第26話:アシルドの屋敷調査
「でかいわね……だけど、だいぶボロボロね」
「庭も雑草が伸び放題ですし。誰も手入れしてないみたいですね」
ヨルド公国の北部。
宮殿から東に離れた大きな屋敷の前に僕達はいた。
屋敷は石壁にグルッと囲まれており、そこからひょこっと顔を覗かせる紫色の屋根は塗装が所々剥がれ、黒くくすんだ箇所がいくつか見える。
城門から見える庭は草木がボウボウと茂っており、中央に見える噴水らしき物体はその体を成していない。
そんな廃墟と化した屋敷を見て、飛鳥と美優が素直に感想を述べる。
「元々、粛清したヨルド公国の貴族の家ですが、五年前にアシルドがこの空家を買取ったそうです」
城門の鍵を解除しながらアナベルが説明する。
「先日の調査で屋敷内のトラップは、全て解除していますので安心してください」
アナベルの後をついて行き、僕達は屋敷内へと入る。
そう、僕達はアシルドのアジトの調査に来ていた。
素材集めと猫のコーネの捜索は後で行うことになった。
コーネリアスの猫は、よくいなくなるらしいが、しばらくしたらヒョッコリと帰ってくるらしい。
従って緊急性は無いということで、宮殿近くにあるアシルドのアジト調査から始めることになった。
……というか、猫の捜索はいらないんじゃなかろうか。
そのことをアナベルに尋ねたところ、
「団長のご子息で、〝魔研“のトップの方なので……そのー、断り辛くて……」
団長もこの件に関しては諦めているらしい。
ちなみに〝魔研“とはベルセリウス魔法研究所のことである。
帝国内でも優れた魔力を持つ者やコーネリアスのように魔導具生成のエキスパートが募る帝国一の魔法研究所である。
現ベルセリウス皇帝の提案により創設された本研究所は、帝国内の魔法レベルを飛躍的に高めた。
他国でも使われているが、巻紙を使った魔法形式を編み出したのは、コーネリアスの功績によるものらしい。その他にも、ガイネルがアシルドの部下達に使った記憶を覗く魔導具もコーネリアスが開発したものである。
閑話休題。
今回の調査は、僕、飛鳥、美優、メルディウス、アナベルの五人で行われた。
二階建ての屋敷は外観と同様に中もかなり荒れていた。
穴の空いた床板にカビで腐食している箇所があちこちで見られる。
カビ臭い匂いに飛鳥、美優が顔を歪ませる。
これでも一応、掃除はしたらしい。
先日の調査のときは、腐った食料やそれに群がるネズミなどがいて、かなり悲惨な環境だったみたいだ。
掃除してくれた人に感謝しつつ、僕達は屋敷内を調査した。
特に危険な場所はないということで、僕達は別れて調査を始めた。
勿論、コーネリアス作成の『何でもみつカールクン三号』を装備してだ。
二階を一時間程調査した後、一階のある空き部屋に入った。
ところ狭しと本が床に積まれ、隙間が空いた本棚がいくつか見られた。
特に怪しいところはなかったので別の場所へ向かおうとしたとき。
(あれ? この本棚。コーネリアスさんの私室で見たのと似てるな)
気になった僕は室内に留まり、本の整理整頓を始めた。
「この背表紙は……こっちで。あっ、この色はこっちかな」
床に置かれていた本を次々に並べていく。
一応、巻数を揃えたり、背表紙の色が統一するよう並べていく。
アシルドの屋敷に訪れる前、僕はたまたまコーネリアスの私室で動く本棚を見せてもらった。コーネリアスが統一した順に本に並べると、本棚が自動で動いたのだ。
ちなみに本棚の裏には、猫の姿絵を写した紙が大量に壁に貼られていた。
……そこまで自分の猫が好きなのか! あの人は。
やはり、本棚を整理していると棚から引き抜くことができない本が数冊あった。
コーネリアスの本棚と同じだ。
もしかしたらと思い、落ちていた本を全て棚に収納した。
と同時に、
「志! 何か見つかった?」
飛鳥が部屋に入ってきた。
釣り事件(別名:パンツ事件)以降、飛鳥の呼び名が剛田君から志に戻っていた。
最も僕とあまり顔を合わせないようにしているのは変わらないけど。
「何も見つからない。そっちは?」
「私もおんなじ。何も見つからないわ」
本当になにかあるのかしらと、首を傾げる飛鳥はふと僕が整理整頓した棚を見た。
「随分キレイに整頓されているわね」
「ああ、ちょっと気になってね」
「だからって、こんなに綺麗に整理整頓しなくてもいいじゃない! 時間の無駄よ。ったく」
何やってんのよと、呆れる飛鳥。
慌てて飛鳥に整理整頓を行った訳を話そうとしたときだった。
「あれ? 何かこの壁の窪み光ってるんだけど?」
「えっ! どこ?」
すると飛鳥が指差した箇所―――本棚と反対側の壁の窪みがうっすら光っている。
恐る恐るその窪みに手を当ててみる。
途端―――
「きゃあああ!」
悲鳴と共に飛鳥が突然姿を消した。
「飛鳥ぁああ!」
飛鳥がいた場所を見ると、床下に降りる階段が現れた。
急いで階段を降りると、「イタタ」とお尻をさすっている飛鳥がいた。
どうやら無事のようだ。
「大丈夫?」
「なんとかね。というか、ここどこ?」
「地下室みたいだ……しかも秘密裏のね」
辺りを見渡すと、奥に一本の通路が見つかった。
周囲を警戒しつつ、通路を進んで行くと大きな扉が現れた。
飛鳥と目を合わせ、扉を開けると
「なっ!!」
「―――!!」
そこには地獄を模したような光景があった。
円状の広間の壁沿いにある鉄格子の牢屋。
その中に、腐敗したソレが置かれていた。
ソレはヒトの形を模した何かだった。
入ってはいけない。
入ってしまえば、また自分の中の常識が崩れてしまう。
そう心は囁くが、目の前に無数に置かれているソレから目を離せない。
むしろ、体が勝手にソレに近づいていく。
ソレと称していたモノへと近づき、ついに僕はその正体を突き止めた。
広間に入った時から、感じ取っていた通りだった。
ソレは―――
「いやぁあああ!!」
口元に両手を当てて飛鳥は悲鳴を上げた。
飛鳥もわかったのだろう。
ソレが人の死体だったということを。




