第127話(1/2):神獣降臨
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ザナレア大陸。
この世界において唯一存在する大陸。
大陸内には、無数の命が溢れており、人以外にも魔物や動物、植物といったありとあらゆる生物達が暮らしている。
大小様々な形と特性を有する生物。
彼らの身体は生きる行為を維持するために、無意識の状況下で常に動きまわっている。
つまり、“生きる”という行為には、何かしらの動作が必ず行われているのだ。
そして、動作には必ず音が生じる。
無数の生物が動く音―――これを“世界の音”と例えよう。
生物は世界の音を脳によって篩をかけて識別している。
それは、無意識の内に“世界の音”に繋がれていることになる。
しかし、その“世界の音”がある日、ピタリと止まったとしたら。
生物達はどのような反応を見せるのか。
『―――えっ!?』
ベルセリウス帝国の帝都の広場。
女神アンネムが出現した際に帝都の空に出現したモニタ画面を釘付けに見ていた男性。
広場にいる大勢の人達と共に、世界の命運を祈りモニタ画面を見つめていたとき。
―――時間が止まったように彼は感じた。
感じたこともない違和感に彼は戸惑っていると、周囲にいた人達も彼と同様に信じられない表情で周囲を見渡そうとする。
戸惑う人達と目線を合わせれば、自分と同じ感覚を受けたことがすぐに察することができた。
このような違和感は、北のベルセリウス帝国にいた人達だけではなかった。
クロイツで魔物達の侵攻を防ぐ“自由の風”の組織員、果ては南部の南に位置するアグリ王国の人々-――つまりこの世界に現存する人々に同じ現象が起きたのである。
人だけはない。
魔物や動物に、微生物などありとあらゆる生物が感じた違和感。
嵐の前の静けさのような静寂が訪れ直後。
『『『―――――!』』』
―――世界が震えた。
その声を聞いた者は、恐怖のあまりその場で尻もちをつき空を見上げた。
備え持つ本能が、絶対強者の存在を感じとり身体を強引に動かしたのだ。
全世界の生物達の視線が一点に注がれた。
そこは、天空城の後方にある巨大な魔法陣。
今か今かと魔法陣から這い出そうとする7体の神獣達。
―――彼らの封印が今解き放たれた。
『『『……』』』
初めに『火神獣』が魔法陣より姿を現した。
次に『水神獣』が魔法陣から出た。
言語も明らかでない咆哮が神獣達から発せられた。
その咆哮は全ての生物達に等しく絶対的な“死”の恐怖を与える。
多くの人々や動物は恐怖のあまり気を失いその場に倒れた。
生命力あふれていた植物達も草花も瞬く間に枯れ始めていく。
山一つ分はあろうかという巨大な頭部。
頭頂部には左右に長く分かれる角が目立つ。
全身には神々しく輝く真っ白な体毛。
その周囲には蜷局状に蒼い炎が纏わりつく。
さながら、炎に包まれた巨大な山羊の姿―――『火神獣』。
岩盤を簡単に噛み砕く巨大な顎。
どんな硬い鉱物も食い千切る鋭利な牙。
巨大な口とは対照的に小さな瞳が水色に輝く。
身体の上半分は透き通るようなスカイブルー。
下半分は真っ白な腹部を晒している。
特徴的な背ビレと尾ビレを有するそれは、巨大な鮫の姿―――『水神獣』。
魔法陣から出た二体の神獣は周辺をゆっくりと見渡した後。
声高く雄叫びを上げた。
世界の果てまで届きそうな雄叫びが大地を揺らす。
この場に居た人々は現れた神獣の姿を実際に目の当たりにし慄いた。
別の場所でアンネムが用意したモニタから、現場の様子を眺めていた人々も出現した神獣達を見て思わず声を失っている。
『……』
『火神獣』は手に自分と同じサイズの棒を取り出すと、ファイヤーダンスのようにくるくると両端に炎を灯して棒を回し始めた。その動作は、『火神獣』が火の魔素を世界に供給するための動作。唯一、魔素を生み出すことができる神獣の能力。その能力を使って、棒に次々に魔素を蓄え始めた。
そして、貯め込んだ火の魔素を海上に向けて解き放った。
瞬間、海が真っ二つに切り裂さかれ大きな茸雲が現れた。
吹き飛んだ箇所の周辺は海水がグツグツと沸騰している様を見せ、生息していた大量の魚や動物達が水面に浮かんでいる。吹き飛んだ海水は大雨のように海面へと叩きつける。
今の『砲撃』でザナレア大陸北西部の海洋数十kmの海域が一瞬にして蒸発した。
『火神獣』は、再び魔素をため込み、先ほど放った『砲撃』を放とうと手にする棒をグルグルと回し始めた。
そして、蓄えたと同時に再び別の海域に向けて照射する。
―――ゴォオオオン!!
激しい轟音と同時に一発目の『砲撃』と同じ景色が再現された。
直撃を受けた海域の生物達は全て消し飛び、残るのは干上がった海底が見えるだけ。
そんな『火神獣』の行動を人々は見る以外に何もできない。
そもそも、短い時間で海を干上がらすほどの強力な『砲撃』を行う『火神獣』に、自分達小物が何をできるのだと。抵抗する気力すら奪われてしまっていた。
呆然と眺めるしかない『火神獣』の『砲撃』。
『―――――!』
『―――――!!』
それを『水神獣』が『砲撃』を放ち防いだ。
『水神獣』が放った『砲撃』は『火神獣』の『砲撃』と違い水色に輝いていた。『水神獣』の属性―――水の魔素を溜めたものだ。
『水神獣』の『砲撃』により、向けられた海は救われた。
だが、『火神獣』を貫いた水色の『砲撃』はザナレア大陸を真っ二つに縦断した。
切り裂かれた大地の中心に向かって轟音を上げながら、大量の海水が流れ込む。
同時に海面の水位が上昇し巨大な大津波がザナレア大陸の沿岸部を襲う。
沿岸部に隣接していた船や港町が巨大津波に巻き込まれ大海へと流されていく。
『『―――――!!』』
『水神獣』が『火神獣』に身体をぶつけ威嚇する。
自分の領地である海を攻撃されたことに怒っているのかは誰にもわからない。
ただ一つだけわかることは二匹の神獣達が、ザナレア大陸を瞬時に滅ぼす力を有していることだけははっきりと分かった。
『オオオオオーーーン!!』
『火神獣』が空に向けて大きく吠えた。
すると、『火神獣』の身体の周辺に紅蓮色に輝く火花が無数に出現した。
現れた火花は、それぞれ様々な形に変化し形作る。
―――狼、猿、獅子、虎など、動物を象った形がほとんどだった。
炎を纏う動物たちの姿を見た人々は、その存在に心当たりがあった。
―――教会のお伽話に伝わる『炎精霊』。
本物の精霊が姿を現した。
『ギィイイイイイ!!』
『火神獣』の命を受けた『炎精霊』は、『水神獣』へと狙いをつけ襲い掛かかる。金属を容易に溶かすほどの高温の火炎が、全方向から巨体の『水神獣』へと狙いをつける。
『ギィイイイイーーーン!!』
『水神獣』も先ほどの『火神獣』同様に甲高い声を上げ鳴いた。
すると、『水神獣』の周りに水飛沫が無数に現れ、それぞれ形を成す。
―――魚、貝、タコ、イカなど、魚介類の形を取る『水精霊』が姿を現した。
『水精霊』達は、『水神獣』に攻撃する『炎精霊』達を殲滅しようと迎え撃つ。触れた者全てを凍らせる巨大な氷柱が『炎精霊』の身体を貫き殲滅する。
『『ウォオオオオーーーーン!!』』
一方、『水神獣』と『火神獣』もまた小物の戦いは小物に任せ、神獣同士の戦いを繰り広げる。巨体同士が組み伏せ殴りあう様はまさに怪獣映画その物の光景だった
周囲に散らばり戦い続ける『精霊』達の色も、その光景に拍車をかけている。
―――まさに世界の終わりを連想させるそんな絶望的な光景が広がっていた。
旧サブネクト王国領で暴れ回る二体の神獣。
その周囲には、無数にいる眷族の精霊達の姿。
さらに、天空に展開する魔法陣からは残りの神獣が這い出ようとする動きも見える。
「……もう終わりだ」
誰が呟いたかはわからない。
だがこの光景を前に誰もがそう思い絶望した。
『『ウォオオオオオ―――ン!』』
『水神獣』と『火神獣』。
互いの『砲撃』が二体の横を剃れて地上へと向かう。
今まさに、ザナレア大陸を“無”へと消滅させる炎と水の『砲撃』が放たれたときだった。
「剣技―――【凍牙絶氷衝】!」
「冥魔法―――【重力牢獄】」
「カアッ!」
『『―――――!?』』
『火神獣』の『砲撃』は、突如空が凍り付き、その中に溶け込まれ爆発した。
『水神獣』の『砲撃』は、高密度に圧縮された重力波に収束されたあと、【大魔息】の一撃で相殺された。
神獣達の攻撃を防いだ人達。
それは、
「悪いがお前達の好きにさせるわけにはいかない」
「コーネリアス殿。例の術式は?」
「もう少しだ。あと少しで用意は完了する」
一人目は、【剣聖】の二つ名を持つユリウス・シュバルツ。
二人目は、今代の魔王。
そして三人目は、十二星座のカプリコーンこと、コーネリアス・シュバルツだった。
既に『竜化状態』のコーネリアスは背中に生えた翼で空を自由に飛翔する。
魔王とユリウスは、魔王が自身の魔力を圧縮して創り出した透明の足場の上にいた。
キャンサーに右腕を斬られ片腕を失くしたユリウス左手には『魔剣カラミティ』が握られている。
『『―――――!!』』
神獣達は、突如現れた三人を見て敵意を向け咆哮を上げた。
ユリウス達に向けて、次々に『砲撃』を放つ。
少しでも触れればあっさりと消し飛ぶ強大な炎の閃光と水の閃光が三人を襲う。
コーネリアスは自在に空を飛び回り『砲撃』を回避し続ける。
魔王は、照射される『砲撃』を見極めながら自分とユリウスの足場を設置し回避する。
「私はここだ! さあこっちにこい!」
「コーネリアス! あまり無理をするな」
「大丈夫です父上。この程度のこと、なんともないッ!」
ユリウスは魔王に足場を造ってもらいながら空を移動しているため、翼を生やしているコーネリアスと比較すると機動性は遅かった。そのため、コーネリアスは積極的に気を惹くよう神獣達の顔付近まで接近し気を惹きつけようと動く。
三人は、神獣の攻撃が大陸に向かわぬよう飛び回りながら、注意を惹きつける。
『『―――――!!!』』
目の前で飛び回るユリウス達を嫌がり、『水神獣』と『火神獣』は眷族の精霊達をユリウスに差し向ける。
争っていた『水精霊』と『炎精霊』は、その命を受けすぐさま迎撃に向かおうとする。だが、精霊達が動こうとした瞬間、地上から無数の光が空へと放たれた。
「良いぞ! そのまま続けろぉおおお!」
「二番隊撃てェエエエ!」
ドン! ドン! と、≪魔皇城ベルセリウス≫の城壁から精霊たちに向けて『魔導砲』が続けざまに発射される。『魔導砲』の直撃を浴びた精霊達は光を失い消滅していく。
「ここが正念場よ、みんな! 気合を入れなさい!」
「「「おう!」」」
帝国親衛隊隊長のウルフ、ダッツ、タイガーの指示の下、城内の騎士達が協力し合い空にいる精霊達を砲撃していく。
城内にいる騎士達の国籍は実に様々だった。
グランディール王国、アグリ王国、ルネ王国、ベルセリウス帝国と。
実に3000人以上の騎士達が集い迎撃に当たっている。
つい先日まで互いに殺し合いをやっていた各国の騎士達が今は、『世界を守る』ためにこうして手を取り合い協力していた。
別の場所では、≪神花≫からも、無数の『魔導砲』が空へと放たれていた。≪神花≫にも、各国の騎士達が集っており、一部生き残っていたサブネクト王国の騎士達の他に、魔族やオーラル王国の住人達が力を合わせ協力していた。
≪魔皇城ベルセリウス≫と≪神花≫の二つを起動させるためには、ベルセリウス帝国皇族またはオーラル王国王族の正当な血を継承する者―――『搭乗者』の存在が必要だった。
しかし、先日の戦争でベルセリウス皇帝とオーラル王国王族は死に絶えた(正しくは、オーラル王国王族であるトッティを除いて)。そのため二つの魔導兵器が動くなどあり得ないことだったが。
「ほう! 上手くいっておるではないか、コーネリアス殿!?」
「当然だ、と言いたいところだが、誤魔化しでやっているからな……このまま持てば良いが」
高度な魔法技術と知見を持つコーネリアスが、それを可能にした。
この日のために、セリスの指示を受けたコーネリアスは≪魔皇城ベルセリウス≫と≪神花≫の一部を動かせるよう寝る間も惜しんで兵器の改造に明け暮れていた。
結果、二つの魔導兵器を完全に動かすことはできなかったが、一部の機能を動かすことができるようになった。
今、精霊達に浴びせている『魔導砲』などの強力な火器類。
『搭乗者』がいなければ動かない火器類を、ダッツの【死兵交響曲】と、コーネリアスの魔法技術、さらには魔王が持つ多彩な魔法と膨大な魔力によって、何とかこうして動かすことができたのだ。
今、使用している火器類は、魔力を込めるだけで強力な『砲撃』が可能となるため、騎士達は順番に魔力を込めながら、『魔導砲』を放っていた。
魔力が足りなくなっても、常備しているポーション類により回復できるよう万全の状態でこの戦いに望んでいる。
7日という限られた時間の中で、この日のために全員が一丸となり協力した成果が今、こうして役に立っていた。
空で神獣を惹きつけるユリウス、コーネリアス、魔王の三人。
多くの精霊達を地上から撃ち払う≪魔皇城ベルセリウス≫と≪神花≫の姿に、この戦闘映像を見ていた人々は、少しずつだが希望の光が見えはじめた。
一方、神獣と激闘を繰り広げるユリウス達は、神獣達の『砲撃』を回避しながら、その時を待っていた。
『お待たせしました! こちらの準備は整いました』
『大丈夫です皆さん! いつでもいけます!』
「きたか!」
三人の耳元に装着している通信用の魔導具から、≪魔皇城ベルセリウス≫の空中庭園で待機していたセリスとミーアの声が聞こえた。
二人の声を聞きユリウスは近くにいた魔王とコーネリアスに視線を向ける。
「わかった……術式を展開する! 魔王!」
「わかっておる! 【剣聖】、そしてお主らも! 我らが抑えるまで奴らを頼むぞ」
「わかっているわ。行くわよ! フリート、トイトス、マリー」
「「「おう(はい)」」」
魔王の呼びかけに応えたのは、『ファミリア』のキルリア、フリート、トイトス、マリーの四人。幻獣種の姿になったキルリアの背中にはマリー、フリートの背中にはトイトスが載っており、神獣達の周りを翻弄するように飛び回る。
『火神獣』が放った大陸へと向けられた膨大な熱量を持つ炎玉を、キルリアの【氷結息】が防ぐ。
四人は、なるべく神獣達の攻撃を自分達へと注意を惹きつける。
「急げ! コーネリアス殿! いくらあの面子と言えど、神獣達相手に時間を稼ぐのは至難の業ぞ!」
「わかっている! そう急かすな! 父上頼みます!」
「了解した! ふんッ!」
少し離れた場所に向かい、なにやら準備を急ぐコーネリアスと魔王。
その前に、ユリウスが立ち並び、神獣2匹の『砲撃』が二人に当たらないよう護衛する。
時折キルリア達を逸れて強大な火炎がユリウス達に向けられるが、決して後方へと通さないユリウス。
キルリア達の善戦と地上からの援護射撃により、コーネリアスと魔王の準備までの時間を稼ぐ。危険な場面では、『魔剣カラミティ』を用いたユリウスの剣技で地上への被害を辛うじて防ぐ。
少しの気の遅れは大陸の崩壊へと直結する危機的状況が続く中。
「全術式の構築完了。魔力適合率……問題ない! よし準備は整った。魔王!」
「うむ」
コーネリアスは懐から数十の巻紙を展開し、術式の安定具合を確認する。
その術式は、ミーアの真下にある魔法陣を形にしたもの。
そして、空を覆う強大な魔法陣に縛られている竜達の魔法陣に似ていた。
自らが作成した複雑な術式を展開し、その維持を続けるコーネリアス。
一方、魔王は次々に展開していく術式に自らが持つ無限に近い魔力を注ぎ、魔法陣を発動させていく。
『『―――――』』
「皆の者! 『風神獣』、それに『土神獣』が出てくるぞ!」
「「「!」」」
天空の魔法陣より、2匹の神獣が顕現した。
蛇のような特徴的な長い胴体に、背中に生える巨大な白い翼。
深いコバルトブルーの表皮を背中に纏い、反対側の腹部は真赤な色を帯びている。
『火神獣』と同程度の巨体は、100人規模の人々を簡単に丸呑みできる。
頭部の口元からはチロリと二股に分かれた舌が見える。
さながら、翼の生えた巨大な蛇の姿―――『風神獣』。
『風神獣』同様に蛇の体格だが、明らかに異なるのはその体格。
2倍以上は差がある体格は、地に降り立ったと同時に地面を激しく揺らした。
高さ500mは優にある≪魔皇城≫を、締め付け可能な体格は圧巻の一言に尽きる。
背中の飴色の表皮に尻尾に至るまでの斑模様は不気味さを象徴する。
さながら、巨大なキングコブラの姿―――『土神獣』。
現れた2体の神獣は、目についた『火神獣』と『水神獣』を見て敵意をむき出しにする。
「「「「―――――!!!!」」」」
4体の神獣は互いを視界に捉えると、すぐさま殺し合いを始めた。
空を飛ぶ『水神獣』と『風神獣』。
大地に足(もしくは身体)をつく『火神獣』と『土神獣』。
―――4体が入り乱れ戦う様は、怪獣のバトルロワイアル。
回避や防御という概念が無いのか、人々を簡単に消滅させる『砲撃』を放つが全て身体で受け止めていた。
時折、神獣の攻撃が逸れてザナレア大陸へと向かうこともあるが。
「剣技―――【爆炎剣】」
『火神獣』の放った『砲撃』に、ユリウスの火の剣技で相殺する。
ユリウスは、神獣の『砲撃』の流れ弾を卓越した剣技によって防いでいく。
魔王が空中にいくつもの足場を造っていたため、魔王が離れていても問題なかった。
颯爽と空を駆け上がるユリウス。
さらに、ユリウスの他に神獣を止める者達がいた。
「まとめて閉じ込めるわよ! フリート!?」
「ああ、任せろ。マリー、トイトス任せたぞ」
「「はい(オウ)!」」
マリーの支援魔法により、強化された魔力を元にキルリアとフリートが4体の神獣に向けて禁呪を放つ。
「氷魔法―――【絶対零度】!」
「炎魔法―――【紅炎爆】」
「「「「―――――!?」」」」
凍てつく冷気と太陽の炎に身を包まれ悲鳴を上げる4体の神獣。
身体に晒される超低温と超高温の温度変化に悲鳴を上げ、動きを止める。
『ぎしゃぁあああ!』
「ヤラセナイ!」
禁呪を発動している間、無防備なフリートとキルリアに襲い掛かる数体の『炎妖精』をトイトスの鎚とマリーの苦無が粉砕する。
トイトスとマリーは、禁呪を放つキルリアとフリートのサポートを行う。
「「―――――!?」」
『風神獣』と『土神獣』が、眷族である妖精達を召喚しようとするが、地上から向けられる≪魔皇城≫と≪神花≫の砲撃の雨を浴びよろける。
『その調子です。4、5番隊の方はそのまま『風神獣』と『土神獣』に砲撃を! 他の方々は引き続き周囲の精霊達の迎撃に当たってください!』
『『『ハッ!』』』
『千里眼』により全体の戦況を見通すセリスは、神獣達の行動パターンを記憶しながら、騎士達に的確に指示を下す。『砲撃』を受け神獣が嫌がる箇所を見つければ、すぐさまその箇所に『砲撃』を浴びせるよう指示し、『砲撃』の兆候を見ればすぐさま邪魔させる。
効果的なセリスの指示により、空にいる無数の精霊達は徐々に姿を消していく。
その手ごたえを感じた騎士達はさらに士気が上がり、セリスの命を全うしようとする。
―――この場にいる全員が全ての総力を持って各々の役割を果たそうと動いていた。
全ては、これから始まるコーネリアスと魔王、そしてミーアが行う、とある術式を展開させる時間稼ぎのために。




