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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第2章(後半):ヨルド公国
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第36話:飛鳥の戦い

 海竜の塔の中央の祭壇。

 月光の巨大な柱の中に浮かんでいるミーアに向かって必死に呼びかける人がいた。


「アンタ達、ミーアに何してんのよ!」


 周囲に無数の水球を浮かせ、ミーアのもとへと駆け出す少女。

 戸成(トナリ) 飛鳥(アスカ)だった。


『なんだ、この女は!』

『儀式の邪魔だ! 排除しろ』


 突然現れた飛鳥を見て、元ヨルド王国の親衛隊とオーラル王国の騎士達が騒ぎ始めた。

 彼らは真っすぐミーアのもとへと向かう飛鳥の前方に立ちふさがった。

 だが、


「邪魔しないで! 【水弾(ウォーターバレット)―――発射(ファイヤー)】」

『ぬぐぅわああー!』

『ぬぉおおおー!』


 弾丸の速さで向かって来る水球にぶつかり、騎士達は弾き飛ばされていく。

 硬い金属で作られた騎士達の甲冑は強烈な水撃を受けて窪んでいた。

 以前、飛鳥がルアーナに放った 【水弾(ウォーターバレット)】とは違う、飛鳥の正真正銘、本気の一撃である。


『お前ら! 何をしている!』


 最初に吹き飛ばされたのは元ヨルド王国の騎士達だった。

 その姿を見て、オーラル王国の騎士達が飛鳥に向かって魔法の詠唱を開始した。



「下等な蛮族に真の魔法というものを見せてやれ!」

「【炎の神獣よ。燃え盛る火のマナをここに収束せよ―――火玉(ファイヤーボール)】」

「【風の神獣よ。切り裂く風のマナをここに一つにまとめよ―――風刃(ウィンドカッター)】」

「【水の神獣よ。溢れる水の一撃を―――水撃(ウォーターハンマー)】」


 オーラル王国隊長の号令を受けて、三人の騎士達が飛鳥に向かって一斉に魔法を放つ。

 同時に、別の騎士達が続けて飛鳥に魔法を放とうとしていた。

 しかし、


「ああーもう! 邪魔よ! すっこんでなさい! プラス【付与(エンチャント)(サンダー)】―――【水弾(ウォーターバレット)―――発射(ファイヤー)】」


 浮かんでいる水球の中に⚡印のマークが現れた。


 飛鳥は向かって来る魔法に対し、天属性を付与した水球をぶつけた。


「ぎゃぁあああ!!」

「なんだと! ぐっ、バカな!」

「わ、我々が全力で放った、魔法だぞ!」


 飛鳥の水弾(ウォーターバレット)は、騎士達が放った魔法を簡単に弾き飛ばして、彼らに襲い掛かった。

 上位属性の〝天“が付与された雷の一撃により、騎士達全員が感電した。

 後方で魔法の詠唱を行っていた者も、巻き込まれて身動きができない程のダメージを受けていた。


 飛鳥は倒れている騎士達を無視して、そのまま前へと進む。

 遠くで目をつぶり苦しみの表情を浮かべているミーアに向かって呼びかける。


「ミーア!!」


 飛鳥の声が聞こえ、ミーアの目が少しずつ開いた。

 そして、自分が最も信じている人の姿を捉えて


「ア、アスカママーー!!」


 ミーアは飛鳥に向かって助けを求めた。


「待ってて。今助けるから!」


 ミーアに苦痛を与えている騎士達を全員ぶっ飛ばしたい気持ちを抑え、飛鳥は無我夢中でミーアのもとへと向かおうとする。

 そのときだった。


「邪魔をするな!」


 突然、飛鳥に向かって鋭い剣の切っ先が放たれた。


「―――!! クッ!」


 不意をつかれた飛鳥。

 サイドステップで何とか不意打ちの攻撃を躱す。

 飛鳥の目の前には、元ヨルド王国親衛隊隊長のヒチグが剣を構え立っていた。


「小娘よ。我々の悲願を阻むというのであれば、その命もらい受ける。年端のいかない子供とはいえど容赦はせん!」

「何よ、偉そうに。今さら紳士ぶるなっての! ミーアのこと虐待してたでしょ! アンタ!」


 飛鳥は目の前に現れたヒチグを思いっきり睨みつけた。

 ミーアの記憶を見たときに、ミーアのことをネチネチと虐めていた親衛隊隊長。

 その人物がヒチグだったことを飛鳥は覚えていた。


「子供に優しくするってんなら、ミーアを大事にしなさいよ!」

「ふん。あんな穢れた亜人なぞ、知らん。そもそも、由緒正しいヨルド王国の王族からあんな亜人が生まれたことこそが罪なのだ!」

「―――!! あったまきた! 全力でぶっ飛ばしてやる」


 ミーアを侮辱する発言を聞いて、飛鳥の怒りが頂点に達した。


「【水弾(ウォーターバレット)―――発射(ファイヤー)】」と飛鳥が水球をヒチグに向かって放つ。


 凄まじいスピードでヒチグへと襲い掛かる水球達。数は軽く十を超えていた。


 硬い金属の甲冑をへこますほどの威力を持った水球がヒチグに襲い掛かる。

 しかし、ヒチグは慌てることなく水球に向かって剣を構えた。


「剣技―――【風神乱舞(フウジンランブ)】」


 次の瞬間、ヒチグに向かっていた水球が全て消失した。


「―――嘘!」


 飛鳥の目にはヒチグはただ剣を構えているだけにしか見えなかった。

 だが、放たれた全ての水球が一瞬にして破壊されたのだ。


 ヒチグはそのまま飛鳥のもとへ駆け出す。

 連続で繰り出すヒチグの剣戟に、飛鳥は防戦一方のまま逃げることしかできない。状況は完全にヒチグが有利な立場になっていた


 飛鳥の不運なことは、ヒチグと飛鳥の戦闘スタイルの相性が最悪だったことだ。

 ヒチグは風属性の剣技【風神乱舞(フウジンランブ)】と近接戦闘を得意としているのに対して、飛鳥は水属性の遠距離戦闘が得意だった。属性の相性でいうなら、風は水に強いのである。

 つまり、飛鳥は属性的に不利な状態なのだ。


 飛鳥が隙を見て創り出した水弾(ウォーターバレット)も、ヒチグの剣の間合いに入った瞬間、風の如き速さで一掃する【風神乱舞(フウジンランブ)】の前になす術がなかった。


「どうした! 先ほどの威勢はどこに行った!」

「クッ!」


 ヒチグの剣は、少しずつ飛鳥の身体を捉え始めた。

 飛鳥の腕や足などに切り傷がつけられ、ポタポタと血が流れ落ちる。


「アスカママ! 逃げて!」


 傷つけられていく飛鳥を見て、ミーアは必死に逃げてと叫ぶ。


(自分の事は良いから、どうかアスカママだけは無事でいて!)


 言葉からはそんな思いが伝わってくる。


(―――!! 負けられない!)


 その声を聞いた飛鳥は、杖を握りしめる力がより強くなった。


「プラス【付与(エンチャント)・サン――――」

「させるか!」


 水球に〝天“属性の付与(エンチャント)を与えようとするが、ヒチグに止められてしまう。

 ヒチグは飛鳥の天属性の付与効果を警戒していた。

 先ほどから飛鳥が隙を見て付与を与えようとしているのだが、それを未然に防いでいるのだ。


(クソ! こいつ、本当に厄介な相手ね)


 飛鳥は必死に考える。

 どうやって、目の前のこの男を倒せばいいのか。

 どうやったら、ミーアを救うことができるのか。


 周囲を見渡すと、吹き飛ばされていた騎士達も立ち上がろうとしている。

 白仮面と黒仮面の人達は静観したまま、ただ飛鳥達の戦闘を眺めていた。


(これ以上、時間をかけるとマズイ! なら―――)


 飛鳥はついに覚悟を決めた。


「【水弾(ウォーターバレット)―――発射(ファイヤー)】」


 残りの水球をヒチグに向けて全て放った。

 向けられた水球は制御が甘かったのか、ヒチグのいる方向とは全然違う方向にも飛ばされた。

 倒れている騎士達や仮面の人達の上空を飛び、水球はそのままはじけ飛んだ。

 パラパラと水の雨が、屋上全域に降り注いだ。


「どうやら、これで終わりのようだな! 小娘が」


 疲れて魔力制御を失ったと判断したヒチグは、飛鳥に向かって勝利の笑みを微笑む。

 ヒチグのもとへ向かって来る五つの水球に対して、


「剣技―――【風神乱舞(フウジンランブ)】」


 五つの水球はものの見事に全て切り捨てられた。

 切り刻んだ水球の飛沫(しぶき)を全身に浴びたヒチグは剣技を放ったことで、一瞬身体が硬直した。

 その瞬間を飛鳥は逃さなかった。


「【氷結(フリージング)―――全体化(ウォールオフ)】」


 杖に全魔力を乗せて飛鳥が凍結魔法(・・・・)を発動させた。

 瞬間―――ありとあらゆるモノが凍り付いた。


 立ち上がろうとしていた元ヨルド王国の親衛隊達やオーラル王国の騎士達。

 白仮面と黒仮面の人物。


「……」


 そして、飛鳥を後一歩のところまで追いつめていたヒチグもだった。

 全員凍り付いて動けなくなっていた。


「……や、やった……」


 剣を構え凍り付いているヒチグや周囲を見て、自分の作戦は成功したと飛鳥は思った。


 飛鳥の作戦はシンプルだった。

 水球を上空に飛ばして、ヒチグ達の身体をずぶ濡れにする。

 そして、凍結魔法を使い身体を動けなくさせたのだ。

 この方法は、〝神具“の応用が得意な飛鳥でしかできない手段であった。

 一応、祭壇に当たらない様に水球は上手く調整していたため、ミーアのいる周辺は凍結することなく無事だった。


 しかし、代償も大きかった。


「―――くっ。やっぱ、制御、甘かったか」


 飛鳥の身体も薄い氷で覆われ、凍結しかけていた。


 賭けに近い飛鳥の作戦は飛鳥自身も水を浴びてしまい凍結魔法の範囲内に入ってしまうことが欠点だった。凍結しないよう調整したつもりだったが、完璧には制御しきれなかった。


「ア、アスカママ!!」


 氷が身体に張り付いている飛鳥を見て、ミーアが泣き叫ぶ。


「……だ、大丈夫よ……ママは、強いんだから」


 ミーアを安心させようと、飛鳥はミーアに向かって笑いかける。


 飛鳥は全魔力を開放したことで、正直立っているのもやっとの状態だった。

 それでも、飛鳥は泣いているミーアに向かって一歩ずつ身体を引きずるように歩く。


 それは母親としての意地なのか、飛鳥自身に元々あった強さなのかわからない。

 だが、必死に泣いている子供を助けようと足掻く飛鳥の姿を、母性と表現する以外に言葉が見つからない。


 飛鳥は凍りついているヒチグの横を通り抜け、祭壇にまで足を運んだ。

 涙が止まらず、ベチャベチャな顔をしたミーアはただ飛鳥の無事だけを祈っていた。


「ごめん、待た、せたね……今、助けるから」


 震える手をミーアへと伸ばす飛鳥。

 そのときだった。

『ドン』と飛鳥は突然誰かに突き飛ばされた。

 そして、


「えっ!」


 飛鳥の目の前で真っ赤な血しぶきが上がった。

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