表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第1章:SS
29/293

SS2-1話:出会い

木原(キハラ) 久実(クミ)のサイドストーリーです。

 私はレナ。

 猫族の獣人だ。


 私は今年で十四歳になる。そして翌年は成人の儀を受け大人の仲間入りができる。

 だから、この一年は村の皆のために、自分にできることを精一杯やろうと決めた。

 子供だからって甘えてばかりではいられない。


 今、自分にできること。それは狩だ。

 年齢は若いが村の中で一番の槍使いという自負があり、狩は得意なのだ。

 最近、近くの森で食料が採れなくなり、村の人達が嘆いていた。

 今こそ私の出番だ。


 私は意気揚々と狩場へ向かった。


 いつもの狩場となる森に入ると、どこかいつもの森と雰囲気が異なった。

 野生の動物達や魔物がざわついているのだ。

 もしかしたら人間がやってきたのかもしれない。

 そう思うと、自分の尻尾がピンと跳ね上がる。


 人間は恐ろしい生き物だ。

 私達獣人を見つけたらすぐさま首輪をかけて奴隷にしてくる。

 奴隷になった獣人は悲惨な人生を過ごすと、よく村の人達に聞かされていた。

 私は人間とは会ったことがないが、血も涙もない悪党なのだと思っている。


 人間は私達と違い体毛がないので、すぐに見分けがつくと村長も言っていた。

 見つけたら、まずは村に通報しなければいけない。

 人間一匹見つければ、三十匹湧いてくるというのは、獣人の当たり前の常識である。


 自らの気配を森と同化させ、獲物を探す。

 すると、川岸にゴーグルをつけた豚がバシャバシャと水浴びをしている。


(しめた! 水豚(スイトン)です)


 ターゲットにばれない様そっと近づき槍を構える。

 そして、水豚の急所を目がけて、槍を投擲した。


(やった!)


 投げた瞬間仕留めた、私はそう思った。

 だが、ガキンという音と共に槍がはじかれた。

 水豚はその音に驚き慌てて、水中に潜ろうとする。


 だが、次の瞬間、突如水豚がその場をドスンと倒れたのだ。

 よく見れば気を失っている。


「誰!? 出てきなさい」


 かなりの手練れだと思った。

 石を投げて自分の槍をはじき、さらには不可思議な術を使って川豚を無力化した相手。

 周囲を警戒していたら、反対の川岸から不思議な少女が現れた。

 何故、不思議な少女と判断したのか。

 それは――

 『ハイホー族』の仮面と、葉っぱのビキニアーマーを身に着けていたからだ。


「貴方は、人間ですか!?」


 槍を構え奇妙な格好をした少女に向かって叫ぶ。

 もし『ハイホー族』と繋がりあるのなら厄介な相手である。


 『ハイホー族』はDランク相当の魔物であり、小人の姿をしている。

 小さな原住民をイメージすると分かりやすい。

 魔物にも拘わらず友好的な生き物であり、常に『ハイホー』と喋る。

 愛くるしさもあり可愛がられている魔物なのだが、仲間を傷つけられた時、彼らは怒る。

 その時の力は、Cランク相当に及ぶと言われているため、彼らを決して怒らせてはいけない。


「……」


 少女は何も発しない。

 小柄な少女の外見にも関わらず、彼女からはゴゴゴと威圧感のようなものを感じる。


『ギューーー、グルル、グー』


 少女のお腹の音だった。


「……それ、私の獲物。横取り駄目」


 ようやく少女が喋った。

 お腹が空いているのか、小声でボソボソと話す。

 言葉も発したことから『ハイホー族』ではないようだ。

 それに声色からしてやはり少女のようだ。

 男がわざわざ胸元を葉っぱで隠すはずがないのだから(彼女は男と間違うくらい胸がなかった)。


「それはすみませんでした。あのー、ところであなたはどこから来たのですか? そして、やはり人間なのですか?」


 続けざまに質問する。

 仮面で彼女の顔が見えないため亜人かどうかの区別がつかない。

 もしかしたら、北にある人間の国から逃げ出して来た亜人の可能性もあった。

 私は慎重に尋ねた。


「……」


 彼女は再びダンマリ状態になった。


(やはり人間なのでしょうか、ならばすぐに通報しないと)


 そう考えたとき、少女は突然バタンと倒れた。


「えっ!」

「……め、飯を……飯をプリーズ」


 弱々しい声でご飯を要求する少女に思わず呆然としてしまった。


 結局、気絶した少女をほっとくことができなかったので、その場で気を失っている川豚を勝手に調理した。

 元々、この森で何年も生活してきたので野外調理は得意だ。

 薪に火をつけ、川豚の内臓をキレイにさばきながら、お手製の香辛料をふりかける。

 豚の丸焼きだ。

 シンプルで最も美味しい食べ方だ。


 匂いにつられたのか、少女はムクリと目を覚ました。

 そして、水豚の丸焼きを見るなり、仮面を外して飛びつきガツガツと食べ始めた。

 やはり、人間のようだ。

 亜人のように頭に獣人のような特徴が見られない。


 少女が人間だと分かり警戒色を深めたが、


「うまい! うまい! うまー!!」


 美味しそうに自分の料理を食べる少女の姿を見て気が緩む。

 取りあえず、少女が食べ終わるのを待ってから考えよう、そう思い自分の分の料理を食べた。

 うん。中々美味しくできた。


「……ありがとう、あんなに美味しい料理食べたことない」


 食事を終え落ち着いた少女がこちらを見て深々と頭を下げる。


「どういたしましてです。あんなに美味しそうに食べてくれて、作ったかいがありました」


 食後のお茶を用意していたので、少女に渡す。

 少女はそのままスッとお茶を飲み、「……うまい」と満足な表情を浮かべる。

 改めて少女を見ると、肩口まで伸びた綺麗な黒髪と顔立ちをしている。

 種族は違うが誰が見ても美しいと感じさせる容姿をしていた。


「あのー改めてお聞きしたいんですが、貴方は何者ですか? どこから来たのですか?」


 少女はその質問を聞いて一瞬目をパチリとした後、


「私の名前は木原(キハラ) 久実(クミ)。異世界からやってきた勇者らしい?」


 首を傾げながら疑問形で自分の職業を説明した。


 こうして、私ことレナは異世界から来た不思議な勇者様(クミちゃん)と出会ったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ