SS1-3話:vs トーマス
「只今より、旅人ユウジ殿とグランディール王国軍上級騎士トーマスの決闘を執り行う。両者前へ」
審判の声に導かれ城の訓練場中央に移動する。
目の前には、厳しい目つきでこっちを睨むトーマスがいる。
今から俺はどういったわけか、トーマスと決闘をすることになった。
理由はわからないが、気づけばそうなっていた。
……この国の人達は頭がおかしいのではなかろうか。
「ユウジ様! 頑張ってください!」
セリスが外から手を振って応援する。
だが、止めてほしい。セリスが俺に話しかければ話しかけるほど、周りの目線がきつくなる。
セリスの隣にいる国王も親の仇のような目でこちらを睨んでいる。
そして、この決闘を見に来た観客達もだ。
後で聞いたが、城内の半数がこの決闘を見に来たらしい。俺がボコボコにされるのを期待して。
……やっぱりつぶれるんじゃなかろうか、この国は。
何度目かの溜息をつきながら、戦闘態勢をとる。
決闘とはいえ、命のやり取りはないらしい。
この訓練場の中には命を保護する魔法陣が敷かれており、死にかけた際には魔法が発動し瞬時に戦闘前の元の状態に戻るとのことだ。
本当なのか気になるところだが、セリスが問題無いと言っていたのでそうなのだろう。
「それでは、バトル開始!」
審判の開始の合図と同時に俺はトーマスの元に距離を詰める。
襲撃者と戦っていたとき、トーマスは遠距離から無詠唱魔法を使っていた。
距離をとられたら不利だと判断し接近戦を望む。
考えは正しかった。
体術にも覚えがあるのかトーマスは、俺の攻撃を防御するだけで魔法を使わない。
「クッ! 速すぎる。なんだお前は。型がでたらめな癖に、獣人並みの身体能力を有しおって!」
「――知らねえよ」
「ガハっ!」
トーマスに綺麗なボディブローが決まる。
トーマスは苦しさのあまり膝をつく。
「くっ! そんなに姫様と一緒になりたいのか、このロリコンが!」
「違うわ、ボケ!」
全く俺のロリコン疑惑が払拭されない。
まあ、確かにこの決闘にワザと負けるも手だと一度は考えた。
だが、
「俺は負けるのが死ぬほど嫌いなんだよ!」
「―――グッ……無念」
トーマスの脇腹を思い切り蹴とばした。
壁まで吹き飛んだトーマスはそのまま気絶した。
「―――勝者、旅人ユウジ殿」
審判の声と共に怒号が飛び交う。
野次馬連中が「ロリコン」、「人でなし」、「この悪魔」と俺に罵詈雑言を浴びせる。
そんな野次馬達に俺は段々と腹が立ってきた。
こんなところまで勝手に来させられ、こんな茶番に付き合わされて―――
「黙れ!」
周囲の観客を睨みつける。
すると、次々に口元から泡を出しながら観客達が倒れていく。
(なんだこの力は?)
と自分の力を不思議がっていると、
「あ、あの、本当に申し訳ございませんでした。お、お怒りごもっともだと思いますが、ど、どうかお鎮目ください」
いつの間にかセリスが訓練場に降りて、俺の前で膝まづいていた。
泣きそうな顔をしているセリスを見て、自分の怒りを抑える。
すると、力がなくなったのか、先ほどまで苦しそうにしていた観客達の表情が和らいだ。
「本当に申し訳ございませんでした」
「はあ~、もういいよ。それより、もう良いだろう。帰らしてくれ」
何度も頭を下げるセリスを見てどうでも良くなった俺は城を出たいと話す。
「……かしこまりました。すぐに準備いたします」
沈痛そうな面持ちでセリスは俺を見て、配下に指示を与える。
「ですが、これだけはわかってください。私は決して冗談で貴方と結婚したいと申した訳ではございません」
「おい、何で俺なんだよ。助けてもらったからか? だったらちょろすぎだろ、お前」
いくら命を救ったとはいえ、初対面の人に簡単に惚れるお姫様が不思議で仕方なかった。
「それだけが理由ではありません。実を言うと、私の眼は――」
セリスが何か言いかけようとしたとき、
「貴様! 今の技は何だ!」
観客席から声が聞こえた。
声がした方を見ると、セリスと同じ顔をした少年がこちらを睨んでいる。
「なんだ、随分お前に似てんな。双子か?」
「はい。私の双子の兄、クリスお兄様です」
セリスの双子の兄クリスがこちらに向かって来る。
「おい、貴様。今のは何だと聞いている! 教えろ!」
「知らねえよ、勝手に出たんだよ」
クリスの偉そうな態度にイラついたが、大人として対応する。
「何だ、その態度は! 私は次期王と名高い王子であるぞ。無礼ではないか!」
「……そうでございますか、失礼しました」
……大丈夫。まだ耐えられる。頑張れ、俺。
「大体なんだ、お前の服装。見たことがないぞ……そうか、さては田舎者だな、お前。道理でおかしな恰好をしていると思った。髪型もおかし――――イテッ!」
「俺の髪型に文句つけてんじゃねぇええ!」
俺のトレンドマークであるオールバックの髪型にケチを入れられ、クリスの頭の上に拳骨をかます。
「何をする! 私は王子だぞ!」
「うるせえ! 王子だろうが、王様だろうが、目上の人を敬う気持ちがない奴は、皆こうだ!」
「おい、止めろ――私は――イタイ、痛い!」
頭を触り痛がるクリスを持ち上げ、尻を思いっきり叩く。
「おら、ごめんなさいはどうした」
「き、貴様、ただでは――イタッ! イタッ! ちょっと、待って! 話を――!!」
全く謝らないガキに無言で尻を叩き続ける。
「あの、ユウジ様。そのくらいでどうか勘弁していただけないでしょうか」
「駄目だ。コイツがちゃんと謝るまで、俺は続ける」
公衆の面前の前でお尻を叩かれる兄が気の毒になったのだろう。
セリスが止めに入るが聞かなかった。こういうことはキチンとやるべきだ。
しばらく叩き続けたら、やがて「ごめんなさい。お願いですから、もう叩かないでください」とクリスが泣いて謝った。
そんな一幕もあったが、俺は無事城内から出ることができた。
クリスのことで何か咎められるかと思ったが、国王が許してくれたらしい。
最近、クリスの横柄な態度は問題だったため、良い薬になったと言っていた。
……一応、それなりの良識はあるみたいだな、あの国王。
最も城から出るときに、「再びセリスに近づいたら今度は私が相手になる」と俺を睨んでいたが。
取りあえず手に入った魔石を教えてもらった教会って場所で換金した。
結構な金額だったみたいで、二週間先払いで宿屋を借りたがそれでも十分なほど余裕があった。
取りあえず、疲れていた俺は部屋でゆっくり休んだ。
次の日。
学生服が非常に目立つため洋服屋を探しに出かけた。
魔法大国とあって、品ぞろいは魔法使いが着てそうなローブが多かった。
今いちピンとくるものがなかったので、その店を後にし、防具屋へと向かった。
一応、宿屋に聞いたところ国内で一番良い防具屋だそうだ。
「らっしゃい!」
店内に入ると店員の元気な声が聞こえてきた。
店内には、光り輝く鎧や盾などが並べられていた。
「どういったものが希望で?」
正直全く分からない。
そりゃ鎧なんて付けたことないしな。
街中で普通に鎧を来て歩く人達を見てびっくりしたものだ。
「素人なんだ。取りあえず、このお金で揃えられる防具をくれ」
そう言って店員にお金を渡す。貰ったお金の半分ほどだ。
この世界に来て自分が思っていたこと。
それは、この世界がとても危険だということである。
馬車を襲ったり、向こうの都合で決闘を申し込まれたりされた。
剣や斧などを装着した人達がたくさん街中にはいた。
やはり、日本とは違う、危険な場所なのだと思った。
だからこそ、自分の命を守る防具はしっかりしたものにしたいと思い、有り金の半分を出した。
「って、おう! これだけあれば、十分だよ。ふむ、お前さんの得意な獲物は何だ?」
「……拳かな?」
「ふむ、となると、これがいいかのう」
ゴソゴソと後ろの箱から何やら取り出した。
それは、漆黒に塗られた鎧だった。
「こいつは、アダマンタイト鉱石をたくさん使用して作られた魔法鎧だ。硬く頑丈なのに、軽い性質を持っておる。また全属性に耐性を持っているため、魔法にも強い」
出された鎧を装着してみる。
確かに軽く、動きやすい品物だった。
「お前さんの魔力が高ければ鎧はその魔力を吸収して防御力を強化することもできる」
この鎧に決めてお金を支払い、店を出た。
学生服ではなくなったので、ジロジロみられることはなくなった。
「後は武器か?」
正直、どうしようか迷った。
喧嘩は基本、素手でやっていたので、武器を使うという考えはなかった。
それに、襲撃者やトーマスを倒したことで分かったが、自分の身体能力はかなり強化されてる。この力があれば後れをとることはないと思い武器は諦めた。
街を回り情報を集めた。
ゲームみたいに『ギルド』のようなモノがないか探したがなかった。
取りあえず『教会』で魔石を買い取ってくれる情報はわかったので、近くの森で魔物を倒しながら生活をする算段を立てた。
情報収集も一段落して、宿屋に帰った。
そして自室を開けると、
「遅いぞ! 何をしていた」
「お邪魔しています。ユウジ様」
クリスとセリスが部屋で寛いでいた。