SS3-2話:光の勇者の誕生
少し不快に思われるかもしれません。
その場合は、読み飛ばしていただけると幸いです。
高木達がオーラル王国に来て一カ月が過ぎた。
彼らの生活は日本にいた頃に比べ大きく激変した。
オーラル王国は、四人が望む通りにありとあらゆる物を彼らに与えた。
贅沢の限りを尽くした豪華な食事、お城のような家、高級な衣服に宝石といった贅沢な装飾品まで。
さらには従順でかつ容姿の優れた男性や女性―――つまり彼らの好みの異性が用意された。彼らがどんな理由でその人達を要求したのかはご想像にお任せしたい。
とにかく、オーラル王国は彼らが思いつく限りの欲望を全て叶えてくれた。
勿論、彼らも最初はこのような要求はしなかった。
しかし、オーラル王国から勧められている内に、いつの間にか謙虚な心を失い、次第に傲慢な態度を取るようになった。
「今日は、何匹倒した?」
「五十六匹かな」
「よし! 勝った~私、七十匹だもん」
「ふん、お前達は雑魚しか狙っていないではないか! 僕はあんなでかい魔物を倒したぞ」
高木、田中、遠藤、原が今いる場所は研究所の中にある広間である。
通常は貴族達が戦闘訓練を行う訓練場だが、今は血が飛び交う惨劇の場へと姿を変えていた。
至る所に、真っ赤な血がこびりついている。
そして、地面に横たわっているのは多数の魔物と人間の死体だった。
死体の中には、人間だけでなく獣人や亜人の姿もあった。
そう、先ほど高木達がカウントしていたのは殺した魔物と人間の数だった。
神具の研究が始まった当初は魔物を殺すだけだった。
まるでゲームのように簡単に敵を倒す作業だったが、徐々に敵が獣人や亜人といった人の形をした物へと対象が変わっていった。
人を殺すことに初めは抵抗があった四人だが、イデントの巧みな話術に徐々に人を殺すことに抵抗がなくなった。
あれは奴隷なんだから問題ない。
俺達は選ばれた人間なんだからと。
午前中の訓練という名の実験が終えたら、自由時間になる。
四人はそれぞれの家へと戻り、各々の快楽を限りなく楽しむ。
これが四人のいつもの一日だった。
そう、誰も俺達を支配する人なんていないんだと。
そんな四人にとっては当たり前の生活が過ぎた頃。
「それでは本日の最期のテストです。この仮面をつけてください」
そう言って、イデントは四人に白い仮面を渡した。
「何なのか」と、高木が尋ねると、「勇者様の力を更に強くさせる魔導具です」と、イデントは説明した。
特に問題はないと思い四人は仮面を取り付けて、いつもの訓練場へと向かった。
訓練場には誰もいなかった。
「おい、何やってんだよ!」
田中がガラス越しの窓から覗いているイデントに向かって叫ぶ。
以前まではクラスで大人しかった彼とは思えないほど、横柄な態度だった。
「すみません。それでは、今から開始します」
イデントがブツブツと詠唱を唱える。
すると、四人の視界が突如暗転した。と同時に身体が動かなくなった。
「それでは、最後のテストを始めます――皆さん、遠慮なく殺しあってください」
イデントの開始の合図とともに、四人は動いた。
「おい! 一体なんだよ。これ」
「ちょっと、高木。止めてよ!」
高木が遠藤に向けて神具で創成した刀を振るう。
同じように神具で創成した円月輪で高木の神具を受け止める遠藤。
高木がチラリと横を見ると、田中と原も自分達の神具を取り出して戦っていた。
「冗談は止めろ! イデント」
「イデント! 身体が勝手に動くの」
イデントに向かって叫ぶ高木と遠藤。
その二人を見て、イデントは優越な笑みで見下ろす。
「最後のテストは、勇者様達の神具の力を限界以上に開放させる実験です。今、皆さんがつけている仮面は、皆さんの限界を取り除き、こちらで制御できるようにする魔導具です」
「なっ、ふざけるな!」
「いえ、ふざけていませんよ――だから」
イデントが詠唱を唱えた途端、四人の神具の力が強く引き出された。
同時に、四人の表情はかなり苦しそうに見える。
「ほら、まだまだ限界に達していない! 素晴らしい、実に素晴らしい素体ですよ。貴方達は!」
興奮したイデントは歓喜の声を上げ、さらに高木達を戦わせる。
「や、止めて!」
「止めてくれ」
泣きながらイデントに懇願する遠藤と田中。
だが、イデントはまったく聞き入れる気配がない。
「……一つだけ助かる方法がありますよ。それは、目の前の相手を殺せばいいんです。最後にこの場に立っていた人が生き残ることができます」
残酷すぎるイデントの言葉に、高木達が唖然とした表情を浮かべる。
人を殺すことに抵抗がなくなった高木達でも、仲間を殺すことに抵抗があった。
ただ、一人を除いて。
「えっ」
田中が呟くと同時に、田中の右半身が突如消滅した。
田中は自分の身体を見た後、地面に倒れ二度と動かなくなった。
「僕は悪くない。これは仕方がないことなんだ」
原 貴士が自分の神具――大剣を使って田中に攻撃したのだ。
「先生!」
「嘘でしょう」
その姿を見て思わず絶句する高木と遠藤。
「お前らも死ね!」
鬼のような形相をした原は、高木達に向けて大剣を振るう。
大剣から放たれる〝天“属性の光線が高木達に次々と襲い掛かる。
高木は刀で何とか原の攻撃を防御する。
遠藤も円月輪を使って遠距離から原を攻撃する。
しかし、
「ふはは、力が、力が溢れてくるぞ!」
原の攻撃は一向に止まらない。
更に光線の威力がどんどん増していき、高木達が神具で裁ききれなくなってきた。
よく見ると、死んだ田中の上に珠のような物が浮いており、その光が原へと吸収されている。
「おお! やはり、同じ属性の宝珠を持つ者同士で殺しあえば、力は一つになるという理論は正しかったようですね」
興奮した様子でイデントが話す。
原達―――いや、異世界に来た志達が持つ〝神具“の源は体内にある〝宝珠”と呼ばれる物だった。
遠い昔、マナを創り出す七属性の〝宝珠“がこの世界にあった。
しかし、ある日、宝珠は砕け、その半分の宝珠の欠片が原達の世界に流れた。
そして、どういったことか、宝珠は高木達―――つまり、日本から転移してきた人達の体内に神具として埋め込まれ、異世界へと戻ったのだ。
「教会の力を借りて天属性の勇者を召喚できるよう取り計らい貴方達が現れました。こちらの要望通りに、ちゃんと天属性の神具を扱えることも確認しました。貴方達は実に役に立ちました。貴方達が殺した魔物や奴隷達は我が国の力として吸収することができましたから」
喜々悦楽とした表情で高木達に話かけるイデント。
高木と遠藤は原の攻撃で手一杯な状況だった。
「あとはこのテストで本当に宝珠が一つになるのか、確認したかったのですが、どうやら本当のようですね」
今までのテストでは見られなかったパワーアップした原の力を見て、イデントはそう判断した。
イデントの言う通り、田中を殺したことで原に田中の〝宝珠“が吸収されたのだ。
原は狂気に満ちた声を出しながら攻撃する。
その攻撃に徐々に押され始めた高木と遠藤。
やがて、二人はイデントの言葉を聞いて同時に決断した。
――弱い方を殺して自分の力にすると――
「ガッ!」
「グフッ」
高木と遠藤は自分の神具を相手に向け攻撃を仕掛けたのだ。
その結果、高木は右腕が消失し、遠藤は斜めに身体を斬られた。
「な、なにしやがる!」
「あ、あ、アンタこそ、何よ! どうして私を殺そうとするの!」
「当たり前だ! お前を殺して俺が生きるためだよ!」
「やっぱり! だから私も攻撃したのよ!」
お互いに言いあっている様があまりにも醜く見えた。
元恋人同士とはいえ、自分の可愛さほしさに裏切る選択肢を二人は平然と行ったのだ。
だがそんな醜い言い争いは直ぐに終わった。
「死ねぇえええ!!」
「い、いやだ! 死にたくない!!」
「や、やめてぇえええ!!」
原が放つ極大な光線により、二人の肉体は瞬く間に消滅した。
現在、訓練場にいるのは、原一人だけであり、その原は狂ったように高笑いをしている。
「やったぞ! 僕は生き残った! 生き残ったぞ!」
原は元々教師という職業などやりたくなかった。
だが周りの大人や親に勧められて仕方なく先生になったのだ。
そんな原は生徒のことを常に見下していた。
うるさい羽虫が、私に話しかけるんじゃねえと、人として見ていなかった。
だから、生徒を殺すことに何の抵抗もなかった。
むしろ、
「これは実に気分がいい!! 最高だ!」
高木と遠藤の宝珠が原に吸収され、その快感に原は身を震わせる。
その快感にはストレス源である生徒を殺した爽快感も含まれていた。
「実験は終了です。原さん、お疲れさまでした」
「……もう、何もないよな」
「ええ、全て計画通りですよ、原さん」
訓練場に降り立ったイデントが原に気軽に話しかける。
この最終訓練の前、イデントは今回の殺し合いの内容を原だけに先に伝えていた。
原はそのことを知っていたため、躊躇することなく田中を殺すことができたのだ。
さらに、イデントが仮面を使って高木と遠藤の力を抑えていたため、原は簡単に高木達を倒すことができたのだ。
「これからもよろしくお願いしますよ」
「ええ、こちらとしても話が分かる相手に手伝ってもらえるほうがありがたいので」
こうして、オーラル王国に光の勇者が誕生した。
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