SS1-2話:グランディール王国
連続投稿です。
「素性が分からぬこやつを城に招き入れるのは危険です!」
「この方は私の命の恩人です。恩人に礼を尽くすのは当たり前です」
馬車の前で先ほどから何度も同じ議論を繰り返すトーマスとセリス。
助けてくれたお礼をしたいからとセリスが俺を城に連れて行こうとするが、執事のトーマスが断っている。
正直、爺さんの言い分が正しいと思う。
俺も城なんてめんどくさそうなところに行きたくないのでセリスの誘いを断ったが、セリスが言うことを聞かなかった。
「はあ~」
何度目かの溜息をついていたら、
「トーマス、これは王女としての命令です」
「――!! ハハア!」
セリスの鶴の一声で城に行くことが決定した。
俺は仕方なくセリス達と一緒に馬車で城へと向かうことになった。
ちなみに、無力化した襲撃者達はトーマスが城に連絡して城の兵隊達に引き取ってもらっていた。トーマスの杖から綿菓子のような白い煙が出て、煙に向かってトーマスが何やら喋っていた。恐らく、連絡手段の魔法かなにかだろうと推測した。
城に向かう途中、俺はセリスに何度も話しかけられた。
「ユウジ様はどんな食べ物がお好きですか?」
「……牛丼」
「牛丼とはどういったものでしょうか?」
「……牛肉が乗った丼もんだよ」
「丼とはなんでしょうか?」
「……(ピキ)」
……わーい、エンドレスで質問される(イラ)。
セリスの話を無視すれば、「貴様! 姫様が質問をしているのだぞ。答えんか」と爺さんから睨まれるので仕方なく答えるしかなかった。
そんなやり取りがグランディール入国門に到着するまで続いた。
大きい門を通ると、景色が一変した。
平らで綺麗な石畳の道路に、レンガの家々が軒並み連ねる。
まるで中世ヨーロッパにタイムスリップしたような景色だった。
さらに、
「すげえー。本当に箒で空を飛んでるよ」
箒に乗って人々が空を飛んでいる姿が見える。
その光景に目を奪われていると、
「グランディール王国へようこそ。ユウジ様」
セリスがこの国について説明してくれた。
『グランディール王国』
ザナレア大陸南部を支配する王国連合の一つであり、西側を支配する魔法大国である。
魔法を中心とした産業を生業とし、数多くの優れた魔導具や魔法技術を世に生み出している。
人口は五百万人と少ないが、他国にはない特徴として国民全員が魔力を保有していることだ。強力な魔法を扱える者は城の兵士、生活に役立つ魔法を扱える者は国のインフラを支える職種に就くなど、国が個人の魔法を判断して職種を割り当てる仕組みになる。
他の王国連合同様に身分制度があり、高い順に王族、貴族、平民、奴隷となるが、この国では奴隷は比較的少ない。なぜなら、魔法が使えない獣人は入国できないからだ。奴隷の比率としては、魔法が使える亜人と犯罪者が主である。
また、グランディール王国では、この世界で唯一大学が存在することでも有名である。
この世界のありとあらゆる現象や魔法を研究する優れた魔法士が多くおり、他国から多くの留学生を招き、日々研究を行っているそうだ。
大きい道路を道沿いに上っていくとお城が見えた。
白銀の外壁に、厳かな佇まいを感じさせる大きなお城だった。
城の周辺は堀で囲まれており、水草や美しい鳥達の姿が見える。
奇妙なことに城の正面には大きな扉が三つあり、上部、中部、下部と別れていた。
馬車はそのまま城に向かって進むが、目の前には橋が見当たらない。
「このままじゃ落ちるぞ」と、セリスに慌てて話しかける。
セリスは慌てることなく、杖を城に向けた。
すると、突然光の橋が現れた。
「どうやったのか」聞くと、セリスの魔力に反応して橋が出現する仕組みらしい。
光の橋は一番上の城門に繋がり、その上を馬車が走る。
そして、俺達は馬車ごと城内へ入った。
…………
……
…
「セリスよ。無事でよかった。心配したぞ」
「はい。危ないところをこの方に助けていただきました」
玉座の上でセリスに話しかける男性。
年齢は五十歳ぐらいだろうか、豪華な衣装に身を包み頭の上に王冠をしていた。
髪は茶色だが、瞳はセリスと同じ青色だった。
グランディール王国の国王ルイ・グランディール。セリスの父親である。
そんな国王が俺に視線を移す。
「そなたのおかげでセリスが無事だったようだ。感謝する」
「……いいえ、たまたまなんで」
国王なんて偉い人物と話したことがないので、どう喋ればいいか分からない。
取りあえず、テレビドラマで見た通り顔を伏せて答えた。
すると、
「なんだ、その態度は! 目を合わせて喋らんか!」
トーマスに怒られてしまった。
「よいよい。私は気にせん。それより、そなたに褒美を取らせようと思う」
国王ルイが近くにいた配下に促すと、パンパンになった袋を持ってきた。
中身は魔石と呼ばれる貴重な宝石類らしい。
教会で売ればかなりの金額になるそうだ。正直、ありがたいと思った。
国王に感謝のお礼を言う。
「うむ。それでだ。そなたは今後どうするつもりだ?」
「えー、特に考えてはいません。取りあえず――」
「お父様、突然ですがお話しがあります」
突如、俺の言葉をさえぎってセリスが国王に話をする。
「なんだ。申してみよ」
「はい、私セリス・グランディーネはこの方と結婚します」
セリスが俺の腕を組み、万弁の笑みを浮かべる。
「「「……」」」
しばし静寂が続いた後、
「はああ!! 何を言っておる、セリス!」
「姫様! 気でも触れましたか。何を考えておるのですか!!」
玉座で怒号が飛び交った。
先ほど向けていた視線と変わり、憎々しい目で俺を睨みつける国王。
さらに杖を構え殺気立つトーマス。
そんな殺伐とした二人を気にせずセリスは俺に話かける。
「ユウジ様。子供は何人欲しいですか? 私、貴方となら何人でも構いません――キャッ」
「……」
嬉し恥ずかしそうに妄想を膨らませる少女を無視して、この状況について行けずただ呆然とする。
「そこになおれ、貴様! 私自ら手を下してやるわ!」
「まだ十になったばかりの姫様に手を出すとは、このロリコンが!」
年寄連中がさらにヒートアップしている。
(どうして、こうなった!?)
俺は呆然と天井を見上げ、目の前の現実から目を背けようとした。