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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第1章:SS
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SS2-4話:私の友達

 クミちゃんとの生活が二週間を過ぎた頃。


 村人にクミちゃんのことがばれた。


 私のミスだった。

 小川で水遊びがしたい、とクミちゃんに頼んで、一緒に小川で遊んだのだ。

 正直、私は浮かれていた。

 この楽しい友人と一緒にいることがとても楽しかったから。

 はしゃいでいた私は足を滑らせ、川でおぼれてしまった。


 そんな私をクミちゃんは川から助け出し、すぐさま村へと連れて行った。

 私はその時のことを覚えていないが、村では人間が私を抱きかかえて現れたことで、ひどく困惑していたそうだ。

 人間を信用しない村の人達だったけど、クミちゃんの必死の説得により、私は命を取りとめることができた。


 その代償として、クミちゃんは村の牢に連れて行かれた。

 身の安全を潔白するため、自ら牢に入ったそうだ。

 その話を聞いたとき、私は申し訳なさと自らを省みないクミちゃんの私を想う行動に思わず涙を流した。


 クミちゃんが牢屋に連れていかれて三日が過ぎた。


 その日の真夜中。

 私は黒装束に着替え、家を飛び出した。

 行先はクミちゃんがいる牢屋だ。

 私が人間を逃がしたと村の人達に知られれば、この村にいることはできない。

 皆、私が成人するのを楽しみにしていたのに、その期待を裏切るのは本当に申し訳ない。

 だけど、命を救ってくれた恩を返せないまま、のうのうと生きるなんて私にはできなかった。


(私の命を懸けて、絶対あなたを助け出して見せる!)


 そう誓って、クミちゃんが捕まっている家へと侵入した。

 すると、


「わっはははは!」

「おい、客人にもっと酒を持ってこい!」

『ハイホー』

「クミさん、まあおひとつどうぞ」

「……(モグモグ)上手い」

「ああ、可愛いらしい、クミさん最高!」

『ハイホー、ハイホー』


 侵入した牢屋が宴会場になっていた。


「えっ?」


 目の前のあり得ない光景に、私の思考はしばらく停止した。

 目の前には、村人の獣人達とクミちゃん、そしてハイホー族が酒を飲みながら楽しく話をしているからだ。


(えっ! なにこれ!? なんでクミちゃんと村の人達が仲良く喋っているの!?)


 隠密行動も忘れ、呆然とそんな光景を眺めていたら、


「おう! レナじゃねえか。どうした、こんな夜遅くに」

「そうだ、そうだ! お前は子供なんだから、早く寝てろって……それとも、お前も酒を飲みに来たのか!」


 ガハハと酔っぱらった大人の獣人達が私に声をかけてきた。

 正直、大人達のテンションの高さについて行けなかった。


「……あっ、レナ~」


 私がいることに気づいたクミちゃんは、テクテクと私のところまで近づいてきた。

 そして、ガバっと私を抱きしめる。


「……モフモフ成分補充~」


 ……どうしよう。この可愛らしい生き物は。

 自分の心の中に変な感情が生まれた気がする。

 これがクミちゃんが度々私に教えてくれた〝萌え“という気持ちなのだろうか。

 クミちゃんを優しく抱きしめ返していたら、レジス村長(狸族の獣人)が声をかけてきた。


「お前さん一体どうしたんじゃ、こんな夜更けに?」

「……クミちゃんが牢屋にいると聞いて、助けに来ました」

「そうか、命の恩人を心配し、助けに来たと……うむ、立派な心掛けじゃ!」

「しかし、無駄足だったようですけど」


 周囲を見渡すと、人間(クミちゃん)や魔物の『ハイホー族』がいるにもかかわらず、村の人達は恐れるどころかとても楽しんでいる様子が伝わってくる。


「ワシらも初めはクミさんをどうするか迷ったのじゃが――」


 人間が村にやってきたと知ったとき、レジス村長は恐怖した。

 この村は人間の魔の手から逃れるため隠遁生活を行っている。

 そんな場所に、ある日、人間が自分達の村の子供を抱きかかえて、必死な形相で「助けて!」とお願いするのだ。

 村人達もどうして良いのか分からなかったらしい。


 (レナ)の治療を終え、牢屋に自主的に入ったあの娘をどうするかを村で散々話し合った結果、取りあえず、話だけでも聞いてみようと村長達は牢屋へと向かった。


 すると、どこから入ってきたのか魔物の『ハイホー族』と人間(クミちゃん)が楽しそうに宴会していたのだ。どこから持ってきたのか、美味しそうな肉や果物とお酒まで用意されていた。

 その光景に唖然としていた村長達だったが、クミちゃんから


「……あっ、良かったらどうぞ」


 毒気のない無邪気な笑顔で酒を注がれ、気づけばこの有様になっていたらしい。


 ……本当に規格外の人である。


 今も私の体毛をモフモフと触る友人の姿を見て、私は思わず笑ってしまう。


「ええ、友人を持ったのう」


 その様子を見て、感慨深くレジス村長が私に尋ねた。

 その問いに、


「はい、最高の友達です!!」


 満面の笑みで私は答えた。


 余談だが、


「あのーところでクミちゃんにお酒を飲ませても大丈夫なのでしょうか?」

「何を言っておる。あの子は十六と言っておったぞ。もう成人しておるわ」

「えっ、十六ぅうう!! 私より年上じゃないですか!」


 親友が私より年上だったことを、このとき知った。


木原(キハラ) 久実(クミ)のサイドストーリーはこれで終了です。

次回、2話の話の後、2章をスタートする予定です。


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