第47話:出撃
グランディール王国巨大船の指令室内。
「それでは皆様、準備はよろしいですか!?」
「「「おおぉおおおお!!」」」
『『『おおぉおおおお!!』』』
セリスの呼びかけに、グランディール王国とベルセリウス帝国の騎士達が大きな声で応える。
「通信状況も良好ですね。トーマス、引き続き通信魔法の継続をお願いします」
「かしこまりました。セリス王女」
壇上にいるセリスに向かって頭を下げるトーマス。
トーマスは通信魔法を使って、セリスが千里眼で見た戦況を両国に伝える重要な役割があった。
当たり前のように、セリスが遠距離通話を行っているが、この魔法はグランディール王国の貴族のみにしかまだ伝わっていない魔法技術だった。
「帝国の騎士様。大変危険な任務ですがどうか皆様のお力添えを」
本来なら秘匿されるべき魔法技術を、セリスが出し惜しみすることなく見せたということは、全てを出してヨルド公国を守ろうしていることが、他国の騎士にも理解できた。
『我々の誇りに懸けて任務を全うして見せます』
セリスの言葉に、帝国騎士団十隻を任された艦長の一人が応えた。
必ず守って見せる、そう思いを胸に秘めて。
「……ありがとうございます」
セリスにも彼の思いが伝わり、感謝の言葉を述べる。
「それでは、現時刻をもって海竜撃退作戦を開始します!」
…………
……
…
グランディール王国巨大船の甲板。
その先端に酒井 雄二がいた。
「……」
雄二が見据える先には無数の魔物が蠢いていた。
先ほどまであんな死地の中で戦っていたのかと思うと、
(バカだな。俺は)
雄二は自分のバカさ加減に思わず呆れてしまった。
そして、そのバカは再びあの死地に自らの意思で戻ろうとしているのだ。
「……一番槍、行かせてもらうぜ!」
神具―――巨大な槌を出現させた雄二。
巨大な槌に自分の魔力を大量に込め始めた。
そんな彼を、上から心配そうに見つめる者達がいた。
「ユウジ。お願いだから無事に帰って来てくれ!」
「ユウジ様……どうかご無事で!」
クリスとセリスだった。
指揮官が指令室から離れるわけにはいかないため、クリス達はここから雄二の無事を祈っていた。
遠く離れているクリス達の声は雄二のもとに届くはずはなかった。
しかし、
「―――ああ、行ってくるよ」
クリス達の視線を背中越しに感じていた雄二は、ヒョイと腕を上げてクリス達の思いを受け取った。
(さて、それじゃあ第二ラウンド―――始めるか!)
獰猛な笑みを浮かべた雄二は、大量の魔力を槌に込めたまま、海へと飛び降りた。
そして、海に向かって思いっきり槌を振り下ろした。
「【爆砕隆起】!」
雄二が槌を振り下ろした箇所。
海が真っ二つに引き裂かれた。
大量に蠢いていた海の魔物達は、二つに引き裂かれた海の谷底に次々と落下していく。
さらに、変化はそれだけでは終わらなかった。
裂かれた箇所から見える海底が隆起し始めたのだ。
地面は鋭い針の形状となり、周辺にいた魔物達の身体を貫いていく。
『【爆砕隆起】』―――
雄二のオリジナル槌技である。
槌に魔力を込め上げ、地面へと叩きつける。
この技の最大の特徴は、叩きつけた後にある。
雄二のイメージ通りに、破壊した地形を好きな形に再生できるのだ。
圧倒的な衝撃が海を貫通し海底を直撃した結果、雄二はイメージ通りに海底を海上まで隆起させた。そして、自身の足場とすると同時に足場の外部をニードル状に覆った。
作り上げた足場へと降り立った雄二は、そのまま魔物達の群れへと突っ込む。
「うぉおおおおおお!! かかってこいや!」
縦、横、斜めと巨大な槌を片手で自由自在に振り回し、邁進する雄二。
並み居る魔物達が瞬く間にミンチへとその姿を変えていく。
正に〝修羅“というイメージを想定させる戦士の姿がそこにはあった。
破壊衝動と本能で動く魔物達は雄二のことを覚えていた。
あの化物が再び現れたのだと。
最大限の警戒を雄二に向けて、海竜のもとへ邁進する雄二に一斉に襲い掛かった。
…………
……
…
スペースシップの甲板。
遠くから爆発音と魔物達の鳴き声が聞こえる。
帝国騎士団十隻の船から放たれた魔法が多くの魔物達を次々と撃沈していく。
突然海上に現れた地面に降りて、騎士達が魔物達に戦いを仕掛けている。
そして、その先には単身で暴れまくる雄二の姿があった。
「いよいよ始まったみたいだね」
「はい。皆さん、どうか無事で」
遠くで戦況を見据える志。
美優は両手を合わせ戦場で戦う全ての者達の無事を祈っていた。
『さーて、向こうの挨拶も始まったみたいだし。次はボク達の番だよ~』
操舵室で一人舵を取るトッティが船内放送で志達に呼びかける。
「ああ、トッティ。出発してくれ」
『アイアイサー~』
戦場から離れた海域にあるスペースシップが海竜の後方に向けて出発した。
『スペースシップ』―――
スペースシップは他の船と明らかに文明レベルが異なっていた。
未知の金属でできた外観。
誰も理解できない術式を用いた部品や魔導具の数々。
血液認証が兼ね備えており、認証者以外に乗ることは不可能な船。
(認証者が承認すれば、他人を船内に乗船することは可能)
〝千里眼“を通して、凄まじい速度で海を走るスペースシップを見て、セリスがこの作戦を思いついた。
以前雄二が一人で海竜と戦っていたとき、警戒していたのか、雄二が強引に近づこうとしても、海竜はすぐさま距離をとるよう行動していた。
そのため、海竜に近づくためには、どうしても囮役と奇襲部隊―――すなわち、海を高速で移動できる交通手段が必要だったのだ。
だが、トッティから言わせてもらえば、スペースシップの高い機動性も本船のほんの一部でしかない。
「ふっふっふ~スペースシップの〝潜水能力“特と見よ―――ポチットとな」
トッティがとあるボタンを押した。
途端、スペースシップが潜水を開始した。
そう、スペースシップの隠れた能力―――潜水艦として機能できるのだ。
「これなら、海竜に気づかれる心配も―――」
『トッティ! 船が、船が沈んでいる!』
『トッティさん! ドアを開けてください!』
甲板から緊急通信が流れて来た。
必死に助けを求める志と美優の声だった。
「あっ! そういやキミ達甲板にいたんだっけ……ごめん。忘れてた~」
『『トッティ(さん)!!』』
二人が甲板にいることを忘れていた気楽な様子のトッティ。
一度、潜水を中断し、志達を船内へと入れた後、再び潜水を始めた。
…………
……
…
「イタタ。いや~悪かったね、キミ達」
「お前、絶対反省してないだろう」
「……死ぬかと思いました」
志に頭をグリグリされたトッティが、志達に先ほどのミスを謝る。
いや、トッティの場合これが冗談という可能性も十分にあるためミスと断定するのは難しいと、志は思っていた。
「まあ、現在水深50mの海域を潜航中。ターゲットの距離まで1kmってとこかな」
モニタ越しに見える深海はとても暗く、ライトが無ければまずその先を見ることができない。
海中を潜航していると、多くの魔物達の姿が見えた。
巨大なイカやタコ。
鋭い牙を持ったウツボのような姿をした魔物もいた。
不思議なことに、魔物達は潜水艦を襲おうとしなかった。
志がそのことを不思議に思っていると。
「この船は、現在、隠密魔法が発動しているからね~」
「ただ、これすっごく疲れるんだよ」と、トッティが苦笑いを浮かべた。
スペースシップは、核となる巨大な魔石の魔力を動力炉として動いている。
だが、細かな動力は船の認証者の魔力または生命力によって動くのだ。
つまり、現在のトッティは〝隠密“と〝潜水”、さらには〝高速移動“の機能を使っているため、大量の魔力と生命力が奪われているのだ。
海竜に近づくにつれて、余裕そうな表情だったトッティの顔が青白くなる。
その顔色の変化に気が付いた二人は慌ててトッティに声をかける。
「トッティ! 大丈夫か」
「トッティさん。今浮上しても私達なら大丈夫です」
しかし、
「何言ってんの~ボクの仕事はキミ達を無事、海竜のもとに届けるってことなんだから。心配無用だよ~」
トッティはニコリと笑って志達の言うことを聞こうとしない。
船は巨大なタコの魔物の脇をスレスレで通りながら前へと進む。
少しでも舵を間違えれば、魔物にぶつかり、スペースシップの存在が露わになる。
そうなれば、海中でこの船は魔物達に襲われすぐさま沈没する未来が待っている。
最大の集中力を発揮してトッティが懸命に舵を取り前へと進む。
やがて、スペースシップは海竜や他の魔物に気づかれることなく、海から見える海竜の背中に到着した。
「……ふぅう~、到着だよ。キミ達。後のことはよろしくね~」
無事任務をやり遂げたトッティの顔はかなり青ざめていた。
だが、それでもトッティの砕けた口調は全く変わらなかった。
志は大した男だと思いつつ、
「ああ、後は任せろ。だから、ゆっくり休んでくれ」
「ありがとうございます。トッティさん。ここまで運んでくれて」
トッティとハイタッチを交わした後、スペースシップを後にした。
その後ろを美優が追いかけていく。
「ああ、ゆっくりさせてもらうよ」
トッティは遠ざかる二人の背中に向かって手を振る。
その後、一人スペースシップに残ったトッティは、
「……後は頼んだよ、キミ達」
そのまま意識を失い倒れた。




