第4.5話:森の生活(美優視点)
連続投稿です。
私の名前は波多野 美憂。
私立○×高校に通う二年生です。趣味はお菓子作り、特技は弓道を嗜みます。
成績は学年の中間、体力テストも女子の平均と、どこにでもいる普通の女子高生でした。
そんな私ですが、現在、異世界の森林内でサバイバル生活をしています。
……あれ? どうしてこんなことになったんだっけ?
何度も頭の中で考えているのですが、中々整理ができません。
取りあえず、今までのことを時系列で思い出してみると――
1.修学旅行当日、いつもより少し早めに学校に登校。
2.剛田くんとバスで隣の席に座る。
……胸がドキドキして緊張しましたけど、とても至福な時間でした!!
3.突如、トンネル内でバスガイドの方が運転手を襲い、車内が騒然とする。
4.どこからか木原勇也さんが現れ、バスガイドさんともみ合う。
……勇也さんは一学年上だから修学旅行終わってるのに。本当に自由な人だと思う。
というか、あの狭いバスのどこに潜んでいたのでしょうか。
5.バスが道路を外れ、谷底に落下。
6.異世界の女神から、私達は死んだと告げられる。
7.女神の力で、私達は異世界で生きることができると告げられる。
8.異世界の最初の場所は、威圧感のある怖い皇帝の目の前。
……剛田くんや飛鳥さんと一緒だったのはホッとしました。
9.ピエロの仮面をした人が、説明なしにいきなり凶暴な魔物を私達に差し向けてくる。
……死ぬかと思いました。生き返ってすぐに命の危機に合うなんて……不幸すぎます!
10. 剛田くんの気転で塔を脱出し、この森に墜落する。
……かなりの高さから落下したのに、かすり傷程度で済みました。
身体能力強化の恩恵と地面にぶつかるときに現れた緑色のクッションのおかげです。本当に助かりました。
11.現在、森の外に見えた川岸を目指し剛田くんや飛鳥さんと森の中を歩く。
……うん、やっぱり整理できません。というか、なんですかこのドラマのような展開は!!
ただ、整理しきれなくても頑張らなければいけません。
なぜなら、隣には友達の戸成 飛鳥さんが。
そして、目の前で先を歩いている私の初恋の人――剛田 志くんが頑張っているからです。
カッコ悪いところは見せられません。
現在、私達は広大な森の中を四日間歩き続けました。
草木が多く生い茂っていて、まるでテレビで見たジャングルの風景がそこにはありました。
ただ、テレビと違い実際に体感する高い湿度と気温。
さらに腐葉土やつる植物により歩きにくい地面。
そんな過酷な環境の中、私達は森を抜けるため必死に歩き続けました。
時折、遠くから獣の遠吠えが聞こえたり、ガサガサと近くで動物が徘徊する気配にビクビク怯えながら歩きました。
夜、眠るときはいつ襲われるのか怖くて全然眠ることができませんでした。
ただ、そんな私の不安とは裏腹に、魔物に襲われることはありませんでした。
恐らく、志くんが森の中でずっと持ち続けていた『神具』の炎のおかげと思います。
『神具』―――
私達がこの世界に来て手に入れた特殊能力。
どうも神具は人によって、武器の形態や魔法の種類が違うことがわかりました。
志くんは大剣に火、飛鳥さんは杖と水、私は弓と恐らく木の属性です。
あと、神具を発動していると瞳の色が変化するみたいです。
志くんは赤色、飛鳥さんは水色、私は緑色になっていました。
だから、森の中では獣避けのため常に神具を使用していた志くんの瞳はずっと赤いままでした。
そのため、飛鳥さんは「志。何血走った瞳で私達を視姦してんのよ!」と理不尽なツッコミ入れられていました。
軽く頭をはたかれた志くんでしたが、どこか嬉しそうな表情をしていました。
……仲いいなぁ。羨ましいです。
特に飛鳥さんの神具は大活躍です。
彼女の神具は、どこからでも水を取り出せる魔法を持っていたからです。
森の中では小川や池といった水場はいくつかありました。
しかし、私達の何倍も大きいワニやカバのような魔物が闊歩していて近づくことはできませんでした。
そのため、飛鳥さんの神具の力で、飲料水や水浴びといった生活水を確保することができました。
飛鳥さんがいなければ、私達はとうの昔に森の中で干からびて死んでしまっていたでしょう。
ひたすら感謝です。
ただ、少し我儘を言わせていただければ、もう少し衣服を洗えるだけの水があればと思いました。
汗でベタベタになり、服や下着の着替えもないまま四日間を過ごす――正直、思春期の女の子には辛い日々でした。
さらに近くには気になる男の子がいるわけでして。
……うぅー、我儘ですみません。でも思ってしまいました。
「ねえ、志。そろそろ、今日の寝床を確保しない?」
「……うん、そうだね。日も暗くなったし、美優もそれでいい?」
「はい」
日の光も暗くなったので、安全そうな寝床を探します。
とはいっても、こんな危険な森の中に安全な場所があるのかわかりませんけど。
「せあっ!」
三人が余裕で寛げる平地を見つけ、その場所に志くんが炎を放ちます。
その後、用意した薪に炎を灯し、囲むように周囲に配置します。
これは殺虫と獣避けのためです。
殺虫作業をしなかったサバイバル初日。
就寝中に大きな虫が服の中に入り私は思わず悲鳴を上げてしまいました。
何故か、寝ぼけた飛鳥さんが「何やってんの志!!」と、志くんに飛び蹴りをしていました。
そんなこともあって、寝床になりそうな場所は、まず志くんの炎で先に燃やした後、
「イメージ、柔らかい植物のイメージ……えいっ!」
私はタンポポの綿毛を模した謎の植物を生成し、マットレス代わりに広げます。
柔らかさを意識して生成しているのですが、厚みは5mm程度でほぼ地面で横になっている感触です。ただ、地面の冷たさは軽減できるのでないより全然ましです。
布団(?)を準備している間、飛鳥さんは私が生成していたヤシの実の形をした容器に水を入れたり、入浴の準備をしています。
入浴を終え、私が生成したバナナのような不思議な植物(実際は、バナナの味ではなくジャガイモ味です)を食べた後、
「じゃあ、先に寝るよ……あとはよろしく」
志くんが先に眠りました。
私と飛鳥さんが深夜12時まで、その後交代して朝まで志くんが見張りをします。
寝息とたまに寝言を言う志くんを見つつ、辺りを警戒します。
周囲には志くんが設置した獣避けの炎があるため、魔物に襲われたことはありませんがそれでも遠くから聞こえる唸り声や地響きを聞くと、とても安心はできません。
しばらく、二人で周囲を警戒をしていると―――
「美優は志と一緒で嬉しい?」
突然、飛鳥さんが私に尋ねてきました。
「えっ、あっ、いきなりなんですか!」
「あっ、やっぱり、その反応は間違いないわね……美優、志のことが好きでしょう!?」
「――――!!」
ニヤニヤしながらこちらを見つめる飛鳥さんに図星をつかれ、私の顔は真っ赤になります。
「大丈夫。別に言ったりしないから……でも、そうなんだ。いつから?」
「……完全に意識したのは、あの事件の時です。あの時は、本当に私を助けてくれてありがとうございました」
「別に私は何もしてないわよ」
「でも、あの時、私は確かに飛鳥さん、志くん、久実ちゃん、雄二さん、そして勇也さんに救われましたから」
夜空を見上げ、当時のことを思い出す。
…………
……
…
高校に入学して三か月が過ぎた頃。
私は、弓道顧問の男性教師からストーカー行為を受け、学校に行けなったことがあります。
執拗に交際を迫られ、私と先生が付き合っているなどと根も葉もない噂を流されたり、指導と称して私の身体を触るなど、本当にひどい先生でした。
学校側にこのことを相談しましたが、強豪校の名顧問という理由で彼は処分されることはありませんでした。
さらに噂は生徒にまで広がり、周囲の人達は私のことを、教師に色目を使う淫らな女として虐めるようになりました。
しばらくして、私は学校に行けなくなりました。
朝起きると自然に涙が流れ、嘔吐と痙攣が起き、ベッドから出ることができなくなりました。
学校に行こうと考える度に、その症状が繰り返し起こります。
精神的なストレスで学校へ行けなくなった私。
それでも、先生は家へ押しかけ、今度は私の部屋へ強引に入ろうとしてきました。
私は恐怖のあまり、パジャマ姿のまま窓から外に逃げました。
必死に走りました。
訳も分からず、どうしていいのか分からず、ひたすら走り続けました。
もうこんな気持ち悪い世界にいたくない―――とそう思ったそのとき、
「あれ? 波多野さん?」
目の前に、剛田 志くんがいました。
私は思わず彼に抱き着いてしまいました。
彼は覚えていなかったのですが、私と剛田くんは小さい頃にこの公園で何度か会ったことがありました。その時も、困っていた私を彼は必死に助けてくれました。
彼の顔を見て不意に思い出してしまいました。
子供のように泣きじゃくる私を、剛田くんは優しく背中をポンポンと叩いてくれました。
「すみませんでした」
涙で彼の制服をぐちゃぐちゃにしたことに気づき謝りました。
剛田くんは「いや、気にしないで」と優しく微笑んでくれました。
(あれ? 今日は平日で学校があるのに何故公園にいるんだろう?)
彼の制服姿を見て思わず疑問が浮かびました。
そんな私の様子に気づいた剛田くんは、
「ああ、今日はその……ある用事で学校をさぼったんだ」
「……なのに制服なんですか!?」
「あっ! えーっと、好きなんだ。制服。僕、制服フェチだから」
彼は何やら慌てて、自らの性癖を漏らす。
……へえー、そうなんだ。心の中でメモしておこう。
「そんなことより、波多野さんは今、暇?」
「えっ、その……」
どう答えたら良いのだろう? 先生が部屋に押しかけてきて逃げてきたばかりと正直に答えるべきなのか、思わず悩んでしまう。
「暇なら、僕達と一緒に遊びに行かない」
そう言って、彼が後ろを振り向くと
「ヤッホー」
「よっ! 元気か!」
無表情に手を振る木原 久実ちゃんとオイーッスと腕を上げる酒井 雄二くんがいました。
そして、
「美優!」
遠くの公園の入り口から、こちらに向かって心配した顔で飛鳥さんが走ってきます。
そして私を思いっきり抱きしめました。
「心配したんだから! 家を飛び出したって聞いたし、あの変態教師が美優の家に行ったて聞くし……ごめん。気づけなくて!!」
「……飛鳥さん」
飛鳥さんは目元に涙を浮かべ、私が無事だったことに安堵していました。
その顔を見て、「ごめんね、ありがとう、ありがとう」と私はまた泣いてしまいました。
泣き止んだ後、私は剛田くん達と街で遊びました。
寝間着だったため恥ずかしかったのですが、久実ちゃんの家で服を借りることができました。
折角、お借りしたのですが、胸の部分がかなりキツイと久実ちゃんに正直に言うと、久実ちゃんは私の胸を仇のように睨んでいましたけれど。『同じ背丈なのに、久実はちいせぇからな』と酒井君が茶々を入れ、久実ちゃんに蹴られていました。
その後、皆と商店街で思いっきり遊びました。
スイーツを食べたり、店をひやかしたり、ゲームセンターで踊ったり、カラオケで思いっきり歌ったりと、こんなにハメを外したのは久しぶりでした。
途中、カラオケボックスで私は爆睡してしまい、気が付けば早朝5時になっていました。
室内には、飛鳥さんと久実ちゃんだけで二人とも、スヤスヤと眠っていました。
少し部屋を離れ飲み物を取りに行き、戻ろうとしたときでした。
「よう。アンタが波多野 美優って子かな?」
突然、金髪碧眼の男の子に話しかけられました。
思わず外人の方と思い、英語で話さないといけないと焦りました。
「ああ、自己紹介がまだだったな。俺は木原勇也って言って、ココ達の友達だ」
「えっ、あっ、日本語……あっ、そうです。波多野美優と言います」
剛田くんの友達と聞き、思わずお辞儀する。
「これは、これはご丁寧に」
すると、勇也さんも同じようにお辞儀をしました。
しばらく「いやいや、こちらこそ」と謎のお辞儀の応酬が続きました。
そしてどちらかともなく笑いあい、ようやく連続お辞儀が終わりました。
「話は聞いたよ……大変だったみたいだね」
「――!!」
何故だろう、初めて会った人なのに彼の声に思わずホッとしてしまいました。
その声には、本当に私のことを心配してくれる優しい気持ちが伝わってくるからです。
「あの変態教師なら、もう大丈夫だから……ほら、この記事」
勇也さんは手に持っていた朝刊を私に見せました。
その記事には――『○×高校の教師、指導と偽り生徒にセクハラ行為を行う』との見出し。
「えっ! これは!?」
フラフラと朝刊を手に取り、その記事を読む。
そこには、今まで私が受けていた被害の詳細と教師の辞職の旨が記載されていました。
「これであの変態教師はお終いだ。一応、俺のほうからキツク言っといたから、大丈夫だとは思うけど……なんかあったら、いつでも連絡してくれ。すぐ助けに行くよ」
勇也さんは二カッと私に笑いかけてくれました。
私はタダ呆然と眺めていました。
「あと、飛鳥や志達もアンタの根も葉もない噂はでたらめだって言って、何度も学校に抗議したりしてたよ。君のために、朝早くから登校して生徒一人一人に、『美優は被害者だって、悪いのはあの変態教師だ』って何度も説明していたよ。誰からも相手にされなくてもね」
その場面を思い出し、勇也さんが苦笑いを浮かべる。
「だから、君は安心して登校してくれ。大丈夫。君の周りには頼りになる友達がたくさんいるから……勿論、俺もね」
勇也さんは朗かに私に笑いかけてくれました。
その姿を見て、私の涙腺は崩壊しました。
「あっ、あ、あ…あり、ありがとうございます! ありがとうございます!」
涙があふれ止まらない。
唯々、周囲の優しい人達に私は感謝の気持ちを捧げました。
理不尽な世界だと思っていました。
どんなに真実を叫んでも相手にされず、その声は強い者によって簡単に押し潰される世界。
誰の助けもない。
声を上げても誰も見てくれないと、わたしは諦めかけていました。
そんな私を、皆が救ってくれました。
人に絶望した私が、こうして人に救われました。
皆、私のことを見てくれていました。
見なくなったのは自分だったのだと。
部屋に閉じこもり、ただ諦めていた私を彼らは救ってくれました。
私はずっとその場で感謝の言葉を言いながら泣いていました。
事件は解決し、私は再び学校へ登校できるようになりました。
噂もきれいに消え、学校側からも謝罪の声を聞きました。
でも、もうそんなことは私にはどうでもよくなりました。
なぜなら、
「おはよう、美優!」
「ハロー、美優、ハーワーユー?」
「何で英語なんだよ!? おはよ、波多野」
「おはよう、波多野さん」
私には大切な友達がいるから。
「おはようございます!!」
私も皆に負けないよう笑顔で挨拶をしました。
…………
……
…
「―――私は、本当に皆さんに感謝しているんです」
「……でも、まだ男性恐怖症は治ってないんだよね?」
飛鳥さんは沈痛な面持ちで私を見つめる。
そんな飛鳥さんの顔を見て胸が痛くなる。
飛鳥さんの言う通り、事件後、私は男性恐怖症になりました。
と言っても二十~五十代の大人の男性限定ですけど。
どうも肌が接触しそうになると、身体が勝手に震え出すのです。
そのため、事件後は電車を止め自転車で登校するようになりました。
「はい。でも、少しずつ良くなってきています。志くんや雄二さんともハイタッチできるぐらいまで治っていますから」
「……そう、なら良いけど。美優は、すぐ溜めこむ癖があるんだから、ちゃんと言ってね」
困った顔で飛鳥さんは私を心配してくれる。
「にしても、良いわね。好きな人と一緒に異世界でいきなりサバイバル生活なんて。普通ないわよ、こんな体験!」
「できれば、もっと安全なイベントならありがたかったんですが……」
「それでも羨ましいわ! ああ、何で勇也さんがここにいないんだろう!?」
飛鳥さんが溜息をつく。
そう飛鳥さんは志くん達の兄貴分である勇也さんのことが好きなのである。
そして、私は気づいていました――志くんが飛鳥さんのことを好きだということを。
恩人で親友の飛鳥さんに対し、嫉妬の感情が過る自分が嫌になります。
そんな思いを殺しつつ、
「でも、勇也さんもあのバスの中にいましたよね?」
「そうよ! どうやって隠れてたのか分からなかったけど」
勇也さんの話になり、飛鳥さんのテンションが上がる。
「でも不思議よね。バスの中にいたのに、あの女神様の場所にはいなかったわよね?」
「……もしかしたら、生存者って勇也さんかもしれませんね」
「あっ、そっか」、と一端、飛鳥さんは落ち込んだが、すぐに
「でも、生きててよかった」
と勇也さんの生存を喜んでいた。
「まあ、魔王を倒せば願いを叶えてくれるっていうんだし、元の世界にだって戻れるわよ」
「そうですよ。諦めず頑張りましょう」
飛鳥さんと微笑みあう。
なんか良い感じの空気に包まれていました。
しかし、
「zzzzz なにー!! 雄二め。『縛られた教師~禁断の関係~』だと!! レアものじゃないか! なら、僕は『洗わない女子高生~でもその香りは芳醇~』でどうだ!!」
志くんの寝息から一転、大きな寝言が森の中に響きました。
「「……」」
飛鳥さんと私は思わず無言になった後。
「アンタ、ちょっと起きなさい!!」
飛鳥さんの大声と「ムギョ!!」と志くんの悲鳴が轟いた。
※2018/6/30:誤字脱字等を修正。




