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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第5章:天空城
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第122話:世界崩壊のカウントダウン

 映像は、世界中の人達の目をくぎ付けにした。


 空に展開する魔法陣から、蒼い炎が噴き出る中、二本の角が這いずり出た。

 紅蓮色に輝く二つの瞳と、伸び切った長い顔立ち。

 外見は、一見して山羊(ヤギ)のように見えるが、顔面から伝わるその圧倒的な“存在感”に誰もが畏怖し、思わず膝をつき拝み通したくなる。

 ―――火属性を司る神獣がこの世界に顕現した。


 顕現しようとしているのは、火神獣だけではない。

 一つとなった各宝珠からは、溢れんばかりの魔素(マナ)が流れ出ており、各属性色の輝きを放っている。火神獣のように他の神獣達の姿形は見えないが、確実にそこから這いずり出ようとする気配が伝わってくる。


 その光景を目にした人々は、神獣達の圧倒的な威圧感を前に恐怖に怯えた。

 既に頭の中で処理できる能力を超えていた。


 まず、突然自分達の前に『女神』と名乗る神秘の美しさを秘めた女性が現れたと思ったら、伝説上の生物である『竜』の姿。極めつけに、信仰対象である『神獣』の出現だ。

 告げられる情報量の多さに、人々は処理しきれなくなり、パニックに陥った。


『ふうー、儀式は成功したようですが……『神獣』が完全にこの世界に顕現するには、まだ時間がかかりそうですね』


 パニックに怯える人々とは反対に、リベラは現れた神獣達を前に平然としたまま、具に観察を続ける。隣で儀式に参加していたジェネミも同様に。


『この分だと7日ってところかしらね。どう致しますかアンネム様?』

『別に構わないわ。この日のために散々待ったのだから、あと7日伸びようと些細なことでしかないわ……そんなことよりも、勇也』


 女神アンネムが、遠く離れた空中庭園にいる勇也に向けて指を向け、クイッと軽く引き寄せる仕草をした。

 すると、勇也の身体が突然消えたと同時にアンネムの隣へ瞬間移動した。


「「勇也!」」

「ちょっと、アンタ勇也に何すんのよ!?」


 隣にいた勇也がいなくなったことに、志、雄二、飛鳥が女神アンネムに向けて怒号を上げる。女神アンネムは志達のことなど気にせず満面な笑みで勇也を抱きしめる。


「ああ~心配したわよ勇也。私を欺こうとした罰で、アナタをリベラの下へ預けたけど、心配で夜も眠れなかったわ」

「……」

「さあ、天空城へ帰りましょう。そして、もう一度、私達の手で新たな世界を創生しましょう。今度は貴方が飽きることもない、完全な世界を」


 アンネムは勇也の肩に腕を回して天空城の中へと戻ろうとする。

 その姿を見た志は。


「させるかぁああ!」

「志!」


 炎翼を羽ばたかせ空に浮かぶアンネムの下へと向かう。

 空中庭園に残る飛鳥と雄二が、志に自分達の思いを託す。


「勇也ァアア!」


 高速で天空城へと向かう志。

 天空城から大分離れた距離にも拘らず、志は少しでも勇也に近づけるよう手を伸ばす。

 しかし。


『うるさい坊やね……やりなさい、サジタリウス(・・・・・・)

『ハッ!』

「!?」


 ―――キュィイイイーン!


 突如、大気を切り裂く甲高い高音と共に、天空城の城門から一本の巨大な矢が志に向けて放たれた。

『見切眼』で何とか察知した志だが矢の速度が速すぎて完全に回避することが出来なかった。伸ばしていた志の右肩に矢が突き刺さる。

 右腕を吹き飛ばされたかと、思うほどの強大な一撃を受け志の動きが遅くなった。


『次弾装填ッ!』


 さらに、サジタリウスは動きに鈍くなった志に向けて連続で矢を照射していく。

 無数の矢が光の速さで志に襲い掛かる。

 それはさしずめ、矢の暴風雨。


 犇めく【光矢】の数量を前に、志はアンネムのもとへ近づくことができない。

 志が必死に矢を掻い潜る内に、アンネムと勇也は天空城へとゆっくりと戻っていき、その距離はドンドンと遠ざかっていく。

 魔法陣の中心にいたジェネミとリベラも、女神の跡を追って天空城内部へと帰還していく。


「くそ! 勇也を、勇也を返せ―――ッ!」


 向かってくる大量の矢ごと消滅させようと志は、大剣を振り翳しアンネム達に向けて放った。黄金色に輝く強大な炎がアンネム達に向かう。


『させない……天冥複合魔法―――【絶対堅守(イージス)】』


 突如、アンネムと襲い掛かる巨大な炎の間に誰かが割って入って来た。

 その者は、志の剣技を魔法障壁であっさりと防御したのだ。


『良い子ね、アクエリアス(・・・・・・)

「主を守ることは我が勤め……当然のことです」


 十二星座が誇る最強の盾こと、天空城を守る番人である水瓶座―――アクエリアスだった。青色の髪に、丹精な顔立ちをしていて、どこかシスターに顔立ちが似ている少年。


 さらに、アクエリアスの隣には同じように弓を構える少年の姿があった。

 その少年は、アクエリアスと違って、髪が緑色だった。


 緑色の少年は、十二星座が誇る最強の矛こと、アクエリアス同様に天空城を守る番人である射手座―――サジタリウスだった。


「神に背く愚か者には鉄槌を!」

「我らこそ絶対的正義を司る者!」

「くっ!?」


 天空城の前で浮かぶサジタリウスが、志に向けて次々に矢を打ち付ける。

 一撃、一撃に尋常な量の魔力が込められた矢は、少しでも当たれば相応のダメージを受けることを志は察知していた。


 空を縦横無尽に飛びながらなんとか打開策を考える志であったが、透明な魔法障壁―――【絶対堅守(イージス)】を巧みに操るアクエリアスが、志の進行方向を邪魔する。


「くそ! どいてくれ! 勇也ァアア!」


 何とかサジタリウス達を躱して勇也を追う志だったが、サジタリウス達が阻む。

 結局、勇也はアンネムに連れら天空城の中へと消えていった。


「ちくしょう!」


 救えなかったことに憤る志に、アクエリアスが追い打ちをかける。


「【絶対堅守(イージス)】 最高出力! フルオープン!」

「! ぐわぁああああ!!」

「「志!」」


 アクエリアスが志に向けて放ったのは、天空城の防御に使用していた魔法【絶対堅守(イージス)】。本来なら防御の用途に使う魔法を、アクエリアスは妨害するために放ったのだ。


 どんな攻撃も防御できる最強の防御魔法。

 しかし、その分かなりの魔力を消費するため使い勝手が難しい魔法でもあった。


 シスターのガーナがヨルド公国で使った際には、全魔力を放ったことで、久実達三人分を守れる障壁を展開させることができた。


 だが、今アクエリアスが放った【絶対堅守(イージス)】はその百倍の広さは有にある巨大な範囲の魔法障壁。

 あまりの面積に志は障壁に押しつぶされたまま、地面へと落下していく。


 志の落下を見て地上にいる飛鳥と雄二が悲鳴を上げる。


「我らは女神アンネム様を守る守護者(ガーディアン)

「神に逆らった者には厳正な罰を」


 さらに、サジタリウスが落下する志に向けて矢を構え狙いを定める。

 収束する魔力が矢尻に集まる。


「弓技―――【流星(シューティングレイ)】!」


 光束が絶対堅守(イージス)を貫通し、志の身体に命中する。


「ぐわぁああああああ!」

「志!」

「まずいわ、あの攻撃を直撃なんて!?」


 その一部始終を見ていた雄二と飛鳥が、すぐさま落ち行く志を助けに向かう。

 飛鳥が【水弾(ウォーターバレット)】で簡易的な足場を作り、雄二がその足場を飛んで落下中の志の身体を捕まえる。


「ぐぅうう」

「おい! 志大丈夫か!? 返事をしろ」


 幸いなことに志は無事だった。

 咄嗟に身体を炎で包み込み防御したのだ。

 だが、あまりの威力に持っていた魔力のほぼ全てを防御に回したため、今の志には立つことすら難しい状態だった。


「ゆ、勇也、勇也ァアア!」


 志が天空城へ向けて腕を上げる。


(もう少しだったのに。もう少しで勇也を!?)


 悔しがる志を無視して、サジタリウス達が空の上から全世界に向けて告げた。


『これより7日後に、女神アンネム様より“神の審判”が下る』

『それまでの間、時を大人しく過ごすのです』

『『我らの創世主―――女神アンネム様のために』』


 そう言って、サジタリウスとアクエリアスも元の場所へと戻った。


 ………

 ……

 …


 一部始終全てを見ていた人々は、あまりの事態にその場で膝を落とし涙を浮かべた。

 モニタ越しに見た女神の畏怖を感じるとともに、空を見上げれば自分達が信仰する神獣達の姿があるのだ。


 明らかに自分達に敵意を向ける神獣の様を見て、先ほど言っていた女神の言葉が真実であることを理解し、誰もが絶望した。


 だが、中には絶望せず顔を上げ前へと立ち上がる者達もいた。


「これ以上、お前達の好きにさせてたまるものか」


 一人は、ベルセリウス帝国騎士団団長のユリウス・シュバルツだった。


 ユリウスは、王妃アンジュの命を受け各国の代表者と停戦交渉に向け動いていたところ、先ほどの映像を見せられていた。


 ユリウスの胸中には二つの無念が深く過っていた。

 主君であったメリエルの復讐を遂げられない無念と同士であった皇帝の死去だ。


(女神アンネム……奴こそが諸悪の根源! 必ずや私の手で!)


 腰元に備えている『魔剣カラミティ』を見つめ、心に誓うユリウス。


「……父上」


 そんな父親の姿を見て、一人呟くコーネリアス。


 同時刻。


「……神獣の解放。我らもこの世界を立て直すためにどうしても必要だと思っておったが」


 魔王は宙に浮かぶ巨大な魔法陣から、この世界に現れようしている神獣達を見た。

 神獣達からは、黒い瘴気が体中から発生している。


「ここまで“破壊神”に毒されておるとはな……これでは、神獣システムを復活させるということは、ユウヤがおっても無理な話じゃ」


 神獣から発せられるのは、志が【神気開放】の際に得ていた膨大な力の結晶だった。

 圧倒的な負の感情が凝縮された魔力を長年に浴び続けた神獣達は、もはや理性を失くし世界を崩壊させることしか頭にない。

 身に宿った破壊衝動を遺憾なく発揮されれば、この世界は一日持たず崩壊するだろう。


 さらに、魔王は感じ取っていた。

 神獣達が這い出ようとしている魔法陣の先にある()を。


「……破壊の神。押し留めていた神獣達の封印も解ければ、奴がこの世に現れるのも時間の問題か」


 そのことを肌で感じ取った魔王は、あきらめのため息をつく。


「お祖父ちゃん……もうどうしようもないの?」

「ああ、少なくともこのまま神獣達を復活させてしまえば世界は、瞬く間に滅ぶであろう。であるなら……」


 リムルの質問に答えつつ魔王は神獣達が這い出ようとする魔法陣へと視線を向ける。

 強大な魔法陣を守るように、天空城が結界を張っている。


「あの結界を破壊し魔法陣を破壊する……これ以外に道はなかろう」


 そのためには、遥か天空に浮かぶ天空城まで向かわなければいけない。

 さらに、天空城には十二星座と女神アンネムが待ち受けている。


(死闘となるのは間違いなかろう……だが、勝たなければ世界は終わる!)


 魔王は、天空に浮かぶ城を静かに見つめていた。


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