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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第4章(後半):戦争
208/293

第109話:四か国会議

『鳥獣新聞』  

  日付:新月の下月1の日


【国内】王妃アンジュ様の失踪。

 新月の中月15の日。帝都で起きた巨大な陥没。

 幸いなことに、死者はいなかったが多くの人達が負傷し家々などが崩壊したあの日。


 王妃アンジュ様が城から姿を消したことが、城の関係者の話から明らかになった。

 戦争が始まり皇帝陛下が不在の中、我らの象徴として導いていた疲れもあったのだろう。

 この頃体調を崩し離れで静養しているとの話だったが。


 噂によれば陥没事件に巻き込まれた恐れがあるとし、現在国を挙げてアンジュ様の行方を捜索中である。


 本紙を読んでいる方々。

 どうかアンジュ様を発見したらどうか皇宮と我が社に一報をお願いする。

 

  【国際】オーラル王国との開戦まであと七日。

  いよいよ、悪の根源であるオーラル王国へと攻め入るまであと七日となった。

 これまでの間、破竹の勢いで勝ち上がった我が国も、度重なる戦争の影響で疲弊していた。


 だが、占領した領地から大量の物資と魔力を提供し、今やっと悪の国を滅ぼせるだけの戦力が整いつつあった。


 侵略したサブネクト王国の民は勿論、捕虜となった敵兵達や教会の関係者達も、我が国に貴重な魔力を差し出し倒れたのだから本望であろう。

 我が国は、刃向う者には一切の容赦などかけたりはしない。

 これは戦争なのだから。


 あと七日で全てが終わる。

 帝国国民よ。あと少しで全てが終わる。

 我ら帝国国民の正義と誇りを世に見せつけようぞ!


【コラム】

 ◇変な言葉に耳を傾けてはいけない。

 最近、“自由の風”となる戦争反対勢力が各地に頻繁に現れているそうだ。

 彼らは、戦争で被害にあった人達を救助することを理由に、我が国の騎士達を突如襲ってくる野蛮な連中達の集まりである。

 取材をしている内に、確かにここ最近魔物達が凶暴して近隣の村々を襲う事件が多発している。また戦争から逃げた傭兵崩れ達が盗賊になり世間を騒がせている話もある。

 それを討伐し人々を保護しているのが“自由の風”と呼ばれる組織だそうだが、正直眉唾物である。

 読者の皆様。どうか甘い言葉に耳を傾けないでほしい。

 我ら帝国国民は一致団結し戦争終結のため勝利を目指すのだ。


 ……。

 ……。

 ……。


 記事担当者:クロウ

 』


 ………

 ……

 …


 帝都を脱出した私達は、風ちゃんに乗りセリスがいるグランディール王国王城へと帰還した。脱出の際、私達を守ってくれたガーナは限界以上の魔力を引き出したため、現在は治療室のベッドで眠っている。

 

 アンジュが“自由の風”に入ったことで、帝国側で戦争反対を掲げる勢力をそのまま味方にすることができた。

 なにより皇族を味方にできたのは大きかった。

 

 アンジュには戦争終結のおり、王国連合諸国を侵略しない方向で話をまとめることができた。その間、帝国側からアンジュの安否に関して外交圧力がかけられたが、知らぬ損でうまく話を流すことができた。

 

 反対勢力の戦力も十分に集まりつつあったところ、いよいよ帝国がオーラル王国に進軍する噂が広がった。

 それを受けて、グランディール王国、ルネ王国、アグリ王国、帝国での四か国会議を極秘裏にグランディール王国城内で始めることとなった。

 

 ………

 ……

 …

 

「それでは四か国会議を始めたいと思います」

 

 議長であるセリスの掛け声とともに、今後のザナレア大陸の未来を担う会談が開始された。

 この場に居るのは、ルネ王国国王ピエール王、アグリ王国王女クレミア、ベルセリウス帝国王妃アンジュ、そして“自由の風”リーダーである私こと木原久実である。

 ……なぜか、気づけば私がリーダーの立ち位置になっていた。

 正直リーダーらしきことなど何一つしていないけど、まあ誰も何も言わないからいいかなって思ってる。

 

「王妃アンジュ、改めて確認したい。この戦争が終結したのち、帝国は軍を引き上げ撤退すると」

 

 ピエール王がアンジュに話を切り出した。

 尋ねられたアンジュは、神妙な顔でコクリと頷く。

 

「ええ、約束します。私の命を持って必ず帝国を南部から撤退することを……その代わり、王国連合のほうでも北部への侵略ももちろんですが、撤退する帝国国民に危害を加えないよう配慮していただきます」

「むろんです。そのための我ら“自由の風”です。この三ヶ月の期間で私達の勢力は大きな広がりを持つことができました。受け入れの態勢も十分整えることができました。ねえ、クミ?」

「……うん。ティナやフリーダ村の皆がずっと頑張ってくれたおかげ。私達を信頼してくれる人達は大勢いる」

 

 アンジュの問いにクレミアがはっきりと答える。

 そうだ。

 そのために、ここまで頑張ってきたんだ。

 この“自由の風”という組織は、組織内部の人達だけじゃない。

 多くの人達の希望を背中に背負っているのだ。

 

 私とクレミアの言葉を聞いて、アンジュがじっと目を合わせたうえで頭を下げる。

 

「どうかよろしくお願い致します」

 

 同盟締結後、アンジュは反対勢力を引き連れて帝国の最終兵器―――箱舟へと侵入する手はずとなっている。

 明日、行われるオーラル王国との戦闘の際、どさくさに紛れて潜入する予定だ。

 どうしても直接会って、皇帝陛下を止めるのだそうだ。

 

 私達は帝国がオーラル王国と戦っている隙に、オーラル王国の国民達を保護しつつ、先にオーラル王国の上層部を抑える計画だ。

 上層部を抑えすぐさま帝国に降伏すれば争いは終わる。

 

 ただし問題はそのあとだ。

 アンジュの話を聞く限り、皇帝陛下は自らの意思を失いつつあると聞いている。

 最悪の場合、私達“自由の風”で皇帝の命を奪うことも十分考えられた。

 

 アンジュもそのことには納得してくれたけど、望むならアンジュの説得で片が付いてほしいと切に思う。

 

 アンジュの話では、箱舟にどうやら雄二と飛鳥が捕らわれていることも聞いた。

 一応、二人は無事であることが確認されている。

 そのことを聞いて、セリスは安堵して涙を零す場面もあったけど。

 

(一体、こんな可愛い女の子に奴は何をしたんだ、あのロリコン?)

 

 幼馴染の意外な性癖を知り若干ショックを受けたけど、無事であることを聞いてほっとした。

 飛鳥も日本にいた頃、たまに話しかけてくることがあったけど、私みたいな口下手の根暗少女に良くめげずに話しかけてくれたものだ。

 ……さすが委員長だと思ってたけど。

 

 飛鳥については、色々複雑な思いがあるから、あまり彼女と接することをしなかった。

 

 私が知る限り、勇也は飛鳥と付き合っていた。

 勇也が良くこの世界に戻るようなった中学の時からだと思う。

 私や志への贖罪のために、勇也はこの世界で得た力を使って私達を守ってくれた。

 私達の噂を精神魔法で操作したり、志と勇也の多重人格のズレによる周りの反応についても、勇也が一人で守ってくれたおかげだ。

 ただ、あのころの勇也が精神的に追い詰められ余裕を失くしていたことも覚えている。

 

 そんな時に他校にいた戸成 飛鳥と出会い、勇也は救われた。

 飛鳥と話をすることで、切り詰められた感情が抜け出していった。

 そんな勇也を見て、正直私が勇也の支えになれなかったのは悔しかったけど、ほっとしたのを覚えている。

 

 だけど、そんな日も長くは続かなかった。

 私達が中学三年生になった日、勇也はしばらく表に現れることがなくなった。

 

 そして、しばらくして勇也が表に現れたとき、彼は飛鳥との関係を断ったという。

 理由は何も教えてくれなかった。

 さらに、勇也は遠くへ出かけることが増えた。

 何をやっているのか、当時は何も教えてくれなかったけど、大変なことをしているのだけはわかった。

 

 そして、高校で私達は飛鳥と再会した。

 入学式でちょうど廊下をすれ違った際、突如勇也が表に現れたのは記憶に残っている。

 そして、彼女もまた剛田志にしか見えないはずなのに、彼女は一目で勇也だと見抜いていた。

 再会した勇也は心を鬼にして彼女の記憶を操作したのを覚えている。

 とても悲しく見えた。

 

 当時の私は基本、志と勇也、そして雄二が周りにいればそれだけで良かった。

 それ以外はどうでもよかったけど、この時ばかりはなんか胸がいたたまれなくなった記憶がある。

 

(―――飛鳥……もし会ったとしてもなんて話したらいい?)

 

 ティナの話を聞く限り、彼女も志と勇也の関係に気付いたことは明らかだろう。

 私は何とも言えない気持ちで一杯だった。

 

 そんなことを頭の中で考えていると。

 

「どうしました? クミ?」

 

 セリスに声をかけられた。

 いけない。

 今は彼女のことを考えている余裕はない。

 

「ごめん。何でもない。それより、今後のことについてだけどーーー」

 

 私達は今後の詳細について話をした。

 

 ………

 ……

 …

 

 会議の大枠も大分話が終わったころ。

 外の異変に最初に気付いたのは、セリスだった。

 

「―――えっ! これは一体!」

 

 突如、セリスが席から立ちあげ声を大きく上げた。

 何事かと、クレミアやピエール王がセリスに尋ねる。

 

「城都! いえ、グランディール王国内の地面が変形し始めています!」

「なんだと!」

「そんなバカな!」

 

 セリスの“遠視”が捉えた映像は、グランディール王国内のありとあらゆる地形がグネグネと伸縮運動を繰り返している光景だった。

 突如、地形が動き出したことで城都のみならず各村々で国民達が怯えている。

 

 ―――バンと会議室の扉が大きく開いた。

 

「た、大変です! セリス様! グランディール王国内で不可解な地形変動が発生しています! これでは」

 

 緊急事態が発生したことで、セリスの執事のトーマスが中へと入ってきた。

 セリスは急いで現状確認を行う。

 

「原因は!?」

「全く分かりません! 国民達も突然の事態に都内は大混乱しております! “自由の風”の皆さまが事態の鎮静化に向かっています」

「くっ! 一体、何だというの!」

 

 トーマスの報告にセリスの表情が苦々しくなる。

 今こうやって話をしている間にも、セリスの視界には逃げ惑いパニックを起こす人々の姿が映っていた。

 そして、地形は恐怖に怯える民達を構うことなく多く変化していく。

 

 切りだった荘厳な渓谷がまっ平らな平地へと変われば、平地だった地面が突如伸縮し地面が無くなる光景もあった。

 平地の上に立っていた家々は真っ逆さまに、真下に落下していく。

 落下していくのは家や建物だけでなく、家畜や村人達もそうだ。

 懸命に去り行く地面に手を伸ばすが、届かず真下へと転落していく。

 その先は―――凶暴な魔物が住む“魔大陸”だ。

 人間界と魔界を遮断する結界も機能していないせいか、結界に触れることなく“魔大陸”へと落ちていく。

 落ちた人々がどんな悲惨な目に合うのか、セリスには容易に想像できてしまう。

 あまりに絶望的な状況に、ついセリスは“遠視”を一時中断してしまうほどだった。

 

「とにかく、まずは皆に自分の安全だけを考慮するよう呼び掛けてください! 幸いなことに王城は少しの揺れだけで済んでいます。至急、皆を城へ誘導してください! 私もすぐに向かいます」

「ハッ!」

 

 セリスの指示を受けて、トーマスがすぐさま退出する。

 

「セリス! 私もすぐにみんなの救援に向かう」

 

 私は急いで救援活動へ向かおうとする。

 ピエール王やクレミア、アンジュが護衛に救援活動の手伝いを行うよう指示を促す。

 その時だった。

 いきなり、この会議室に誰かの声が響いた。

 

『どうも皆さん。お久しぶりですね』

 

 声と同時に突然会議室の机の上に人物の姿が現れた。

 白銀の綺麗な髪に端正な顔の出で立ち。

 

「イデント宰相!」

 

 突如現れた人物にセリスが声を上げ驚く。

 クレミア、ピエール王、アンジュも同様に、あり得ない人が突如現れたことに驚いている。

 

「あ、貴方はスリゴ大湿原で死んだはず……一体どうして!」

「そもそも、一体どうやって現れたんだ!」

 

 原因不明の地殻変動に続き、死んだはずのイデント宰相が現れたことにこの場に居る皆が混乱していた。

 私は冷静にイデント宰相を見て尋ねる。

 

「……この事態は貴方の仕業ということでいいのかな?」

「ほう! どうやら貴方はここにいる彼らとは違うみたいですね。ええ、その通りです。この地殻変動は私が引き起こしています」

 

 イデント宰相が声を高々に上げて認めた。

 私は手元にすぐさま神具を取り出す

 

「今すぐ止めて……さもないと」

 

 基本、人殺しを避ける私だがこの人は違う。

 噂でこの人の悪辣ぶりは聞いていたが、対面して感じた。

 この人はもう人ではない別の何かだと。

 ―――殺す覚悟を持って相手にしなければ、逆にこちらがやられると。

 

「ふむ。中々頭が回るようでもある。てっきり襲い掛かって来るかと思いましたが」

「……貴方を殺したとしてもこの地殻変動が止まる保証がない」

「エクセレント! その通りです。ここで私を殺しても無駄です。なぜなら、皆さまが見ている私はホロ画像。つまり幻影でしかない。私本体はオーラル王国にいますよ」

 

 余裕ある笑みを浮かべイデント宰相が周囲を見渡した。

 

「イデント宰相! 一体、なぜこのようなことを! 我が国にどれだけの被害が出るとお思いですか!」

「セリス王女。いや、セリス女王とお呼びすべきかな。ああ、安心してください。この現象はグランディール王国だけではありませんから」

「えっ!」

「ま、まさか、貴様! 我がルネ王国も同様の異変が起きておるのか!」

「ええ、その通りです。ピエール王。オーラル王国にひれ伏す王国連合、すなわちグランディール王国、ルネ王国、アグリ王国、そしてサブネクト王国の地形を私が今操作しているのですよ」

「何を馬鹿なことを! わかっているのですか! オーラル王国いえ、貴方がやっていることは同盟だった国々を滅ぼす行為を行っているのですよ!」

 

 余りの事態に、クレミアやピエール王がイデント宰相を糾弾する。

 だが、イデント宰相は何も気にした様子もない。

 

「ええ。それも、全ては蛮族であるベルセリウス帝国を滅ぼすためのこと。皆さんは今置かれている立場をきちんと理解していますか?」

「な、なにを!」

「スリゴ大湿原でよもや我々が破れる事態となり、帝国がサブネクト王国へと進行してきたのですよ。このままでは王国連合が崩壊してしまいます。そのためには、結束が必要なのです」

「だから、それがこの地殻変動とどう関係があるのかと聞いているのです!」

「―――ッ! まさか、イデント宰相。巨大葉(グリーンリーフ)を動かしたのですか!?」

「ほう。さすがはセリス女王。正解です。王国連合はこれから真の意味で一つとなり、かの帝国を滅ぼさなければいけないのです」

「なんてことを」

 

 ずっと恐れていた出来事がついに形となって表れてしまったことに、セリスを含めピエール王やクレミアが大きく落胆する。

 

 グランディール王国、サブネクト王国、アグリ王国、ルネ王国は、オーラル王国を中心に巨大葉(グリーンリーフ)の上に各領土が置かれている。

 オーラル王国は、その地形や気候のみならず、この世界で重要なマナの供給量も自由に操作する権限を有していた。

 そのため、四国はオーラル王国に逆らうことなどしなかったのだが、ついにオーラル王国はその権限を行使したのだ。

 

 ここに集った人達は、この地殻変動の規模を見て大勢の人達に深刻な被害をも齎すことは目に見えていた。

 どれだけの人々が現在進行形で今も犠牲になっているのか、考えるだけでも恐ろしい。

 

「わかっているのですか! 今なお民達が苦しんでいるのです。こんな状態では帝国との戦争など継続できるはずがありません! 直ちに止めてください」

「イデント宰相、お願いいたします!」

「お願いします」

 

 セリス、ピエール王、クレミアの三人が必死な形相でイデント宰相に向けて頭を下げたが。

 

「嫌ですよ」

 

 と、イデント宰相は全く相手にしない。

 ―――もう限界だった。

 私は、まず目の前に見えるこのふざけたホロ画像を破壊しようと動こうとした。

 しかし、私の動きを見越してか、イデント宰相は私に視線を向けたまま会話を続ける。

 

「皆さん、私はなにも皆さんを苦しめるためにこのような策を投じたわけではありません。これをご覧ください」

 

 そう言って、ホロ画像のイデント宰相の手に水晶玉のような球体が現れた。

 球体の中には、オーラル王国と他の四国を現す地形図が立体的に映し出されていた。

 オーラル王国が花弁とすると、他の四国は四方に広がる巨大な葉。

 イデント宰相は映し出された画像について説明を始めた。

 

「皆さんはこの花の正式名称をご存知ですか? この花の名は、『神花(サンセットフラワー)』と言って、かって“失われた時代”に建てられた巨大魔導具の一つなのです。初代オーラル王国の王は、光の勇者にこの魔導具を譲り受け、この巨大な王国連合を設立したと言われています」

「それが一体何だって言うんだ!」

 

 中々、結論を話さないイデント宰相にピエール王がいら立つ。

 

「つまり、帝国が用意したあの巨大な城―――あれと、同じ代物だということです」

「なっ!」

「そう。今は最低限の力しか機能しないよう、『神花(サンセットフラワー)』はオーラル王国の王族が調整し管理していましたが、今はそのような場合ではありません。『神花(サンセットフラワー)』の力を最大限に発揮させるためには大量のマナが必要になります。そのために、私は今こうして各国から徴収しているのですよ……大量のマナを」

「まさか、そのための地殻変動だと!?」

「はい、その通りです。巨大葉の上にある物は全て私の思うまま。今まで、皆さんには土地を貸していたわけですから、むしろ今その利子を回収しているところなのです」

「ふざけるな! 人を、お前は人を何だと思っているんだ!」

 

 イデント宰相の人を人とも思わない余りの発言に、ピエール王が怒りの声を上げた。

 だが、イデント宰相は全く気にもせず話を続ける。

 

「? 私が導かなければ破滅するだけの愚かな生き物ですが、何か?」

 

 あまりの発言に、ここにいる誰もが言葉を失った。

 

 このとき、呆然と話を聞くセリスはイデント宰相という人となりをこう位置づけていた。

 

(この人には最初から私達を自分と同格と見ていなかったんだ。いうなれば、この人はこの人の正義感で行動している。だから宰相には悪意が見えない。むしろ、自分の利となる行動でもなく、自分の考えそのものが世界に役立つためと本気で思っているから善意しかなない。だから、心があんなに透明な色をしていんだ)

 

 以前、“心眼”でイデント宰相の心の内を見ていたセリスはこの言葉を聞いて、彼が疑うことなく本当にそう思って発言しているのだとわかり恐怖に怯えた。

 ―――ここにいるのは、自分勝手な正義感を押し付ける正真正銘の化物なのだと。

 

 皆がイデント宰相のあまりの身勝手な発言に圧倒されていたから、私は気になる質問をしてみた。

 

「……一つ聞いていい?」

「なんですか? お嬢さん?」

「貴方の意見はわかった。だけど、じゃあ、貴方は何? 人でなければ神とでも名乗るの?」

「何を馬鹿なことを! 我らの神こそ、女神アンネム様ではないか! 私はその女神の意思を愚かな人々に伝える従者―――タウロスなのです」

 

 女神アンネムと自分を一緒にされたことを不敬に感じ、ここに来て初めてイデント宰相が感情的な態度をとった。

 

「神の従者なら何をしてもいい理由にはならないよ」

「ふう~、これは話になりませんね……まあ、貴方のことはさておき」

 

 コホンと、息を整えイデント宰相が話を続ける。

 

「今、『神花(サンセットフラワー)』の中心に大量のマナが集まっています。各国に供給していたマナもオーラル王国に集まるよう調整しているため……ほら、間もなく花が咲き誇りますよ」

 

 突如、球体が光り出し、中の『神花(サンセットフラワー)』の形状が変化する。

 四方に伸びていた葉は枯れ落ちるかのように、地面―――すなわち魔大陸へと重なっている。瑞々しく茂っていた葉の表面は、すっかり枯れはてた体をなし、所々虫食いにあったようなボロボロの葉へと変化していた。

 そして、花弁であるオーラル王国は茎から外れ、光り輝く花弁がフヨフヨと空へ浮かんでいる。

 同時に、今まで振動していた地殻変動も停止した。

 何が起きたのかわからないままでいると、

 

「成功です。これこそが『神花(サンセットフラワー)』の本来あるべき姿-――要塞(バトルシステム)タイプなのです」

「……要塞タイプ?」

 

 興奮するイデント宰相に尋ねてみると、

 

「ええ、かって光の勇者が魔大陸を封印するために造った『神花(サンセットフラワー)』の原型。今までは魔大陸の封印に充てていたものですが、今度はあの野蛮な帝国を支配するために使うことにしましょう」

 

 おいおい、ちょっと待て。

 今、さらりととんでもないことを言ってない!

 

「おい! 待て! じゃあ、魔大陸の封印は?」

「? ピエール王。何を当たり前のことを聞いているのですか? 当然、解除されたに決まっているではないですか?」

「ば、馬鹿な!」

 

 そうすれば魔大陸にいる凶悪な魔物達が、軒並み出現する事態になるではないかと、この場に居る誰もが思った。

 地殻変動だけでも尋常な被害が出たにもかかわらず、今度は魔大陸の魔物と、立て続けに悪夢のような出来事が降りかかり、何も言えなくなった。

 それほどまでに、事の大きさが深刻すぎた。

 

 だが、動揺するピエール王達のことなど気にせずイデント宰相は話を続ける。

 

「では、オーラル王国の準備も整いましたことですし、皆さん帝国への出兵要請をお願いします」

 

 イデント宰相はさらに今から帝国と戦うための戦力を差し出せと、命令したのだ。

 これには、もうこの場に居る誰もがイデント宰相に激怒した。

 

「もう限界だ! 何をふざけたことを言っておる! これだけのことをやっておきながら、さらに兵を出せと……舐めるのもいい加減にしろ!」

「私達は貴方の駒ではありません! そんな命令お断りさせていただきます!」

「私達は、本日をもって王国連合から脱退致します」

 

 ピエール王、クレミア、セリスがそれぞれの意見をイデント宰相に述べた。

 イデント宰相ははじめ「あら」と驚いたものの、すぐさまいつもの笑みへと戻る。

 

「そうですか……まあ、皆さんが私が不在にしている間に裏でコソコソと何をやっていたかは把握していましたからね……そちらが、ベルセリウス帝国のアンジュ王妃ですか?」

「……ええ、こうしてお会いするのは初めてですが、改めて貴方のような方が王国連合のトップであったことを知り、正直王国連合の諸国の方々には同情を禁じえません」

 

 視線を向けてきたイデント宰相に対して、アンジュが毅然とした態度で答える。

 

「この戦争が終えるにしろ、もはやオーラル王国いえ、貴方はこの世界にいてはいけない存在です。必ずや、貴方を滅してみせます」

「……それはベルセリウス帝国皇帝の意思と取って問題ないですか?」

「私の意思です! 今に見てなさい。ルドルフはきっとアナタを討ち滅ぼすわ」

「これは、これは、怖い、怖い」

 

 一歩も引くことのないアンジュの態度に、イデント宰相が苦笑いを浮かべる。

 

「まあ、貴方達が協力しようがしまいが、もう状況は既に動いています……精々、抗って見せなさい」

 

 そういい残し、イデント宰相はその場を後にした。

 残った人達は無言の空気が流れたが、すぐさま各方面へ連絡を取る。

 

「セリス王女! すまぬが、我が国の被害状況を知りたい! 大至急、連絡をとってくれ」

「我が国、アグリ王国もお願いします」

「わかりました! クミ!」

「わかってる。すぐに、レナ達を招集して情報収集と対策に乗り出す」

「手伝えることがあれば、私にも申してください。人を集めます」

 

 アンジュも帝国人の中で戦争反対勢力の人を頼りに集めてくれる。

 大枠のことは、セリス達に任せて私は急いで風ちゃんを召喚して、外へと飛び出した。


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