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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第4章(後半):SS
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SS6-8話:VS 林田

「かの者を捕らえよ! 【拘束蔦】」

 

 開始直後、いきなり林田が僕に向けて木魔法【拘束蔦】を唱えた。

 地面からボコッと生えた数本の蔦が僕を捉えようと向かってくる。

 

「はあ!」

 

 向かってくる蔦を剣で靡きながら、僕は蔦に身体を隠しながらこちらに向かってくる林田を斬りつける。

 ―――カキーンと甲高い金属音が鳴り響く。

 

 僕が攻撃してきたことに驚いたのか、林田は少し目を大きく開けた。

 

「ちっ! ちょこざいな! さっさと当たれ!」

「―――!」

 

 ブオーンと横凪に巨大な大剣が振り払われた。

 僕はしゃがんで林田の大剣を躱しつつ、足払いをかける。

 

 足をかけられた林田は一瞬体勢が崩れる。

 すかさず、僕は無防備になっている林田の両腕を狙う。

 

「ふざけた真似をッ!」

 

 一旦その場から飛び退いて、僕の攻撃を躱した林田は僕に猛攻を仕掛ける。

 

「うぉおおおおお!!!」

 

 ―――体重が乗った豪快な斬り降ろし。

(身体を側面に向け右に回避!)

 ―――衝撃波を伴う鋭い突きの連打。

(狙いは、顔と胸。躱した直後に、隙だらけの大剣に振り下ろし!)

 

 林田の猛攻に対し、僕はその攻撃を瞬時に見切り反撃を行う。

 どうやら、宝珠の力を失ったとはいえ、僕の眼は能力を失っていなかったみたいだ。

 『見切眼』―――相手の攻撃を瞬時に見切る能力。

 

 この眼により、林田がどれだけ鋭い攻撃を繰り出しても僕は彼の攻撃を回避することができる。

 加えて、僕にはメルディウス教官から指導してもらった戦闘経験がある。

 相手の攻撃に応じて、適切な剣の型で林田を徐々に追い詰める。

 

「くっ! 剛田のくせに生意気な!」

「はぁあああ!」

 

 追いつめられた林田は苦し紛れに水平切りを放つ。

 予め予測していた僕は、向かって来る林田の剣の軌道に自らの大剣の軌道を当て力を加える。

 

「くっ、俺の剣を折るとは!?」

「はあ、はあ、はあ。どうだい? 僕の勝ちでいいかな?」

 

 林田の大剣を折ることには成功した。

 その姿を見て、少しホッとする。

 

 一本先取とはいえ、僕達が持っているのは人を簡単に殺せる凶器だ。

 いくら回復魔法があるとはいえ、そんなモノが急所にでも当たれば瞬く間に命を落とす可能性もある。

 だから、僕はあえて林田の大剣―――すなわち、武器破壊を狙ったのだ。

 

 賭けは成功し僕の勝利かと思えた。

 しかし。

 

「おい、お前らの武器を貸せ!」

「えっ! わ、わかった―――ほら」

 

 林田はギャラリーの中にいた樋口から剣を受け取ると、再び僕に向かって剣を振り降ろしてくる。

 

「林田くん! もう決着はついたんじゃー――」

「何を言ってやがる剛田! 一本先取なんだろうが! なら当たるまで続けるに決まってんだろ」

「そんな!」

 

 誰もが決着は着いたと思ったのに、林田くんはまだ諦めていない。

 執拗に何度も何度も攻撃を仕掛けてくる。

 僕は動揺した心を落ち着かせながら、冷静に対応する。

 

 ―――牽制のための無詠唱の木魔法-――【拘束蔦】。

(サイドステップで回避しつつ隙を突こうとする林田くんの次の攻撃に備える)

 ―――渾身の力を込めた振り下ろしが地面を砕く。

(躱しつつ林田の鳩尾にボディブローを放つ)

 

「グオッ!」

 

 手ごたえは十分にあった。

 しかし。

 

「まだだ!」

 

 ブオーンと切り払い僕との距離を取る林田くん。

 今受けたボディブローの影響で、かなり苦しい表情を浮かべているが、その瞳からはまだ戦意を失っていないことがわかる。

 

「す、少しはやるみたいだな、剛田! だが―――」

「!」

 

 再び林田が僕の近くまで瞬時に詰め寄り剣を振り翳す。

 僕は剣で林田くんの攻撃を受け止める。

 互いに鍔迫り合いの状態に陥る。

 

「うぉおおおおお!!」

「ぐ、ぐぐぅうう!!」

 

 高い身長の林田くんの攻撃を下から受け止める大勢で迎えた結果、徐々にだが林田くんに押されてしまう。

 少しでも力を抜けば真っ二つになる。

 丁度、林田くんの顔が僕の顔の間近にまで接近したとき、林田くんが小声で切り出した。

 

「おい、賭けをしないか、剛田!?」

「賭け?」

「ああ、もしこの勝負に僕が勝ったならお前は波多野を諦める、どうよ?」

「なに!?」

 

 林田くんの提案に、僕は思わず聞き返してしまう。

 

「いや~久しぶり会ったけどさ、波多野って良い女だよな。他の女子に比べてお淑やかでさ、顔も良いし……何よりあの胸だ。たまんねえな~」

「おい! それ以上、美優を変な目で見るな!」

 

 美優へと向ける林田くんの不快な視線を前に言葉が荒げる。

 

「なんだよ、別に良いじゃねえか? お前の女ってわけじゃねえんだろ? だったら、僕がどう見ようがお前には関係ねえだろう?」

「! た、確かにそうだけど……それでも駄目だ! 美優は、美優は僕の―――」

「僕のなんだよ? 戸成の代わりってか?」

「なっ!」

 

 思いがけない言葉に、思わず力を抜いてしまった。

 その隙をついて、林田くんが僕の身体を地面へと押し倒す。

 

『志くん!』

 

 攻め込まれている姿を見て、美優が心配する声が聞こえる。

 体力がまだ戻っていないため、僕は息切れを起こし始めた。

 

「いや~聞いたぜ。お前、戸成に告白して振られたんだってな~」

「誰から、その話を」

「さあ、誰からだろうな~お前のお友達さんかもしれないぜ」

 

 そんなわけがない。

 このことをここで知っているのは、美優と僕が話したトッティの二人だ。

 この二人が僕のプライベートをペラペラと喋るような人ではない。

 

(じゃあ、誰が!?)

 

 疑念が頭の中に浮かんでは、それを否定しようと躍起になる。

 そのことに頭が一杯になった僕は、林田くんが再び樋口くんから投げ入れた短刀に気付くことができなかった。

 

 突如、林田くんは大剣を手放した途端、左手で投げ入れられた短刀をキャッチして、僕の首元に付けた。

 

「チェックメイトだ! 剛田!」

「くっ!」

 

 羽交い絞めされた状態のため、抜け出すこともできず僕は負けを認めてしまった。

 項垂れる僕に林田くんは去り際に。

 

「わかったろ? お前なんかに波多野はもったいねえ。波多野は僕がもらう」

「―――!」

 

 そう宣言を残し林田くんは仲間の下へと去っていった。

 仲介役だったリムルは林田くん達の下へと注意している。

 いつの間にか平湯さんの姿もなくなっていた。

 

「志くん、大丈夫ですか!?」

「大丈夫かい、ココロ。それにしても、随分な手口だったね、彼~よっぽど君に勝ちたかったみたいだね~」

 

 入れ替わりに、美優とトッティが近づいてきた。

 僕は二人を見て、思わず林田くんの言葉を思い返し、一瞬疑いの目で見てしまった。

 

「志くん?」

「おや? どうしんたんだいココロ?」

「! いや、何でもないよ。大丈夫、全然平気だから」

 

 僕の視線に気づいたのか、二人が心配な声をかけてくれる。

 そんな二人に、一瞬でも疑いの目を向けた自分が嫌になった。

 

「いや、強かったよ。林田くん。僕ももっと頑張らないと」

「いえ、誰が見ても志くんの勝ちですよ、あれは! 樋口くん達の武器を使うなんて反則です! どうして、トッティさんは邪魔をしたんですか!?」

「いや、ミユちゃんが今にも神具でハヤシダ達を狙い撃ちしそうだったからね……死人が出ちゃまずいでしょ」

「狙い撃ちしそうじゃなく、眉間を確実に狙ってたんです! それを邪魔するなんて」

「いや、なお悪いよ!」

 

 どうやら林田くんの卑怯な手口を見て、僕に手助けしようとした美優をトッティが止めたみたいだ。

 

「ココロには悪いんだけどさ……ちょっと彼らの人となりを知る良い機会だったから利用させてもらったよ」

「トッティ?」

「トッティさん?」

 

 突如、トーンダウンした口調で真剣な声で僕と美優に話しかけた。

 

「以前から、あの三人がね、不審な行動を取っているらしいんだ。夜な夜な人目を避けてどこかに行く姿が目撃されているんだ」

 

 トッティはこのことを魔王さんから相談されてから密かに三人の動向を探っていたそうだ。

 

「魔王さんも何かしようという動きはないみたいだけど、彼らは注意したほうが良いと思う」

「わかった」

「……はい、気を付けます」

 

 トッティの忠告に、僕と美優は素直に従う。

 ただ、返事をする前に美優は何か思い当たることがあったのか、真剣な面持ちをしている。

 

「美優? 一体どうしたの?」

「いえ……何でもないです。志くん」

 

 ニコッと笑い何事もないと美優は僕に答えた。

 リムルが戻ってきたあと、休憩をとるため、僕達は広場を離れた。

 

 ………

 ……

 …

 

 ―――林田SIDE-――

 

 正午前。

 ヘイムダル都市部の外れ。

 

「おい、林田! いくら何でも目立ちすぎだぞ! さっきのは」

「そうよ! 私達は目を付けられちゃダメなんですよ」

「うるせえ!」

「「―――ッ!」」

 

 全く使えねえ奴らがキャンキャンとわめくんじゃねえ。

 僕が使ってやらなきゃ全く役に立たないくせに。

 生意気なんだよ、こいつら。

 

 僕が怒鳴ったことに驚いて、「ご、ごめんな林田」、「ごめんなさい、林田くん」と謝る樋口と平湯。

 

 そうだ。お前達は僕のご機嫌取だけしておけばいいんだ。

 でも、これじゃあまるで僕が喚くだけの屑にしか見えないので体裁を整える。

 

「いや、こっちこそ熱くなってごめんね。二人とも。二人の忠告はきちんと守るよ」

 

 二人に怒ってないよとニコリと笑う。

 その笑顔を見て、二人はホッと肩をなでおろしている。

 ……全くちょろい奴らだ。

 

 いやあ、人間関係って簡単だよな。

 僕みたいな真面目そうな人間が大人しく反省の態度を取ったら簡単に周りの人達は騙されるんだから。

 まあ、これも日頃の行いって奴かな。

 

「で、無事バレずに仕掛けは済ませましたか?」

「ええ、ばっちりよ。林田くんと剛田くんの一騎打ちのおかげで、野次馬が一斉に広場に集まりましたからね」

「まあ、本来なら三人で夕方までにこっそり回る手筈だったが、まあ短縮できたから林田のやったことも無駄じゃなかったよな」

「ふふふ、ありがとう、樋口くん」

 

 ……それでフォローのつもりかっつうの、この無能が!

 なんて心の中で思いつつ笑顔で対応する僕。実に神対応だ。

 

「さて、決行は予定では夕方を目安に考えていたんだけど……少し予定を変えましょう」

「えっ!」

「ちょっと、どういうこと!?」

「なーに、ちょっとした余興ですよ……ねえ、()()()()()!」

『―――ッ!』

 

 間取り角で僕達の話を盗み聞きしていた波多野さんに向けて剣を投げつけた。

 波多野さんは咄嗟に回避したが、完全に僕達の前にその姿を見せた。

 

「なっ、波多野! てめえ、今の話を聞いてたのか!?」

「一体いつから!?」

 

 気付いていなかった樋口と平湯が波多野さんに喚き声を上げるが、落ち着くよう二人を宥める。

 

「どうやら一人みたいですが……いいんですか? お仲間を呼ばなくても?」

「もしかしたらって思って、気になって来てみたんだけど……やっぱり、そうみたいですね林田くん。貴方の心。勝手にすみませんが気になって覗かせてもらいました……繋がっていたんですね、あのジェネミと!」

 

 波多野が神具―――弓を取り出し僕に構える。

 

「ああ、そのエメラルドグリーンに輝く美しい緑色。僕が以前持っていた神具―――大剣の色を思い出させてくれる。やっぱり、僕達はこういうところでも相性がピッタリなんだね。波多野さん。いや美優」

「……ここ最近貴方の様子がおかしくなっていたことを気にはなっていました。もしかしたらと思いましたが間違いないみたいですね」

「ああ、そうだよ。その通りだよ。さすがは僕の美優。僕のことをやっぱりちゃんと見てくれていたんだね」

「おい、林田! なに素直に話してんだよ!」

「わかっているの!? ここでバレたら私達の計画が!」

 

 煩い奴らだな。

 折角、僕の美優がこうして僕にあの可愛い声を向けているのに。

 ノイズでしかない。

 

「さあ、答えて! アナタたちは一体何を企んでるの?」

「なーに、僕はね。教会の聖女にある取引を持ち掛けられたんだよ。魔族達に拉致られる前にね」

 

 僕は素直に美優に計画の内容を説明した。

 

 木原勇也に拉致される前、僕は聖女ジェネミと接触していた。

 聖女の話はこうだ。

 

『私達に協力すれば貴方を元の世界に戻してあげるわよ』

「……どうすればいい?」

『なーに簡単なことよ。貴方はこれから恐らく木原勇也という貴方の同郷人に拉致され、貴方が持つ宝珠を回収されることになるわ』

「なんだと!」

 

 正直その話を聞いた時の僕は、自分の神具が使えなくなることに恐怖を感じた。

 神具の力は最高だった。

 屈強な大人達も、僕の神具の前ではなす術も無く僕に従ってくれた。

 僕は自分の神具を好き勝手に使い自分の快楽を満たしていたのだから。

 その力の根源を失うことを何より恐れた。

 初めはジェネミの提案を受け入れなかった僕だけど。

 

『駄目よ。貴方じゃ、ユウヤには勝てない。あの子は特殊な子。この世界の神様みたいなもんだもん』

 

 僕はこのとき剛田志と木原勇也の関係についても教えてもらった。

 同時に、剛田志が戸成飛鳥に振られたこともな。

 

 ジェネミは時が来れば連絡すると僕に告げた。

 僕はジェネミの言う通り、抵抗することなく勇也に拉致されヘイムダルへと入った。

 そこからは指示通りに目立たず、かつ自分に賛同する同士を集めていた。

 それが、樋口と平湯だ。

 二人はこの世界にいるのが嫌で、早く元の世界に帰りたいと嘆いていたところを、勧誘した。

 

 そして、剛田と美優がヘイムダルにやってきた。

 剛田達が来てから一月が過ぎたとき。

 

『聞こえるかしら、ケン!』

「―――!」

 

 僕はヘイムダルの森近郊で倒した魔物の中から、小さな()の形をした魔導具を拾った。

 ジェネミが外から連絡手段のために、僕達に送ってくれた代物だった。

 ジェネミは結界のせいで中に入ることができないため、魔導具生成の得意な人に頼み、この連絡用の魔導具を造ってもらったそうだ。

 

 僕は彼女にヘイムダルや魔大陸の情報を具に伝えた。

 彼女が知りたいことを調べる手足として働いた。

 そして、その結果がこれだ!

 

「セット術式-――」

「林田くん、一体なにを!」

「邪魔をするな! 波多野ぉおお!」

「樋口! なんとしても波多野さんを止めるわよ」

 

 僕の詠唱が終わるまで波多野さんの注意を引くよう樋口と平湯が動いてくれる。

 おかげで存分に詠唱に集中できるよ。たまには役に立つこともあるじゃないか。

 

「封印術式解除を展開。ヘイムダル内部にある珠の位置を確認……さあ、爆ぜろ!」

 

 瞬間、魔大陸の大地が大きく揺れだした。


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