第126話:解き放たれる悪意
―――ゴォオオオオーーーン!
轟音と共に、スペースシップは船本体ごと天空城城門に突っ込んだ。
船体の前半分が分厚い城門を突き破ったところで、船は動きを止めた。
城内は、神聖さを誇示するためか床や壁面は真っ白に染められており、天井は巨人が住んでいるかのように高い吹き抜け構造をしている。
埃一つない真っ白な空間の中に、左、右、正面、三方向に向かって赤い絨毯が敷かれている。
『ピー! ピー!』と、侵入者を感知し城内に警戒音が鳴り響く。
『し、侵入者だ!』
『なに!? まさかサジタリウス様とアクエリアス様が敗れたというのか!?』
城内を警護する神聖騎士や迎撃用ゴーレムが飛空艇へと一斉に群がる。
「そこをどきなさい! 【水魔法―――大津波】」
空間から突如10m以上の大津波が出現し、スペースシップに乗り込もうとしていた神聖騎士やゴーレム達を洗い流す。
『うわぁあああああ!!』
神聖騎士とゴーレム達は壁に衝突し動きを止める。
さらに、船の甲板から息つく間もなく無数の矢が放たれた。
矢は騎士達に当たり、すぐさま巨大な蔦を形成し騎士達をその場に拘束する。
「道は開けました!」
「よし、行こう! みんな」
美優が敵の動きが止まったことを確認し、仲間達に呼びかけた。
志の号令に合わせて、甲板からティナ、飛鳥、美優、志、リムル、トッティの6人が飛び出した。
「ユウヤって奴の匂いを辿ればいいんだな! ……こっちだ!」
正面の通路に向かってティナが先頭を走り、その後ろを志達がついて行く。
鼻の良いティナを頼りに匂いを追って勇也を探す。
正面の通路は、真っすぐに伸びた一本道。
途中、侵入者達を迎撃するために神聖騎士やゴーレム達が立ちはだかるが、ティナと飛鳥、美優によって瞬く間に無力化される。志、トッティ、リムルは戦うことなくその後を追いかける。
「三人とも大丈夫?」
「おう。余裕だぜ」
「ええ、私も大丈夫。それより、志わかってるわね?」
「志くんは力を温存していてください。私達が道を作りますから」
ティナ、飛鳥、美優に言われ、志はコクリと頷く。
スペースシップを動かしていたトッティは、魔力の消耗が激しいため、リムルにサポートしてもらいながら後方で待機する。
暫くの間、ティナ達が向かい来る敵を迎撃しながら前を走っていると出口が見えた。
遠くには薄っすらとだが人影のようなモノが見える。
「誰かいる!?」
「このムカつく匂い! アスねえ、ミユねえ、アイツがいるぞ!」
「! ありがとう、ティナちゃん」
ティナの言葉を聞いて、飛鳥と美優の目が鋭くなる。
この先にいるのは、人の精神を操り自分達を苦しめた最悪の敵。
美優達にとって決して許すことができない悪党がこの先にいるのだから。
狭い視界から一転して、広く明るい場所へと視界が広がった。
正方形の広い空間内にポツンと置かれている祭壇が見える。
祭壇の前にいるのは、
「ようこそ天空城へ。お久しぶりですね。みなさん」
十二星座の一人ジェネミの姿があった。
ジェネミはクロイツで志達と会った時に比べて、髪型に変化があった。
清楚な顔立ちは変わっていないが、ピンク色の三つ編みが綺麗なロングストレートへと変わっている。
「「「ジェネミ!」」」
志達は一斉に武器を構える。
厳しい表情で眼前に立つジェネミを睨みつける。
対して、ジェネミは気にすることなく、にこやかな笑みを浮かべ話をする。
「あらあら、随分嫌われちゃったみたいね~」
「当たり前でしょう! 私達に、いやアンタが多くの人達の人生を不幸にしてきたこと、全部知っているんだからね!」
「ミーアちゃんやルアーナさん。他にも多くの人達がアナタの手によって苦しめられてきました……そして、なによりクロイツで志くんに行ったこと。絶対に許しません!」
複数の【水弾】を周囲に展開する飛鳥。
美優は【貫通矢】を構えジェネミに狙いを定める。
「仕方のないことだったのよ。これも我が盟主アンネム様の意向に従っただけのこと。文句ならアンネム様に言ってほしいわね」
「「なっ!」」
あまりの言い訳に、飛鳥と美優が絶句する。
「なあ、ココ兄。もう殺っていいか?」
「待って。罠かもしれない」
我慢の限界を迎え飛び出そうとするティナを志が止めた。
用意周到なジェネミが、自分達の前に一人で現れたことに志は警戒していた。
トッティとリムルも、同様に周囲を警戒する。
そんな姿を見て、ジェネミはにんまりと笑う。
「うふふ。少しは人を疑うことを覚えたようね。ええ、そうよ。私がなんの用意もなくアナタたちの前に現れるなんてないわ。では、まずこれを見て頂戴」
ジェネミが上に手を翳した。
すると、志達の前に突如巨大なモニタが出現した。
モニタ画面には、天空城とその後ろにある魔法陣―――這い出ようとする神獣達の姿があった。
「タカシから聞いたわよ。アナタ達の世界じゃあ、こういうとき“イッツショータイム”って言うのよね?」
「まさか!?」
「始めましょう。それでは、“イッツショータイム”! ってね」
ジェネミの言葉と同時に、神獣のいる魔法陣が輝き始めた。
魔法陣の輝きに応じて、動きを封じていた神獣達が次々に暴れ出す。
徐々に身体が魔法陣を離れ、この世界へと顕現しようとしている。
「てめえ! 何をした!?」
「あら、わからないのかしら。既に神獣降臨の儀式は完了していたから、止まっていた神獣達を開放してあげたのよ」
「そんな! まだ時間があるはずじゃ」
「魔族のお嬢さん。誰に聞いたか知らないけど、甘い見通しだったみたいね。もう、神獣を降臨させる準備は整っていたの。あとは、私のタイミング次第でどうにでもなるんだけど」
神獣達の出現に戸惑いの表情を浮かべる志達を一瞥して、ジェネミが満足そうな笑みを浮かべる。
「やっぱり、ギャラリーがいてこそよね。いいわ、その顔。ぞくぞくするわね!」
「アンタァアア!!」
「許しません!」
ジェネミに向けて、飛鳥が【水弾】、美優が【貫通矢】を放つ。四方八方から襲い掛かる【水弾】と【貫通矢】の雨。
しかし。
「ほいほい」
「ハッ!」
どこからか現れた十二星座のピスケスが飛鳥の【水弾】を水泡で相殺する。
美優の【貫通矢】をスコーピオ―――メルディウスが一振りで薙ぎ払う。
「メルディウスさん!」
「……」
目の前に現れた黒兜のメルディウスを見て、志が声をかける。
しかし、リベラが新たに施した黒兜に精神を操作されたメルディウスは無言のまま志達に向けて剣を構えるだけだった。
「あれ? あのクミって子はいないの? ぶー。楽しみにしてたのに! いるのはワンコか」
「誰がワンコだ、魚女!」
久実がいないことにピスケスががっくりとした表情を浮かべる。
ワンコ呼ばわりされたティナがピスケスを怒鳴りつける。
「さて、ギャラリーも集まったことですし、次は」
「何をするつもり!」
「させないよ」
ピスケスとスコーピオに志達が気を取られている隙に、ジェネミが何か仕掛を始める。
気付いたリムルとトッティがその場から、魔法と銃弾を放つがジェネミは後方にふわりと飛んで攻撃を回避する。
「残念。もう遅いわよ。この部屋に入ったときに、アナタ達の未来は既に決定したの」
ジェネミが今度は地面に向かって手を翳した。
途端、ジェネミ達がいる祭壇を除いて広間が右に大きく回転し出した。
「なに!?」
「お、落ちる」
「皆、気をつけて!」
左右の壁面がぐるりと移動し突如床へと変わったことで、志達はそのまま真下に落下する。
唯一、翼の生えているリムルは近くにいたトッティの手を取り、落下を防いだ。
「美優! 飛鳥! ティナ! 僕に捕まって」
志は炎翼を出し、美優達に手を伸ばす。
「あら? ココロくん。アナタは別よ」
「これは魔法陣!? まさか!」
「志くん!」
突如、志の進行方向に魔法陣が展開され、志はその魔法陣の中へと消えていった。
さらに、上空にいたリムルとトッティの下にも同様に魔法陣が出現し、二人は吸い込まれるように消えていった。
迫りくる地面に何とか無事落下した飛鳥、美優、ティナの三人は、魔法陣に消えた仲間の姿を探す。
「志! リムル! トッティ!」
「駄目だ! 三人の匂いが消えた」
ティナが匂いを探すが、広間に三人がいないことだけがわかった。
動揺する飛鳥達を見て、ジェネミは愉悦の笑みを浮かべる。
祭壇は、まるでパーツを鋏で切り取られたようにいつの間にか階段ごと床から切り離され、宙に漂っている。
「てめえ! 一体なにしやがった」
「相変わらずワンコはうるさいね~ほら、ジェネミ説明」
「はいはい。安心しなさい。彼らは無事この城内にどこかにいるわよ。ただ、適材適所って言葉があるでしょう? 送った彼らには残りの十二星座が相手することになっているわ」
「そういうこと~君達三人の相手はボクとスコーピオ。それに」
「私ですよ」
ピスケスの後ろから、空間魔法が開き扉から仮面姿のアリエスとシスターのガーナが現れた。
アリエスの仮面は、陽気な笑みを浮かべていたピエロの仮面から怒りの表情へと変わっていた。
ガーナは、周囲を見渡しティナと目線が合うと申し訳なさそうに一礼する。
「ガーナ! てめえ、そんなところで何してやがる!」
ティナがガーナに怒鳴りつけた。
少しの間とはいえ、久実と共に戦争反対を掲げ、帝国の皇宮や≪魔皇城≫に潜入した仲間だと思っていたのに。どうして、そんなお前が教会の味方をしているのか、ティナは気になって仕方がなかった。
「ごめんなさい、ティナさん。言い訳をするつもりはありません。ですが、今はアリエス様のお傍に私はいなければなりません」
「なんだよ、それ! 好きな男とヨリ戻したから、はいサヨナラってか……ふざけんな!」
「……」
ガーナは何も言わない。
無言のままじっとティナを見つめる。
その瞳にティナが一瞬のけ反る。ガーナの瞳からは強い決意を感じ取ったからだ。
「ティナくんだったかな。彼女が何を考えているのか、私にもわかりません。ただ、彼女は君に比べればはるかにか弱い存在なのだよ。だから、あまり彼女を虐めないでくれ」
「はあ!? 元はと言えばてめえがッ!」
「ティナ! 後ろ!」
「えっ――――ウワァアアア!」
「ティナちゃん!」
突然出現した水泡がティナの背中にぶつかる。
吹き飛ばされたティナは、身体を反転し何とか体勢を整えようとする。
「こらこら、ワンコ。なにアリエスに気を取られているの? ワンコの相手は一応ボクなんだよ」
ティナの前に、人魚のピスケスが立ちはだかる。
先ほどの奇襲は、ガーナとの会話に気を取られている隙に、アリエスがピスケスの水魔法―――【空間魔法】内に【水泡】を放ち、ティナ達に気づかれないように移動させていたからだった。
「はあッ!」
「くっ!」
「飛鳥さん!」
瞬く間に距離を詰めたスコーピオが飛鳥と美優に向かって、剣を振りかざす。
咄嗟に気づいた飛鳥が、杖から長棍に武器の形態を変えて受け止める。
すぐさま美優はスコーピオの腕を狙って矢を放つ。
「そうはさせませんよ」
スコーピオに当たる直前にアリエスの【空間魔法】が現れ、矢は扉の中へと消えていった。同時に、美優の正面上空から美優が放った矢が照射された。
「私の矢が!? 【空間魔法】からッ!」
大きくバックステップして、美優は矢を回避する。
条件反射でアリエスに向けて矢を放とうするが、先ほどの光景を思い出し、矢を引くのを止める。
「ミユさんの攻撃は私には通用しませんよ。空間を支配する私からすれば、遠距離攻撃など意味のないものですからね」
「くっ」
アリエスとの相性の悪さを感じ、美優に緊張が走る。
「メルディウスさん!」
「……」
剣を長棍で受けとめたまま、飛鳥がスコーピオ(=メルディウス)に話しかける。
しかし、スコーピオは無表情のまま剣に力を加える。
徐々に、剣を受け止めている飛鳥の腕が下がりつつあった。
「仕方がない! 水魔法―――【氷結】」
長棍から凍てつく冷気が剣を通して、スコーピオの身体を凍結しようとする。気づいたスコーピオは剣を上空に切り離す。
「てやぁあああ!」
間髪入れずに飛鳥はスコーピオの胴体に鋭い突きを放つ。
ふわりと飛んで飛鳥から距離を取り攻撃を回避したスコーピオは、空中で剣を鞘に戻す。そして着地したと同時に。
「剣技―――【真空居合切り】!」
風属性の鎌鼬が飛鳥と後方にいる美優に向けて放たれた。
「美優!」
「はい! 木魔法―――【巨大樹創生】」
スコーピオが鞘に戻した瞬間に、飛鳥はスコーピオが次に仕掛けてくる攻撃を予測して、美優に呼びかける。
飛鳥の意図をすぐさま理解した美優は、美優と飛鳥の足元に巨大樹木を出現させ、スコーピオの【真空居合切り】を回避する。
鎌鼬は出現した大樹とさらには、室内の壁面を真っ二つに切断し外へと消え去った。
ジェネミ以外は気づいていないが、このとき鎌鼬は城内を突き破り城を覆う城壁すらも切り裂いていた。
切られた巨大樹が前方に倒れ、上にいた美優と飛鳥は葉にしがみついたまま地面に真っ逆さまに落ちる。
「ミユねえ、アスねえ!」
地面にぶつかる直前。
遠い位置にいたティナが風の如き速さで、美優と飛鳥の身体を両腕で捕まえた。
「ぶー! ぶー! ワンコのくせに、ボクを無視するんじゃないよ」
先ほどまでティナがいた場所からピスケスが三人に向けて無詠唱で水魔法を放つ。
無数の水泡が、両手を塞ぐ隙だらけのティナの背中を狙う。
水泡の中は高圧蒸気が含まれており、当たれば爆発する仕組みになっている。
「させません!」
ピスケスが放った水泡を美優の矢が狙撃する。
しかし、いくら美優が速射しても矢をすり抜けた一部の水泡が三人に向かう。
「水魔法―――【水壁】」
―――ズドォオオオン。
【水壁】にぶつかり水泡が小爆発を繰り返す。
びりびりと震える水壁に魔力を込めながら、水壁の維持に努める飛鳥。
何とかピスケスの水魔法を食い止めようとするが。
【水壁】の反対方向―――すなわちティナの目の前に突如、【空間魔法】の扉が開き、そこから【水泡】が噴出した。
「やべえ!」
ティナは、咄嗟に真横に向かって【風咆哮】を放つ。
爆風に吹き飛ばされながら、何とかピスケスの【水泡】を回避することに成功した。
しかし、加減なしで【風咆哮】を放ったため、爆発の規模が凄く、ティナは腕に抱える飛鳥と美優を庇いながら地面にダンダンと打ち付けられた。
「ティナちゃん!」
「今回復するわ」
すかさず傷ついたティナの身体に、飛鳥が回復魔法を放つ。
その間、美優は二人の前方に立ち、モヤモヤと立ち込める前方の爆煙に向けて弓を構える。
視界が全く見えない爆煙の中から、カツンカツンと美優達に向かって足音が近づいてくる。
「なかなかしぶといね~早く諦めたらいいのに」
「この後の予定が詰まっていますから、早く楽になってくれるとこちらとしてはありがたいのですがね」
「……」
ピスケス、アリエス、スコーピオが煙の中から姿を現した。
その後ろには、ガーナの姿もある。
先ほどの爆風の影響もあり姿がボロボロの美優達に対して、ピスケスとアリエスは余裕そうな態度である。
スコーピオは黙ったまま美優達に向けて剣を構える。
煙の奥からジェネミの声が聞こえてくる。
「一番厄介なのは創世主の力を持つココロくん。だから、彼から切り離せばアナタ達は対して怖くはないわ」
「だってさ~。で、ボクとしては早く彼とレオの一騎打ちを見たいからさ。早く倒れてくれると助かるんだけどね」
「まさか! 志くんの相手は!?」
「ええ。彼の相手はレオ―――つまり、木原勇也になるわね。≪魔皇城≫のときのような情けない姿は見せないから安心してね。アンネム様と距離が近いこの状況では、前のような不完全な状態ではないはずよ」
「アンタ達は! どれだけ勇也と志を弄ぶつもりなのよ!」
兄弟のように親しい間柄の二人を戦わせようとするジェネミ達の思惑を聞いて、飛鳥と美優が怒りの声をあげる。
しかし、美優達の怒りなど気にせずアリエスが話す。
「創世主の力には創世主に任せるのが確実な手だろう。それに、私もあの二人の殺し合いを見てみたい。元は同じ人間だった者が互いに殺し合う姿を! 弟のように可愛がっていたココロさんを彼が自らの手で殺したとき、彼は一体どんな顔を見せてくれるのか楽しみですよ!?」
「……アリエス様」
ガーナは悲しそうな眼をしたままアリエスに視線を向ける。
「アスねえ! もう大丈夫だ」
「ちょっと、ティナ! まだ完治してないわ」
「いや、ぐずぐずしてらんねえ。早く、こいつらぶっ飛ばしてココ兄の下に行かなきゃいけねえだろう」
傷が癒えたティナが立ち上がり、美優と飛鳥の前へと出る。
決意の表情を浮かべるティナの姿を見て、美優と飛鳥が同じように構える。
三者がそれぞれ視線をぶつけながら、警戒する中。
『そうそう。あまり意味が無い事だと思うけど一応言っておくわね。私を傷つけるのはやめたほうがいいわよ。私は天空城を統べる者。例えば、こんなふうに』
ジェネミがの言葉と同時に、先ほどスコーピオに真っ二つに切られた壁面が瞬時に再生し何事もない状態に戻った。
「ねえ? 天空城は私の意のままに動くの。もし、アナタ達がまかり間違って私を攻撃すれば、他の子達がどうなるかわかるかしら?」
飛鳥と美優、ティナの三人が思わず口を閉じる。
ここまでの悪辣を平然と行えるジェネミに心の底から恐怖を覚えた。
………
……
…
天空城無内にある闘技場。
空を覗ける開放的な空間に、数千人規模が座れる観覧席が円状に広がる。
中央には、白い石板が敷き詰められた舞台がある。
その上に、飛ばされたリムルとトッティがいた。
「ここは?」
「闘技場かな。それにしても……やられたね」
「ええ、私達どうやら分断されたみたいね」
魔法陣に吸い込まれる直前、志と飛鳥達を見てトッティとリムルはジェネミ達の目的をすぐに察知した。
「とにかく、早くココロ達の元に戻りましょう」
『そう急くな。城内への来訪者は久方ぶりなのだ。歓迎するぞ』
「「!」」
どこからともなく声が聞こえ、トッティとリムルは互いの背中を庇いながら周囲を見渡す。しかし、誰の姿も見えない。
「おいおい、急にこんなところに呼び出しておいて、茶の一つも用意できないなんてホストとしてどうなのかな」
「とっとと、姿を現しなさいよ」
トッティは銃を、リムルはいつでも【炎矢】を放てるよう、手に炎を宿す。
『おうおう、これは失礼をした。ただ、こちらにも色々と準備があるのでな。お前達が本当に私の相手に相応しいのかをのう。この十二星座の長リベラがな』
「リベラ!」
その言葉を聞いて、リムルの目が鋭さを持つ。
リベラは魔大陸で林田を唆しヘイムダルに壊滅的な被害を与えた張本人。
そして、自分達と同じ魔族であり、ヘイムダルを捨てた元領主でもある。
「そうかい。それはいいことを聞いた。ここで、君を倒せば少しは十二星座の戦力を減らすことができるかもしれないからね」
気合を入れるようにトッティはカウボーイハットをくいっと上げる。
『ほっほっほ! そう急くでない。言ったであろう? まずは小手調べと』
突如、二人の前に突如恐竜型の魔物『ラノティウス』(脅威度Aランク)二匹が出現した。
ラノティウスは、リムルとトッティを敵と認識し威嚇の声を上げる。
「なるほど。つまり、勝ち続けなきゃ会えないわけね」
「悪趣味よ! 完全に私達をなめているわね。後悔させてあげるわ!」
ようやくリベラの趣旨を理解した二人は、『ラノティウス』に構える。
『ほっほっほ! 良いのう。それでは始めよう』
「「はぁあああ!」」
襲い掛かる『ラノティウス』に、トッティとリムルが戦いを挑む。
………
……
…
天空城の上層。
十字架の祭壇が置かれた聖域とも呼べる広い空間内。
そこに、志の姿が現れた。
ジェネミの策にはまり、魔法陣に吸い寄せられた直後、この場所まで志は移動させられていた。
瞬時に警戒し周囲を見渡そうとするが、すぐに視線が目の前で止まった。
そこには志が探していた相手の姿があったからだ。
「勇也」
「……」
≪魔皇城≫で再会した時と同様に、勇也は黒鎧を着用したまま無表情に志を見ている。
黒兜は完全に治せなかったのか、素顔を晒したままである。
勇也は何も言わず刀を構える。
目の前の敵を殲滅すると言わんばかりに、まるでロボットのような対応に見えた。
『Q! Q!』
志の肩でQちゃんが勇也に向けて必死に呼びかける。
しかし、勇也の目にはQちゃんの姿は映し出されていないようだ。
「ごめんね、Qちゃん。暫く離れていてね」
『Q!』
しょんぼりと肩を落とすQちゃんを、志は端にそっと置く。
「勇也」
「……」
志も炎の大剣を出現させ構える。
中途半端な対応を取れば、あっさり自分が殺されてしまうことを感じたからだ。
「はぁああああ! ―――ッ!」
「はぁああああ! ―――ッ!」
掛け声とともに、互いの身体から夥しいばかりの魔力が膨れ上がる。
それぞれ黄金色に輝く光を天井に発しながら、同時のタイミングで二人が動く。
「勇也ぁああ!」
「うぉおおお!」
再び志と勇也の戦いが始まった。




