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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第5章:天空城
262/293

第125.5話(2/2):深夜会話

?視点です。

(と言っても、読み進めれば一発で誰の話かわかります)

 素顔を隠すようになったのはいつだろう。

 自分の役目がただの代替品であったと自覚したときか。

 あるいは、見る人によって素顔が変化する自分の顔に嫌気がさしたときか。

 もしかしたら、現れた光の勇者と女神アンネムが私の存在を無視して仲睦まじく話していたときかもしれない。


 いずれにしろ、今となってはどうでもいいことだ。

 空っぽだった人形の私にようやく意思が芽生えたのだから。


 空っぽだった私の器に、“怒り”という感情が芽生えたのは奇跡だと思う。

 虚ろのまま、ただ女神の命令に従っていた私に初めて光が見えた気がした。

 これが生きるということなのかと。


 私は宿すことができた“怒り”の感情に従い行動してきた。

『女神を殺す』。

 明確な目標を設定することはできたが、そこに至るまでの道のりは困難を極めた。


 まず女神や十二星座に見つからないようにことを運ぶこと。

 特にリベラは厄介な存在だった。

 研究欲の塊のような奴だが、少しでも不審な行動をとれば、すぐさま問いただしてくる。

 だからこそ、神獣降臨の儀式のうちに、計画を進める必要があった。


 次に、女神を殺せる力いや武器が必要だった。

 女神アンネムには、この世界にある武器が通じない。

 これは、創世主でありこの世界の権限を統べる神の力で守られているとリベラは言っていたが。

 だが同時にお喋りなリベラはこうも言っていた。


『同格の存在になれば神の力は通じないと』


 その話を聞き思い立ったのは、この世界の遠き次元に封じ込められた“破壊神”の存在。

 もし、破壊神の力を宿すことができれば、女神を打倒できる力が得られるはずでは。


 そう思い“破壊神”に関して情報収集を行った。

 結果、わかったのは“破壊神”の力を得るためには、適正が必要であること。

 そして、その適正は私にはなかったということだった。


 愕然とした。

 私の手で女神を殺すことができないという事実に。


 だが、それでも私はめげずに”破壊神”の力を得るための方法を模索していた。

 そのとき、リベラとカプリコーンが研究していた“宝珠”の話を聞いた。


 “宝珠”。

 この世界に魔素(マナ)を供給する神獣の核となる物。

 “破壊神”を封じ込めるために、散らばった宝珠の欠片を光の勇者が別の世界で集めているのは知っていた。


 リベラ達の研究内容を盗み見する中で、“宝珠”を体内に取り込み、力を得ることができることを知った。


『神具』と呼ばれる、体内に宿した宝珠を元に生成される武器。

 これは女神を打倒しうるのではないかと。


 だから、私はリベラ達を騙して教会にあった宝珠の欠片を帝国皇帝のルドルフへと渡した。


 当時、神獣降臨の儀式のために必要な魔素(マナ)を、ベルセリウス帝国とオーラル王国の戦争で賄うことは、決定づけられていた。

 どうせ滅ぼす世界なのだから、何万人死のうが全く関係なかったのだから。

 だから、そう仕向けるように十二星座は動いていたし、私も教会代表として帝国に潜り込んでいた。


 当時の帝国は、【剣聖】と【鬼人】、そして皇帝を裏で支えるメリエル王妃を中心に、強大な力を身につけ発展していた。

 その速度は目覚ましいもので、『教皇』が危険視していたことはよく覚えている。


 だから、帝国の成長を奪うためその原動力となっていたメリエル王妃を暗殺することを教皇は決めた。そして、実行された。


 後に残っていたのは、最愛の人を失い抜殻のようになったベルセリオス皇帝と、その死を嘆き悲しむ【剣聖】達の姿だった。


 その光景を見た時、私はなぜか彼らに話しかけてしまった。

 そして、メリエル王妃の暗殺の話やこの世界の秘密を彼らに全て教えた。


 自分でもどうしてそのような行動をとったのかはわからない。

 ただ、抜殻のような顔のベルセリオス皇帝を見て勝手に動いたのだ。


 真実を知った帝国は、表向きは教会と協力関係を築いていたが、裏では敵対視するようになった。


 皇帝には信頼の証として宝珠の欠片を渡した。

 リベラ達を説得するのは大変だったが、これも戦争を引き起こすためと強引に納得させた。


 私は更なる宝珠を求め、散った宝珠のある別の世界へ行く手段を試みた。

 幸いなことに、私は冥属性の適正がずば抜けており、空間魔法を巧みに扱えた。


 研究の末、ようやく私は別の世界、すなわち光の勇者がいる世界へと移動することができた。

 その世界は、まさに平和ともいえる世界だった。

 私は『日本』という国しか見ていないが、とても綺麗で多くの物と人で溢れていた。

 見る物全てが新鮮で、何もわからないがただただ圧倒されたのは覚えている。


 そんな世界の中で、私は光の勇者の木原勇也を追った。

 意外なことにすぐに見つかった。


 跡をつけてわかったことだが、彼には自分よりも大切な人がいることがわかった。

 特にもう一人の人格である剛田志という人物には、特別な思い入れがあるようだった。

 勇也を含め彼の周りにいる人達は、平和そうにのんきに笑っていた。


 それが気に食わなかった。

 だから、私は決めた。

 彼らをこちらの世界に招待しようと。


 段取りは済ませた。

 帝国とオーラル王国には異世界人を召喚することを伝え、女神には勇者の期間が早まるとそう告げて、私は勇也達をこちらの世界に転移させることを企てた。


 計画は少しギャンブル性もあった。

 勇也達の前に私が現れ、彼らを殺そうとすれば勇也はすぐに現れると思っていた。

 だが問題なのは、勇也が本当に死にかけた奴らに集めた宝珠を付与するのか。

 この部分は賭けだった。

 

 結果、転移自体は上手くいった。

 創世主の力を持つ勇也の力も大きいが、宝珠の力を身に宿した彼らの転移は簡単だった。

 あの場で勇也を連れてくることはできなかったが、すぐに後を追って来ることも予想できた。


 それまでの間は彼らが苦しむさまを笑って見ながら、現れた勇也の焦り顔を見ればいいとそう思っていた。


 だが、やはり思ったようにはいかなかった。

『神具』という力は凄まじいものだった。さらに、あちらの世界の人物はどうやらこちらの世界に来ると、魔力適正や身体能力が大きく向上するらしい。


 これは、リベラが勇也の研究をしていたときに、推測していたがどうやら間違いないらしい。理由は不明だが。


 彼らは周りに流されながらも逞しくこの世界を生き抜いていた。

 平和ボケした奴らだから、すぐに帰りたいと言って泣き叫ぶかとおもいきや、彼らはこの世界に徐々に順応していった。


 また私の思惑と違う結果になった。

 これは呪いなのだろうか。女神を殺そうと企む私への。


 しばらくして、勇也がこの世界に転移したことを知った。

 このままでは異世界達が保護されることを恐れた私は、一番気になっていた剛田志という人物の傍に行くことにした。


 こいつは勇也が最も気にしている存在。

 何かあったときの保険として、志の傍にいようと思って近づいた。

 いざとなれば、こいつを見捨てればいいとさえ思っていた。

 なのに。


 ………

 ……

 …


「結局、()は何がしたかったのだろうか」


 天空城の中にある礼拝堂。

 そこで静かに瞑想していたアリエスが呟いた。


 普段ピエロの仮面を被り素顔と本音を隠している彼だったが、今はその仮面をつけていなかった。


 アリエスがここに来た理由は、一人になり静かに考え事をしたかったからだ。

 ここ最近、平定していた自分の心が乱されることが多かったからだ。


「アリエス様。こちらにいらしたのですか?」

「……君か」


 そんなアリエスの気持ちを知らず、シスターのガーナが探しに来た。

 アリエスはガーナを見て思わず顔を顰める。


 なぜなら、ガーナというこの少女が一体何を考えているのか、アリエスにはわからなかったからだ。


(女神への復讐。ただそれだけのために生きてきたはずが)


 アリエスの中に消化しきれない異物のような物が心をかき乱す。


 確かに、このガーナという少女を拾った。

 ジェネミと同調できない彼女は欠陥品だった。

 だが、同調できないということはジェネミに私の動きを感知されないことに繋がる。

 そう思い欠陥品だった人工生命体(ホムンクルス)を拾っただけのはずが。


「ここは冷えますよ。さあお部屋へ戻りましょう。それに、そろそろジェネミ様から支給されたお薬を飲まないと」


 ガーナが心配そうにアリエスの身体を気遣う。

 その眼にはアリエスへの献身しかない。

 だからこそ、アリエスはわからない。

 どうして、彼女はここまで自分を心配するのかを。


 今のアリエスの身体は魔素(マナ)欠乏症を起こし崩壊寸前の状態だった。

 ジェネミが施してくれる薬が無ければ瞬く間に消失してしまう。


「悪い。俺は今一人になりたいんだ」

「そうでしたか。では私は後ろで待機を―――アッ!」

「ぬぉおおお!!」


 ガーナはアリエスの視界が入らない位置へと下がろうとしたが足が絡まったせいで、地面に膝をついて考え事をしていたアリエスの上に覆いかぶさった。


「だ、大丈夫ですかアリエス様!」

「ああ、大丈夫だ。それよりも早くどいてくれ。重い」

「お、重いって! レディーにそんな言い方はないじゃないですか!?」

「レディーというなら、今この状態に対して何か思うことはないのか!?」


 はた目から見たら、ガーナがアリエスを押し倒し馬乗りになっている状態。

 しかも教会の総本山と言われる天空城の聖堂内ときた。

 不敬以外の何物でもなかった。


「す、すみませぇえええん!」


 慌てて後ろに立ち上がったガーナだが、今度は勢いのあまり後ろの壁に頭をぶつけ、痛がっている。

 そんなガーナを見て、アリエスはため息をつく。


「全く。君はもう少し落ち着くということを知らないのか?」

「あ、ありがとうございます」


 天属性の魔法は苦手だが、一応使えるアリエスがシスターの頭に回復魔法をかけた。

 痛みもひきガーナが満面な笑みを浮かべ、アリエスにお礼を言う。


「―――ッ!」


 天真爛漫なガーナの表情にアリエスは一瞬、剛田志の顔が頭によぎった。


(アイツもこんなふうに笑っていたな。俺が本物のアナベルではないと知ったら……いや、考えても仕方のないことか)


 アナベルとして、志達と一緒に旅をしていたことをアリエスは思い出した。


 勇也への保険として近づいたはずなのに、気が付けばクロイツ郊外で志を庇っていた。

 自分でもどうしてそのような行動をとったのかわからない。

 なぜ死に際にあんな言葉を口走ったのかもわからない。

 ただ、あの時はそう言いたくなったのだ。


「?」


 じっと自分の顔を見つめるアリエスを不思議な様子で見つめ返すガーナ。


 アリエスにとって、今最も頭を悩ませているのが、志とガーナの存在だった。


(この二人。何となく似てるんだよな。呆れるほど素直というか、お人よしというか)


 今まで人の好意というものを感じたことのないアリエスにとって、志とガーナの存在はよくわからない存在だった。


 ただ、二人の近くにいると素の自分でいられる、そんな不思議な感覚がアリエスの中にあった。


「あっ! もしかして、私の美貌に見惚れちゃったんですか? やあん。もう~アリエス様ったら」

「はあ~いい加減にしろ。ここに戻ってから、四六時中俺の傍にいようとするのは何なんだ? 帝国に置いてくる前はこんなことはしなかっただろう」

「そう、それです!」

「? それとは?」

「私決めたんです。アリエス様に捨てられてから行く早々」

「おい、捨てられたって……まあ間違ってはないが、何か誤解がある気が」

「話を聞いてください! 一人になった私はようやく目覚めたのです……アリエス様への愛を! キャッ! 言っちゃった!」

「……」


 赤面するガーナだったが、アリエスは呆れた様子で何も反応を示さない。


「ちょっと、アリエス様! 聞いていますか? うら若きか弱い乙女が愛の告白したんですから、もうちょっと何かリアクションはないんですか?」

「……わるい。意味が全く分からない」

「もう! アリエス様! ニブチンすぎますよ。つまり、こういうことです」

「!?」


 そう言ってガーナはアリエスを抱きしめ、そしてそのまま口づけを交わした。

 しばらくの間、その状態が続き、やがて二人の距離が離れた。

 ガーナは端から見ててもわかるほど赤面しているのに対し、アリエスは呆然とした様子でガーナを見つめていた。ただ心なしか頬が赤いように見える。


「……人工呼吸という線は」

「あるわけないじゃないですか!? もういい加減人の好意を受け取ってみたらどうですか?」

「バカな! 俺だぞ。女神の玩具でしかない俺にどうして?」


 アリエスは認めることができなかった。

 自分はただの人形。人から好意を向けられる存在じゃない。ただの愛玩道具であることを。


「そんなことはありません。アリエス様はアリエス様です。アリエス様自身は気づいていない、いやあえて無視しようとしているのかもしれませんが、アリエス様は本当は優しいお人なんです」

「優しい? 俺が? 冗談はよしてくれ。優しい奴がどうしてここまでの悪事をやってのける?」


 教会の手先として、危険人物と称して多くの人々の命を奪ってきた。

 自分の復讐のために、戦争を煽り予定よりも多くの被害を齎した。

 こんな自己中心的な自分が優しいなどと、まずありえないとアリエスは思った。


「この戦争については、私も同罪です。でも、その責任はアリエス様だけのものではないはずです。それに、アリエス様は先ほど悪事(・・)と言いました。本当は後悔しているんじゃないんですか? ご自身がやって来たことに」

「そ、そんなことはない」

「はあ~、アリエス様。そんな顰めた顔で言っても説得力ないですよ。結局、アリエス様って素直じゃないんですよ。もう今は仮面をつけていないんですから、ご自分の心に素直になってくださいよ。少なくとも、私は今自分の心に正直に行動していますよ」

「ガーナ、一体どうした!? 君はこんなことを言う女性じゃなかっただろう!?」


 アリエスの中での、ガーナは、ちょっとドジはするが、上司の命令には真面目に従う素直な女性だったはず。間違っても、今のような言い返し方などしたことはなかった。


「だから、アリエス様に捨てられてから、私は変わったんです! アリエス様を支えられるよう強くなりたいって」

「わけがわからん!」


(捨てたのに、自分を支える? なぜだ!?)


「だから、それが人を好きになるってことなんです」

「!」


 ぎゅっとアリエスの手を握り、ガーナは優しくアリエスの顔を見つめる。


「その人の良いところも、悪いところも全てを見て受け入れる。そりゃ、中には見逃せない物もありますよ。そのときは、こんなふうに話し合いましょう。今、私はアリエス様が知らない〝愛”という感情を伝えたい」

「あ、愛」


 アリエスも聞いたことはある単語。

 誰もが知る言葉だが、最も自分に縁のない言葉だとアリエスは認識していた。


「誰かを愛するって素晴らしいんです。見る世界が変わる。まるで生まれ変わったみたいに、私は自由になれた。だから、私は今ここにいる。愛するあなたの傍に」

「……どうして俺なんだ? 君の命を助けたからか? だとしたらそれは打算であって」

「わかってますよ。そんなこと。でも、仕方ないじゃないですか!? 好きになっちゃたんだから!?」


 まさかの逆ギレにアリエスが思わずのけ反る。

 だが、ガーナはずいっと一歩身体を近づけると、


「私だってここまで頑なに人の好意を受け取ろうとしないアリエス様に呆れてますよ! でも、そんなところも愛おしいとすら思ってしまうんですよ」


 再びガーナはアリエスに飛びついた。

 アリエスは何も言い返すことができず、ただガーナに抱きつかれたままだった。

 ドクン、ドクンと、ガーナの激しい鼓動が自分の身体に伝わるのを感じていた。

 辛うじてガーナに言えた言葉は、


「……君はバカだ」

「はい。バカです。でも、アリエス様もおバカさんです」

「ああ、そうだな」


 そう言って、アリエスは小柄なガーナの身体を抱きしめた。


 愛というのがどういうものなのかいまだにわからないアリエスだったが、今この瞬間が永遠に続けばいいのにと、アリエスは思っていた。


 ………

 ……

 …


 聖堂で抱きしめ会うアリエスとガーナの二人。

 それを密かに見つめる者がいた。


「ウフフ。これは面白いものを見れたわ~まさか、あの人形がね」


 天空城最上階に居室を構える女神アンネムだった。

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