第110.5話:地殻変動の影響2(アイリス&クレミア視点)
アイリスとクレミア視点です。
アグリ王国王城内。
「アイリス様! ウエストの街に大量の魔物の群れが! 至急、救援とのこと。城の騎士達を派遣してもよろしいですか!?」
「はい。お願いします! 併せてフリーダ村の方達にも支援に向かうようこちらから連絡しておきます」
「ありがとうございます!」
大量の紙束を持ってすぐさま部屋を後にする行政官。
その後からも次々に、指示を求めて大勢の人達が部屋に入ってくる。
現在、わたしは“自由の風”のアグリ王国支部長としてこの場にいる。
クレミア様が不在の間、わたしと国を管理している行政官達で連携して緊急対応に追われている。
クレミア様が四か国会議に向かう前に、万が一のことを想定してわたしを城へと向かわせたけど。
(まさか、本当にこんなことが起きるなんて!)
巨大な大地震が起きた直後、引き続けに大量の被害報告が城に寄せられていた。
報告を聞けば聞くほど、信じらない内容で頭が痛くなる。
地殻変動により多くの街や村が壊滅状況。
住民達の避難に加え、さらには魔大陸からの魔物の暴動も起きている。
何とか城の騎士達と〝自由の風”の組織員を派遣させて事に対処する。
幸いなことに城の行政官の人達はとても優秀な人達だった。
彼らは、各々アグリ王国で起きた地殻変動の被害情報を整理してすぐさま対策を立案する。
わたしは、彼らの話にしっかり耳を傾けつつ、〝自由の風”の組織員を適材適所で向かわせる。
迅速に、かつ失敗は絶対に許されない。
そんな緊張感のもと各自の話に真剣に話を聞く。
慌ただしい流れが少し落ち着き始め、わたしはようやく一息つくことができた。
一人になった室内で、窓からグランディール王国のある方角を見つめた。
「……お父様、クレミア様は凄いな」
今、わたしの指示が少しでも間違えれば、それは大勢の人達を危険にさらしてしまう。
改めて、サース領主である父やアグリ王国のクレミア女王。
そして、
「クミちゃん。クミちゃんもこんなふうにプレッシャーを感じていたのかな」
改めて、クミちゃんという規格外の友達のことを想う。
無理はしていないだろうか?
クミちゃんは、何故か自分を省みず目の前で困っている人達を救おうとする悪癖がある。
出会った当初、わたしはクミちゃんを聖女だと思っていた。
でも、一緒にいる内にやがてクミちゃんのその在り方が歪と感じるようになった。
脅迫概念と言ってもいいだろう。
クミちゃんの行動は時折自らを勘定に入れない自己犠牲の行動を行うことが一緒にいて多く見られた。
わたしはその要因を、幼いころクミちゃんを救ってくれたゴウダ ココロという人の存在が理由だと思った。
幼いクミちゃんを救うため、彼は取り返しのつかないことをした。
彼にそんなことをさせてしまった自分が今も許せないのだと、わたしは分析しています。
今現在起きているこの戦争は、そのゴウダ ココロという人物が引き金となったと聞く。
彼のために、何とかその戦争を無くそうと、クミちゃんは今もこうして無理を続けている。
正直、クミちゃんにそこまで想われている人物に会いたいという気持ちがある反面、なんて重いものを背負わせたのかと詰め寄りたい気持ちが半々だ。
「……そんなことを思ってはいけないのに」
「そんなこととはなんですか?」
「ク、クレミア様!」
考え事に気を取られていたら、いつの間にか王女クレミア様が王城に帰ってきていた。
お付きの者達を数人引き連れ、後ろにはグランディール王国の騎士達もいる。
それにしても一体全体どうやってグランディール王国からアグリ王国まで帰還したのだろう。
馬車を使っても普通に一週間以上は余裕でかかる距離だし、わたし達の重要な移動手段である風ちゃんは今クミちゃんのもとにいるはずだ。
様々な疑問が浮かんでいる中、クレミア様は優しく微笑みました。
「フフフ、セリス様からグランディール王国軍の精鋭部隊を用意してもらいました。彼らの箒に乗せてもらって、ここまで来ました」
「ほ、箒! 箒って何ですか」
余りにも突拍子のない単語が出てきて、わたしは思わずクミレア様に詰め寄りました。
クレミア様は苦笑いを浮かべつつも、グランディール王国の騎士にお願いして、実際に見せてもらいました。
「ち、宙を浮いている!」
「凄いでしょう。これが魔法大国グランディール王国の魔法技術です。その他にも色々役立つ魔導具をお借りしてきました」
クレミア様はグランディール王国軍から借り入れてきた幾つかの魔導具を見せてくれました。
空を飛べる箒、道具を異空間に収納できるアイテムボックス、イヤリングの形をした通信用魔導具など、あまりに優れた魔導具がたくさんありました。
これらの魔導具があれば、今起こっている未曽有の危機により対処できます。
「でも、グランディール王国の魔導具はグランディール王国内だけしか使えないはずでは?」
「ええ、そのはずなんですが。どうやら、あの地殻変動によりオーラル王国の支配下から解放されたことが要因だとセリス様は推測していました。まあ、実際にこうして使えるのですから問題はないでしょう」
「ええ、そうですね」
クレミア様の言う通りです。
今は原因特定などどうでもいい。
使える物は何でも使わなきゃいけない。
わたしは、頭を切り替えて先ほどまで指示していた内容をクレミア様に報告しました。
報告を受けたクレミア様は、「よく皆をまとめてくれました」と、わたしの頭をなでてくれました。
「王城のことは私に任せてください。それより、アイリスはすぐさまルネ王国へ向かってくれませんか? ピエール王からの話を聞くと、ルネ王国もかなりの被害が出ていて支部が混乱して機能していないそうです」
「はい、わかりました!」
わたしは、すぐさまクレミア様から魔導具を受け取り、グランディール王国の騎士と共にルネ王国へと向かった。
………
……
…
ルネ王国へと着くと、すぐにピエール王が出迎えてくれました。
クレミア様同様に、ピエール王もグランディール王国の騎士達に箒に乗せてもらい、ルネ王国に戻ったそうだ。
ピエール王への挨拶を済ませ、すぐさまルネ王国の惨状を確認します。
……酷いものでした。
アグリ王国に比べ貧富の差が激しいルネ王国は、平民街にいる人達の被害状況も十分にできていないようでした。
なんとかピエール王が場を仕切りながら、被害情報を整理し対策を立案しますが、慌てた補佐官達は満足に動くこともできないようでした。
「ちょっと、その報告書を貸してください!」
「お、おい! 一体、何を―――」
「グズグズしすぎです! 何をチンタラしているんですか!」
モタモタ動く補佐官達に煮え切ったわたしは、この場を仕切ることにしました。
何も考えられない補佐官達に、わたしは次々に命令を下します。
「貴方は、貧民街にいた人達の被害状況を報告! 救援物質の在庫状況は?」
「え、えーっと―――」
矢継ぎ早に、補佐官達に命令を繰り出しルネ王国の復興支援を手伝う。
そして、次に“自由の風”のルネ王国支部に連絡を取り、持ってきた通信用魔導具を手配する。
グランディール王国の魔導具は、まさにこの災害の救援活動において救世主と言ってもいい代物だった。
通信用の魔導具ですぐに支部や仲間と連絡がとれたり、救援物質を身軽に運ぶことができたり、空を飛べることで被災地の現場へすぐに急行することができた。
これらの魔導具がなければ、もっと大勢の人達が犠牲になっただろう。
さらに、通信用魔導具からオーラル王国が拡散している黄金色の花粉に触れてはいけないと報告があった。
花粉に触れた人は、頭に花を咲かせ強制的に魔力を奪われるそうだ。
身勝手な地殻変動で無関係な人達の生活を壊し、さらにボロボロの人達から強制的に魔力を奪う行い。
断じて許せるものじゃありません。
歯がゆい気持ちを抑えながらも、わたしは自分にできることを精一杯やります。
「大至急、ルネ王国の地図を用意して! そこに被害のあった村と街に印を!」
『『『は、はい!』』』
少しでも被害を少なくなるよう、わたしはありとあらゆる手段を模索した。
―――クミレアSIDE-――
「これを全部アイリスが……」
「彼女は本当に優秀でした! すぐさま、我々の報告を整理して〝自由の風”の組織員を派遣してくれました!」
アイリスがルネ王国に行く前に用意してくれた資料に、私は目を通す。
簡潔にわかりやすく被害状況が記載され、対する支援の方法などが詳細に記載されている。
「留守中、アイリスにこの城を任せて本当に良かったわ」
行政官の話を聞けば聞くほど、アイリスが冷静に上手く対応してくれたことがわかります。
「本当に、あの世代の人達は成長が早いのですね」
レナ、ミレーユ、アイリスの三人は十代前半で、まだ成人になっていないはずだ。
そんな三人よりもさらに子供っぽいクミが、既に成人しているというのですから。
人というのは本当に不思議な存在です。
クミと出会った当初。
レナ、ミレーユ、アイリスの三人は、フリーダ村の村長であるクミと仲が良い女の子としての印象が強かった。
何かとおかしな決断をするクミに振り回されながら、村の運営や怪盗団のお仕事、さらには革命運動の準備など、彼女達はクミに任された仕事をしっかりこなしていた。
……まだ成人していない子供達がです。正直、とても驚かされた。
彼女達はとても努力家で真面目で友達想いの優しい少女達でした。
レナは、常に先を歩く親友の力になるため。
ミレーユは、自分を救いさらには自分達の村を復興してくれた恩人に報いるため。
アイリスは、殺されかけた自分を救い、父が望む理想郷を見せてくれた救世主のため。
各々が、クミに報いるために必死に努力を積み重ねてきた。
私は知っています。
レナが自分の身体能力を向上させるため、夜な夜な危険な魔物と一人で戦闘訓練をしていること。
ミレーユが寝る間を惜しんで、城の図書館で勉強していることや補佐官達から政策等、様々な分野の学問を学び、さらには魔法の特訓も行っていること。
アイリスが屈強な男社会であるアグリ王国騎士団に入り必死に訓練について行ったり、領主である父クラシキから領主の心構えについて講義を受けていること。
その彼女達の積み重ねが、今こうして身を結んでいる。
報告によれば、レナは一人で魔大陸から進行してきた新種の魔物を撃退したそうだ。
ミレーユは、“自由の風”のグランディール王国支部を管理し、さらには協力してくれる帝国人と一緒に、今も各地に適切な指示を飛ばしている。
アイリスはルネ王国で復興担当として配下の者達に指示を与えながら、現場に赴き得意の土魔法で人々復興を手助けしてくれている。
もはや、大人顔負けのレベルで彼女達は誰もが活躍しています。
やはり彼女達には理想と目指す明確な目指す場所。
いえ、理想像がすぐそばにあったからでしょう。
だから、彼女達はあそこまで急激な成長ができたのだと思います。
「……クミ、アナタは色んな人に思われているのよ」
レナ達だけじゃない。
フリーダ村の人達やアグリ王国の民達全員が貴方の無事を心配している。
既にフリーダ村では、レジス代理村長が村で飼育した作物をザナレア大陸全土に運ぶ算段を立てている。異世界人であるクミの農業知識とプラントの魔法飼育技術が重なり、より効率よく農作物を採取することができるようになった。
その作物を、第二村と第三村の村民達が運ぶ算段になっている。
土木工事が得意な第四村は、村民達は各地に散らばり復興支援に尽力している
アグリ王国では、もはや正義の味方の代名詞ともなっている『革命の乙女』。
その存在が国民達を勇気づけている。
―――自分達には『革命の乙女』がいる。
どんな状況でも諦めてはいけないと、皆が協力して国の危機に抗っている。
だから、今クミがあのベルセリウス帝国の≪魔皇城≫に潜入しているなんて、国民達に知られたらクミを心配して確実に騒ぎが拡がるだろう。皆がクミを大事に思いとても心配しているから。
「だからねクミ……どうか無事に帰ってきなさい」
私自身、彼らと同じように自分を救ってくれたクミの無事を誰よりも願った。




