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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第4章(後半):戦争
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第107.5話(1/2):帝国の過去(アンジュ視点)

 あの人が今も愛しているのは、姉さまだとわかっている。

 私を妻として娶ったのも、政略結婚されそうになっていた私を救ってのことだった。

 あの人が私を見てくれなくてもそれでいい。

 ただ、生きてほしい。

 そして、姉さまがいた頃のように、ユリウスと祖父に温かく見守られながら、また笑ってほしい。

 

 ………

 ……

 …


 いつからだろう。

 人を傷つけることに怯えていた彼が、躊躇することなく人を殺めるようになったのは。

 転ぶとすぐに泣いて、姉のメリエルによく慰めてもらっていた気弱な少年。

 菜園に咲く綺麗な花々を愛でることが大好きな彼。

 メリエル姉さんの背中を追いかけまわる少年の姿はもういない。

 

 彼はあの日を境に変わってしまったからだ。

 

 

 きっかけは、彼の国王が病に伏せ倒れた十五年前のこと。

 当時、彼の他に王位継承権を持つ皇族が一人いた。

 名はハリス。

 彼が次期皇帝と謡われていた。


 周囲の皆、誰もがハリスが皇帝となることを想定し、ベルセリウス皇帝―――ルドルフは誰からも相手にされていなかった。

 彼もそんな自分の立場に満足していた。

 

 元々、ルドルフは皇帝になどなりたくなかった。

 皇帝となれば時には非情な決断を下さなければならないときがある。

 自分がそんな器ではないことを理解していた。

 

 だが、先代皇帝が次期皇帝として指名したのはルドルフだった。

 これには側近や貴族派閥の人々は大いに驚いた。

 ルドルフは反対したが、結局ルドルフが次期皇帝となることが決定された。

 

 これにより、帝国内部は二分裂に分かれることになった。

 ハリスは自分が指示する貴族派閥や現政権の人達を取り込み反旗を翻した。

 

 皇宮でルドルフを指示する者達は少なかった。

 ただ、唯一ルドルフの傍で彼を支えていたのが。

 

『ほら! しゃっきとしなさい!』

 

 当時のルドルフの正妻であり、私の姉であるメリエルだった。

 

 メリエル姉さんを一言で言い表すなら、太陽のような明るい人だった。

 彼女の近くにいるだけで、みんなが活力を与えられ元気になる。

 そんな素敵な女性だった。

 

 ルドルフはメリエル姉さんを愛していた。

 溺愛していると言ってもいいだろう。

 元々、幼いころから知り合っていた二人は私から見てもとても仲睦まじかった。

 そしてもう一人。

 

『王子! メリエル様。こんなところにいたのですか』

 

 名門シュバルツ家の次期当主と名高いユリウス・シュバルツ。

 

 三人は元々おさ馴染みだった。

 気弱で臆病なルドルフをメリエル姉さんが強引に連れまわす。

 そんな二人を真面目一辺倒なユリウスがフォローする。

 そんな関係だった。

 

 三人の関係はルドルフ姉さんが皇帝の座に就いたときにも変わらなかった。

 メリエル姉さんは民のために一刻も早く国をまとめようとするルドルフの手伝いを行っていた。

 ユリウス様は帝国騎士団の中で次々に頭角を現し、副団長の位置にまで上り詰めていた。

 

 当時、帝国騎士団団長のガイネル―――つまり、私達のお爺様も、そんな仲睦まじい三人を温かく見守っていた。

 反抗する貴族派達を何とか平和的な手段でまとめようと皆が一丸となっていた。

 ルドルフの熱意により、徐々にだが反対派の勢いもなくなっていた。

 ついには、ハリス様もルドルフこそが次期王だと認め一緒に国を支えていこうと会談まで設けることができた。

 全てが順調にいっていたはずだった。

 


 事件は起きた。

 ある会談の場で、ハリス様がメリエル姉さんを殺めたのだ。

 

 その時のルドルフとユリウス様の嘆きを私は忘れない。

 ハリス様はすぐさま取り押さえられた。

 だが、会談の場で現れたハリス様はいつもと様子が違っていた。

 

「メリエルが死ねば私が皇帝になれるんだ……我慢するほうがおかしい」

 

 合理的で国を第一に思い行動する彼がまるで人が変わったかのようになっていた。

 さらに、おかしくなったのは彼だけではなかった。

 取り込もうとしていた貴族派達も突然反旗を翻してきたのだ。

 

 急遽、勃発した帝国の内乱。

 メリエル姉さんを失ったルドルフは冷徹非道となり刃向う者全てを皆殺しにした。

 その指揮を任されていたのは、ユリウス様とお爺様だった。

 そして、各地の内乱がようやく落ち着いたころ。

 

 ()が現れた。

 

………

……

 

 メリエル姉さんが眠る墓の前。

 内乱を制圧した完全に帝国を掌握したルドルフ。

 その傍には、帝国騎士団長となったユリウス様。お爺様。

 それに、ウルフとタイガー、マイティの姿があった。


 当時は亜人と獣人差別が根強い中、ルドルフは種族に偏見を持たないこともあり、使える獣人や亜人を積極的に自分達の味方にしていった。

 そのため、ルドルフは獣人達の間では絶大な人気を誇っていた。

 特に、タイガーとウルフは餓死しかけていたところをルドルフとメリエル姉さんが保護したこともあり、心からの忠誠を誓っていた。


 大半の貴族達はハリス様を指示することが多かったが、少数の貴族はルドルフを指示する者もいた。

 マイティ家のダッツもその一人だった。


「メリエル……」


 お爺様と一緒にみんなでメリエル姉さんに黙祷を捧げていたときだった。

 

「これは、これは~皇帝陛下に置かれましてはご機嫌うるわしゅう」

「……誰だ」

 

 突然、何もない空間から空間魔法(ゲート)が開き何者かが現れた。

 その者は不気味なピエロの仮面をつけた人物だった。

 

「私はアリエスと言いますが、まあピエロと呼んでいただけるとありがたいです」

「何の用だ」

「いえいえ、不審に思っているのではないかと思いまして……例えばハリス様の急な心変わりとか」

「―――ッ!」

「やはり、貴方は聡明な方です。そう、その通りです。彼は操られていたのです……教会の手によってね」

 

 そこから語られたピエロの内容はこうだ。

 この世界には、アンネムと呼ばれ女神がいること。

 ある日、女神は自身がとても愛している光の勇者に会いたくなったそうだ。

 光の勇者は別の世界にいて、最近この世界に戻らないことに女神は不満を抱いていた。

 だから、女神は強引に光の勇者をこちらに連れてくるよう教会に指示を下した。

 

 神獣という世界を管理していたシステムが崩壊された世界で、光の勇者をこの世界に呼び出すためには、大量のマナが必要だった。

 大量のマナを獲得する手っ取り早い方法として、人々を殺し合わせることだった。

 召喚の魔法陣を予め用意しておけば、人が死んださい彼らが保有していたマナは全て召喚陣へと吸収される。さらにそれだけではない。

 どうやら、殺し合いの極限状態で人々が持つ激しい感情が、マナの吸収源となるのだ。

 

 だから、教会は帝国を利用し内乱を引き起こした。

 教皇は、常日頃力をつけている帝国を警戒していて、この機に力を落とされるのも狙いだった。

 

 ハリス様を操り、無事内乱を起こすことに成功した。

 さらに、先日起きたヨルド公国の内乱もそう。

 おかげで、無事光の勇者を召喚することに成功したそうだ。

 

「……なんだそれは。そんなことのために、メリエルは死んだというのか」

 

 全てのことを聞いたルドルフは、怒りに震えた。

 この場にいる誰もがそうだった。

 

「ピエロ、お主何故ワシらにこのことを教えた?」

 

 ガイネルがピエロに尋ねた。

 

「強いて言うなら反抗ですかな……とりあえず、私は貴方達を騙すことは致しません。その証拠に、これを」

 

 ピエロが差し出しのは、赤、青、緑に輝く宝珠だった。

 神獣と宝珠の関係性。

 さらに、後に現れる異世界人の話。

 聞くべき重要な内容がたくさんあった。

 さらに、ピエロは教会が保有する“失われ時代”の技術についても教えてくれた。

 

「その宝珠を媒体に、皇帝陛下の血があれば、“スリゴ大湿原”に眠る古代兵器を呼び起こすこともできるでしょう。ただし、尋常な数の生贄が必要になりますがね」

「帝国神話の遺物。本当にあったのか」

「ただし、先に言っておきますが。古代兵器を起動すれば最後。兵器と同調した貴方の人格は崩壊する、それだけはお伝えします」

 

 私はその言葉を聞いて恐怖した。

 皆がそう思ったのに違いない。

 だが。

 

「それであの天空城を―――我らを駒のように扱う奴らに一泡吹かせることができるなら余はなんでもするぞ」

「……いいご覚悟です」

 

 そういって、私達はこの日誓ったのだ。

 ―――私達の手で全てを終わらせると。


区切りが悪いため二つに分けました。

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