SS1-4話:こうして俺の職業が決まった
「……おい、何勝手に人の部屋に入ってやがる」
ベッドで寛ぐクリスとセリスに白い眼を向ける。
もういい、何か面倒臭くなったので怒る気力も失った。
「なんだ、その態度は! せっかく私が来てやったというのに」
「……(ギロリ)」
「すみませんでした!」
調子に乗った態度を見せたのでクリスを睨みつける。
クリスはすぐさま土下座して謝罪する。
躾はちゃんと効いていたようだ。あれで駄目ならもっと別の手段を考えよう。
「ユウジ様。申し訳ございません。どうしてもお兄様が言うことを聞かなくて」
セリスが申し訳なさそうに謝る。
「別にいいだろう。セリスの〝心眼“で信頼に足る人物ってのはわかってんだろう。なら大丈夫だろう」
「それはそうですが……お兄様。ユウジ様にも都合というのがあるのですよ」
反省の色が見えない兄を諫める妹。
ただ自分としてはそんなことより気になる言葉があった。
「〝心眼“とは何だ?」
「私の特殊能力です。私には相手の心の色が見えるのです」
セリスが心眼について説明してくれた。
『心眼』――
グランディール王国の王族だけしか使えない特殊な魔眼のことだ。
この力は相手の嘘を見通すだけでなく、相手の心の色を把握することができるらしい。
黒く淀んだ色であれば悪事を、青色であれば悲しみを抱えているなど、人の心理状態を見通すことができる。
「ユウジ様を初めて見たとき驚きました。清水のように澄んだ透明な色と深い青空のような色を持つ人を見たのは初めてでしたから」
「……」
「実際に助けられて、改めてユウジ様の優しさを感じることができました。この人は信用できるお方だと」
セリスの話を聞くと、セリスとクリスは王位継承権の問題で周りに頼れる人達がいないらしい。順当にいけば〝心眼“を発現できるセリスが王の座に就くはずだった。しかしセリスとクリスの母親は平民の出であるため、周りの夫人達が納得していないらしい。
特に、第一夫人のイザベラは自分の子供こそが次期王様であると周囲に風潮している。
「母が死んだ原因も恐らくイザベラ様の仕業と私は思っています」
セリスが二歳の時に〝心眼“を使えることがわかり、場内は大いに沸いた。
そして、セリスは次代の王様になることが決定された。
それほどまでに〝心眼“という能力はこの国とって重要なモノだった。
しかし、その風潮に反するように第一夫人を中心とした反対勢力が生まれ、城内は二つに分かれた。その際、セリスの母親は不慮の事故で亡くなったことになっている。
セリスはそのことを嘆き、〝心眼“は使えなくなったと父親にウソをついた。
以降、セリスが次期王様という立場はなくなったが、反対勢力は今だにセリスに気を許していない。
「あいつは自分の地位を守りたいだけのゴウツク婆だからな」
セリスが今も〝心眼“を使えることは、クリスとトーマスだけが知っている。彼らはそうやって殺伐とした権力争いから自分達の身を守っていたのだ。
「なるほど。で、そんな重要な秘密を俺なんかにばらして大丈夫なのかよ?」
「はい。ユウジ様なら問題ありません」
「言いふらしてもしらねえぞ」、と悪態をつく。
……まあ、最も言いふらすつもりはないが。
「じゃあ、お前達の目的は何だ? まさか俺もその権力争いに付き合えってことじゃないだろうな」
「違います! 私、いえ私達はユウジ様とお友達になりたいのです。気を許せる相手がいないのは辛いのです……」
俯きながらセリスが話す。
クリスも深刻そうな表情でこちらを見つめる。
そんな二人の姿を見て、俺は頭をガシガシと掻く。
「はあ~、もう好きにしろ。ただし、一つ言っておくが、もし俺に不利益を被ることがあれば直ぐに消えるからな」
「はい! ありがとうございます」
「おう。気を付けるぞ」
俺の返事にセリスとクリスが嬉しそうな表情を浮かべる。
……面倒臭いことになったが、まあ何とかなるだろう。
「ちなみに対外的な形として、ユウジ様は私達の護衛騎士という立場になります」
「って早速、迷惑かけてんじゃねぇええ!!」
知らない間に勝手に俺の職業が決まっていたことに驚く。
「いえ、あくまでユウジ様は私達の専属ということで、ユウジ様の行動を制限するものではありません。むしろ、本国でのユウジ様の行動はとりやすくなると思います」
「……そうか、ならいい」
確かに身分不詳の人間だからなあ。
色々情報を得るのに、身分はあったほうがいい気がする。
……でも何故だろう、外堀がどんどん埋められている気がする。
「では、これからよろしくお願いいたします」
「よろしくな! ユウジ」
こうして俺は王子様とお姫様の専属の護衛騎士になった。
酒井 雄二のサイドストーリーはこれで終了です。
次回は、木原 久実のサイドストーリーになります。




