SS6-4話:トッティ参上
いやあ、ボクはトッティ。
世界を股に掛けるトレジャーハンターさ!
ボクは基本“失われた時代”のお宝を求めて、ボクの愛船―――スペースシップで世界を旅している。
旅はとても刺激的で素晴らしい。
未知に触れ世界の理を知り、自らが知りえなかった自己というものを教えてくれる。
自然の驚異や古代の人々が仕掛けた罠の数々。
危険な魔物との遭遇など、危険なことも沢山あるが、その分楽しいこともある。
―――そう旅はいつだってボクを成長させてくれるんだ!
……。
……。
そう思っていたときもありましたさ。
「で、この侵入者どうしますか? 魔王様!?」
「ふむ? あまりに怪しいからのう……打ち首にするか?」
「そこをなんとか!? お願い、ココ! ミユちゃん! どうかボクの無実を証明してくれ!」
まっさか、おとぎ話に出てくる魔王に処刑宣告をされる羽目になるなんて。
……ヘルプミー!!
………
……
…
「いや~助かったよ、ミユちゃん」
「アハハ、良かったです、何とか説得することができて」
ヘイムダルの簡易食堂のテーブル。
そこに、ミユとトッティ、林田、志、リムルの姿があった。
突然ヘイムダルに侵入してきたトッティは、すぐさま魔族達に身柄を拘束され、魔王のもとまで連れていかれた。
前代未聞の人界からヘイムダルへの侵入。
オーラル王国の結界により人界との行き来が制限されている中、今まで人界からヘイムダルにやって来た者は美優達を除いて誰一人いなかった。
魔族達もオーラル王国の結界を解こうと日々研究しているのだが中々上手くいっていない。
そんな中、トッティがいきなりヘイムダルに現れたのだ。
動揺しないわけがない。
拘束されてそのまま魔王の元までやって来たトッティだったが、ここでもひと悶着あった。
適当な相づちばかりとり真剣に話をしないトッティの適当さに業を煮やした魔王は、思わず「処刑しておくか」と死刑宣告を検討する場面もあった。
美優とリムルの説得が無ければトッティの命は危なかっただろう。
美優がトッティの知り合いということもあり、話を聞き出すと言ってこうしてトッティは一時的に解放されたのだった。
「魔族のお嬢さんもありがとね……それとココもね」
「……」
「おりょ? さっきからココは何も喋らないね~なんだい、無視かい! 虐めかい!」
「あの、志くんは、その!」
「そんなことより、アンタ! 一体どうやってヘイムダルに入って来れたのよ!」
英国風紳士のように優雅に手元に置いてある紅茶を飲むトッティ。
先ほど取り乱していたのが嘘のような姿に、リムルが怪しさを覚える。
というか、こんなふてぶてしい人を初めて見たリムルは、トッティにどうやって魔大陸に侵入できたのか尋ねた。
美優と林田も真剣な面持ちで耳を傾ける。
唯一、志だけは呆然と外の景色を眺めているだけだった。
周囲の好気的な視線を向けられたトッティは、「やれやれ~」と観念しながら、ヘイムダルに来るまでの経緯を話し始めた。
「実を言うとだね。ヨルド公国でキミ達と離れてから、ボクはある宝の地図を発見したんだ」
そう言って、トッティが美優達に見せたのはこの世界の地図だった。
古紙に書かれていた世界地図には、ザナレア大陸の姿があり、美優達もこの世界でよく見かけた地図とそっくりの形をしていた。
唯一違うのは、ザナレア大陸南部の海に大きな×印がつけられているくらいだ。
「ボクは手に入れたこの宝の地図の通りに、この海域まで船を寄せた。そしてサルベージを始めたんだ」
サルベージを始めた直後何の当たりもなかったトッティは、スペースシップを潜水艦にして深海深くまで潜り周辺を捜索した。
すると、巨大な岩がスペースシップの前に現れた。
巨大な岩の下には、何か巨大な穴のようなものが見えた。
同時に海底に住んでいた巨大な蟹の魔物が姿を現した。
蟹は、スペースシップを執拗に攻撃仕掛けてきたため、やむなくトッティも応戦した。
激しい海底の闘いだった。
ドンパチとスペースシップから放たれる魔導砲や、鋭い蟹バサミとの攻防が続く中。
「あっ!」
『キシャァアアア!』
蟹バサミが巨大な岩を砕いた。
すると、巨大な穴が現れと同時に、スペースシップを穴の奥へと引っ張る動きをした。
突然の引力に抵抗する構えを見せたトッティだったが、蟹バサミの「はよ、いかんかい!」という突っ込みを受けてスペースシップは穴の奥へと吸い込まれた。
「んで、気が付いたらここに来てたって感じなんだけど……いやあ~死ぬかと思ったよ」
アハハと笑うトッティの態度に、志を除く周囲は思わず呆れた表情を浮かべる。
ふと、リムルはトッティが見せた世界地図を見ておかしな点に気付いた。
「? ねえ、この世界地図って確かに古いモノみたいだけどさ……このバツ印のインクはつい最近書かれた物じゃ―――ッ!」
「いやああ、実に大変だったよ。本当、大変だった。で、ミユちゃん達はこんなところで何をしているのかな?」
「「「……」」」
トッティの明らかな話題転換に、皆が一様にトッティを怪しむ。
皆、トッティが何かを隠していることは明らかだった。
「ちょっと、アンタ!?」
「ココも久しぶりだね! なんだい? そんな髪色に変えてイメチェンでもしたのかい?」
リムルの追及を避けるため、トッティは終始無言を貫く志へと話しかけた。
一瞬だけ、周囲に緊張感が走ったが、トッティは気にせず話し続ける。
「? おーい、ココどうしたんだい? いつもの君なら、何かしらのリアクションを取るのに今日の君は随分無口だね? 何というか顔色もあまり良くないし……何かあったのかい?」
「……」
志はトッティの質問に何も答えない。
ただ、呆然と志の後方にある空を眺めているだけだった。
志の態度に不思議がっているトッティは、さらに志にしゃべりかけようとするが。
「トッティさん。今、志くんはちょっと……」
「どうしんたんだい? ミユちゃん。そう言えば、アスカちゃんもいないみたいだし、何かあったのかい?」
「そ、それは……」
何も知らないような感じでトッティは無邪気な様子で美優へと尋ねた。
美優はどう説明すればいいか迷っていた。
この場には、全てに絶望し変わり果てた志がいる。
そんな彼の前で、今までの経緯を話せば、それは彼の心の傷に塩を塗る行為になるのではないかと、美優は危機感を募らせた。
「トッティさんだったね……いいよ、僕が代わりに説明するよ」
「林田くん!?」
「彼は君たちの友達なんだろう? だったら、きちんと今の状況を説明しないといけないだろう?」
「でも、今は……」
「なに、あれからもう二ヶ月が過ぎてるんだろ? いい加減、剛田も大丈夫だろうさ。なあ、剛田?」
「……」
トンと軽く林田に背中を叩かれた志は、何もしゃべろうとはしない。
ただ、空を眺めるだけだった。
そんな志の姿を見て、美優は林田の説明を止めようとするが、気にせず林田はトッティに志達の状況を説明した。
林田の説明はとても分かりやすいものだった。
志がクロイツで行ったこと。
雄二と殺し合いをしたこと。
自分が木原勇也という人格の一部分であり……偽者であること。
それを聞いた瞬間、美優は立ち上がり林田の頬を引っ叩いた。
叩かれた林田は始め驚いた表情を見せたが、「不適切な表現だった」と美優に謝罪して話を続けた。
かなり言葉を選んで話をする林田だったが、要所で志を貶める表現が零れていた。
そのことに、美優とそしてリムルも不愉快と感じていた。
そして、勇也が志と美優を助けるため自らを犠牲にした話を耳にした瞬間。
空を眺めるだけだった志の瞳に、涙がこぼれた。
その姿を見て、もう限界だと思った美優は林田の話を止めようとする。
しかし、その前に
「……そっか、ココは疲れたんだね?」
「―――!」
いつの間にか志の近くに移動していたトッティは、涙を流す志を優しく抱きしめた。
まるで幼い赤ん坊をあやすように優しく優しく抱きしめる。
しばらくそのままでいた志は落ち着いたままトッティの胸でスヤスヤと寝息を立てる。
その様子を確認してから。トッティは志の頭を優しく撫でながら自分達を見つめる人々に視線を戻した。
「うん、話はわかったよ。ありがとう」
「……」
何事もなかったかのように微笑むトッティ。
全く持って少年らしくない彼の行動に、この場にいる全員が戸惑っていた。




