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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第2章(後半):ヨルド公国
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第31話:感謝祭一週間前

 ミーアと出会ってから三週間が過ぎた。

 その間、色んな所に皆で遊びに出かけたり、ミーアに地球のスポーツやゲームを教えたりして、僕達は一緒の時間を楽しんでいた。時折、ユリウスからの指令があったりもしたけど、僕達は問題なく指令をこなしていた。


 今日はミーアと二人で首都を観光していた。

 頭の上で「たかーい」とはしゃぐミーアを肩車して歩いていると。


「あれ? ガーナさん?」


 教会の門前で、トパズ村で教会のシスターを務めていたガーナさんを見かけた。


「? いえ、私はヨルド公国の教会を任されているシスターですよ」


 ガーナさんと同じ顔をした彼女は違うと答えたが、うり二つだ。


「もしかして以前トパズ村にいたことがありますか?」

「はい」

「やっぱり。その子は私の妹です。良く間違えられるんですよ」


 少し困った表情でシスターは話す。


「でもあの子が自分の呼び名を教えるなんて、よほど仲良くなったのですね」


 シスターの話を聞く限り、普通のシスターは自分の名前を他の人には教えないらしい。


「それで、今日は魔石の換金ですか? それともお祈りですか?」

「適当に街をぶらついていただけです」

「ミーアも一緒!」


 頭の上から元気良くミーアが返事する。


「そうですか。良かったですね」と言って、シスターはミーアと僕に(あめ)を渡してくれた。

 渡された飴を「ありがとう」と言って、頬張るミーア。

 ……くっ、リスみたいで可愛いよ。僕の娘。


「それにしても……慌ただしいですね」


 グルッと周囲を見渡す。

 首都は感謝祭(シーフェス)に向けて飾り付けを行い賑わっていた。

 屋台の場所で住民達が揉めているのを帝国騎士団が仲裁している姿やお酒を酌み交い楽しそうに話をしている人達など―――住民全てが感謝祭(シーフェス)を楽しみにしていることが伝わってくる。


「はい。感謝祭(シーフェス)まであと一週間ですからね。皆、張り切っているんですよ。ココロ様はこの国の感謝祭(シーフェス)の起源をご存知ですか?」

「わかりません」と答えると、シスターが教えてくれた。


感謝祭(シーフェス)

 この国を守護する海竜(リバイアサン)に日頃の感謝を伝える行事である。

 祭りは三日間続けて行われ、海竜(リバイアサン)を神輿とし担ぎ、海竜の大鐘がある中央広場に神輿を置くことで祭りが始まる。

 祭りの間、海竜(リバイアサン)が中央広場で人々を見守というかたちだ。

 人々は海竜(リバイアサン)に感謝の意を表して盛大に祭りを盛り上げる。

 祭り最後の日には神輿を港まで担いで海へと返すのだ。


 そして、海竜の大鐘の音とともに祭りが終わるのである。


(ドラゴン)はこの世界を守護する神獣様を守る大切な役目を担っています。私達は常に世界を守る神獣様と竜に感謝の祈りを(ささ)げなければいけません」


 シスターの説明を聞いていて、ふと疑問が(よぎ)る。


(あれ? じゃあ、この世界に来た時に最初に会った女神アンネムは誰なんだろう?)


 気になった僕はシスターに質問してみた。


「アンネムという神をご存知でしょうか?」

「……いいえ。教会ではそのような女神(・・)の名は聞いたことがありません」

「―――? そうですか」


 アンネムの名を聞いた瞬間、シスターが一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに笑顔に戻った。

 でも、僕はシスターが嘘をついているということが分かった。

 何故なら僕は一言も女神(・・)とは言っていなかったからだ。


 これ以上、シスターに女神アンネムの存在を聞いても無駄だと思った僕は、別の切り口から話をしてみた。


「ちなみに、この世界に魔王という存在はいるんですよね?」

「ええ、八年前ですが魔王を名乗る魔族の王が、この大陸に進行したことがあります。その時は、教会から召喚された光の勇者様により魔王は倒されました。今も魔大陸では魔王がこの大陸に進行してくるのではないかと噂されています」


 一応、魔王の存在はいるみたいだ。

 女神アンネムが言っていたことは間違っていないようだ。

 となると、 


(どうして、シスターは女神アンネムがいないと言ったのだろう? 教会のシスターが嘘をついてまで隠すアンネムって一体何者なんだろう?)


 そんなことを思案していると、


「ねえ、別の場所に行こう!」


 ミーアが話しかけてきた。どうやら退屈だったらしい。


「うん。そうだね。この辺で御暇(おいとま)しよっか! シスター、色々教えてくれてありがとうございました」

「いいえ、いつでも気軽に訪ねて来てください」


 ニッコリと笑いシスターは、再び飴を僕とミーアに渡す。

 ミーアはそれを頬張り美味しそうに舐める。


「では、また」

「ありがとうです! バイバイ」


 僕達は手を振ってシスターと別れた。


 ぶらりとミーアと街を探索していると、ミーアがあちらこちらに興味を持って色んな人に話しかける。その姿があまりも微笑ましかったのでしばらく眺めていた。


 ふと、気になったことがあったので、途中ミーアに聞いてみた。


「ミーアは感謝祭(シーフェス)は初めてなのか?」


 この国の住民なら誰もが知っているはずなのに、ミーアの目には全てが初めてのモノとしてとらえているように見えた。


「そうです。今までは隠れて生活していたから、感謝祭(シーフェス)のことは知っていましたけど、参加するのは今回が初めてです」

「そっか。ならお互い初めて同士だから、絶対楽しいよ」

「うん! 皆で感謝祭(シーフェス)を回るんです。パパとアスカママ、ミユママ、メルディウスさん、ガイネルさん、アナベルさん、あといたらトッティもいいかな」

「アハハ、トッティには随分厳しいな」

「いいです。トッティは同い年の癖にわたしより偉そうにするから」


 これから始まる感謝祭(シーフェス)を楽しみにする僕とミーア。

 ……本当に楽しみで仕方がない。


「うん。一緒に回ろう。最高の日にしよう」

「約束です。パパ」


 幸せそうに笑うミーアと指切りをして約束を交わした。


 …………

 ……

 …


 ミーアと街を巡った後、雲行きが怪しくなってきたので急いでコーネリアスさんの屋敷に帰って来た。 


 すると、


「―――そうですか。ミーアにそんなことが」

「それも全てアンタのせいよ! だからもう二度とミーアに近づかないで」

「……それは、無理ですわ。なぜなら、ミーアはわたしの実の娘なのですから」

「ふざけないで! 出てって!」


 飛鳥の怒号が屋敷の外にまで響いていた。

 恐る恐るミーアと一緒に中へ入ると、机に手を当て目の前の椅子に座る女性を睨みつけている飛鳥がいた。


 椅子に座っている女性は誰だろうと、考えていたら


「ママ?」


 横からミーアが椅子に座る女性に話しかけた。

 女性は二十代半ばぐらいだろうか。

 薄っすらと金色の長い髪を後ろにまとめており、なんとなくミーアと顔立ちが似ている。

 女性はミーアを見てパチリと目を大きく開けた後、すぐに


「……ミーア。久しぶりね。元気だった?」


 ミーアに優しく声をかけた。

 しかし、ミーアは何も答えられずブルブルと身体が震えている。

 そんなミーアに、


「親に尋ねられたのに返事もできないなんて、やはり貴方という子は本当にクズなのですね。わたしにいつも迷惑ばかりかけて、本当邪魔な存在。役立たずの無能な子。さすがは低俗で野蛮な亜人といったところかしら」


 椅子から立ち上がった女性は、いきなりミーアを中傷し始めた。

 興奮しているのか、ドレスの裾を握りしめている箇所はぐちゃぐちゃになっている。


 呆気に取られた僕は、そのやり取りを思わず見入ってしまったが、


(―――何やってんだ! 僕は!)


「止めろ!」


 すぐさまミーアを背にかばい女性の間に入った。

 と同時に、


「【水弾(ウォーターバレット)―――発動(セット)】!」


 飛鳥が自分の神具―――杖を女性に向けて、水魔法を放った。

 水弾は女性にぶつかり、女性は地面に倒れた。


「飛鳥!」


 気持はわかる。むしろ、さすがは飛鳥様と手放して褒めたい思う。

 でも、僕達の神具は強力すぎるのだ。

 人なんて簡単に殺すことができるのだ。

 飛鳥や地面に倒れている女性のことが気になり、思わず飛鳥に声をかけてしまった。


「次、ミーアに同じこと言ってみなさい……本気で放つわよ!」


 一応、飛鳥は手加減をして魔法を放ったみたいだ。

 女性はうつ伏せの状態から立ち上がろうとしていた。

 どうやら生きているようだ。


「……酷いですわ。わたしはただ自分の娘に教育を(ほどこ)してあげたというのに」


 ずぶ濡れの状態で立ち上がる女性。

 ポタポタと長い髪から水滴が流れ落ちている。


「もう黙りなさい……次は本気よ」


 飛鳥の周りに浮かぶ水弾の形が、針の形に姿を変える。

 飛鳥の本気さを感じ、女性が思わず顔をひきつる。


「ふん。今日のところはこれで引き下がりますが。必ずミーアは返してもらいますからね」


 女性はそう言い残し、部屋を後にした。

 残っているのは僕、飛鳥、そしてミーアの三人だ。


 ミーアは最後まで女性と目を合わせることなく、僕の服を握りながら震えていた。

 そんなミーアに、


「ミーア!」


 飛鳥がぎゅっと彼女を抱きしめた。


「大丈夫だから。アンタをあんな奴に渡したしたりしないから」

「アスカママ!」


 少し落ち着いたのか、ミーアが飛鳥にしがみ付く。

 僕もミーアに話しかけようと後ろを振り返る。

 すると、部屋から出て行ったはずの女性がドア越しから僕達をじっと見ていたのだ。


「―――まだ、何か用があるんですか!」

「……忘れ物をしたので、戻って来ただけですよ」


 そう女性は言って机の下に置いてあった自分のカバンを手に取る。

 女性は去り際に僕達に向かって、


「そうそう、自己紹介がまだでしたね。わたしはルアーナと申します。これからよろしくお願いいたします……ミーアは必ず返してもらいますから」


 宣戦布告を行い、今度こそ部屋から出て行った。


 …………

 ……

 …


「志! 塩持ってきて! 大量に」

「……飛鳥って考えが古風的だよね」


 今時、女子高生が嫌いな相手がいたからという理由で厄除けの塩を要求するかな。


「アスカママ、どうして塩なの?」

「私達の世界では、嫌いな相手がいた場所に塩をまいて殺菌するのよ」

「殺菌?」


 知らない単語にミーアが興味を持つ。

「ミーアも手伝って」と、先ほどの暗い雰囲気をなくすかのように飛鳥が次々とミーアに明るく話しかける。そんな明るく振る舞う飛鳥に徐々にミーアの顔も笑顔になる。


 そんな二人のやり取りを見てホッとした僕は、取りあえず飛鳥に言われた塩を持ってくるために厨房へと向かった。

 その道中、


「ん?」


 窓の外から、何やら人影が見えた。


「……あの人」


 ルアーナが屋敷の前で深くお辞儀をしていた。

 外は雨が降っているが、そんなことはお構いなしに頭をずっと下げたままだ。


(もしかして反省している? いや、そんなわけないじゃないか!?)


 先ほどのミーアに向かって吐いた言葉には悪意しか感じられなかった。

 そんなクズのような大人が、今さら何をしているんだ。


 そんな激情が頭の中によぎり、僕はルアーナをしばらく睨みつけていた。

 ルアーナは雨が止むまでその場から離れず、ずっと頭を下げていた。


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