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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第1章:ベルセリウス帝国(トパズ村編)
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第6話:トパズ村

『トパズ村』

 ベルセリウス地方の中央部に位置し、村のすぐ近くには〝ルーブル大河“が流れている。

 トパズ村は酪農や農業を主産業としており、村の周りには、牧草地帯や畑、果樹園がいくつも見られる。フランスの田舎にある農村をイメージすると分かりやすいかもしれない。

 異世界の服装に身を包み明らかに目立っている僕達を見ても、村人はあまり気にした様子もない。

 あとで、とある村人に聞いたところ、昔から商人や冒険者がこの村に多く出入りするため、珍しい恰好をしている人には慣れているらしい。とはいっても、僕達の服装はとても珍しいらしく、興味を持たれた。


 閑話休題。

 今、僕達はトパズ村の中心街にいた。そこで、


「誰か、僕達に少しでいいのでお金をください!」

「うううー……恵まれない、私達にどうかお慈悲を!」

「……誰か、マッチ(木の棒)を買ってくれませんか?」


 物乞いをしていた。


 広大な森をようやく抜け、待望の村へとたどり着いた僕達は、宿屋へと向かった。すぐに、ゆっくり休みたかったからだ。しかし、宿に泊まることはできなかった。

 なぜなら、無一文で異世界に転移した僕達には、この世界のお金なんてなかったのだ。

 当然、宿屋の主人からしたら、無一文の客を泊めることはできない。


 途方に暮れた僕達はお金を稼ぐため『ギルド』を探した。


『ギルド』

 WEB小説の異世界物語では、ほぼ存在している冒険者の拠り所だ。

 魔物の討伐、依頼者の護衛、貴重な草花の採取など、様々なクエストを斡旋しており、クエストをクリアすることで報酬――すなわちお金を手にすることができる。

 そんな場所を僕達は探したのだが。


 結果、僕達のいる異世界には『ギルド』という冒険者組織はなかった。


 勿論、この世界にも多くの冒険者はいるみたいだ。しかし、大半の冒険者達は専属の貴族や商人から依頼を受け生活するのが一般的であるため、『ギルド』のような不特定多数の人に仕事を斡旋するという組織はないそうだ。


 そのことを知った僕達は、もうなりふり構わず、お金を得るために、村の中心地で物乞いを始めたのだ。


 そんな僕達の姿はあまりに哀れだったのか、道行く人達が僕達の前に次々とお金を置いていってくれた。

 恥ずかしいのを必死に我慢し叫ぶ飛鳥にパンをあげるオジサン。

 その辺で拾った美優のマッチ(木の棒)を買ってくれたオバサン。

 覆面で顔を隠しているが、さっき断られた宿屋の主人もいた。あの大きな体は間違いようがない。飛鳥と美優に「貧乏に負けるな!」とお金を置いて、エールを送っている。


 異世界村の人情に触れ、僕達はこの世界の住人に深く感謝した。


 ……でもおかしい。僕が思っていた異世界物語と何か違うぞ!


 一日中物乞いして、ある程度お金が集まったので、僕達は再び宿屋へ向かった。今度はお金を持っていたので、宿屋のオッチャンは笑顔で迎えてくれた。しかも、この宿屋の中で最も高い部屋を用意してくれた。値段は通常部屋の料金と同じで良いらしい。


 ……宿屋のオッチャン良い人過ぎ!


 さらに宿屋のオッチャンには、


「たくっ、どこの田舎から出てきたんだ、お前達……まあ、そんなに難しこっちゃねぇが。いいか―」


 この世界の通貨の仕組みについて教えてもらった。


 通貨は〝教会“が管理しており、コインと紙幣の二種類があるそうだ。どうやら、ほぼ日本で使っている貨幣や紙幣と同じ仕組みたいだ。コインは1円玉、5円玉、10円玉、50円玉、100円玉、500円玉の六種類。紙幣は1000円札、5000円札、10000円札の三種類。

 ただし、ここでは〝円“という単位ではなく、〝Rg(ルギー)”という単位らしい。

 ちなみに、僕達は現在780Rg持っている。借りた四人部屋は、一泊100Rgかかる。さらに、サービスで朝食と夕食はタダだ。


 ……正直、宿屋のオッチャンに足を向けて眠れない!


 可愛らしい給仕さん(宿屋のオッチャンの娘)に二階へ案内され、僕達は部屋へと入る。

 室内は広く、四つのベッドがあり、浴室もついていた。浴室にはシャワーと浴槽が設置されていた。

 それを見た飛鳥と美優はすぐさま、浴槽へ向かおうとしたが、「生活に必要な物を買いそろえてから」と言って断念した。


 ……替えの服や下着がないと意味ないからなぁ。あと、石鹸といった洗剤も必要だ。


 必要な物を買いに一階へ降りると、ぽっちゃりしたオバサンが「ほら、アンタ達、着る服ないんでしょう! これ、持っていきな」と言って、服や石鹸といった日用品をいくつかくれた。さらに、「これ新品の下着だから」と、どうやら気を使ってくれたらしい。


 あとで聞いたところ、この女性は宿屋のオッチャンの奥さんだった。奥さんも、村で僕達が物乞いしているのを見ていたらしい。

 どうやら、この村で物乞いをする人はとても珍しいらしい。というか、僕達以外にやった人はいないみたいだ。

 だから、村の真ん中で、ボロボロな格好をした目立つ若者達が、必死にお金を欲している姿があまりにも可哀想だったようだ。村人にいらない服とかないか、探し回ってくれたそうだ。村人皆、快く引き受けてくれたそうだ。


 ……ヤバい、この村の人達、良い人過ぎすぎる!


 奥さんに心からの感謝を伝えた後、感激して泣いていた飛鳥と美優は部屋の浴室へと入っていった。

 僕も取りあえず、フカフカのベッドに飛び込み、横になった瞬間、すぐに眠りについた。


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