果、飛鳥の乱入もあったが、予定通りミーアは『竜の巫女』として真の覚醒を得ることができた。


 その後は、ミーアに取り付けていた精神介入の魔導具を使って、ミーアの意識内に入り込み、(ドラゴン)の意識と直接対峙し、手始めに海竜(リバイアサン)を自分の支配下に置くことだった。

 そして、その試みは成功した。


 次に、黒仮面(カプリコーン)は別の実験へと移行した。

 いや、実験というよりは、黒仮面(カプリコーン)の挑戦だった。

 黒仮面(カプリコーン)ある人物(・・・・)を超えたいという一つの野望があった。


 事前にオーラル王国のイデント宰相に用意してもらった『光の勇者』の神具を利用して、上位属性の(ドラゴン)である天竜(ヘブズニール)をその人物にぶつけるという内容だった。


 だが、『竜の巫女』の意識に同調したとはいえ、複数の(ドラゴン)を同時に支配するのは困難だった。

 そのため、『光の勇者』には自らの神具で、天竜(ヘブズニール)を支配するよう指示を与えた。

 結果、『光の勇者』は天竜(ヘブズニール)を支配することに成功した。

 ただし、天竜(ヘブズニール)も唯の(ドラゴン)ではなかった。

 支配される直前、自らの力を外へと分散させ、完全な支配を防いだのだ。


 黒仮面(カプリコーン)は、仕方なく不完全な天竜(ヘブズニール)と手駒の親衛隊達を使って、ベルセリウス帝国の領事館―――帝国騎士団本部を襲わせた。

 だが、黒仮面(カプリコーン)の予想通り、不完全な天竜(ヘブズニール)ではやはりあの男―――【剣聖(ユリウス)】に勝つことはできなかった。


 手駒の親衛隊達も、【疾風の妖精(メルディウス)】により隊長のヒチグが倒されて以降、次々と捕縛されていた。

 その姿を遠隔魔法によりモニタ越しで見ていた黒仮面(カプリコーン)


(ふん、ここまでか)


 自分の挑戦をここで諦めることにした。


 光の勇者をこちらに呼び戻した後、天竜(ヘブズニール)に【魔力開放(マナエミーツタム)】―――自爆魔法を発動させるよう、先ほど指示を与えていた。


(ふん、それでもあの男は倒せんだろうが。まあ証拠隠滅には十分か)


剣聖(ユリウス)】への挑戦を諦めた黒仮面(カプリコーン)は次の手を考える。


「……侵入者か……ならば少し興味深い実験を行うことにしよう」

「ちょっと、アンタ何するつもり! ミーアから離れなさいよ」


 ぎゃあ、ぎゃあと足元で口うるさく(わめ)く飛鳥を無視して、黒仮面(カプリコーン)はミーアに魔法をかける。


「【海竜(リバイアサン)の意識集合体―――この身へと宿れ――同調魔法(チューニング)―発動】」

「……―――! ウゥぅうううああああああ!!」

「ミーア! ちょっと、止めなさいよ! 止めて!」


 飛鳥が何度呼びかけても反応しなかったミーアが、突然悲鳴を上げ始めた。

 その姿を見て、飛鳥は懸命に黒仮面(カプリコーン)に術を止めるよう叫ぶ。


 しかし、黒仮面(カプリコーン)は飛鳥の言葉に耳を傾けず、そのままミーアに魔法をかけ続けた。

 やがて。

 ミーアの悲鳴がぱったりと止まったと同時に、天から水色の光がミーアへ差し込み優しく包み込んだ。

 そして、光が収まると。


「えっ……ミーア?」


 飛鳥が目の前の光景に戸惑うのも無理はなかった。

 今まで十歳ぐらいの体躯の女の子が、いきなりメルディウスと同じくらいの大人の女性に姿を変えているからだ。

 白かった髪も綺麗な水色のロングストレートへ、瞳の色も両方とも水色と変わっていた。

 着ていた巫女服は、まるでミーアの大人サイズに合わせるようサイズが調整されている。


「おおぉおお! 実に素晴らしい。気分はどうかね、海竜(リバイアサン)

「……」

「ふむ。意志疎通はまだ難しいか。まあ、人の体でどの程度まで力を出せるか実に楽しみだ」


 無言のままその場で立ちつくしているミーアを見て、黒仮面(カプリコーン)は実験が成功したと喜んでいる。


「アンタ! 一体ミーアに何したの!」

「簡単な話だ。『竜の巫女』に海竜(リバイアサン)の意識を同調させたのだ。これで巫女は(ドラゴン)の力を宿した最強の亜人となるのだ」

「な、ふざけないで!」


 飛鳥がジタバタもがきながら、黒仮面(カプリコーン)へ向かう。

 だが、ロープに手足を縛られた状態では上手く前に進むことができず、飛鳥は何もすることができなかった。


「幸いなことに、良い対戦相手も用意されているしな……これは良いデータがとれそうだ」


 そう言って、黒仮面(カプリコーン)が見ている魔導具のモニタの先には、


「アンタ、まさか! 志達にミーアを……やめてぇええええ!」


 この場所に向かっている志と美優の姿が映っていた。


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