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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第5章:天空城
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第125話(1/2):発進

 決戦当日の朝。

≪魔皇城≫の脇にある飛空艇―――スペースシップ。


≪魔皇城≫と比較すれば豆粒ともとれる飛空艇の前には多くの人々が集まっていた。

 彼らは、これから天空城へ向かう勇者達の見送りに来ていた。


 見送りに来ていた人々は、国問わず様々な人達がいた。

 ベルセリウス帝国、グランディール王国、ルネ王国、アグリ王国の人々。

 帝国の侵略を受けて壊滅的な被害を受けたサブネクト王国の生き残りや、志の【神炎】により魔人状態から解放されたオーラル王国の人々の姿もあった。


「どうか、皆さまお気を付けください」

「任せろ! セリス……あとのことは任せたぜ」

「はい」


『スペースシップ』の甲板にいる雄二達に向けてセリスが呼びかけた。

 この一週間、色んなところに引っ張りだこのセリスだったが、雄二達の見送りに参加するため、こうしてこの場まで駆けつけたのだ。


 セリスの他には、ベルセリウス帝国王妃のアンジュやアグリ王国女王のクレミアの姿もあった。これから世界の命運を担う勇者達の見送りを行いたいと考えてことだった。


「クミ。無理をするな、なんて言えませんが、それでもどうか無事に帰ってきてください」

「うん。大丈夫。クレミアも気をつけてね」

『クミ様! 私達も及ばずながら頑張りますから』

『魔大陸の魔物も楽勝だぜ! なあみんな!?』

『『『おう!』』

「うん。皆も頑張って……私も頑張るから」

『『『はい!』』』


 見送りに来ていた“自由の風”の組織員が歓喜の声を上げ返事をする。

 自分達の旗印である久実と話せたことがよほど嬉しい様子だった。


『それじゃあ、そろそろ発進するとしますか。見送りの人達は、船から離れてね―――そうそう、それくらいの位置なら大丈夫かな』


 操舵室からスペースシップの周囲に人がいないかモニタで確認したトッティが、『スペースシップ』のエンジンを起動させる。

 船の動力部分には志達が供給した魔力が満ち溢れておりすぐにでも出発できる。


 動力室から船全体に魔力が伝わり、重厚な金属船が徐々に空へと浮かび上がる。

 その様子を固唾を飲んで見守る多くの人達。


 グランディール王国のみ、箒を介した飛行魔導具があることはみんな知っていたが、『スペースシップ』のような飛空艇をこの世界の人々はまだ誰も見たことがなかった。

 浮かび上がる飛行艇を前に、人々が羨望の眼差しで空を見上げる。


「動力部も暖まってきたね……いいよ、ココ。いつでもいけるよ」

「わかった、トッティ―――じゃあ、行こう。天空城へ!」

「「「はい(おう)!」」」

『スペースシップ発進!』


 志の掛け声とともにスペースシップが急スピードで『天空城』へと向かった。




 天空城へと向かって、凄まじい速度で移動するスペースシップ。

 あと数十分もあれば天空城へとたどり着ける距離にまで接近したときだった。

 天空城の入口-――巨大な城門からキラリと何やら光った。


『総員! 近くの手すりに摑まれ!』


 船全体に聞こえるトッティからの声を聞いて、中にいる人達はすぐさま近くの手すりにつかまった。

 途端、船が激しく揺れ出した。

 船員達が突然の揺れに動揺している中、船長のトッティは城門から放たれた次弾を回避するため舵を大きくとる。


 トッティ以外の乗員には見えていないが、現在スペースシップは天空城の攻撃を一斉に受けていた。

 天空城を囲む城壁から複数の砲台が現れ、『魔導砲』をスペースシップに向けて放つ。

 スペースシップの障壁によって、『魔導砲』から放たれる光線(ビーム)を防御するが、防御すればするほど艦内に蓄えていた魔力が低下する。


 何とか無数に降り注ぐ魔力弾を回避しながら、城門への接近を試みるトッティだが。


『火天複合魔法―――【光竜火弾(コウリュウカダン)】』

「ちぃ!」


 城門から、降り注ぐ紅蓮色の閃光により近づくことができない。


 スペースシップのサイズと比較して、城壁から放たれる『魔導砲』の弾丸は1/1000程度の大きさだが、城門から放たれる炎の矢はスペースシップの1/10の大きさ。

 直撃すれば間違いなく撃ち落とされる。


 トッティは先ほどから危険な攻撃を繰り出す厄介な人物に視線を向ける。

 巨人が肩車しても十分余裕のある高い城門の前には。


『女神アンネム様の許可なく聖地へと侵入を試みる賊共に神の裁きを!』

『我らは天空城の守護者。主を守り敵を滅ぼす者なり』


 十二星座―――サジタリウス、アクエリアスの姿があった。

 サジタリウスは手には、自分の背丈の三倍はある巨大な弓を構えている。

 アクエリアスは敵からの攻撃をいつでも防げるよう杖を構え待機している。


「くそっ! 早速、厄介な敵が現れたよ。ココ! どうする?」


 操舵室で見ていた視覚情報を、トッティはすぐさま志達がいる管制室のモニタへと転送する。

 管制室にいた志、美優、飛鳥、雄二、久実、ティナ、リムルの六人。

 リムルの配下の魔族達は動力室で魔力の補給や艦内整備のため、この場にはいない。


「僕が行く。僕なら空を飛べるから、敵の迎撃も上手く躱せる」

「でも、ここで志くんの力を消費するのは良くありません。勇也さんの奪還。それに女神アンネムを倒すためには志くんの力を温存する必要があります」

「美優の言う通りね。志、アンタは行っちゃだめよ。ここは私達で何とかするわ」

「飛鳥! でも、僕以外に誰が―――」

「……俺が行く」

「雄二!? いや、でも雄二の力じゃ空を飛べないはず」

「ああ、だから久実。一緒に来てくれ」


 雄二が隣にいる久実を見る。

 久実は雄二がそう言うことを予見していたのか、「はあ~」とため息をついたあと。


「雄二ならそう言うと思ってた……うん。志、ここは私達に任せて」

「久実!?」


 雄二の提案を久実があっさりと引き受けた。


「そうね。久実ちゃんには飛行魔法があるから、その魔法で雄二と一緒に空中戦を行うことも可能だしね」

「クミならあんな砲弾、カスリもしないだろう」


 飛鳥とティナが賛成の声を上げる。

 美優とリムルも久実達の実力から最適な考えと思い同意する。

 ただ一人、志だけは心配の表情を浮かべる。


「でも、本当に二人で大丈夫!? 僕が行けば―――」

「おいおい、志。お前、いつからそんなに俺達のことを疑うようになったんだよ」

「!」


 雄二の一言に志の胸が跳ね上がる。

 雄二の言う通り、志は自分が行けば何とかなると、無意識に考えていた。

 可能な限り友達の危険を少なくしたいと考えていた。

 そんな志の気持ちを、雄二と久実は見抜いていた。


「志。私達を心配してくれるのは嬉しい。でも、私達をもっと信頼して」


 動揺する志の両手を握り久美が志に笑いかける。


「大切な人達を失いたくない気持ちは私達も一緒。志には志のすべきこと。私達には私達がすべきことがある」

「お前を勇也の下に無傷で連れて行く。お前しか勇也の洗脳を解除する手段がねえ。だから、ここは俺達に任せろって」


 勇也の洗脳を解く手段。

 空中庭園で何度か【神炎(メギド)】を勇也に浴びせて、志は勇也の洗脳を解こうと試みた。しかし、効果はなかった。

 オーラル王国の魔人化を解除できる志の【神炎(メギド)】でも、神の力に抗うことができなかった。

 そのため、志はこの7日間の間、空いている時間を利用して自分の力を研究した。

 何とか、勇也の洗脳を解く手段が無いか検討していたのだ。


「久実、雄二……ごめん。いや、ありがとう」


 雄二達の言葉を聞いて、志が決断を下す。


「ここは任せたから。雄二、久実、無事に帰って来てね」

「おう」

「……了解」


 ………

 ……

 …


 スペースシップ甲板。

 高速移動のため激しい揺れが甲板を襲う中、雄二と久実の姿があった。

 二人の背中には、薄い緑色の透明な羽がある。

 久実の風魔法―――【妖精の羽】。久実オリジナルの飛行魔法だった。


 二人の前方に、魔力弾と障壁がぶつかり激しい火花が散る。

 触れれば間違いなく重傷を負う火花を見て、動揺しなくなった自分に雄二がふと笑みがこぼれた。


「……雄二?」

「ああ、わりい。昔の自分ならさ、こんな景色見せられてたらビビッて何もできなかっただろうなって。本当、この世界に来て色んな耐性ついたなってさ」


 魔法という地球の科学でもわからない不可思議な力を体験した。

 人間以外の様々な種族の人達を見た。

 身分制度を見た。理不尽な要求を受けながらも懸命に生きる人達を見た。

 危険な魔物と戦った。魔物といえど動物。初めは殺すことに抵抗があったが慣れた。

 戦争を体験した。多くの人達が命をかけて戦い亡くなっていった。

 親友と呼べる相手に憎悪を抱き殺そうとした。

 だが今はその親友と共に世界を救うため行動を共にしている。


「俺さ、ここに来るまで色んなことを体験したよ。楽しいことや辛いこと。バカな自分に失望し、全てが嫌になったことだってあった」

「雄二」


 雄二の気持ちを久実は痛いほどわかった。

 本当に色んなことがあった。

 それは、元の世界では絶対に体験できないこと。

 良いか悪いかという問題ではなく、ただ経験し得た自分が今ここにいるということ。


「だけど、今は思える。俺はやっぱりこの世界に来て良かった。こうして、親友(ココ)やクリスやセリス達のために自分にできることがあるんだって」


 雄二が神具―――鎚を取り出した。

 雄二、飛鳥、美優、久実の四人の中の宝珠は全て回収された。

 今、雄二が出現させた神具は、神獣から受け取った加護によって顕現させたものだった。


 雄二が見据える先は、天空城城門。

 そこにいるサジタリウスとアクエリアスの二人。

 天空城が誇る最強の矛と盾。


「志の進む道は俺が切り開く。誰にも邪魔はさせねえ!」


 志との仲が修復できたように周囲は思っているが、雄二はそう思っていなかった。

 自分がした罪は一生消えない。

 そのことを雄二は十分理解した上で、それでも志の傍にいることを誓った。


「行くぞ! 久実!」

「ん」


 背中の羽を羽ばたかせ、雄二と久実が勢いよく甲板を飛び出した。

 向かう先は、天空城城門。

 飛び散る無数の砲弾を掻い潜りながら目的地へ突き進む。

 ―――全ては大切な人達を守るために。


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