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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第2章(後半):ヨルド公国
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SS1-6話(1/2):そして、俺は竜と一万の魔物の群れと戦うことになった。

酒井雄二視点のSS(サイドストーリー)です。

 俺は酒井(サカイ) 雄二(ユウジ)

 突然だが、聞いてほしい。


 現在、俺は海の上で一万の魔物の群れと一人で戦い続けているのだが。

 目の前には巨大な(ドラゴン)が俺を睨んでるし、いよいよやべえな。

 ………。

 ………。

 そうか、そうか。

 俺も頭に血が上りすぎて、自分が何言ってんのかよくわかっていないから、一緒に今の状況を整理していこう。


 あれは、クリス達と一緒にヨルド公国に行くことが決まった後のことだった。


 …………

 ……

 …


「おー! 良い感じに風が吹いてて気持ちいじゃねえか」


 俺はグランディール王国の巨大船の甲板の上にいた。

 見渡す限りに広がる青い空と綺麗な海。

 この青空と海を見ていると全てのことがどうでも良く思える。

 海と空といった大きな存在を前にすれば、俺達生物(いきもの)は、ちっぽけな存在なのだと改めさせてくれる。

 俺はそんな海と空が大好きだ。


(そう……ほんのりと海水から匂う塩の香りと酸っぱいような、こう吐気(はきけ)(もよお)すこの匂い―――ッ!)


「って、おい! 大丈夫か、クリス!」

「うぅううう、駄目だ―――ッ、ゲロゲロ」

「クリスー!」


 酸っぱい匂いは、隣にいたクリスから発せられたモノだった。



「兄様、大丈夫ですか? はい、これ追加の酔い止めの薬です」

「あっ、ありがとう、セリス」

「いいえ、どういたしまして」


 船酔いで苦しむ兄のクリスに対して、妹のセリスはケロッとしている。

 同じ双子でもやはり苦手なモノは異なるようだ。


「んぐんぐ……ごくん。ぷはっー! ああ、今は悪魔のセリスが天使のように見えるよ」

「兄様。やかましいのはそのお口ですか? 口元が汚れないよう糸で縫い直しましょうか(ニコッ)」

「すんませんでした! いつもお優しいセリス様!」


 笑顔なのにどこか神仏のような凄みを感じさせるセリスに対して、クリスが敬礼の構えを取り謝罪する。

 ……コイツラ本当に仲いいよな。


 二人のアホなやり取りを見ていたら、セリスの執事―――トーマスが甲板に現れた。


「ユウジ様。ここにおりましたか」

「おう。トーマスの爺さん。何か用か?」

「いいえ、特に用ということはございません。ただ、セリス様とクリス様が突然いなくなったものですから、ユウジ様のところにいらっしゃると思い駆けつけました」

「……俺はこいつらのホイホイアイテムかよ」


 だとすると、かなりの効果を発揮していると思う。

 こいつら、気が付いたらすぐ俺の近くに集まるからな。

 ……なんという人寄せ能力! この双子限定だけどな。


 溜息をつきつつ、これから向かうヨルド公国についてトーマスに尋ねた。


「なあ、今日グランディール王国を出発して、いつヨルド公国に着くんだ?」

「海の流れと霧の影響もあるので何とも言えませんが、およそ一週間程度かかるでしょう」

「一週間もこの船に乗らないといけないのか!」


 トーマスの言葉にクリスが大きく反応する。

 まだ航海して半日しか経っていないが、クリスは既に船酔いでフラフラになっていた。

 クリスとしては一刻も早く陸に上がりたいのだろう。


「はい。まあ余裕を見ての移動ですので感謝祭(シーフェス)には十分間に合う予定ですよ」

「そういうことではないのだが……うぅうううー」

「兄様、ファイトです!」


 ガクリと肩を落とすクリスに、セリスが励ましの言葉をかける。


「まあ、それは良いんだが……あの偉そうな連中は何とかなんないのか?」

「……申し訳ございません。あの方達はオーラル王国の従者の者達です。決して逆らう素振りは見せてはなりませんよ」

「……わかってるよ。この船に乗るまで、口酸っぱく言われてきたんだから」

「ならいいのですが」


 トーマスがホッとため息をつく。

 俺が向けた視線の先には、黄金色の甲冑に身を包んだ騎士達の姿があった。

 どいつもこいつも偉そうにしていて、甲斐甲斐しく世話をしている給仕達を田舎者とバカにしたり、こんな料理は食えたもんじゃないと、宣っている。

 ……正直、見ていて不愉快な連中だった。


「ユウジは無鉄砲なところがあるからな! トーマスも心配なのだろう」

「それを言うなら、私の方がもっとユウジ様のことを心配しています!」

「なんでトーマスと張り合ってんだよ、セリス」


 セリスの額に軽くチョップをかます。

 セリスはチョップをした俺の腕に装着している二つのミサンガを見て、嬉しそうにしている。

 このミサンガは先日、セリスとクリスから貰ったものだった。

 それを身に着けているのがよほど嬉しいのだろう。呆れるほどチョロインである。

 ……これで、次期グランディール王国の女王候補っていうんだから驚きだ。


 先日起きたとある(・・・)事件をきっかけに、セリスが持つ『心眼』の特殊能力が国王である父親と貴族達の前で明るみになった。王位継承権の第一候補だったサリナは王位継承権を失ったこともあり、現在セリスが次期王女という立ち位置を得たのだ。


 正直俺にとっても忘れられない事件だったが……まあ、そのことは、別の機会に話すとして。


「とりあえず、俺はあいつらとはなるべく顔を合わせないようにするとしてもだ。お前らはそういう訳にはいかないだろう?」

「はい。国の代表として、何とか国益を失わないよう集中して対応します」

「私もだ」


 毅然とした態度でセリスとクリスが真剣な面持ちで答える。

 まだ十歳の子供(ガキ)の癖に、こういうところが見ていてムカつく。

 ……ったく、まだ子供(ガキ)なんだからもっと自由に遊ばせてやれや。


 そんなことを思いつつも、


「ヘイヘイ、高貴な身分のお坊ちゃまとお嬢様は流石だな。じゃあ、俺はのん気に人のいないところでゆっくり昼寝でもしてくるよ」


 ヒラヒラと手を振って、クリス達と別れた。

 ……セリスが分かっていますよ、という顔をしているのが気になったので後で口元を思いっきり引っ張ってやったがな。


 …………

 ……

 …


 オーラル王国との面倒事を避けるため、俺は人がいない船底の倉庫を目指した。

 倉庫の中には、いくつか積荷が用意されており、人が隠れるには十分な場所だった。

 隠れやすそうな場所を見つけた俺は、そのままそこで昼寝を始めた。


 しばらくして、


『おい! 積荷は無事か?』

(――――うん?)


 声が聞こえたので、目を覚ました。

 すると、オーラル王国の騎士二人が積荷の中を何やら確認している。

 どうやら、俺の存在には気づいていないようだ。


『はい。大丈夫です。しかし、何故そんなに心配するのですか。この荷物はあの黒仮面のモノでしょう? 我らオーラル王国の国民ではないのですから、気にする必要がないのではありませんか?』

『馬鹿者! カプリコーン様と呼べ。でなければ殺されるぞ。お前』

『……そんなにヤバい人なのですか?』

『お前はつい最近入国した新参者だから知らないのも仕方がないが、カプリコーン様はとても強く、そして冷徹なお方だ。用意した計画でカプリコーン様の思い通りの動きをしなかった騎士達は次々と処罰されていったよ。本当に恐ろしいお方なんだ』

『本当ですか!』

『それだけじゃない。イデント宰相様ともかなり親しい間柄のようでな。イデント宰相様もカプリコーン様を私と同じ立場と思って接しろと、俺達に命令してんだよ』

『それを早く言ってください! イデント宰相様の命令は絶対じゃないですか!』

『わかったんなら、早く積荷の中身を確認するぞ! 傷一つついていないか、しっかり確かめるんだ』

『かしこまりました』


 オーラル王国の騎士達が話を終えて、真剣な顔つきで積荷の中身を一個ずつ確認していく。

 そんな二人の話を聞いていた俺は、


(ふーん。イデント宰相に、カプリコーンねえ)


 要注意人物の名前だけを頭の中に刻み込んだまま、再び眠りについた。


 …………

 ……

 …


 航海は順調に進んだ。

 特に大きなトラブルもなく、船は無事ヨルド公国に到着した。

 オーラル王国の巨大船二隻とグランディール王国の巨大船一隻の計三隻が入港した。

 あと六日で感謝祭(シーフェス)が開催されるらしい。

 そのことを聞いて、少し安心した。

 折角来たんだから、祭り以外も楽しまないとな。


 航海中、一度だけクリスとセリスがイデント宰相と会食を共にしたらしい。

 オーラル王国の宰相ともあることで、クリス達も緊張した様子で会食に臨んだが、全くオーラル王国の国民らしくない紳士的な振舞いに思わず驚いたほどだった。


 あまりに紳士的な対応のイデント宰相が気になり、セリスは『心眼』を発動させた。

『心眼』は相手の心の状態を見抜くことができるセリスの特殊能力だ。

 セリスは密かにイデント宰相の心の内を覗いた。

 すると、イデント宰相の心の色は白一色だった。限りなくどこまでも真っ白だったのだ。


 セリスは俺の心の色を透明と言っていたが、あんなに真っ白な色は初めて見たと言っていた。


 それからセリスが気になっている人物がもう一人いた。

 イデント宰相の傍で護衛を務めていた白仮面の人物だそうだ。

 佇まいからして、とても強い人物だということがわかったセリスは白仮面の人物にも同様に『心眼』で彼の心の色を見ようとしたそうだ。

 すると、何も見えなかったそうだ。

 透明でもない。

 何もない。

 こんな経験は初めてだったみたいだ。


 ヨルド公国に到着した俺達はセリス達の公務の合間をぬって、街を観光した。

 グランディール王国のような便利な魔導具もないこの国は、獣人や亜人達が活き活きと活動している様子が分かる。その姿を見ていて、とても嬉しくなった。

 やっぱり港町ってのは、こう活気あふれる街って感じが一番だよな。


 目的だった刺身も無事食べることもできた。

 あまりに美味しすぎて何度もお代わりした結果、次の日食べ過ぎで一日中トイレに籠ることになったが。

 ……貴重な一日を無駄にしたが、まあ、美味しかったからいいことにしよう。

 しかし特に旨かったな。

 あの『マナギの皮』。ウナギみたいでとても美味しかった。

 俺も採れないかな。今度、誰かに獲り方を教えてもらおう。


 そんなこんなで俺達はヨルド公国を楽しく観光していた。


 …………

 ……

 …


 感謝祭(シーフェス)一日目が終了した深夜。


「―――!! なんだ!」


『ゴゴゴ』と大きな地震が突如ヨルド公国を襲った。

 ベルセリウス帝国がグランディール王国のために用意してくれた屋敷の一室で眠っていた俺は、慌てて起き上がろうとした。

 しかし、


(なんだ! 身動きがとれねえ!)


 身体を動かそうとしても、ピクリとも動かすことができない。

 そのうえ、近くに誰かの気配を感じる。


(俺を狙っての暗殺か! クソ。大丈夫なのかクリスとセリスは)


 湧いてくる不安が頭をよぎり、いよいよ覚悟を決めて暗がりに潜む相手に視線を向ける。

 せめて、俺を追い詰めた野郎の顔だけ見ておかなきゃ気が収まらねえ。


 ちょうど窓から差し込む月の光を浴びて、相手の正体が露わになった。

 相手は黒装束を着た小柄な女の子だった。

 銀色のツインテールに、青い瞳……


 うん、セリスだった。


「……」

「……」


 しばし俺とセリスの間に無音の空気が流れた。


「おい」

「ピューヒュルル(口笛を吹く音)」

「おい、セリス」

「……よし、問題ないということで、このまま夜這いを―――」

「怒るぞ」

「……てへぺろ♡」

「(プチッ)―――!! このバッカモーン!!」


 俺の大喝が屋敷内に響いた。


 …………

 ……

 …


「うぅううう、痛いですよ、ユウジ様~」

「お前はそこで反省しろ(ギロッ)」

「ううう、ほんの出来心だったのに」


 現在、俺の部屋でセリスが正座している。その上には軽い重石を乗せている。

 このお調子者を、たまには誰かがキツク叱らなければいけないのだ。


 ちなみにセリスと同室だったクリスは、ロープでグルグル巻きに縛られた状態で発見された。

 部屋を抜け出そうとしたセリスに気づき、声をかけたところ、あっという間にこの状態にされたそうだ。


 縄から解放されたクリスは「なあ、ユウジ。夜這いってなんだ?」と、純粋無垢な目で俺に夜這いの意味を質問してきた。

 ……このまま、何も知らない清らかな子供でいてくれ。

 間違えても妹のような邪悪な道に走らないでくれと、この時ばかりは切実に願った。



「さて、この馬鹿はほっとといて、実際何が起こったんだ?」


 正座し反省しているセリスを無視して、トーマスに質問する。

 さっきの地震はとても大きいものだった。

 体感だが、日本にいた頃なら震度六はあったと思う。


「はい。ヨルド公国を中心に大規模な自然災害が発生したもようです。報告によれば、遠くのほうで火山の噴火や海上近くで巨大なハリケーンが確認されたとのこと。ハッキリ申し上げると、異常気象がヨルド公国を中心に発生しております」

「何だと!」


 巨大地震以外に、火山の噴火にハリケーンだと。

 自然の大災害が一か所に立て続けに起こるなんて、自然発生したとはとても思えない。


「そして、一番大変な事態が発生しております。ヨルド公国の遠方の海上に伝説の幻獣―――(ドラゴン)の姿が確認されたそうです」

「それは本当か!」


 クリスがトーマスの報告を聞いて驚いた。

 (ドラゴン)の存在について今いちピンときていない俺にトーマスとクリスが説明してくれた。


 曰く、世界を守護する神獣の眷属。

 曰く、自然を操る万物の長。

 曰く、選ばれし者にその恩恵を与える自然の選定者。


 とにかく、世界に多大な影響を与える存在であることが何となくわかった。

 そんな(ドラゴン)が、いきなり自分達の目の前に現れたと聞いてクリスは驚いたそうだ。


「この緊急事態に、オーラル王国のイデント宰相より緊急の招集が掛けられました。セリス様、クリス様は直ちに準備を行ってください」

「わかった」

「セリスは……!」


 正座していたはずのセリスはいつの間にか支度を終えていた。

 先ほどのお調子者だったときの顔とは違って、王女として国を守ろうとする決意の目をしていた。


「―――準備は既にできております。直ちに向かうとしましょう」


 他を圧倒するカリスマ性を放つセリスの声を聞き、誰もが思わず(おのの)いてしまう。

 クリスは急ぎ支度を済ませて、すぐさま、セリスとトーマスと一緒に屋敷を後にした。


「……」


 俺は留守番を頼むとセリスに厳命されてしまった。

 ……こういうときだけ、アイツ真面目な顔すんだよな。

 ああ、なんかムカつくぜ!


話が長くなったため、区切ります。

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