第121話(1/2):戦争終結
≪神花≫の内部。
変化は急に訪れた。
「魔人達の動きが停止した?」
「?」
突然、動きを止めた魔人達を見て美優と久実が困惑する。
周りを見れば周囲を囲んでいた他の魔人達も同じように動きを止めている。
「誰かが統治者、いや、イデント宰相を倒したの?」
統治者を倒せば一部の配下だった魔人達が止まることをリムルも知っていたが、さすがに数十万規模の魔人達が一斉に動きを止めるとなると、最上位の統治者―――すなわちイデント宰相以外にあり得ないと思った。
「まあ、いいわ! 今の隙に王城へと向かうわよ! まずは内部を制圧するのよ」
『『『おぉおおおお!!』』』
「ミユ! クミ! 引き続き、切り込み隊長任せたわよ」
「はい!」
「……了解」
美優と久実を先頭にして、リムル達魔族は一気に王城へと向かう。
統治者を失い制御化から外れた魔人達だが、一部の者達は暴走し美優達の侵入を防ごうと動く。
その魔人達を迎撃しつつ、美優達は王城へと入った。
オーラル王国の王城。
豪華な宮殿内部には埃一つない赤の絨毯が敷かれている。
外壁は金メッキが施されているのか黄金色にキラキラと輝いていた。
豪華絢爛な内部に対して、王城内には誰一人いなかった。
魔人達も王城内部には入れないようになっていた。
警戒しつつ美優達が玉座へとたどり着くと。
「トッティさん!?」
「やあ、ミユちゃん、リムルちゃん」
玉座の近くに、トッティの姿があった。
トッティの傍には、床に倒れているイデント宰相と黒焦げになったオーラル王の無残な姿があった。
「……アナタがやったの?」
「うん。どうしても、この人達だけはボクの手で片を付けなきゃいけないから。それが、ボクがオーラル王国の王族として果たす最期の役目だから」
「トッティさん」
美優が心配した様子でトッティを見つめる。
トッティが志に打ち明けた―――トッティがオーラル王国の王族であるという話を美優とリムルは偶々盗み聞きしていた。
少年のような体躯のトッティが、自分達の何十倍も年上であることに仰天したほどだ。
話の中で、悪い噂しか絶えないオーラル王国の現状を嘆いていたことは知っていた。
王族としての責務を果たさなければならないと言っていたことも知っている。
しかし。
「≪神花≫のことは任せて。さっき操作権限をボクに移したからもう大丈夫。ただ残念なことに、オーラル王国にいた全ての国民達は魔人に改造されていた。誰一人とも元の姿にはもう……」
「そんな!?」
≪神花≫の力を使い内部の人達を分析した結果、全員が元の人の姿に戻ることができないことが明らかになった。
数十万規模の人達が魔物化した現状に、トッティは愕然とした。
「ボクがもっと行動を起こしていれば」
後悔だけがトッティの頭を過る。
そんなトッティを見かけて久実が話しかけた。
「……まだ大丈夫かも?」
「えっ!」
「志の炎……あれで魔人になった人達を治せないかな?」
「確かにそうかもしれません! 志くんの炎は対象者を癒す治癒の効果があります」
久実の話を聞いて、美優が志から貰った【神炎】を掌に出現させる。
美優が志より貰った【神炎】は、志が戦場にいた帝国騎士達に降り注いだ神炎と性能が違う。
飛行能力は勿論のこと、炎を通して志からほぼ無制限に力を譲り受けることができる。
さらには。
『志くん! 今大丈夫ですか?』
「―――美優か! ごめん、今は話している暇が―――ッ!」
炎を介した通話も可能だった。
魔人化を解除できるか相談しようとした美優だったが、現在、志はレオを抑えるのがやっとの状況だった。
玉座のモニタからは、志と勇也が縦横無尽に空中を動き回っている。
互いに放つ炎と雷の応酬に、激しい爆発が所々で発生している。
「仕方がない。ココがあのユウヤを抑えてくれてるおかげで今こうしてボク達が自由に動くことができるんだからね。魔人の件は、この戦いが終わってから考えよう」
「……これからどうするの?」
「ボクは、これから≪神花≫を地上に降ろすよ。で、中にいる魔人達を全員強制的に眠らせるようにしてみせる……多分だけどできると思う」
「それじゃあ、外で帝国と戦っている魔人達を抑えればいいのね」
「ああ、可能な限り彼らを傷つけないようにしてくれると助かるよ」
「わかったわ。行くわよ! みんな!」
『『『ハッ!』』』
配下の魔族達を従え、リムルが出ていった。
その場に取り残されたのは、トッティと美優、そして久実の三人だった。
「……私は≪魔皇城≫に一度戻ろうと思う。雄二達も心配だし、それに何より今も志が頑張ってるから」
「はい、私も行きます」
「ああ、ココロ達のことを任せたよ」
「了解」
「はい」
トッティは、玉座へと座り再び≪神花≫の操作に集中した。
トッティを残して、久実と美優は王城を跡にした。
その途中。
「! 風ちゃん!?」
「急に立ち止まってどうしたんですか? 久実ちゃん」
「風ちゃんとの共有が途切れた」
「風ちゃん?」
「私の使い魔になってくれた風竜。とても可愛いの」
「ふ、風竜! って、竜じゃないですか!?」
美優が仰天するのも無理はない。
竜は伝説の幻獣種であり、美優も様々な竜と遭遇し戦ってきたが、規格外の化け物たちである。
そんな竜を使い魔として使役している久実に驚くのは仕方がなかった。
そんな動揺する美優を置いて、久実は焦燥感の表情を漂わせる。
「……嫌な予感がする。早く戻ろう」
アンジュの護衛として風竜を同行させていた。
≪魔皇城≫が突如停止してから、アンジュは久実達の前に姿を見せていない。
(まさかアンジュに何かあった?)
不安な気持ちを抱きつつ、久実は空中庭園へと向かった。




