SS6-5話:一カ月が過ぎて
「……」
朝の日差しを受けて志は眼を覚ました。
昨日、トッティと一緒に夕食を取っていたが、そのまま眠ってしまったのだ。
恐らく美優とリムルが部屋まで運んでくれたのだろうと思い、申し訳ない気持ちで一杯になる。
(でも、僕が何を思ったところで何も変わらない。意味なんて何もない)
トッティとの再会に驚いた志だったが、気持ちを切り替えいつもの何もない日常に戻るのだと、ぼんやり考えていた。
リムルに無理矢理食事を取らされる。
日中、ボーっと空を見上げながら過ごす。
何の生産性もない、ひたすら消費するだけの生活の日々。
クラスメートの大半はそんな自分の状況に不快感を示していることを志は知っていた。
特に、林田は志に対して顕著だった。
しかし、それも当然のはずなのだ。
食べる食材は無限に溢れている物ではない。
誰かが食材を確保し調理している者がいるのだ。
ヘイムダルでは、討伐隊が森で採取した食材を持って帰り、魔族の人達が調理し配給している。
皆が、それぞれに与えられた役割を行い、協力し合いながら生活しているのである。
それなのに、何もしていない志が当たり前のように享受している。
真面目な林田だけではなく、誰もが今の志に強く当たるのは当然のことだった。
昨日の出来事を思い出した志はさらに自己嫌悪を深めたとき。
ガチャリと、志の部屋に入ってくる者がいた。
いつものように、リムルが朝食を持ってきたのかと志は身構えた。
自分なんてどうなっても構わないと諦めている志は、唯一の恩返しとして食事は要らないと何度もリムルに言っているのだが、リムルが言うことを聞いてくれないのだ。
せめてもの抵抗として手を付けないようにすることが、今の志の中で皆にできる唯一の誠意だった。
「おっはよう~ココ! 気持ちの良い朝だね!」
「! トッティ」
この日はいつもと違った。
部屋に入って来たのは、トッティだった。
「うん、うん。この時間なら起きてるってリムルちゃんから話は聞いてたからね。ノック無しに勝手に入ってごめんね~」
ニコリと笑いながら、自然に部屋の窓を開けてトッティは換気を行う。
「聞いてよココ! あの後さマッチャンとばったり会ってさ。何かお互い意気投合しちゃってね~あっ! マッチャンって魔王さんね! いや~朝まで語り明かしたせいでね、フラフラなんだよボク」
ベッドに腰かけたトッティは、そのまま志と普通に雑談する。
雑談と言っても、一方的にトッティが話しているだけであり、その内容も取るに足りない話に過ぎなかった。
「あの結晶塔!? スゴイよね。どうやって造られたんだろう?」
「ねえねえ、リムルちゃんとはどういう関係なのかな? ココにはミユちゃんが要るんだから浮気は駄目だよ! ということで、リムルちゃんにさり気なくボクのことをアピールしといてよ」
「ねえ、ココ! 折角、あの魔大陸に来たんだからさ、一緒に冒険に行かないかい!?」
トッティは無邪気に志に話しかける。
その様子は、昨日のことなど何もなかったように志には見えた。
マシンガントークのように話し続けるトッティに、志が戸惑いの表情を浮かべていると。
「あっ! そうだ、話に夢中になって忘れていたよ。今日の朝食は、あの小高い丘の上でピクニックするんだよ。ほら、早く行こう! リムルちゃんとミユちゃんも待っているよ」
トッティは戸惑う志の腕を引っ張り部屋を出た。
されるがままに志はトッティに付いて行く他なかった。
その後、丘の上でリムルとミユと合流したトッティと志は、サンドイッチを食べながら楽しく会話をする。
いつも美優と林田は、朝一緒にいる場合が多かったのだが、昨日のこともあり林田はこの場に来ていなかった。
「でさ~マッチャンに娘さんをくださいってお願いしておいたからね~」
「って、アンタ何変なことをお祖父ちゃんにお願いしてんのよ!」
「リムルさん! 駄目ですよ! それ戦闘で使っている鞭じゃないですか!?」
「おお!? なんだ、この体中に広がるこの快感は!? これこそが愛なのか!?」
「「……」」
リムルに鞭で打たれ光悦な表情を浮かべるトッティの姿にドン引きするリムルと美優。
「さあ、リムルちゃん。ボクに愛を、もっと愛を与えてくれ!」
「ちょ、いや、来んな!? あっち行けって!」
「トッティさん! ストップ! リムルさんが嫌がってるじゃないですか!」
「すまない、ミユちゃん。ボクは愛の狩人なんだ。本能がボクを突き動かすのさ♪」
「話を聞いてください! トッティさん!」
トッティの変態ぶりに困惑し逃げようとするリムル。
そんなリムルをトッティが追いかける。
美優は何とかトッティの暴走を止めようと必死に愛の狩人を止めようとするが、全く言うことを聞こうとしない。
そんな三人の姿を、志はぼんやりと眺めていた。
同時に、ヨルド公国で美優、飛鳥、ミーア、メルディウス、ガイネル、トッティと一緒に海竜の塔にピクニックに行ったことやスターシップに乗せてもらってクルージングを楽しんだ日々を思い出した。
とても楽しい思い出だった。
だからこそ、志の胸が苦しくなる。
―――自分には楽しむ資格なんてないのだから。
再び自己嫌悪の気持ちが志の頭の中を流れようとしたときだった。
「ココ! ヘルプミー! 調子に乗りすぎてリムルちゃんを怒らせた!」
「えっ!」
トッティが志の腕を掴み後ろから凄い形相で追いかけるリムルから逃げようと駆け出す。
志もついトッティと一緒に逃げてしまう。
「こらぁああ! 待ちなさい!」
「ちょっと、リムルさん! さすがに魔法はやばいですよ! あっ、トッティさん、志くん、そこから逃げて!」
「冥魔法―――【暗黒弾】!」
「ひえぇええ!」
「!」
リムルがトッティに向けて、幾重の黒い球体を放つ。
トッティと志は後方から迫る【暗黒弾】を回避しながら、リムルの追撃を躱す。
「フハハ! 甘い、甘い、甘すぎるぞぉおお!」
「くっ、なんて逃げ足の速い奴!」
巧みに逃げ続けるトッティに、リムルがその場に止まり苛立ちの声を上げる。
その後ろからリムルを宥めようとしていた美優も「はあ、はあ」と息を上げながらリムルに落ち着くよう声をかけた。
二人が同じ場所に止まった瞬間、「今だ!」と、前方に遠ざかっていたトッティが突如急転換してリムル達のほうへ向かってくる。
かなりのスピードで向かっており、腕を掴まれている志の身体は鯉のぼりのようにブランと浮かんでいる。
そして、正に神風ともいえる一撃をトッティは、リムルと美優の下半身―――正確に言えば、彼女達が身に着けているスカートに繰り出した。
「秘技―――」
「えっ!」
「な、何をトッティさん!」
「神風!」
「「きゃぁあああああ!!」」
風が下から上へと舞い上がった。
同時にスカートも下から上へと舞い上がったことで、リムルと美優の下着が白日の下に晒された。
それを見て喜びのガッツポーズを見せるトッティと、見てしまったことにどうしようと考える志がいた。
悲鳴を上げたリムルと美優は、すぐさま舞い上がるスカートを手で抑えると同時に。
「リムルさん! あの変態殺りますよ」
「絶対に殺す!」
顔を赤くした美優とリムルがトッティに猛スピードで追いかけようとする。
それを見たトッティは顔を青ざめながら、志と一緒に二人から逃げようとする。
「トッティさん! 待ちなさい!」
「ちょっと、ミユちゃん、さすがに神具はまずいんじゃない―――リムルちゃん! 空を飛ぶのは良いけど、それだとまたパンツが―――」
「うるせぇええ! 死ねぇえええ!」
「ひぃいいい!!」
「……」
暫くの間、トッティと美優&リムルによる鬼ごっこが続けられた。
その場に振り回されていた志は、ただこの状況に驚き呆然としたまま流されていた。
………
……
…
―――美優視点-――
トッティさんがヘイムダルに来て、一ヶ月が過ぎました。
トッティさんは今もヘイムダルに滞在しています。
それどころか、
「マッチャン! 今日は良いモノが手に入ったぞ」
「おお! これは、脅威度Aランク『タルタルラビットの肉』(ドロップ品)ではないか! 高級食材だぞ、これは!」
「だろ、よし。皆で飲もうぜ! おい、スギモト、お前も当然飲むだろう?」
「いや、そりゃ飲みたいけどさ……昨日もその前も連日飲んでんじゃねえか。さすがに、ベルニカ達に怒られるんだよ!」
「バカ野郎! 亭主が何嫁達に行動を制限されてんだ! 漢なら嫁さんを黙らせるくらい亭主関白でいきやがれ!」
「おおぉお! トッティさん! わかりました。今日も付き合わせていただきます」
「あのトッティさん! 自分達も参加しても?」
「なに遠慮してやがる。ここはアンタ達の街なんだから、遠慮する必要なんてねえぜ。なあマッチャン!」
「うむ。我が友の言う通り、お前達も参加するがよい。今日は無礼講じゃ」
「「ありがとうございます!」」
今では、ヘイムダルの魔族達や志達のクラスメート達の中に溶け込んでいます。
彼のあまりにも高すぎる社交能力に正直戸惑いを隠しきれません。
魔王さんや魔族さん達、杉本くんの他、私達のクラスメートを三人引き連れ、食堂へと入っていくトッティさん。
その隣には、志くんもいます。
……トッティさんと一緒の手錠をつけられて。
手錠をつけたのはリムルさんです。
私達のパンツを見た罰として、始めはトッティさんだけに手錠をかける予定が、彼が志くんに片方の手錠をかけ、さらには手錠の鍵を呑み込むという所業をしたために、今では彼と志くんは、いつも共に行動するようになりました。
この一ヶ月。
トッティさんに強引に外へ連れ出され、あのようにバカ騒ぎに巻き込まれている志くんをよく見かけます。
志くんは、相変わらず何も笑いません。
無表情のままただ流されるように、トッティさんにつき従うだけです。
でも、トッティさんが気さくに話しかけ盛り上げたりすることもあって、トッティさんが来る前に志くんに向けられていた悪感情も少しずつ抑えられているように感じます。
そういう意味もあり、私はトッティさんに心の中で深く感謝していました。
まだ無感情な志くんも、いつかあの明るかった志くんに戻るのではないかと、そう思うようになりました。
「あの~、波多野さん。もし良かったら、これから一緒に夕食なんてどうかな?」
「えっ!」
私を夕食に誘ってくれたのは林田くん。
彼とは、私の神具との相性が良いこともあり、討伐隊でのパートナーとなっています。
彼が得意とする大剣で近接戦を行い、後方から私が援護するという戦闘スタイル。
今、彼には神具が使えないが、神具が使えた頃は、彼は私と同じ木の宝珠の持ち主でもあったため、木魔法のタイミングなどもとても図りやすいのです。
だから、今もこうして討伐隊のパートナーとして一緒に行動しているのですが。
「すみません。リムルさんとこの後、予定があるので今日は―――」
「……そっか。ここ最近、あまり一緒に入れなくて残念だよ。わかった。それじゃあ、また明日ね」
「本当にすみません……おやすみなさい」
林田くんは、帰ってきた討伐隊の二人と一緒に食堂へと向かっていく。
彼と別れ少しホッとした私はリムルさんの下へ向かいます。
―――トントン。
「どうぞ」
声をかけられ、リムルさんの部屋へと入る。
中に入ると、所々に薬棚が置かれており、床やベッドの上に無造作に本やすり鉢などが乱雑に置かれている。
正直、足の踏み場もあまりない。
私はため息をつきつつ、机の上で薬草調合に夢中になっているリムルさんに話しかける。
「昨日、私が片付けたのに、どうして一日でここまで散らかすことができるんですか?」
「ストップ! ミユ。ちょっと待ちなさい! 今、良いところだから」
リムルさんは私に気にせず、目の前に置かれている試験官の上に、薬液をこぼし中の反応を伺う。
零した液は、赤から青へと色を変え、やがて少しずつ輝き始めた。
―――嫌な予感がする。そう私が思った瞬間。
「あっ! 別のサンプルに入れちゃった……失敗、失敗」
「って、その試験管。湯気が立って今にも爆発しそうなんですけど!」
私は慌てて木魔法で蔦を創生して、試験官を蔦を使って外へと移動させた。
ドーンと、遠くの空で激しい爆発音が鳴り響いたが、周囲は特に何の反応も示さない。
リムルさんの家―――すなわち魔王さんの家では、このような出来事は日常茶飯事に起きているからです。
……主に、リムルさんの趣味である薬品調合の失敗が理由なんですけど。
「いや~助かったわよ。ミユ」
「リムルさん! またですか! 気を付けてくださいよ」
悪びれる様子もなく、リムルさんが私に話しかけてきました。
「ミユが来て本当に助かったわ。いつもなら、部屋が使えなくなって、お祖父ちゃんに別の部屋を毎回用意する羽目になってたからね!」
「……魔王さんは怒らないんですか!?」
「? お祖父ちゃんだもん。私に怒るわけないじゃない」
何変なこと言ってんのと、言うふうにリムルさんが私を見ています。
どうやら魔王さんは、リムルさんには大変甘々なようです。
この参上を見て、叱らないとはどれだけ爺バカなのでしょうか。
魔族の未来が少し心配になります。
毎度のことなので、私は諦めてリムルさんを食事に誘います。
リムルさんは「了解」と言って、私と一緒に魔王さんの家の中にある広間へと移動します。
魔族の給仕さんから用意してもらった夕食を、リムルさんと二人で楽しく食事します。
話は、今日見た魔物のことや、面白かった他愛もない出来事など。
私はこのところ、リムルさんと一緒にいる機会が多くありました。
というのも、私はトッティさんと違って、クラスメートの中に上手く溶け込むことができませんでした。
何も動こうとしない志くんを庇っていたことも理由の一つだと思いますが、一番は私が今も神具を使える点だと思います。
ここにいるクラスメートの人達は、魔族に鍛えられたおかげもあり、今ではAクラス相当の魔物も倒せるようになりましたが、だからこそ、自分達が使っていた“神具”の力を取り戻したいと考えているようです。
林田くんも、私が神具を使う姿を見て「うらやましい」と声を零していたのを覚えています。
そう言った理由もあって、私はここにいるクラスメートの間に馴染むことができませんでした。
そんな私に、リムルさんが気さくに話しかけてくれたおかげで、今ではリムルさんとこうして一緒にいる機会が多くなりました。
リムルさんと一緒にいて思ったことは、この人は少し飛鳥さんに似ている人だと感じました。
何でもできそうに見えて実は不器用な人。
好きな人の前では平静を保てず悪態をつくフリをするとこなど、本当にそっくりです。
そして、何よりこの人は。
「―――でさ、ユウヤはな」
何度も何度も勇也さんと旅した思い出を私に話します。
この会話の中でも、リムルさんが勇也さんに好意を抱いていることはすぐにわかります。
(こういうところも、飛鳥さんに似ているな)
スープを飲みながら、楽しそうに勇也さんの思い出話をするリムルさんの声に耳を傾けます。
リムルさんが勇也さんと出会ったのは、先代魔王を討伐した十年前。
初めは父を殺した勇也さんを、リムルさんは恨んでいたそうです。
でも、何度も勇也さんと話をしている内に、勇也さんのことが好きになったそうです。
……本人は、勇也さんが好きだということを認めませんが。
私が「勇也さんには飛鳥さんという恋人がいますけど」と言った後の、リムルさんの動揺は今でも覚えています。
「べ、別に、そんなの私には関係ないし、別にユウヤに恋人がいるからって、ねえ」
動揺する声に、震えるマグカップの手元を見れば、誰だってわかりますって。
因みに、その話をしてから、リムルさんは飛鳥さんに敵対心を抱いたみたいで、「泥棒猫」と具に文句を言われていました。
……ごめんなさい、飛鳥さん。
「……ベルセリウス帝国がサブネクト王国を占領したわ」
「えっ」
突然、勇也さんの話が変わり私は黙ってリムルさんの話に耳を傾ける。
「かなり酷い統治の仕方みたいで、捕虜となった者達は死ぬ限界ギリギリまで魔力を吸い続けられているみたい。さらに、あいつら大陸のマナも吸収しているみたい」
「大陸のマナを吸収するとどうなるんですか?」
「最悪よ……草木も生えない死の大地となるわ」
そう言って、リムルさんは私に“魔素”について説明してくれた。
この世界は、“魔素”で構成されている。
イメージで言うなら、原子のようなものみたいだ。
魔素には、7つの色がある。
火(赤色)、水(水色)、風(青色)、土(橙色)、木(緑色)、天(黄色)、冥(藍色)。
それらの7つの色が形成しあうことで、人や魔物などの生命は勿論、森や水などの自然が形成することができている。
即ち、魔素とはこの世界の生命の源と言ってもいい。
そんな魔素を管理し供給するのが、“神獣”だとリムルさんは言う。
「今、神獣がいないこの世界では“魔素”が枯渇するというのは、即ちこの世界からの消滅を招くことになるの」
「! だとしたら、帝国がやっていることは!」
「そう。大陸全土の“魔素”を吸い続ければ、ザナレア大陸は消滅しやがて、この世界は崩壊へ進むわ」
とても深刻な状況だった。
帝国に長くいた私にとって、ユリウスさんやガイネルさんがそのようなことに加担しているのか、信じられない気持ちだった。
「だから、近々私達魔族も動くことになると思う……その時は、ミユ。お願い協力して」
「リムルさん」
リムルさんが私に向かって頭を下げました。
勇也さんを失い戦力の大半を削がれた魔族にとって、神具という強力な力を有する私は重要な戦力みたいだ。
少し迷いましたが、私はすぐにリムルさんに返事をしました。
「わかりました。私ができることならなんでも」
「! ありがとう、ミユ」
リムルさんや魔族さん達には、返しきれない恩が沢山あります。
当然、自分の力で役立てるなら喜んでやります。
それに、帝国に行けば行方不明になっている飛鳥さんの手がかりも何か掴めるかもしれないと思ったのも理由です。
ホッとしたリムルさんは、その後もお茶を飲みながら色々と話をしました。
「回収した宝珠……あれを一時的に貴方達に返すってのも手だとは思ったんだけどね」
「魔王さんの話だと、宝珠の肉体で再生した身体に、再び宝珠を入れたらどのような影響が出るかわからないとのことですよね」
「ええ、元々宝珠が神獣様の核となる部分だから……それが人に与える影響なんて私達には到底計り知れないモノだと思うわ」
強力な神具を扱うようになれば、この状況もひっくり返すことができるのではと考えたこともあるが、あまりにもリスクが大きすぎて、この話はなかったことになった。
「ユウヤとの約束もあるから、アンタ達は私達が絶対元の世界に戻してあげるからね」
「ありがとうございます」
リムルさんはそう私に約束してくれた。
………
……
…
リムルと美優が楽しく夕食を取っていた同時期。
ヘイムダル近郊の森林内。
人目を忍ぶように三人の少年達の姿があった。
取り囲む少年の前には、光り輝く球体が浮かんでおり、声を発した。
『……準備は整ったか?』
「ああ、こっちの準備はばっちりだ。あとは、タイミングを図るだけだ」
「それより、約束は守れよ! 本当に俺達をこの魔大陸から出してくれるんだろうな」
『ああ、約束は守る』
「アンタが用意した魔導具は指示した場所に仕掛けた」
『ならば、計画は最終フェーズへ移行する……明日の夜だ』
「「「!」」」
突然のことに、三人の少年が驚く。
だが、すぐに心を落ち着かせ話の続きを待つ。
『陽動はこちらに任せて―――』
「ああ、わかってる。必ず手に入れて見せるよ、宝珠をな」
月の光が一瞬除き、話しをしている者の姿が明るみになった。
「僕達の邪魔をする者は皆殺しだ」
密談していた人物の中には、美優と同じクラスメートの林田の姿があった。




