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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第5章:天空城
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第118話(1/4):飛鳥 with ファミリア VS ガイネル・ヴィルゴ

 雄二とキャンサーが激闘を繰り広げている別の場所では。

 飛鳥は、ティナに担がれる格好でとある人物達から逃走(・・)を繰り広げていた。

 

「ちょっと、ティナ! あれ、アンタのお母さんなんでしょう! 何とかしなさいよ!」

「いや、無理、無理! それを言うなら、アスねえこそ、あの爺さんをどうにかしろよ!? 付き合いはオレよりも全然長えだろう!?」

「うーん?」

 

 ちらりと、後ろを振り向く飛鳥。

 後方からは。

 

「グォオオオオ!!」

「グルルルルル!!」

 

【狂人】と【鬼化】が進み、理性を失い暴走しかけているヴィルゴとガイネルの姿があった。

 追いかけてくる二人の形相を見て飛鳥は一言。

 

「いや、無理! 無理だから! あれは私の知っているガイネルさんじゃないわよ!」

「オレもそうだよ!? あんなの反則だろうが!?」


 早々に、戦うことを諦めていた。

 

 ………

 ……

 …

 

 超人戦争ともいえるガイネルとヴィルゴの闘いに割って、飛鳥とティナは介入した。

 あのまま二人が戦い続ければ、周辺への被害も尋常になると考えた他に、何より二人の命が危ないと考えたからだ。

 

 飛鳥は水魔法を、ティナは【風咆哮(ウィンドハウル)】を使って介入するところまでは良かった。

 だが、その後二人は何故か執拗以上にガイネルとヴィルゴに追われる形となり、気づけば全力で逃げていたのだった。

 

 勿論、飛鳥とティナもただ逃げているわけではなかった。

 

「【氷結(フリージング)】!」

 

 ガイネルとヴィルゴの足を止めようと、飛鳥が二人の足元に向かって氷結魔法を放つ。

 凍てつく冷気が二人の下半身を氷漬けにする。

 しかし、「フン!」、「ムン!」と二人が軽く力を加えただけで、簡単に氷が砕けてしまう。

 

「ちょっと、嘘でしょう! 一応、凍結効果に特化させた水魔法なのよ!」

 

 凍らせることに重きを置いた飛鳥の氷結(フリージング)


 これでもスリゴ大湿原では数多くの騎士達をこの魔法で凍結させ、無力化させてきたのだ。

 多種多彩な水魔法を操る飛鳥の中でも、自信ある水魔法だった。

 それが、いとも簡単に壊されたことに飛鳥が思わず落ち込んでしまう。

 

 だが、飛鳥に落ち込んでいる暇などない。

 

「おい、アスねえ! しっかり捕まってろ! あぶなっ!」

「うひゃぁああ!」

 

 ガイネルとヴィルゴが徒手空拳で、拳を振り払う。

 圧倒的な拳力で圧縮された空気の衝撃波が、離れているティナと飛鳥を襲う。

 ティナは亜人の身体能力を元に、何とか二人の攻撃を回避する。

 

「どうする! アスねえ!? このままじゃジリ貧だぞ」

「わかってる! 今、なんとか策を考えているから」

 

 とは言っても、ここに至るまでの間、飛鳥は思いつく限りのことを実行に移していた。

 

(天属性を込めた【水弾(ウォータバレット)】も弾かれるだけだし、【幻影の霧(ミストハイド)】を使ってもすぐに私達の居場所を追ってくるし、【巨大津波(タイダルウェーブ)】を溜める暇は全くないし、というか【巨大津波(タイダルウェーブ)】を放っても二人が止まるイメージが全くつかないわ)

 

 心底恐ろしいのが、これがガイネルとヴィルゴの身体能力で行われている点だった。

 そのため全く力が尽きる様子がない。

 無尽蔵のまま魔法と同じような超人離れした現象を体一つで引き起こす二人は、災害以外の何モノでもないと、飛鳥は感じていた。

 

 打開策が見つからず手をこまねいている飛鳥達を、ガイネルとヴィルゴが追いかける。飛鳥達が捕まるのも時間の問題だった。

 だが。

 

「【氷雨(アイシクルレイン)】」

「【炎燕(ヒエン)】」

「「―――!」」

 

 突如、追いかけるガイネルとヴィルゴの頭上から無数の氷柱が降り落ちる。

 さらに、燕の形をした巨大な炎がガイネル達を呑み込もうとする。

 二人は咄嗟に氷と炎の攻撃を回避する。


 二人に攻撃を仕掛けたのは、

 

「キル姉、フリート兄!」

「全く私の許可なしに無茶なことして……」

「ティナ! 我がマイシスター! 怪我はないか!」

 

『ファミリア』の氷狼キルリアと火鳥フリートだった。

 

 キルリア達の攻撃を回避したガイネル達は、拳を振り翳し衝撃波をキルリア達に向ける。

 

「……私もいる。【風魔法―――風流操作(ウィドーレ)】」

「フンガァアアア!」

 

 マリーが風魔法を使い気流を操作し、キルリア達に向けられた衝撃波を横に反らす。

 さらに、豚族の獣人トイトスが、地面から繰り出した巨大な岩石をガイネル達に向けて投げつけた。

 人間二十人ぐらいの巨大な大きさの岩石をガイネルとヴィルゴは、拳を振るい木っ端微塵に粉砕する。砕けた破片はガイネル達を覆いつくした。

 

「今! 【氷結(フリージング)】!」

 

 飛鳥は砕けた岩石の破片に氷結魔法を当て、ガイネルとヴィルゴを氷の中に閉じ込めた。

 さらに、キルリアの「【氷結大息魔(ホワイトブレス)】」が、閉じ込める二人の氷壁をさらに分厚くし抜け出せないようにする。

 

 その隙をついて、マリーとトイトスはキルリア達と飛鳥達のもとへ合流する。

 

「どうして、私達を助けたの!?」

「勘違いしないで。ティナとアナタを助けたのは偶然。私達の目的は一つ。お母様のため」

 

 飛鳥の疑問にマリーがぶっきらぼうに答えた。

 

「そうよ! 決して、私達はティナを助けるために行動したわけじゃないからね」

「いや、俺はティナのために―――」

「フリート! 貴方は黙ってなさい」

「ティナ、ケガハナイカ?」

「おう! あんがと、トイ兄!」

 

 あくまでヴィルゴのためと言いはるキルリアだったが、チラチラと心配そうにティナを見るキルリアの態度は誰の目から見てもバレバレだった。

 マリーもツーンと目を瞑りティナから視線を外そうとしているが、ティナに「マリー元気だったか」と尋ねられると、顔を赤くしながらもティナの質問に答えていた。

 

 妹命(シスコン)のフリートは勿論のこと、トイトスも久しぶりに会えたティナに、笑いかけながら話をする。

 ティナも久しぶりに会えた『ファミリア』との会話に花を咲かせていた。

 その様子を、飛鳥は微笑ましく見つめていた。

 

(なんだ、やっぱり仲いいんじゃん)

 

 ティナから『ファミリア』のことは聞いていた。

 戦争孤児であり、複雑な家庭環境だと飛鳥は聞いていた。

 

 あのクロイツ郊外で勇也を連れ去られた日。

 飛鳥と美優はキルリアとフリートと戦った。

 その際、二人からは確かにティナへの愛情を感じていた。

 

 ティナはマリーとトイトス、そしてヴィルゴに敗北し、さらにはルネ王国まで弾き飛ばされた。

 仲間にやられたショックは相当なものだと察知した。

 直接戦ったマリーとトイトスも、ティナを悪く思っていたのかと心配もした。

 だけど、今こうして楽しそうにティナと会話するファミリア達の姿を見て、飛鳥は心底ほっとした。

 

 だが飛鳥達がホッとしているのも束の間。

 ―――パリーンと、氷牢が崩れ去り中からガイネルとヴィルゴが飛び出してきた。


 二人が飛び出すや否や、すぐさまキルリア達は戦闘の構えを取る。

 ティナは『ファミリア』のトップであるキルリアに話しかける。

 

「キル姉!」

「ええ、私達の目的は今は同じ……止めるわよ、お母様を!」

「うん!」

 

 嬉しそうに尻尾を震わすティナの姿に、キルリアが優しく微笑む。

 

「アナタ! ティナのことをお願いね!」

「飛鳥よ! ええ、キルリアさん! 任せて頂戴!」

 

 力強く宣言した飛鳥はティナの背中へと乗る。

 超人的な二人を前に、飛鳥のスピードでは話にならないと判断したからだ。

 ちょっとカッコ悪いなと思いつつも、ここで二人を止めなければもっとカッコ悪いと、飛鳥は気合を入れ直す。その様子を見て、キルリアも安心した様子で飛鳥を見つめる。

 

「ええ、頼みましたよアスカ……さあ、私達も行きますわよ」

「悔しいがトイトスは俺の背中に乗ってくれ……マリーはキルリアへ」

「……了解」

「ワカッタ」

 

 マリーは氷狼の姿になったキルリアの背に、トイトスは火鳥の姿になったフリートの背に乗る。

 フリートの何が悔しかったのか気になった飛鳥だったが、フリートのシスコンぷりっを考えると忘れることにした。

 

『ウォオオオ!!』

『ウガァアア!!』

 

 雄叫びを上げるガイネルは近くにいたヴィルゴと再び殴り合いを始める。

 飛び散る肉片と血飛沫を巻きちらしながら戦う二人の姿を見て、この場にいる親しい者達は、二人を心の底から心配する。

 

「止めるよ! 私達の力で」

「おう! オッサン! 見せてやるぜ! オレが戦う理由を―――覚悟を」

「貴方が救ってくれたこの命……必ずや貴方を取り戻してみせます」

「本当、バカな親を持つと苦労する」

「……お母様!」

「ウン、オレガンバル」

 

 ―――共に大切な人を守るため、今ここに一つの結束が生まれた。


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